あるタカムラーの墓碑銘

高村薫さんの作品とキャラクターたちをとことん愛し、こよなく愛してくっちゃべります
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頭も顔もそこそこなら、せめて清潔におしよ (単行本版p283)

2007-11-04 23:35:45 | マークスの山(単行本版改訂前) 再読日記
2007年10月16日(火)の単行本版(改訂前)『マークスの山』 は、四  開花のp250からp298まで読了。

今回のタイトルは、合田ママの台詞から。前半部分の発言で物議を醸したことが、かつてあったかもしれない。
母親から見た合田さんは、「頭も顔もそこそこ」の息子ということ!?

まあ・・・10代では、男盛り溢れる魅力があるとは到底思えません。青年になる前の、特有の危うい魅力は、あったかもしれませんけれど(あくまで推測)
惜しむらくは、合田ママは男ぶりの増す20代後半から30代の合田さんを知らずに、早くお亡くなりになってしまったこと。(王子署で加納さんに会った夜明け前に、「十三回忌」の表記があったので、大学在学中に鬼籍に入ったと思われる)

もしもご存命なら、30代の合田さんを見て、何て言うでしょうね?
だけど母親というものは、息子が若かろうが年取ろうが、永遠に「息子」という存在なのだから、いつまでたっても「頭も顔もそこそこ」の息子としか思わないのかもしれない。


【今回の警察・刑事や、検察・検事に関する記述】

★「物的証拠を挙げろ。うちの連中にもそう言ってる。証拠だ。証拠がないから、俺を刺したチンピラの供述も翻せないんだ。いいか、証拠というのはな、探したらいいというもんじゃねえ。ないんならないで、ゆすって追い詰めて、敵に落とさせるものだ」 (p281)

須崎さんの真っ当すぎるアドヴァイス。合田さんは苦笑と、余計な失言しか返せませんでした。


【今回の名文・名台詞・名場面】
【お願い】 ピックアップした部分で「私の持っている『マークスの山』には、こんな文章は無かった」と気づかれた方。それは「改訂後」の可能性が高いです。よろしければ、ご一報下さいませ。私に、比較している余裕が無いものでして。よろしく願いいたします。

★ああ、俺は細かいことを考えられる頭が欲しかった……。 (p256)

マークスくんの悲嘆。ここは『レディ・ジョーカー』 (毎日新聞社)のヨウちゃんと、近い匂いを感じますね。

★破れた堪忍袋から、いろいろなものがじわじわ溢れ出していたが、合田の足は律儀に動き続けた。どうせ、それ以外の方法を知らないのだが。 (p265~266)

何度も記してますが、「刑事・合田雄一郎」の描写が好き。大好き!

★昨日あたりから、無愛想・孤独・突出の三大悪癖が、また少し頭をもたげてきている。スパイだのアカだのと呼ばれるたびに、集団から足が遠のき、ひとり離れていたくなるのは、ほんとうは、今やほとんど条件反射となった反応であって大した意味はなかった。 (p278)

無愛想でない合田さんは、合田さんでない。孤独でない合田さんは、合田さんでない。突出していない合田さんは、合田さんでない。それでも警察組織の「集団」にあわせようと、最低限の努力はしている合田さんは、評価されようがされまいが、私は偉いと思うのよ。

★事実、合田は自分の凡庸な限界と、特異な性向を覗き見たような気がしていた。 (中略) どちらも図抜けた指向性と力強さを持っていた。自分には、そのどちらもなかった。のろのろと周辺を徘徊しながら、自分が探しているものはいつも、吾妻や須崎のような鮮明な核のない、漠とした何ものかであるような気がしてならなかった。黒でも白でもない、灰色の人間。状況。心理。動機。結末。 (p282)

自分は、どのような「刑事」なのか。どのような「刑事」であるべきなのか。この自問は、これ以降の<合田シリーズ>のいたるところで、事件に遭遇するたびに何度も繰り返し出てきますね。永遠に回答の出ない問いかけなのでしょうが、それでも合田さんは問い続ける。

★形の上で過不足なくこなしてきた仕事に、いつも灰色の靄がかかる。 (中略) 明白であるはずの事実を避けて、自分がどこへ行こうとしているのかと、合田は自分自身を訝った。やはり、犯人だろうか……? まだ姿も形もない。、おそらく頭もおかしい灰色の犯人。おそらく、これだけの血を流しながら未だに獏としているという理由で、合田は遅ればせながら無性に犯人に惹かれていくのを感じた。たしかに、吾妻や須崎の方が的を得ているのは分かるが、自分はそういう性向なのだろうと思った。 (p282)

これも<合田シリーズ>の中で遭遇する事件で、必ずといっていいほど「犯人」の存在に波長を合わせるかのような合田さんの描写が出てきますね。
事件を起こした犯人と、事件を追う刑事の関係は、誤解を招く恐れを承知で表現しますと、事件という接着剤でくっついたコインのようなもの。表裏一体。
合田さんの刑事としての思考・意識は、犯人の意識・思考に少しでも迫ろうとするかのよう。そういうアプローチが出来るタイプの刑事さんなのですね。でもそれは同僚の刑事さんたちには、きっと理解されない、理解出来ない・・・。

★なぜ、自分の神経がこの特異な犯人に集中しなかったのか。今となっては、分からなかった。後悔してもしても足りない思いの矛先は、ほうっておけばどんどん自分自身に向かってくる。そんなことで目の前の一刻一刻を見失っているときではなく、合田は反省は適当に切り上げた。 (p290)

「反省」という行為による思考と検討は、どんな時でも大事ですよね。二度と同じ轍を踏まない、同じ行為を繰り返さないという、心構えが出来るから。合田さんは少しでも自省出来るところが、偉い。

・・・今回分、合田さんを褒めてばかりだな(笑)
「何でだろう?」と、ふとタイトルを見て腑に落ちた。合田ママの発言が尾を引いていたのか・・・?



8 コメント

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読売新聞 (りんこ)
2007-11-07 13:03:53
からなさん、こんにちは。

読売新聞に高村先生の記事。読まれました?

{立命館大のリレー講義「日本文化の源流を求めて」の第15回は、作家の高村薫さん(54)。自らの創作体験をもとに、「小説の困難と可能性」について語った。

 小説家は、作品を書こうとする際、ほぼ間違いなく困難に出合います。それを克服するために、可能な限りの叙述を尽くすわけですが、作品に結晶した時、今度は読者の皆さんが、違和感や驚きや難しさなどに出合われる。言い換えれば、そうした違和感や驚きに出合うことが小説を読むことだと私は思います。
 小説には、エンターテインメントと、_____}



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抜粋で・・・ (からな)
2007-11-08 00:13:35
りんこさん、こんばんは。情報ありがとうございます♪

>読売新聞に高村先生の記事

我が家は朝日新聞でして(苦笑)
あるブロガーさんが、内容を一部分だけ抜粋して記事にしておられたので、その部分だけは拝見しました。ですから、全部の内容は存じません。

おそらく後日、「YOMIURI ONLINE」のサイトで内容が掲載されると思うので、それを楽しみにします。

http://osaka.yomiuri.co.jp/ritsumei/index.htm

返信する
もしよければ・・・ (りんこ)
2007-11-08 09:44:41
からなさん、こんにちは。

高村先生の記事ですが、昨日の続きをここへ書き込みましょうか?それともその記事のコピーか新聞の切り抜きそのままお送りしましょうか?
YOMIURIONLINEサイトに講演の全てが掲載されるのならば、新聞はあまり意味がないのかしら?
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よろしいのですか!? (からな)
2007-11-08 23:47:30
りんこさん、こんばんは。

>その記事のコピーか新聞の切り抜きそのままお送りしましょうか?

ぜひ! ぜひお願いいたします!
本当はネットで記事を読むのが辛いんですよ。自分でこんなブログを運営しているのにも関わらず(笑) 説得力ないでしょうけれど、ね。

お手数おかけいたしますが、よろしくお願いします!
返信する
では・・・ (りんこ)
2007-11-09 09:37:27
からなさん、おつかれさまです。

あの~すごく喜ばれているのでちょっと不安に・・・
お送りしてからがっかりされるといけませんので、先に言っておきますが、記事は新聞半ページほどのものです。
また、お送りするにあたって2点確認を。
切り抜きかコピーどちらがよろしいですか?
記事は折りたたんで送付しても可OR不可?
切り抜きはすでに折りたたんでしまっていますが(笑)
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いただけるのでしたら、贅沢は申しません。 (からな)
2007-11-10 00:56:09
りんこさん、こんばんは。

>切り抜きかコピーどちらがよろしいですか?
>記事は折りたたんで送付しても可OR不可?

お気遣いありがとうございます♪
「読める」のであれば、コピーであろうが折りたたんであろうが、わがままは言いません。
おまかせいたしますので、よろしくお願いいたします。首を長くしてお待ちします♪

返信する
本日 (りんこ)
2007-11-10 20:02:00
からなさん、こんばんは。

今日、投函しました。
遅くなってごめんなさい。
お楽しみに~♪
返信する
ありがとうございます! (からな)
2007-11-11 00:47:52
りんこさん、こんばんは。

>今日、投函しました。

お手数おかけしました。ありがとうございました!
月曜日の帰宅が楽しみです♪

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