これエレ!  ~これはこれはエレガントなブログもあったものだ~

日常で起きたことを面白おかしく書いたり、小説書いたり

あと

テンプレと表示絵がよく変わるのはいつもの事

逃げ腰 7話

2012-10-30 14:08:46 | 小説


さて



とりあえず 続けます





お付き合いくださったらありがたい・・・





私は一応、桝谷に聞いて見ようと思った。
まずありえない事だとは思うが、本当に犯人がわかっているかという事だ。そもそも、人命に関わる事件なんて今回が初めてである。
今まで最高の修羅場だとしても、浮気調査中に男の愛人が、事務所を嗅ぎつけて来た事ぐらいだろう。
その時は、桝谷の土下座と口八丁で事なきを得たが、相手は包丁を持っていたので恐ろしかった。
なぜ事務所の場所がバレたのかというと、依頼主の旦那が愛人からもらったという、盗聴器入りのボールペンを奥さんにプレゼント。
その後、奥さんが妙に優しいという事に疑い、ボールペン型の盗聴器が証拠になると思い、盗聴器だということを知らずに持参してしまった事が原因だった。
私は質問する事を2~3固めてから、窓際にいる桝谷の方を向く。
しかし桝谷は、私が口を開くよりも早く言った。
「よし・・・逃げるぞ」
「やっぱりですか」
想像通りの行動にげんなりする。
「当たり前だよ、犯人なんて解るはずない。探偵じゃないんだから!」
お前は探偵だって、さっき名乗ったばかりじゃないか!
と思わず言いたくなる程、この男はいい加減だった。そんなツッコミをしているうちに、逃げるためのストレッチをしている。
「ちょっと、私を置いて行くつもりですか?」
「人聞きが悪い、奈良君なら付いてこれるだろう?」
「無理ですよ!」
この男は身軽だから行けるだろうが、いくら身長があろうとも、私はか弱い女性である。
普通だったら、私を逃がすために桝谷が行動してくれてもいいはずだ。
「大丈夫だよ、こんなの昔やった木登りだと思えば」
「やったことないですよ!」
「え、無いの? 秘密基地とか作らなかった?」
この男は素で聞いてきた。
そもそも年代が違う、10以上離れてる私達には、そんな環境は無かった。秘密基地を作ると言っていた小学校のクラスメイトの男は居たが、結局は公園の管理者が壊してしまう。
もちろん木に登ろうものなら、周りの大人たちが騒ぎ立てて下ろそうとしていた。
「なんだ・・・・、そうか、ジェネレーションギャップを感じるよ」
「落ち込まないでくださいよ!」
いつの間にか桝谷のペースになってしまっていた、それのせいでいつもの調子で口論に発展する。この男は何をするにしても言い訳じみている。
「何事なんだ、騒がしいぞ」
どうやら平賀が騒ぎに気づいて来たらしい。窓を開けて逃げようとしている桝谷、そして口論している私を見て睨みつけた。
「ほほう・・・最初から怪しいと思ってたんだよ。逃げるつもりだったんだな、あぁ?」
まるでチンピラのような口調で話しかけてくる。
「もう弁解はさせんぞ、今すぐ一緒に来てもらおうか」
これで私の人生は終わったような気がした。真面目とは言えないまでも、他人に迷惑をかけない程度の人生を送ってきたつもりである。それが、よりにもよって、警察に迷惑をかけてしまった。
「待ってください、これも推理に必要な行動だっただけです」
桝谷は素知らぬ顔で答えた、推理など1秒もしていなかった癖に、刑事さんの前でまた嘘をつき始めた。
「刑事さん、おかしいと思いませんか?」
「あぁ?最初から怪しいって思ってるって、言っただろ!」
「違いますよ、おかしいんですよ」
この男、とうとう本当におかしくなったのだろうか。
「何がだよ」
「刑事さん、最初の事件・・・、どんなのでしたっけ?」
「最初の事件~? 客が騒いだってのだろ?」
「ええ、詳しい内容ですよ」
怪訝な表情をしながら、平賀が言う。
「確か第一発見者の男が、連れの女性が死んでいると言うんで、フロントに連絡があったって聞いたぞ。その後に、従業員の女性が死んだっていう通報が警察に来たんだ」
「最初の被害者とされる女性は今、どこにいますか?」
「それがな、フロントに従業員を呼びに行ってる最中に、消えたらしいんだが・・・、それが窓を開けて逃げようとしていたのと何が関係があるんだ?」
「フロントに来た男の証言が全部本当だったとして、最初の被害者をどうやって運んだんでしょうか?」
「そりゃ・・・、窓が開いてたから、外に投げ捨てて、そのまま引きずったんだろ?」
死体を連れて廊下を歩いていたら、目立ちすぎてしまう。それに人を一人担いで行動するには、相当な筋力と体力が必要だ。
「ここの外の芝生は、思ったより地面が柔らかいんですよ。というと・・・、引きずれば跡が残るハズじゃないですか?」
桝谷がビシッと決める。
だが真相は、自分の疑いを晴らすために一生懸命に知恵を働かせてるだけなのである。
この芝生の事は、朝の逃走時に知った事だろう。
「なぜ、お前がそんな事を知ってるんだ?」
「・・・昨日の夜、散歩をしようとしましてね。そして歩いてたら、思いのほか地面が柔らかかったんでね、印象に残ってたんですよ」
こういった事の洞察力は、流石だと思う。ただ、洞察力の鋭さが時々ウザく思えるときもある。
人が何かをごまかそうとしても、きちんと当ててくる。
桝谷の探偵事務所で働き始めて直ぐに、彼氏と別れて機嫌が悪かった事も、携帯の確認の仕方で解ったらしく、ニヤニヤしながら聞いてきた。
また話が逸れてしまったが、前に散々苦しめられてきたその洞察力で、今回は助かる可能性が出てきた。
「なるほどな、それは鑑識に調べさせよう」
「それに、オレの推理が正しければ・・・・。最初の被害者女性の居場所は分かっています」
「ほぅ?」
事件の真相を暴いてるようだが、その度に疑いが深くなってしまってる様な気もする。よほどこの男には信用という言葉が似合わないのだろう、なぜ今まで仕事が成り立ってきたのか、不思議に思えてきた。
「そんな上手い事を言って逃げるつもりなんじゃないのか?」
「ま・・まさかぁ」
本当は逃げる気だったのかもしれない、しかしこの男ならやりかねないのでフォローができない。
大友は平賀に死体があると思われる場所を教えた。一瞬だけ疑わしい目で見たが、一度首をひねってから大友さんの方を向く。
「おい、大友! お前が見てきてくれ」
「はい、わかりました」
如何にも体育会系といった返事、表面上ではナメているものの上司として立てているのだろう。平賀に場所を教えてもらい、一目散に走っていった。
「もし、死体が見つかったからと言って、お前達の疑いがなくなる訳ではないからな?」
「もちろん、オレは最初から捜査に協力する気でいるので、大丈夫ですよ」
この平賀という男は、偉そうにしているが、桝谷の口車に乗っている所を見る限り、単純な人間なのかもしれない。
しばらくして大友さんが戻ってきた。どうやら桝谷の言った通りの場所に、あったようだ。
「・・・・どうやら、これで解ったな」
「じゃあ、疑いが晴れたんですね!」
私は、身を乗り出してしまった。
「いや、お前等が犯人だろ?」
「なんで、そうなるんですか! 私達は無実ですよ、早く開放してください」
「お前等が犯人じゃないのなら、なぜ遺体の場所が解ったんだ、あぁ?」
またもやチンピラ睨みをしてくる、私よりずっと小さい平賀を、私は見下すようにして睨み返した。
「平賀さん、まあ決め付けるのは早いんじゃないですかね。それに、小さいのに睨んだって迫力出ないですよ」
「なんだと!? もういっぺん言ってみろ!」
「これ以上感情的になると、ストレスで背が縮みますよ」
「お前は黙ってろ!」
「良いか・・・、人を散々馬鹿にしやがって。たっぷり絞ってやるかなら」
散々馬鹿にしたのは、私達ではなくアンタの部下だと、言いたかったが。この男にそれを言った所で、無駄だろう。
超が付くほど怒っている。
「まあ落ち着いてください。見つかった場所からしても、彼等より疑わしい人物がいます」
「むぅ・・・、確かにな」
見つかった場所というのが引っかかった。私は知らないからである。
「桝谷さん・・・、どこで見つかったんですか?」
「ん、車のトランクだよ」
車のトランクというと、私達の可能性が低くなる。それは、電車で来たからである。
となると、怪しくなるのはその車の持ち主である。
「・・む、むむ」
平賀はどうしても私達を犯人にしたかったらしい。相当苛立っている。
「例え、この事件の犯人がお前等じゃなくてもだな。もう一つ事件が起こってるんだぞ!」
そう来たか!
よほど怪しまれているらしい、それはそうだろう。
男女が旅行に来ているのに、夫婦でもなければ、不倫でもない。怪しいのは目に見えている、そんな相手を未だに、警察署に連れて行く事が出来ていない。
「ところで・・・よく、トランクに死体があるって分かりましたね」
「ああ、それがね・・・」
桝谷の証言はこうだった。
朝の騒ぎに巻き込まれたくなかった桝谷は、3階から逃げるまでは良かったのだが。車のトランクから布がはみ出てるのを見つける。
そこで、不思議に思った桝谷がその布を見ていると、警察が到着したらしい。そのサイレンの音に驚いた桝谷は、咄嗟に逃げてしまい。
捕まったというわけだ。
「あと、鑑識の調査で窓側の芝生からは、1人分の足跡しか見つからなかったそうです」
「ほう・・・、ここまでは、自称探偵殿の”名推理”が当たってるようだな」
偶然とはいえ、桝谷の推理が当たっていた事に、私はほっと胸をなでおろしている。桝谷は生きた心地がしないらしく、表情は取り繕っているようだが、まんべんなく冷や汗をかいていた。
「でも、ここまで判明しているなら・・・、犯人は車の持ち主ですよね?」
私は全力でフォローをした、このまま疑いが晴れれば一番良いのだが。桝谷の事を怪しんでいるままである。
「ま、まあ。セオリーで行くならそうなるな」
「車の持ち主は、被害者本人らしいのですが・・・、どうやら被害者女性は連れの男がいるようですね」
大友さんが捜査資料を読む。
「ほぅ?ならそいつで犯人は決まりだな。次は従業員殺害の犯人だが・・・」
そう言い、また私達の方を見た。
「ま・・待ってください!」
桝谷が必死に弁解をしようとしている。
「最初の事件になるんですが、その男っていうのが第一発見者なんですよね?」
「ああ、そうだ」
「わざわざ発見した事をバラした後に、トランクに詰め込みますかね?」
「まあ、確かに変だが。捜査攪乱のつもりだったんじゃないか?」
「なぜ攪乱する必要があったんでしょうか」
「それは、犯人から直接聞けば早いだろう!」
桝谷の質問攻めが鬱陶しくなったらしく、怒った。だけど、そのおかげで矛先が一時的ではあるが被害者の連れの男へと向く事になる。
その間に、できるだけ情報を入手して、私達の疑いを拭わないとならない。
「容疑者と会うなら、オレも連れて行ってください」
「なんでお前等なんぞと行くんだ」
「もし、オレとその男が共犯ならば、オレが刑事さんと一緒に来れば必要以上に動揺します。もし逆に、その男がオレに対して反応を示さなければ、少なくとも男とオレは無関係です」
もし、相手が意味もなくビビってしまえば終わりだが、まずは犯人と思わしき人物と、繋がりが無いという事を証明しなければならない。
「ほぅ、しかしだ、お前等がグルで俺達2人を振り払う事もできる訳だぞ、実質3人になるわけだしな」
「まあ、それは大丈夫ですよ。奈良君は非常に足が遅い」
なんか、どさくさに紛れて弱点を発表されてしまった。
「そんなの信用できるか!」
「まあ、どちらにしても、そちらさんの大きい方からは逃げれませんよ」
確かに大友さんは足が早そうだ、それに力もあるだろう。
「ふん、もしちょっとでもおかしな行動をしたら・・・・、わかってるな?」
「後ろで見ているだけです、安心してください」
どうにか犯人らしき男と会話をする機会を貰えた。この男の証言次第では、今後の私達への対応が変わるだろう。
事件などとは最初から一切関係の無い私達は、一刻も早く開放されたかった。






今回は長いですねー




でもまあ




いい区切りがなかったんで