あるタカムラーの墓碑銘

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細く長く育ったのは、うどんのせいだとしか思えない。 (単行本版p137)

2007-10-23 00:43:26 | マークスの山(単行本版改訂前) 再読日記
『照柿』(講談社)で、合田さんと達夫さんがしょっぴかれた、西成署のエレベーターがシンドラー社製 であることが、幸か不幸か判明(苦笑) 誰も乗らずボタンも押してないのに、突然上昇したらホンマに怖いわ。怪奇現象と言われたら、信じるかもしれん。

そうそう、最近知ったのですが、この時に勤め先を「桜田商事」と発言した合田さん。これ、「警視庁」をさす隠語らしいですね。
・・・取り調べた相手には、分かったんだろうか? 新たな疑問。
実際に「桜田商事(櫻田商事)」ってありますがね。検索かけたら、面白いですよん♪

「平成雑記帳」の覚え書き。
「AERA」2007年10月22日号・・・国際連合について。
私も小学校の社会科で習った時には、「国連ってすごいなあ」と思っていましたとも。
「AERA」2007年10月29日号・・・就職活動の学生を囲い込む企業について。
バブル崩壊後のとばっちりを受けた世代が、企業にいないということは知っている。(私も、とばっちりをモロに受けたから) つまり40代と20代を繋ぐ30代の人間が少ないということだ。

***

さて、本題。
2007年10月12日(金)の単行本版(改訂前)『マークスの山』 は、二  発芽のp133から三  成長のp167まで読了。

余談ながら文庫版では三  生長になっています。全てのタイトルが植物の一生に関わることなので、「生長」が正しいといえば正しい・・・ですね。

今回のタイトルは、合田さんの身長が伸びた原因の自己分析と結論。
その前の加納さんから受け取った(とされる)メッセージ 《とんでもねえよ》 とツッコミしたい(苦笑)
勘違いされたら困るが、大阪人はうどんばっかり食べてるわけじゃないぞ~! たこ焼きもお好み焼きも食べてるぞ~!(つまり「粉もん」と言われる食べ物だ) 蕎麦もラーメンも食べてるぞ~! もちろんそれ以外の食べ物も食べてるぞ~!(これ以上やったら収拾つかない)


【今回の警察・刑事や、検察・検事に関する記述】

★上から何と言われようが、地どりを続けるのは当然だ。 (p136)

えらいぞ、須崎軍団!

★幹部会議に出るのは、警視庁の幹部一表に名の載っている警部以上と決まっている。 (p144)

ということは、合田さんが呼び出されたのは、余程の緊急事態だということですか。

★《慎重に》は微妙な状況を指すときに便利な常套句だ。 (p148)

この事件に関する幹部・上層部と現場の温度差が、ここでもう現れてますね。


【今回の名文・名台詞・名場面】
今回分、あれもこれもと欲張ってとんでもない分量になってしまったので、泣く泣く割愛したものがあります。

★そろそろ立ち去ろうかと思いつつ、合田の頭の歯車は、半分は惰性で、少し軋みながら緩慢に回り続けていた。仲間から解放されて独りになったらなったで、考えるのは事件のことしかない。 (p135)

そうだよねえ。「刑事・合田雄一郎」は、これでなくてはねえ。

★署を出たとき、玄関前の路上に散っていく人影の中に、合田はふとスーツの後ろ姿を一つ見分けた。自分と似たような地平にいるのに、なぜかいつも、自分の日々の喧騒とはかけ離れた涼風の吹いている、一人の男の背だった。
合田は「おい!」と呼んだ。
相手はその声に振り向き、白い歯を覗かせて《また飲もう》と目で言ってよこし、そのまま同僚の検事らとともに立ち去っていった。
 (p136)

この物語の中で、合田さんと加納さんが初めて顔を合わせた場面。今思うと、単行本の方が、さらっとしているような気がする。(その理由は後で↓)

★《とんでもねえよ》 (p137)

加納祐介さんというキャラクターからすれば、この《とんでもねえよ》という言葉遣いそのものが、義兄好きな私にとっても《とんでもねえよ》なのですが・・・
こんな言葉遣いをする義兄は、義兄じゃなーい! (雄叫び)
ものすごく違和感あるんですよ。加納祐介という個性が、固まってなかったんだろうなあ。それに加えて十中八九、合田さんの受け取ったメッセージの解釈が、間違ってるんでしょうな!(←ホンマかいな)

文庫版では、この前後の描写はスパッとカットされ、変更されました。でも文庫版の邂逅シーンも、なかなか面白いですよん。ネタバレ。 合田さんの傍らに、又さんがいたため。単行本版と比べたら、ドキドキ度よりはヒヤヒヤ度の方が高かった・・・。又さんが傍にいたからか、読んでいて照れくさいったら、もう~! 義兄弟の逢引きを覗き見しているかのようだった(笑) 

★加納が言うだろうことは百年一日、分かっている。《捜査現場に端から口を出すところなど、何人たりとも捨て置け。一に証拠、二に証拠。証拠さえ揃えれば、法が判断する》 (p137)

加納検事の基本姿勢が窺えるこの名言。
但しこの冒頭部分に「検事の(加納が言うだろうこと~)」と補足しておかないと、合田さんへのツッコミ非難が止まない(苦笑)
ツッコミ非難例:「義兄の言うことが百年一日分かるんだったら、義兄の気持ちも分かるだろ!」
・・・のようなツッコミを、一度は入れた人は多いはず。

★合田は大阪で生まれ育った。人生の半分を過ごした土地の言葉は今も抜けないが、仕事上差し障りがあるのを感じて、無理に標準語を話すうちに、だんだん口を開く回数が減ってきた。無口なのはただ、それだけの理由だ。 (p137)

『レディ・ジョーカー』 (毎日新聞社) では、合田さんに大阪弁を喋らせるのを禁じた高村さん。あ、『太陽を曳く馬』 でもそうか。
私はもう慣れてしまったからそんな大きな問題ではないと思うのですが、大阪弁だろうと標準語だろうと、合田さんは合田さんに変わりはないって!

★誰も知らない非難場所が欲しいと贅沢なことをのたまい、合鍵をくれなどと言うのは加納ならではだ。 (p151)

相当な物議を醸した(らしい)、この一文。合田さんは言われたその日に合鍵を渡したんだろうか?

★合田はそれ以上の思い出に耽るのを自分に禁じた。一つの思い出すと際限がなくなり、新たな発酵が始まるような気がしたからだ。過去が完全に過去になるには、自分も加納も、まだ若過ぎる。 (p152)

それでも、折に触れ思い出さざるを得ないのが、離婚した貴代子さんのこと・・・。この頃の合田さんの中では、加納さんと貴代子さんはワンセットになっていたんでしょうね。二人を個別に考えることが出来た時が、合田さんの新たな出発点。

★「知らない人の葬式は悲しくならないのが困る」 (p167)

まったくでございます、義兄!

★合田はどこまでも静かで柔らかい加納の声に耳を傾けながら、昔からそうであったように、そのまますべて受け入れ、ゆっくり反芻し、肯定も否定も自然に湧き出るままに任せた。湧き出てくるものの中には、肯定や否定のほかに、過ぎ去った日々の光や翳りの渾然とした戦慄も含まれていた。日ごろ自分の回りにはない、何かの風が吹いてくるのを感じる。学生時代、加納兄妹と過ごした賑やかな日々、自分の胸を満たした茫洋とした蜃気楼が、未だに身体のどこかに残っている。それが切なかった。 (p162)

「切なかった」の内容が、単行本と文庫で意味合いがかなり相違していますね。単行本では加納兄妹とのプライヴェートなことに関する切なさ。文庫では・・・ネタバレ。  情報を得たいがために、加納さんにすり寄っていく自分自身がいやでいやで、そのことが「切なかった」・・・となっていました。そのことに加えて、加納さんとは本当はこんなことはやりたくない気持ちが、強かったように感じられました。 

★「雄一郎。今年の夏は、山には行かなかったのか」
「ああ。新宿と上野で外国人の殺し合いが五件。盆休みも取られへんかった」
「あ、大阪の言葉……久しぶりに聞いたな」
「疲れてるんやろ。つい出てしまう」
「雄一郎の大阪言葉、いいぞ。もっと使え」
「やめてくれ、アホ」
 (p163)

この会話、好き好き好き好き、好き、好き♪ (「一休さん」のオープニングでよろしくね)
「やめてくれ、アホ」で、合田さんが漫才師みたいに「ツッコミ手」いれてたら、ものすごくイヤ(笑)

★帰り道、合田はどこかのショーウィンドーに映った自分の顔を見た。変わりばえしない自分の顔だったが、個人生活の範疇にいる一人の男と会っていた短いひとときの間は、何か覆いが一枚剥がれていたような面はゆい感じだった。明日職場に出たときには、その覆いをまたかぶっているのだろうが。 (p164)

話の内容は仕事(事件)のことがメインであっても、義兄と会って過ごしている時間は、どうしても私生活の時間になってしまうよね、合田さん♪

★適当に答えながら、合田はそのときふと、滅多に考えないことを考えていた。目の前の秀才の警視。森と同い年だ。 (中略) さらに数年すれば確実に地方本部長の椅子が約束されているこの男と、自分たちノン・キャリアの違いはテコでも動かない現実だった。そんなことは百も承知だが、徹夜明けの森の青白い顔を見たあとでは、この落差がなぜかあらためて非現実的に思われたのだった。 (p165~166)

★合田は昔、大阪市内の交番で昼となく夜となく、背筋を伸ばして立ち番をしていた父の姿を想った。 (中略) 勤続三十二年でやっと巡査部長に昇進したその年、定年まで三年を残して肝硬変で死んだ。 (p166)

★合田は二十九で警部補になった。同期の大卒組の中では早い方だった。 (中略) 半ば幸運で手にした功労賞は別にして、それなりに働きに働いた自負はあった。定年まで二十七年、昇進には上限があるし、あと一つか二つ昇れば終わりだが、父のような男が何万人もいるのが警察の本体だとすれば、自分はその本体の頂点に近いところにいるのだった。 (p166)

上記3つの引用。エリートの水野署長、下っ端(という言い方はマズイか)の合田さん父、頂点に近いが中間の位置に属する合田さんの違いが鮮やかに浮き彫りにされていて、ピラミッド型の警察の組織の一面が、これで分かるようになっていますね。本来は 【今回の警察・刑事や、検察・検事に関する記述】 に入れるべきなんでしょうが、合田さん視点なのでこちらにしました。
さて、合田さんは「あと一つか二つ昇れば終わりだ」とこの時は考えていたようですが、実際に一つ昇りました。もう一つ昇ることは、あるのでしょうか?

★外に対しては権力の権化のような強面をぶらさげ、内では上昇志向を剥き出しにして競り合っている自分たち本体頂点の醜悪さは、この水野のような上級職のそれとは別物であると同時に、全国二十万の本体のそれとも、似て非なるものだった。似て非なるものの三段重ねで警察は出来ている。そのそれぞれの中に、それぞれの醜悪な日々がある。そして、それぞれ互いに無縁なのだ。酒に溺れた父の頑迷な硬い顔と、自分や森の顔と、この水野の顔と、どれも重ならない。 (p166)

先ほど3つの引用の結論。



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