やんちゃでいこう

5歳の冷めた男の子の独り言

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弟のライブ

2014-08-26 07:30:31 | 小説
煙草の匂いが充満している。

真っ暗な室内を人の影が左右に動いている。

「ご注文は?」

「私はキール・アンペリアル」

「俺は、、、ハーフロック」

「かしこまりました」

ウェイターが引いた後に、ドラムのステックが鳴る。

ライトのシルエットに6人の影が揺れる。

すざましい音と共に、観客の歓声が上がる。

激しいリズムに、自然に右足でリズムをとる。

このバンドの歌を聞きたかった。

運ばれてきたポッキーを口に煙草のように咥え、エアーギターを弾く。

彼女が笑う。

いつものパターンだ。

彼女はグラスを口に運びながら、ステージを見ている。

その横顔がたまらなく好きだ。

「ねぇ」

「うんん??」

「ねぇ!!」

「どうした?」

「このバンドのボーカルは、賢志の弟でしょ?」

「そうだよ」

「凄いじゃん。いい感じ」

「そうだな」

声のボリュームを上げながら、交わした言葉に少し寂しさを感じる。

俺の方が歌は上手かった。

あいつは俺の真似をして、バンドを始めた。

しかしいつの間にか、あいつは小さいながらもステージの上で歌って金を貰っている。

俺にはできなかったことだ。

その俺の顔で察したのか、乃愛が顔を寄せてくる。

「でもね。私は賢志が好き。今の賢志が好き」

「そうか」

「うん。私のためにたばこ止めてくれて、私に幸せをくれる賢志が好き」

「そりゃ。。。俺はおまえが好きだからさ」

「私、幸せだよ」

バンドを解散させて、仕事も上手くいかずに少し荒れていた。

弟の成功を妬んだりしていた。

その時に乃愛と知り合った。

俺がバンドをしていた時に、友達に連れられて一度だけ見に来たらしい。

俺の姿を見て、汚らしいとかタバコ臭いとか思ったらしい。

恋愛対象ではなかった。。。

ただある日。

偶然にも街で彼女に会った。

自転車のタイヤがパンクして、困って歩いていた彼女。

軽く会釈してすれ違った時に、彼女が聞いて来た。

「この辺りに自転車屋ありませんか?」

「パンク?俺の家そこだし、道具あるから修理できるぜ」

そう言って彼女の手から自転車を奪い、持ち帰って修理した。

修理をしながら会話をした。

将来のこと。

夢のこと。

仕事のこと。

自然と何でも話せた。

彼女に魅かれて行く自分がいた。

彼女も同じ気持ちで・・・。

バンドのことも仕事の嫌なことも過去にすることができた。

彼女のために生きていける自分がいることに気付いた。

そして、目の前にいる彼女と弟のバンドを応援することができる。

柔らかくなった自分がいる。

鎧を振り払った自分がいることを。。。
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コートの・・・

2014-08-25 07:44:07 | 小説
眩しいぐらいだ。

輝く太陽に匹敵する。

汗を飛ばしながら、懸命にプレイしている。

ラケットを持つ手のしなやかな動き。

小麦色の肌。

コートの上で、キュッキュと靴音が響く。

心地よいボールの弾く音。

ただ観客席から、目で追うことしかできない自分がもどかしい。

気持ちの上では、君と同じ目線でプレイをしているつもり。

ギリギリのラインにボールが落ちる。

『あっぁ~!!』

声が漏れて肩の力が抜ける。

ダメだ。。。。

でも。

そう思ったのは自分だけだった。

コートの上の彼女は諦めていない。

懸命に追いかける。

地面にもう一度バウンドしかけたすれすれで、追いつく。

膝をつきそうになりながらも、強引に体勢を戻す。

そして次の一振りで、逆転する。

凄い!

コートの君は負けるなんて考えていない。

観客の自分の方が、彼女の力を信じていなかった。

自分の脆い心を反省する。

信じよう。

絶対勝つ!!

そう君は。。。

君は世界が認めた人。

そして、、、俺を一番信じてくれている人だから。
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優しい顔

2014-08-24 20:44:28 | 小説
小さな飴の包み紙で、折りヅルを作っている。

3つ・・・4つ・・・。。。

可愛らしくちっちゃな折りヅルが、紐を通して50羽づつ。

合計で7本出来ていた。

千羽鶴を折っているのはなんとなくわかる。

誰が病気なんだろう?

聞いていいものか悩んだ。

それに気付いたのか、彼女が教えてくれた。

「これね。うちのウサギが病気なの。」

「大変だね。どんな病気?」

「食欲が不振でね。。。もう歳だからかな」

「心配だね」

「うん。だから空いた時間に千羽鶴折っているんだ。ゲージの前に吊るすの」

「大好きなんだね」

「うん家族だもん。 。。私ね。家族と上手くいってなかったんだ。父親とは口も聞かなかったし、母親とは喧嘩ばかり。兄弟とも疎遠でさ。でもね。。。あの子がいてくれたから優しくなれた」

「優しくなれた・・・・」

「いつも周りを睨んでみていた。でもねあの子の前では優しい目でいられた。それをね。。。ペットショップの店員さんに言われたの」

「どんなふうに?」

「優しい顔をしているねって」

「その時に恥ずかしいと思った。いつもの自分の顔。だから優しくいようと思った。気持ちが変わると顔つきが変わる。笑顔になると友達も増えたし仕事も見つかった。だからさ。。。。あなたとも出会えた」

そう言う彼女の笑顔は、最高に優しい瞳だった。

素敵な優しい顔だった。
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蘇る記憶

2014-08-22 07:38:47 | 小説
思い出は残酷だ。

何かあれば、必ず君の顔が浮かぶ。

どこかに行けば、君との思い出が蘇る。

全く初めてな場所でも、似たような風景を思い出して心が痛む。

今も古びた煉瓦造りの建物に囲まれた川の欄干で、君との思い出が浮かんでくる。

2人でさ。。。

よく橋の上で水面を見ながら話したっけ。

将来の夢や、友達や家族の噂。

君の笑い声も・・・君の囁くような甘い声も。

君の頬にかかる髪の毛も細く白い指先も。。。

全部橋の上で見た覚えがある。

愛も囁いたっけ。

好きだって。

なぜか自然に近づいて、寄り添って・・・・手を繋いでいた。

意識しないようにしているのに。。。

記憶って残酷だ。

時間が過ぎれば過去にはなる。

でも人の気持ちって・・・人の記憶って、そうそう簡単に忘れれるものではない。

大切な思い出ほど。。。

大事な時間ほど。。。

今でも、君のことが忘れられない。

好きだって気持ちが、過去にできない。


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記憶

2014-08-21 22:32:53 | 小説
鞄の中から、小さな包み紙が出てきた。

なんだっただろう?

開いてみると、どこかで貰った香水に付けた綺麗な用紙が出てくる。

ファッっとした優しい香りが、鼻孔の奥にまで届く。

それが脳の中で甘い香りになって・・・・君を想いだした。

同じ匂いかどうかまで判断はできないが、君の香水の香りもこんな柔らかな感じだ。

そうか。。。。君ってこんなんだった。

懐かしいようで、少し切ない想い。

付き合ったわけでも別れたわけでもないが、微妙な関係を保っていた。

それが大学へ進学したころから次第に距離が出来て。。。

一度頼んで合コンのセッティングをしてもらったぐらいだ。

あれから6年。

君はもう結婚しただろうか。

口づけも交わしていないけど。。。

思い切って手を繋いだ時に、ドキドキした思い出がある。

君の顔をまじかで見た時に、ドキッとしたっけ。

今まで思い返すようなことはなかったけど、なぜか今懐かしく感じて、会いたくなる。

君は今どうしてるのだろうか。

何しているのだろうか。

誰を愛しているのだろうか。

君は。。。

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