あるタカムラーの墓碑銘

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『リヴィエラを撃て』 単行本と文庫のラストの違い

2007-06-25 23:58:19 | 高村薫作品のための、比較文学論
 当然のことながら、このカテゴリはネタバレありです。ご了承を。

双葉文庫版 『リヴィエラを撃て』 を読書中の方も多々いらっしゃることと思われますが、「『リヴィエラを撃て』 (新潮社)のラストは、単行本と文庫でどう違うのか」というご要望がありましたので、取り上げてみますね。

ショックのあまり今まで黙ってましたが、残念ながら単行本は、2006年初頭に絶版になってしまいましたからね・・・。
いえ、『リヴィエラを撃て』 だけでなく、新潮社さんの単行本での『黄金を抱いて翔べ』 も 新版『神の火』 も、同時に絶版になってしまいましたからね・・・。
ひどいよ!! 新潮社さん!!  (心からの叫び)
新たにファンになった方たちのことを考えて下さいよ~。

***

さて、本題。

【単行本版『リヴィエラを撃て』p547】
養父の肩で寝ほうけているリトル・ジャックを抱いて、手島は駐車場に出ていった。泥を被った青いエスコートが一台、置いてあった。泥だらけの車は、アルスターの勲章だ。簡素な別れの挨拶をかわし、手島は息子とともに走り去った。
手島が最後に言い残した言葉はこうだった。
「正義の木に、枝の剪定は必要ないと思います。折れた枝は接ぎ木して、生き返らせればいいのです。そう信じなければ、犠牲者が救われません。生き残った私たちも、新たな戦いを始める勇気が湧いてこない。もし機会があれば、私はまだ戦うつもりでいるのですから」
モナガンは、走り去る車をいつまでも見送った。 (以下略)



【文庫版『リヴィエラを撃て』 新潮文庫・双葉文庫ともに下巻p409】
養父の肩で眠りこけているリトル・ジャックを抱いて、手島は駐車場に出ていった。泥を被った青いエスコートが一台、置いてあった。泥だらけの車は、アルスターの勲章だ。簡素な別れの挨拶をかわし、手島は息子とともに走り去った。
モナガンは、走り去る車をいつまでも見送った。 (以下略)


ご覧の通りはっきりと分かるのは、手島さんの台詞が、文庫では削除されていることです。
(今回は版数を掲載しておりませんが、特に単行本で「違うぞ!」というご指摘がありましたら、教えて下さいませ。ひょっとしたら、単行本自体も改訂前・改訂後があるかもしれませんので)

私見ではありますが、私は「削除されて良かった・・・」と心から思いました。
だって、手島さんには、もう戦って欲しくない。もう、あんなに傷ついた姿を見たくはないの。
手島さんには、リトル・ジャックの養育に心身ともに注いで欲しいのです。語弊があるかもしれませんが、これも一つの戦いだと思うのです。手島さんの望むように、リトル・ジャックが育つか、否か。新しく形を変えた困難な戦いを、手島さんは選び、自らに課したのですから。

***

当然ながらこの部分だけではなくて、他にも加筆修正、変更箇所が多々あります。
来年か再来年に、単行本版の再読日記もやりたいんですけど、ね。

「単行本から文庫への改訂」の比較についてですが、基本的に大まかな部分での変更箇所はなく、ちょこちょことした細かい部分での加筆修正、変更・削除が比較的少ないと思われるのが、『黄金を抱いて翔べ』 と 『リヴィエラを撃て』 ではないでしょうか。

だって、あまり話題になっていないんだもーん(笑)
みなさん、<合田シリーズ>のことばっかりなんだもーん!(愚痴)
とはいえ、<合田シリーズ>が嫌い、ということではないのですよ。誤解なさらないように。バランスよく全作品について語りたいというのが、ささやかな希望なんです。

さて、『黄金を抱いて翔べ』 で最も有名な変更箇所は、幸田さんのあの台詞ですよね。
漢字で二文字、ひらがなにすると四文字の、「最近」
これがあるのとないのとでは、作品の印象が月とスッポンほどの違いがありますものね・・・。
たった二文字なのに、深い。深すぎるほどに、深い。これだけ深い意味がこめられた「ごくごく普通の単語」って、滅多にありませんよ!



6 コメント

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ありがとうございました! (りんこ)
2007-06-26 09:57:25
からなさん、おはようございます。

丁寧な説明ありがとうございました。
この台詞だったのですね!
両本つきあわせて確認しながらこの台詞の有る無しを
ほぼ同じと認識してしまった自分が恐ろしいです。
からなさんの解説を読ませていただいて、ほんとうに全然印象が変わっているのに驚きました(気づくのが遅いですねぇ)

ところで、リヴィエラの単行本もすでに絶版になっていたなんて・・・ショックです!!
黄金を抱いて はどちらかと言えば文庫のほうが好きなのですが、
神の火・リヴィエラ・マークスは断然単行本スキ!ですので。
もっと細かく言うと神の火は最初の絶版になったもの
マークスはお蘭のあの台詞があるもの。

またいろいろ教えてくださいね。
ほんとうに勉強になります。
返信する
本当に残念。 (からな)
2007-06-26 23:15:45
りんこさん、こんばんは。
お役に立てたようで、何よりでした。

>リヴィエラの単行本もすでに絶版になっていたなんて・・・ショックです!!

まったくです。単行本も文庫も、それぞれ読み込んではじめて、どちらの良さも分かるものなのに。

>お蘭のあの台詞

これ↓ ですか?

「現実的であると同時に厭世的で、自己陶酔的で、限りなく献身的で利己的で、且つ……繊細なところが」

私、なぜだかこれを暗記できないんですよねー(笑) 「~的」の順番がごちゃまぜになってしまうんです。
文庫で削除されてしまったのは、それなりにショックでした。

ところで、私のメールアドレス、お解かりになりましたか?
(江口商事~ の最後のコメント参照して下さい)
返信する
ドキッ! (りんこ)
2007-06-27 22:49:42
からなさん、こんばんは。

お欄のあの台詞・・・・
なぜおわかりになりました?!
恐るべし!からなさん。

夢想の表情を浮かべて、というのがまたかわいいんですよねぇ

私にはこの台詞の削除だけではなく、
マークスの山の文庫化は、あれやこれやとショックづくしでした。

単行本、文庫本共に愛してらっしゃるからなさんは素晴らしいですね。
私は3作共、どうも単行本に偏ってしまい、
ついつい比較しては前の方がよかったと思ってしまいます
まだまだ読み込みが足りないということでしょうね。

それにしても、高村先生の本はどうしてこう何度も読み返したくなるのかしら。
高村作品の魅力。
太田さんの言葉(高村薫の本より)「読み終わった時に人が残っている」
まさにこれだなと思いました。

からなさんのメールアドレスわかりました。
メールさせていただきますね。

返信する
お蘭の名台詞 (からな)
2007-06-27 23:46:14
りんこさん、こんばんは。

>なぜおわかりになりました?!

だって最も有名なお蘭の台詞ですもん♪ 有名なわりに、暗記できない自分が憎い(笑) 今回も確認して入力したのですよ。

>単行本に偏ってしまい、ついつい比較しては
>前の方がよかったと思ってしまいます

りんこさんの最初に読まれた時の印象が、それだけ強く、大きかった証拠だと思われます。もう、それは仕方ないことですよ。

単行本でも完成度は高いのに、文庫では更に研ぎ澄まされていますからね。文庫で削られたり変更されたりした該当部分が、りんこさんのお気に入り場面や台詞でしたのなら、悔しいですよね。

でも、文庫で追加された部分も、私は捨てがたいんですよ。特に義兄弟関係は(笑)

これから、文庫から単行本へと読まれる方もたくさんいらっしゃると思うので、どちらがお好みなのか、感想を読み聞きするのが楽しみではあります。

>高村先生の本はどうしてこう何度も読み返したくなるのかしら。

本当にその通りですよね~。
8月に、カレンダー通りに『照柿』を読まれる方もたくさんいらっしゃるでしょうね。
・・・私は、今年は『照柿』を読みませんけど(苦笑)
返信する
知りませんでした (りんこ)
2007-06-28 20:54:07
からなさん、こんばんは。

あの台詞が有名だとは知りませんでした。(ちょっと恥ずかしい)
知らないことだらけなので、からなさんの記事で勉強します。

実は「照柿」の文庫本はまだ読んだことがありません。
なんだか怖くって・・・でも読みたい。
返信する
いつかその日が来ますから (からな)
2007-06-28 23:02:32
りんこさん、こんばんは。メールをありがとうございました。

>あの台詞が有名だとは知りませんでした。

そうだったんですか。
いや、『マークスの山』のお蘭の名台詞はこれくらいしかないでしょう。残りはめいはめいでも、迷台詞ですもん(笑)

>「照柿」の文庫本はまだ読んだことがありません。
>なんだか怖くって・・・

ご無理なさらずに。無理矢理読もうとしても、辛いだけです。
読みたくなったその時に、ぜひどうぞ。本は逃げません。きっと、りんこさんを待っていますから。

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