新型コロナウイルスの世界的蔓延は世界を変える
「鎖の強さは、もっとも弱い環によって決まる」。有名なイギリスの探偵小説作家コナン・ドイルの言葉のようだ。この言葉は野球やサッカーなどの団体球技の試合で良く使われる言葉だ。そのチームの強さは最も弱い攻撃力もしくは守備力の部分によって決まる。レギュラーメンバー全員の中で最も弱いメンバーの力がそのチームの強さということだ。レギュラーメンバー間に力の差があった場合、最も力の弱い選手の強さがそのチームの強さであるということだ。だからチーム力を維持するためにはその弱い選手を変えるということになる。
囲碁や将棋のゲームにおいても同じようなことが言える。例えば将棋の場合、色々な戦法がある。大きく分けて居飛車戦法と振り飛車戦法がある。いま注目されている高校生棋士、藤井聡太7段は居飛車戦法を取っている。相手が振り飛車でも居飛車でも居飛車で戦う。居飛車戦法にもいろいろな戦法がある。将棋の純文学と言われている矢倉戦法がある。角変り腰掛け銀戦法、相掛かり戦法などいろいろある。藤井7段はどの戦法も使いこなすようだ。弱みがない。しかし大半の棋士にはそれぞれ弱みがある。序盤に弱い。中盤の読みに抜けることがある。終盤の読みが弱い。その強弱は相対的なものだ。誰より誰は強く、弱いというようにである。将棋の棋士の強さはその弱さによって計られているように思う。その弱さが全体の評価になっている。
新型コロナウイルスの世界的蔓延はその国の弱さによってその国の強さが表れているように思う。世界最強の軍事的大国だと世界中の人々から思われているアメリカ合衆国の本当の強さが今赤裸々に現れているようだ。アメリカの死者数は10万人を超えている。これは世界最大数の死者数のようだ。なぜこのように死者数が多いのかと言うと貧困者数が多いからだ。堤未果著『ルポ貧困大国アメリカ』を読むとアメリカには黒人やヒスパニック、アジア系など貧しい人々がニューヨークに集まっている。それらの人々に新型コロナウイルスが感染しているのだ。弱者はソーシアルデスタンスなど取っていることができない。住まいが狭い。狭い地域に多数の住民が暮らしている。経済活動の自粛などしていることができない。毎日、働かなければ生活できない。それでも十分な食料を得ることが難しい状況が世界最大の経済大国で起きている。アメリカの真の国力が赤裸々に現れたのが新型コロナウイルスの蔓延であった。アメリカの国力の強さは弱さによって現れてくる。
世界で最も美味しいフランス料理のお店はアメリカにあるという話を聞いたことがある。なぜなら世界で最も豊かな人々はアメリカに住んでいるからである。最も豊かな人々が最も美味しいフランス料理を食べているということだ。アメリカは世界で最も豊かな人々が住んでいるから世界で最も美味しいフランス料理のお店がある。にもかかわらず貧しい人々が大勢住んでもいる。99%の貧しい人々が1%の豊かな人々のために働いている国がアメリカのようだ。
世界最強の軍事大国、世界最大の経済大国アメリカの真実は弱小国なのかもしれない。コロナウイルスは人間を差別しない。誰にでも感染し、死に至らしめる。豊かな白人であっても容赦しないのがコロナウイルスである。経済格差を是認することは国力を弱める働きをする。人間には能力差がある。この格差は一面的なものであり、決して全面的なものではない。にもかかわらず、人間の一面の能力差によって貧困に陥る人々がいる。それらの人々に対して優しい手を差し伸べることをしない新自由主義経済信奉者たちは自己責任を主張する。死後責任論は格差を是認する思想である。この思想に今、新型コロナウイルスが襲いかかっている。アメリカの真の国力をさらけ出している。
このアメリカの姿を隠すかの如くにトランプ大統領は中国のコロナ対策や香港対策を批判しているがそれらによってアメリカの真の姿をアメリカ国民の目から覆い隠すことができるのだろうか。増大していくコロナ感染死を隠すことはできない。アメリカ政府はアメリカの現実に向かい合い、貧富の格差是正をする方向に向かう以外に解決する道はない。コロナウイルスがアメリカで蔓延したことはアメリカの政治経済を大きく変える契機になるに違いない。アメリカ政府は中国政府批判を行っているが、アメリカ政府にとっても中国との貿易関係を止めることはできないだろう。中国からの輸入や輸出を止めることは不可能であろう。中国は不メリカにとって最大の輸入国であると同時にメキシコやカナダに匹敵する輸出国でもある。