山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

講道館の役割2

2009-01-21 11:56:19 | Weblog
 講道館柔道は、嘉納治五郎を教祖とする一つの宗教のようなものである。だからこそ、その理念を世界に広め、柔道愛好家を増やしてきた

 講道館と全日本柔道連盟は同じ建物の中にあり、同じ人(嘉納行光氏)が館長と会長を務めているので、どこか同じような性格のものとなってしまっている。しかし、家元制度的な講道館と競技団体とが同じ性格のわけもなく、目的も違っている。その部分が明確にされていないことに問題がある

 全日本柔道連盟が、日本の選手を強化し金メダルを目指すことは多いに結構であるが講道館は違う。講道館は柔道を志す全ての柔道家に対して平等であるべきだと思う。極論をいえば、いかなる国の柔道家であっても柔道の理念を持っている人であれば講道館は喜ぶべきであろう

 昭和39年、東京オリンピック無差別級、神永対ヘーシンク。神永氏はヘーシンクに敗れ、日本中が日本柔道敗北と悲しんだ。もちろん、現象をみればそうだが私は日本柔道が敗れたとは思っていない。ヘーシンクは勝った直後に自分のチームのコーチたちが畳に上がってこようとするのを冷静にいさめている。ガッツポーズをすることもなく、飛び上がって喜ぶこともなく、冷静に礼をしている。つまり、ヘーシンクは講道館柔道の理念をきちんと持った柔道家であった。現象をしては日本人が敗れたかもしれないが本質は違う。日本人は悲しむべきではなく、ここまで講道館柔道が世界に広まって素晴らしい柔道家を生んだことを喜ぶできであろう

 最近では、日本人選手でも勝った瞬間にガッツポーズをしたり、飛び上がってはしゃいだり、敗者への配慮を欠いたものも多い。一般的には日本人が勝つことは嬉しいのが当たり前だが、講道館は違う評価をしてしかるべきだろう

 ということで、講道館が世界の柔道をリードしていく為に今すぐにでも為すべきだと思われることを挙げてみた

①アカデミーとしての役割:柔道についての歴史、文化、技術などの研究機関であるべきである。研究員をおき、研究の成果を世界に向けて発信すべき。
②教育機関としての役割:世界中の人たちが講道館で勉強をし、柔道の技術を磨く場所であるべき。私のアイデアは、奨学金を出して、年間5~10名の研修生を招く。彼らは柔道エリートとして自国に戻り、柔道普及に尽くす。
③昇段システムを世界に広げる:これはすでに各国連盟で段を出す制度になってしまった今となっては遅い気もするが、それでもやるべきである。講道館の人間が世界を回り、講習会及び試験を行って即日昇段をさせる。これが講道館の財政の基盤となる。
④毎年、もしくは2年に一度、柔道サミットを開催する:フランス、ドイツ、韓国、ロシアなど柔道の大国である国々を招き、サミットを行い、今後の柔道のあり方について検討し、提言を行う。こういった提言にIJFが耳を傾けなければならないようにしていくべき。

 他にも様々な提案があるが、大事なことは、講道館と全日本柔道連盟の役割の違いを明確にし、講道館は独自の柔道の更なる発展の為のビジョンを打ち出していくことである。講道館が世界の柔道家達に尊敬される為には、それだけのことをしていかなければならない。嘉納治五郎師範が生きておられたならば何をしただろうか?私たち子孫は、師範の教えを守るだけではなく、彼の思い、意志を継いでいかなければならない