このカテゴリはネタバレありです。ご了承を。
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未完成の記事をあえて中断して、2006年最初の記事らしい記事。風邪で伏せっていた間、失われた気力とやる気を取り戻すためのリハビリも兼ねていますので、テンションをあげるためにも、新カテゴリの記事で。
実は約1年ほど前からあたためていた企画です。からな流・高村薫作品を読み解くためのキーワード。
第1回目は、「手を掴む、手首を掴む」 です。
当然ながら、「男性Aの手が、男性Bの手あるいは手首を掴む」・・・という描写に限定。
女性の私は、こういう描写にすこぶる弱い。高村男性キャラクターの隠れた魅力や色気を感じて、ドキドキしてしまいます。
(但し「握手」という行為は今回の場合は当てはまりません。あんまり色っぽくないんだもん)
それではピックアップ!
『黄金を抱いて翔べ』 文庫版p87~p88より (単行本版は、ちょっと表現が異なりますので挙げません)
幸田は、そう言うが早いかドアに手をかけたが、北川の手の方が早かった。幸田は掴まれた手を振りほどこうとしたが、北川が力をこめてきたその手は、ビクともしなかった。こうしてこれまで、北川という男はいつも、幸田の壁を踏み越えてきたのだった。人の領域を犯し、侵入してくる北川の威圧感は、暴力と君臨の同義語だった。しかしそれはいつも、緩急自在の呼吸と、熱砂のような吐息を伴っている。幸田は反射的にそれを怖れた。普段は忘れているが、思い出すと憎悪が噴き出した。
北川兄は、幸田さんより身長が10センチ高いし、体重も20キロ重いし、簡単には振りほどけませんよね。
・・・という部分に注目するのではなくて。
北川兄に「手を掴まれる」行為で、幸田さんが抱いた数々の感情がポイント。「威圧感」=「暴力」+「君臨」に加え、「緩急自在の呼吸」と「熱砂のような吐息」という、読み手を惑わすような表現は見逃せません!
『神の火』(旧版) p265~p266より
真夜中に、ふと自分の手を江口に掴まれて目覚めた。江口が、繰り返し耳元で何か呟いていた。
「しかしね、君は違うよ。君は私とは違う。良がそう言った。彼が初めて君に会ったのは、あの揚松明の夜だったそうだが、あの後大阪で彼と話したとき、彼は君のことをひどく気にしているような口ぶりだった。あの剛直な若者にしては、珍しいことだった。彼は君のことをこう言っていたよ。あの人は救い主を探している、とな。君が神を探しているのなら、私とは違う……」
江口さーん! あなたって人は、まったく油断も隙もありませんな!
言っている内容はおいておくとして、島田先生の手を掴んで、「真夜中」に「繰り返し」「耳元で」「呟」くというのがポイント! 「呟いて」というよりは、「囁いて」と読み替えた方がいいかもしれません。
余談ながら、旧版の良ちゃんって「剛直」・・・なんですね・・・。新版の良ちゃんに馴染んでいる私としては、ちょっとした違和感が拭えません・・・。
『神の火』(新版) 文庫版下巻p9より
江口は、頬杖をついた左手の指先で軽やかにとんとんと拍子を取りながら、空疎な笑みを舞台に投げ続けていた。その間、珍しいことに、いつの間にか空気のように、空いている右手を伸ばしてきたかと思うと、それを島田の手に重ね、軽く握った。
「(私たちはイタリアへ行くのさ、絶対に)」
「(ほら、彼女が呼んでる)……」
島田は江口の手を押し返して苦笑した。
(台詞は原文ではロシア語です。気が向いたらロシア語も添えます)
江口さーん! 旧版より大胆になっていませんか!?
だってこれ、ザ・シンフォニーホールの座席での一場面。つまり公衆の面前で、島田先生の手を握ったというわけ。さすがの島田先生も、苦笑せざるを得ませんね。(まるでパトロンとお稚児さんのようだ・爆)
「珍しい」と「いつの間にか空気のように」という表現がポイント!
『照柿』 p105より
男は握手を求めて片手を差し出してきた。そして、雄一郎が片手を出すやいなや、男はすかさず、差し出した自分の手をかわして雄一郎の手首をがっしりと掴んだ。そういう大胆な所業に出てはばかるところもない一種独特の男の威風は、秦野組六代目組長を襲名する前から備っていた。
『照柿』 p106より
「下っぱのお上相手に、何をおっしゃる」
「そう言って、あなたはまた逃げる」
「何から」
「この秦野耕三の食指から」
刑事一人の手首を掴んだまま、男は直截な物言いをしてにやにやした。金と組織の力をもってしても、こちら側へなびいてこないお上に対してはとりあえず無力だと知っている渡世人の鋭利な自嘲が、その眼光に浮かんでいる。同時に、一介の刑事一人をからかう口の下には、すきあらばと狙っている蛇の舌も光っている。
最後に大物を持ってきました(笑) 秦野組長、合田さんの手首を掴む! です。
ここは何もかもがポイントですね。秦野組長の起こした、さりげなくも大胆な行動ひとつで、こんなにもドキドキしてしまうなんて・・・罪なお人だわ。
ところでこの二人の邂逅シーン、秦野組長は合田さんに押し退けられるまで、ずーっと手首を握っていたんでしょうか・・・?
合田さん、よく我慢してたなあ。それとも「秦野組長、さすがだなあ」と言うべきか・・・。
***
企画自体は楽しいと私は思いますが・・・ピックアップするのが結構疲れますね、これ。記憶力を試される企画でもありますね。月に一回実施できたらいい方かなあ。
ところで、「これを忘れてない?」という描写がありましたら、コメント欄でちょこっとご指摘していただければ幸いです~。追記いたしますので・・・。(十中八九、挙げ忘れていると思う・・・)
また、「このキーワードでやってみたら?」というリクエストもありましたら、よろしくお願いします~! すぐにネタ切れになりそうなので・・・。
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未完成の記事をあえて中断して、2006年最初の記事らしい記事。風邪で伏せっていた間、失われた気力とやる気を取り戻すためのリハビリも兼ねていますので、テンションをあげるためにも、新カテゴリの記事で。
実は約1年ほど前からあたためていた企画です。からな流・高村薫作品を読み解くためのキーワード。
第1回目は、「手を掴む、手首を掴む」 です。
当然ながら、「男性Aの手が、男性Bの手あるいは手首を掴む」・・・という描写に限定。
女性の私は、こういう描写にすこぶる弱い。高村男性キャラクターの隠れた魅力や色気を感じて、ドキドキしてしまいます。
(但し「握手」という行為は今回の場合は当てはまりません。あんまり色っぽくないんだもん)
それではピックアップ!
『黄金を抱いて翔べ』 文庫版p87~p88より (単行本版は、ちょっと表現が異なりますので挙げません)
幸田は、そう言うが早いかドアに手をかけたが、北川の手の方が早かった。幸田は掴まれた手を振りほどこうとしたが、北川が力をこめてきたその手は、ビクともしなかった。こうしてこれまで、北川という男はいつも、幸田の壁を踏み越えてきたのだった。人の領域を犯し、侵入してくる北川の威圧感は、暴力と君臨の同義語だった。しかしそれはいつも、緩急自在の呼吸と、熱砂のような吐息を伴っている。幸田は反射的にそれを怖れた。普段は忘れているが、思い出すと憎悪が噴き出した。
北川兄は、幸田さんより身長が10センチ高いし、体重も20キロ重いし、簡単には振りほどけませんよね。
・・・という部分に注目するのではなくて。
北川兄に「手を掴まれる」行為で、幸田さんが抱いた数々の感情がポイント。「威圧感」=「暴力」+「君臨」に加え、「緩急自在の呼吸」と「熱砂のような吐息」という、読み手を惑わすような表現は見逃せません!
『神の火』(旧版) p265~p266より
真夜中に、ふと自分の手を江口に掴まれて目覚めた。江口が、繰り返し耳元で何か呟いていた。
「しかしね、君は違うよ。君は私とは違う。良がそう言った。彼が初めて君に会ったのは、あの揚松明の夜だったそうだが、あの後大阪で彼と話したとき、彼は君のことをひどく気にしているような口ぶりだった。あの剛直な若者にしては、珍しいことだった。彼は君のことをこう言っていたよ。あの人は救い主を探している、とな。君が神を探しているのなら、私とは違う……」
江口さーん! あなたって人は、まったく油断も隙もありませんな!
言っている内容はおいておくとして、島田先生の手を掴んで、「真夜中」に「繰り返し」「耳元で」「呟」くというのがポイント! 「呟いて」というよりは、「囁いて」と読み替えた方がいいかもしれません。
余談ながら、旧版の良ちゃんって「剛直」・・・なんですね・・・。新版の良ちゃんに馴染んでいる私としては、ちょっとした違和感が拭えません・・・。
『神の火』(新版) 文庫版下巻p9より
江口は、頬杖をついた左手の指先で軽やかにとんとんと拍子を取りながら、空疎な笑みを舞台に投げ続けていた。その間、珍しいことに、いつの間にか空気のように、空いている右手を伸ばしてきたかと思うと、それを島田の手に重ね、軽く握った。
「(私たちはイタリアへ行くのさ、絶対に)」
「(ほら、彼女が呼んでる)……」
島田は江口の手を押し返して苦笑した。
(台詞は原文ではロシア語です。気が向いたらロシア語も添えます)
江口さーん! 旧版より大胆になっていませんか!?
だってこれ、ザ・シンフォニーホールの座席での一場面。つまり公衆の面前で、島田先生の手を握ったというわけ。さすがの島田先生も、苦笑せざるを得ませんね。(まるでパトロンとお稚児さんのようだ・爆)
「珍しい」と「いつの間にか空気のように」という表現がポイント!
『照柿』 p105より
男は握手を求めて片手を差し出してきた。そして、雄一郎が片手を出すやいなや、男はすかさず、差し出した自分の手をかわして雄一郎の手首をがっしりと掴んだ。そういう大胆な所業に出てはばかるところもない一種独特の男の威風は、秦野組六代目組長を襲名する前から備っていた。
『照柿』 p106より
「下っぱのお上相手に、何をおっしゃる」
「そう言って、あなたはまた逃げる」
「何から」
「この秦野耕三の食指から」
刑事一人の手首を掴んだまま、男は直截な物言いをしてにやにやした。金と組織の力をもってしても、こちら側へなびいてこないお上に対してはとりあえず無力だと知っている渡世人の鋭利な自嘲が、その眼光に浮かんでいる。同時に、一介の刑事一人をからかう口の下には、すきあらばと狙っている蛇の舌も光っている。
最後に大物を持ってきました(笑) 秦野組長、合田さんの手首を掴む! です。
ここは何もかもがポイントですね。秦野組長の起こした、さりげなくも大胆な行動ひとつで、こんなにもドキドキしてしまうなんて・・・罪なお人だわ。
ところでこの二人の邂逅シーン、秦野組長は合田さんに押し退けられるまで、ずーっと手首を握っていたんでしょうか・・・?
合田さん、よく我慢してたなあ。それとも「秦野組長、さすがだなあ」と言うべきか・・・。
***
企画自体は楽しいと私は思いますが・・・ピックアップするのが結構疲れますね、これ。記憶力を試される企画でもありますね。月に一回実施できたらいい方かなあ。
ところで、「これを忘れてない?」という描写がありましたら、コメント欄でちょこっとご指摘していただければ幸いです~。追記いたしますので・・・。(十中八九、挙げ忘れていると思う・・・)
また、「このキーワードでやってみたら?」というリクエストもありましたら、よろしくお願いします~! すぐにネタ切れになりそうなので・・・。
ところで「キーワード」のことですが、私が気になっている箇所を思いついたので、お知らせします。「・・・独りごちた」・・・どこの何ページ?と言われると困りますけど。
また思いついたらお知らせします。ご参考までに
『晴子情歌』の読了、お疲れ様でした。『新リア王』もご自分のペースでお読みくださいね。
>「独りごちた」
・・・やろうと思い立つ前に挫折しました(笑) これはキリがないですよー。
「腹がくちくなる」もよく出てきますね。
とりあえず(今のところ)、この2つは却下ということで・・・(苦笑) ごめんなさい。
私はとりあえず「新・・」読了することを目標に頑張ります!
からなさんの「晴子・・」再読日記も今楽しんでますよ
『新リア王』の、たとえ意味が不明でも、「漢字」の羅列にめくるめく自虐的な快感を、私は覚えました(笑) 日本語の素晴らしさを再認識できるのはいいですね♪
★marimoさん
はじめまして、コメントありがとうございます。
marimoさんも講演会にいらしてたのですか。お会いしたかったです。
私は質疑応答コーナーで二番目に質問・・・というよりも、「高村作品に対する熱烈な愛の告白」をされた男性の隣に、たまたまおりました。
質疑応答コーナーは、いろんな意味でビックリしましたよね~(苦笑)
>畏怖という言葉もよくでてきますね。
そうですね! これで最初に思い浮かんだのが、『照柿』ですね。合田さんや達夫さんが、美保子さんに対して抱いた感情。
これからもマイペースで更新していきますので、それでよろしければ、またお越し下さいませ。ありがとうございました。