あるタカムラーの墓碑銘

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平成元年の夏に玄関のマイセンの花瓶を割った男です  (単行本版p355)

2007-11-14 00:43:15 | マークスの山(単行本版改訂前) 再読日記
2007年10月18日(木)の単行本版(改訂前)『マークスの山』 は、五  結実のp341からp391まで読了。

いよいよ佳境。
今回分の内容では、「お蘭には負けたぜ」 の部分よりも、もっと凄まじい改訂がされている部分がありました。恐らくここが単行本版最大の修正部分ではなかろうかと睨んでいます。
p342~p345です。改訂前の単行本と改訂後の単行本を所有されている皆さま、ぜひ比べてみて下さい。

改訂後の単行本で読んだ時の記憶がうっすらと残っている私は、文庫版でのこの同じ部分は、「ああ、ペコさんの台詞が林係長になってるな」という程度の感じ方でしたが、今回実施した改訂前の単行本での読書では、「えー? こんなんやったっけー?」と不思議に思い、ここだけはその日のうちに、改訂後と見比べました。

・・・改訂前の方が、分かりにくい。唐突過ぎて、分かりにくい。おまけに合田さんがこれでは、全然優秀ではありません。刑事としては下の下になってしまいます(←そこまで言うか) これは高村さん、書き直すはずですよ・・・と素直に納得してしまいました。

「だったら引用しろ!」という話ですが、重要なネタバレになるので出来ません。悪しからず。
あまり重要でないネタバレなら出来ますが(笑) お蘭の病欠届けに関しての、ある部分。ペコさんと合田さんの会話です。
【単行本版 改訂前】 多分、28版までこうなっている。(私の所有本は28版)

★「皮膚炎で寝ているというのは、ほんとか」と吾妻が囁く。
「ほんとや」
 (p345)

【単行本版 改訂後】 恐らく、29版以降はこう変更されている。(私の所有本は77版)

★「お蘭の奴、またジンマシンか」と吾妻が囁く。
「ああ」
 (p345)

万が一、版数が異なってましたら、ご一報下さいませ。あるいは内容が違うという場合も、無いとは言えません。更に改訂が行われている可能性があります。
・・・一体どこまで、改訂に改訂を重ねているのだ、単行本版は・・・。


話は変わって、今回のタイトルの由来は、p267を引用すれば分かるはず。

《(前略) その家の玄関で、猫にひっかかれたあんたが、マイセンの花瓶をひっくり返して、あとでうちの署長が陳謝しに行ったってやつだ、ハッハッ》 (p267)

どうやら合田さんは、猫にも犬にも好かれないタイプの人間らしい。
ちなみに犬の場合↓

寝ている間に犬に小便をひっかけられたらしい臭いがした。 (p234)

これは公園で居眠りしたあなたが悪いですよ、合田さん。加納さんの財布や身辺を気にかけるより、ご自身の財布と身辺をまず省みましょうね。

それにしても今回分も、引用しにくい部分ばっかり・・・。


【今回の名文・名台詞・名場面】
【お願い】 ピックアップした部分で「私の持っている『マークスの山』には、こんな文章は無かった」と気づかれた方。それは「改訂後」の可能性が高いです。よろしければ、ご一報下さいませ。私に、比較している余裕が無いものでして。よろしく願いいたします。

★人を愛している女はそういうものだ。男が隠していることを、本能のように見抜く。 (p346)

そのことを合田さんは、貴代子さんで経験しました。
女性の観察眼と勘の鋭さは、男性にはやはり脅威みたい。

★日々雑多な事件を見て鍛えられてきたはずの神経が、ちょっとしたことで軟化し、揺らぎ始めるのはいつものことだった。警察の関知しない領域の深さを覗いて戸惑い、無為に足が止まる。『そうであるべきだ』と加納などは言うが、足を止めて得るものは現実には何もない。加害者も被害者も捜査員も、誰も救われる者がないのが犯罪だと、水戸街道を歩きながらひとりごちた。 (p354)

ここの合田さんは、単行本版『照柿』 や <七係シリーズ>の合田さんへと、繋がる何かがありますね。(文庫版『照柿』の合田さんは、ちょっと別もののような気もする)

★「お前……俺より救いがたいな。俺がサドなら、お前はマゾだ」吾妻は鼻先でにやにやして、「変態は二人も要らんぞ」と一蹴した。 (p365)

ペコさん・・・あなたって人は・・・。冗談じみた発言でも、自覚しているだけペコさんのほうが上手か?

★腹の底が少し疼いた。人に対する甘さは生来のものか。いや。日々自分自身が誰かから受けている労りや慰めを、折にふれて人に返していかなければ、荷が重いのだ。それだけのことだと思った。 (p367)

合田さんの感慨。こういうがんじがらめ状態で複雑な合田さんも、私は好きです。

★「不倫の話か……」 (中略)
「不倫の話やないか」  (中略)
「つまり夫婦不仲と不倫の話やないか」 (p369)

不倫話に過剰なほどの嫌悪感をむきだしにする合田さん。ペコさん曰く、
「お前の一番苦手な話だということは分かっているが、辛抱して聞け」 (p369)
・・・だそうで。『照柿』も、もう少しで当事者になるところでしたしね。
つまり合田さんに嫌がらせをするには、不倫話をすればよいのだな!(笑)

★まともな答弁は期待するまでもない代わりに、こちらにもまともな証拠はない、反則も嘘も互角の頭脳戦だ。
「こいつは、もうゲームだぜ」
吾妻は可愛い目をぎらつかせて囁き、合田もつられて「そうだ」と囁いた。職務の感覚では渡れない赤信号も、渡るなら、堪忍袋の緒が切れている今が潮時だ。
 (p374)

いよいよ臨戦態勢を固めたペコさん&合田さん。


というわけで、「マークスの山(単行本版改訂前) 再読日記」、手抜きしつつも(←こらこら)、ついにここまで来ました。まだ道のりは長いような気がしていたのですが、不思議。
あと一回で終わります。 



4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
なんてことを・・ (りんこ)
2007-11-14 11:44:42
からなさん、こんにちは。

「お蘭には負けたぜ」以上の改訂なんですか?!
さっそく、図書館で改訂前のを借りようと思いましたが残念、今週は臨時休館でした。
来週が楽しみのような恐ろしいような。
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お楽しみは来週に (からな)
2007-11-15 00:29:52
りんこさん、こんばんは。先日はありがとうございました♪

>「お蘭には負けたぜ」以上の改訂なんですか?!

・・・と、私は思っているんですけどね。感じ方は人それぞれですので、あまり期待はなさらないで下さいね~(←小心者・苦笑)

でも、改訂前の無駄(と高村さんが判断された)と思われる部分と改訂後を比べてみたら、とことん違うんですよ。

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納得ですが・・・ (りんこ)
2007-11-24 15:34:01
からなさん、こんにちは。

改訂後の方が合田さんが見落とした理由付けがはっきりしてますよね。
でも不思議と以前改訂前を読んだ時には違和感はなかったのですが。
この部分を書き直されたのには納得です。
ですが・・・「お蘭には負けたぜ」を書き直されたのはなぜなんでしょうね。

この際と思い、他の部分もチェックしてみたのですが、小さな変化ですが数ヶ所書き換えがありました。
そのたびに改訂前と後では行数がずれ、しかしまた同じになりを繰り返し、最後にはピッタリあわせてあるのには驚きました。
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それでも、惜しむ (からな)
2007-11-24 23:37:03
りんこさん、こんばんは。

>「お蘭には負けたぜ」を書き直されたのはなぜなんでしょうね。

高村さんは「無駄」「余計」と判断されたのでしょうか?
こういう部分は、ちょっとした遊びの部分として息抜きになっていいのではないか、とも思うのですが、残念。

>改訂前と後では行数がずれ、しかしまた同じになりを繰り返し、
>最後にはピッタリあわせてあるのには驚きました。

そう! これには私も驚きました。作家の力量というか、力技というか(笑)、すごいものがありますよね。

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