煙草の匂いが充満している。
真っ暗な室内を人の影が左右に動いている。
「ご注文は?」
「私はキール・アンペリアル」
「俺は、、、ハーフロック」
「かしこまりました」
ウェイターが引いた後に、ドラムのステックが鳴る。
ライトのシルエットに6人の影が揺れる。
すざましい音と共に、観客の歓声が上がる。
激しいリズムに、自然に右足でリズムをとる。
このバンドの歌を聞きたかった。
運ばれてきたポッキーを口に煙草のように咥え、エアーギターを弾く。
彼女が笑う。
いつものパターンだ。
彼女はグラスを口に運びながら、ステージを見ている。
その横顔がたまらなく好きだ。
「ねぇ」
「うんん??」
「ねぇ!!」
「どうした?」
「このバンドのボーカルは、賢志の弟でしょ?」
「そうだよ」
「凄いじゃん。いい感じ」
「そうだな」
声のボリュームを上げながら、交わした言葉に少し寂しさを感じる。
俺の方が歌は上手かった。
あいつは俺の真似をして、バンドを始めた。
しかしいつの間にか、あいつは小さいながらもステージの上で歌って金を貰っている。
俺にはできなかったことだ。
その俺の顔で察したのか、乃愛が顔を寄せてくる。
「でもね。私は賢志が好き。今の賢志が好き」
「そうか」
「うん。私のためにたばこ止めてくれて、私に幸せをくれる賢志が好き」
「そりゃ。。。俺はおまえが好きだからさ」
「私、幸せだよ」
バンドを解散させて、仕事も上手くいかずに少し荒れていた。
弟の成功を妬んだりしていた。
その時に乃愛と知り合った。
俺がバンドをしていた時に、友達に連れられて一度だけ見に来たらしい。
俺の姿を見て、汚らしいとかタバコ臭いとか思ったらしい。
恋愛対象ではなかった。。。
ただある日。
偶然にも街で彼女に会った。
自転車のタイヤがパンクして、困って歩いていた彼女。
軽く会釈してすれ違った時に、彼女が聞いて来た。
「この辺りに自転車屋ありませんか?」
「パンク?俺の家そこだし、道具あるから修理できるぜ」
そう言って彼女の手から自転車を奪い、持ち帰って修理した。
修理をしながら会話をした。
将来のこと。
夢のこと。
仕事のこと。
自然と何でも話せた。
彼女に魅かれて行く自分がいた。
彼女も同じ気持ちで・・・。
バンドのことも仕事の嫌なことも過去にすることができた。
彼女のために生きていける自分がいることに気付いた。
そして、目の前にいる彼女と弟のバンドを応援することができる。
柔らかくなった自分がいる。
鎧を振り払った自分がいることを。。。
真っ暗な室内を人の影が左右に動いている。
「ご注文は?」
「私はキール・アンペリアル」
「俺は、、、ハーフロック」
「かしこまりました」
ウェイターが引いた後に、ドラムのステックが鳴る。
ライトのシルエットに6人の影が揺れる。
すざましい音と共に、観客の歓声が上がる。
激しいリズムに、自然に右足でリズムをとる。
このバンドの歌を聞きたかった。
運ばれてきたポッキーを口に煙草のように咥え、エアーギターを弾く。
彼女が笑う。
いつものパターンだ。
彼女はグラスを口に運びながら、ステージを見ている。
その横顔がたまらなく好きだ。
「ねぇ」
「うんん??」
「ねぇ!!」
「どうした?」
「このバンドのボーカルは、賢志の弟でしょ?」
「そうだよ」
「凄いじゃん。いい感じ」
「そうだな」
声のボリュームを上げながら、交わした言葉に少し寂しさを感じる。
俺の方が歌は上手かった。
あいつは俺の真似をして、バンドを始めた。
しかしいつの間にか、あいつは小さいながらもステージの上で歌って金を貰っている。
俺にはできなかったことだ。
その俺の顔で察したのか、乃愛が顔を寄せてくる。
「でもね。私は賢志が好き。今の賢志が好き」
「そうか」
「うん。私のためにたばこ止めてくれて、私に幸せをくれる賢志が好き」
「そりゃ。。。俺はおまえが好きだからさ」
「私、幸せだよ」
バンドを解散させて、仕事も上手くいかずに少し荒れていた。
弟の成功を妬んだりしていた。
その時に乃愛と知り合った。
俺がバンドをしていた時に、友達に連れられて一度だけ見に来たらしい。
俺の姿を見て、汚らしいとかタバコ臭いとか思ったらしい。
恋愛対象ではなかった。。。
ただある日。
偶然にも街で彼女に会った。
自転車のタイヤがパンクして、困って歩いていた彼女。
軽く会釈してすれ違った時に、彼女が聞いて来た。
「この辺りに自転車屋ありませんか?」
「パンク?俺の家そこだし、道具あるから修理できるぜ」
そう言って彼女の手から自転車を奪い、持ち帰って修理した。
修理をしながら会話をした。
将来のこと。
夢のこと。
仕事のこと。
自然と何でも話せた。
彼女に魅かれて行く自分がいた。
彼女も同じ気持ちで・・・。
バンドのことも仕事の嫌なことも過去にすることができた。
彼女のために生きていける自分がいることに気付いた。
そして、目の前にいる彼女と弟のバンドを応援することができる。
柔らかくなった自分がいる。
鎧を振り払った自分がいることを。。。
眩しいぐらいだ。
輝く太陽に匹敵する。
汗を飛ばしながら、懸命にプレイしている。
ラケットを持つ手のしなやかな動き。
小麦色の肌。
コートの上で、キュッキュと靴音が響く。
心地よいボールの弾く音。
ただ観客席から、目で追うことしかできない自分がもどかしい。
気持ちの上では、君と同じ目線でプレイをしているつもり。
ギリギリのラインにボールが落ちる。
『あっぁ~!!』
声が漏れて肩の力が抜ける。
ダメだ。。。。
でも。
そう思ったのは自分だけだった。
コートの上の彼女は諦めていない。
懸命に追いかける。
地面にもう一度バウンドしかけたすれすれで、追いつく。
膝をつきそうになりながらも、強引に体勢を戻す。
そして次の一振りで、逆転する。
凄い!
コートの君は負けるなんて考えていない。
観客の自分の方が、彼女の力を信じていなかった。
自分の脆い心を反省する。
信じよう。
絶対勝つ!!
そう君は。。。
君は世界が認めた人。
そして、、、俺を一番信じてくれている人だから。
輝く太陽に匹敵する。
汗を飛ばしながら、懸命にプレイしている。
ラケットを持つ手のしなやかな動き。
小麦色の肌。
コートの上で、キュッキュと靴音が響く。
心地よいボールの弾く音。
ただ観客席から、目で追うことしかできない自分がもどかしい。
気持ちの上では、君と同じ目線でプレイをしているつもり。
ギリギリのラインにボールが落ちる。
『あっぁ~!!』
声が漏れて肩の力が抜ける。
ダメだ。。。。
でも。
そう思ったのは自分だけだった。
コートの上の彼女は諦めていない。
懸命に追いかける。
地面にもう一度バウンドしかけたすれすれで、追いつく。
膝をつきそうになりながらも、強引に体勢を戻す。
そして次の一振りで、逆転する。
凄い!
コートの君は負けるなんて考えていない。
観客の自分の方が、彼女の力を信じていなかった。
自分の脆い心を反省する。
信じよう。
絶対勝つ!!
そう君は。。。
君は世界が認めた人。
そして、、、俺を一番信じてくれている人だから。
小さな飴の包み紙で、折りヅルを作っている。
3つ・・・4つ・・・。。。
可愛らしくちっちゃな折りヅルが、紐を通して50羽づつ。
合計で7本出来ていた。
千羽鶴を折っているのはなんとなくわかる。
誰が病気なんだろう?
聞いていいものか悩んだ。
それに気付いたのか、彼女が教えてくれた。
「これね。うちのウサギが病気なの。」
「大変だね。どんな病気?」
「食欲が不振でね。。。もう歳だからかな」
「心配だね」
「うん。だから空いた時間に千羽鶴折っているんだ。ゲージの前に吊るすの」
「大好きなんだね」
「うん家族だもん。 。。私ね。家族と上手くいってなかったんだ。父親とは口も聞かなかったし、母親とは喧嘩ばかり。兄弟とも疎遠でさ。でもね。。。あの子がいてくれたから優しくなれた」
「優しくなれた・・・・」
「いつも周りを睨んでみていた。でもねあの子の前では優しい目でいられた。それをね。。。ペットショップの店員さんに言われたの」
「どんなふうに?」
「優しい顔をしているねって」
「その時に恥ずかしいと思った。いつもの自分の顔。だから優しくいようと思った。気持ちが変わると顔つきが変わる。笑顔になると友達も増えたし仕事も見つかった。だからさ。。。。あなたとも出会えた」
そう言う彼女の笑顔は、最高に優しい瞳だった。
素敵な優しい顔だった。
3つ・・・4つ・・・。。。
可愛らしくちっちゃな折りヅルが、紐を通して50羽づつ。
合計で7本出来ていた。
千羽鶴を折っているのはなんとなくわかる。
誰が病気なんだろう?
聞いていいものか悩んだ。
それに気付いたのか、彼女が教えてくれた。
「これね。うちのウサギが病気なの。」
「大変だね。どんな病気?」
「食欲が不振でね。。。もう歳だからかな」
「心配だね」
「うん。だから空いた時間に千羽鶴折っているんだ。ゲージの前に吊るすの」
「大好きなんだね」
「うん家族だもん。 。。私ね。家族と上手くいってなかったんだ。父親とは口も聞かなかったし、母親とは喧嘩ばかり。兄弟とも疎遠でさ。でもね。。。あの子がいてくれたから優しくなれた」
「優しくなれた・・・・」
「いつも周りを睨んでみていた。でもねあの子の前では優しい目でいられた。それをね。。。ペットショップの店員さんに言われたの」
「どんなふうに?」
「優しい顔をしているねって」
「その時に恥ずかしいと思った。いつもの自分の顔。だから優しくいようと思った。気持ちが変わると顔つきが変わる。笑顔になると友達も増えたし仕事も見つかった。だからさ。。。。あなたとも出会えた」
そう言う彼女の笑顔は、最高に優しい瞳だった。
素敵な優しい顔だった。
思い出は残酷だ。
何かあれば、必ず君の顔が浮かぶ。
どこかに行けば、君との思い出が蘇る。
全く初めてな場所でも、似たような風景を思い出して心が痛む。
今も古びた煉瓦造りの建物に囲まれた川の欄干で、君との思い出が浮かんでくる。
2人でさ。。。
よく橋の上で水面を見ながら話したっけ。
将来の夢や、友達や家族の噂。
君の笑い声も・・・君の囁くような甘い声も。
君の頬にかかる髪の毛も細く白い指先も。。。
全部橋の上で見た覚えがある。
愛も囁いたっけ。
好きだって。
なぜか自然に近づいて、寄り添って・・・・手を繋いでいた。
意識しないようにしているのに。。。
記憶って残酷だ。
時間が過ぎれば過去にはなる。
でも人の気持ちって・・・人の記憶って、そうそう簡単に忘れれるものではない。
大切な思い出ほど。。。
大事な時間ほど。。。
今でも、君のことが忘れられない。
好きだって気持ちが、過去にできない。
何かあれば、必ず君の顔が浮かぶ。
どこかに行けば、君との思い出が蘇る。
全く初めてな場所でも、似たような風景を思い出して心が痛む。
今も古びた煉瓦造りの建物に囲まれた川の欄干で、君との思い出が浮かんでくる。
2人でさ。。。
よく橋の上で水面を見ながら話したっけ。
将来の夢や、友達や家族の噂。
君の笑い声も・・・君の囁くような甘い声も。
君の頬にかかる髪の毛も細く白い指先も。。。
全部橋の上で見た覚えがある。
愛も囁いたっけ。
好きだって。
なぜか自然に近づいて、寄り添って・・・・手を繋いでいた。
意識しないようにしているのに。。。
記憶って残酷だ。
時間が過ぎれば過去にはなる。
でも人の気持ちって・・・人の記憶って、そうそう簡単に忘れれるものではない。
大切な思い出ほど。。。
大事な時間ほど。。。
今でも、君のことが忘れられない。
好きだって気持ちが、過去にできない。
鞄の中から、小さな包み紙が出てきた。
なんだっただろう?
開いてみると、どこかで貰った香水に付けた綺麗な用紙が出てくる。
ファッっとした優しい香りが、鼻孔の奥にまで届く。
それが脳の中で甘い香りになって・・・・君を想いだした。
同じ匂いかどうかまで判断はできないが、君の香水の香りもこんな柔らかな感じだ。
そうか。。。。君ってこんなんだった。
懐かしいようで、少し切ない想い。
付き合ったわけでも別れたわけでもないが、微妙な関係を保っていた。
それが大学へ進学したころから次第に距離が出来て。。。
一度頼んで合コンのセッティングをしてもらったぐらいだ。
あれから6年。
君はもう結婚しただろうか。
口づけも交わしていないけど。。。
思い切って手を繋いだ時に、ドキドキした思い出がある。
君の顔をまじかで見た時に、ドキッとしたっけ。
今まで思い返すようなことはなかったけど、なぜか今懐かしく感じて、会いたくなる。
君は今どうしてるのだろうか。
何しているのだろうか。
誰を愛しているのだろうか。
君は。。。
なんだっただろう?
開いてみると、どこかで貰った香水に付けた綺麗な用紙が出てくる。
ファッっとした優しい香りが、鼻孔の奥にまで届く。
それが脳の中で甘い香りになって・・・・君を想いだした。
同じ匂いかどうかまで判断はできないが、君の香水の香りもこんな柔らかな感じだ。
そうか。。。。君ってこんなんだった。
懐かしいようで、少し切ない想い。
付き合ったわけでも別れたわけでもないが、微妙な関係を保っていた。
それが大学へ進学したころから次第に距離が出来て。。。
一度頼んで合コンのセッティングをしてもらったぐらいだ。
あれから6年。
君はもう結婚しただろうか。
口づけも交わしていないけど。。。
思い切って手を繋いだ時に、ドキドキした思い出がある。
君の顔をまじかで見た時に、ドキッとしたっけ。
今まで思い返すようなことはなかったけど、なぜか今懐かしく感じて、会いたくなる。
君は今どうしてるのだろうか。
何しているのだろうか。
誰を愛しているのだろうか。
君は。。。