山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

意識の高まり

2010-07-13 18:13:17 | Weblog
 先週から今週にかけて全柔連関係のいくつかの会議があった。それぞれ違った会議であったが、参加者の関心は「柔道必修化」「指導者」「安全」といったところにあると思われた。こういったキーワードで話が進むと様々な意見が飛び交い、議論が白熱した。

 話をしていて難しいと感じるのは、いずれも「ベスト」という答えを導きだすことが難しく、百人いれば百人が意見を持っており、百通りの方法論があるということだろう。

 柔道に限らず、教育現場において指導者の重要性は皆が認識しているが、その理想像には違いもある。指導者資格についても議論はある。ただし、ここで問題となるのは柔道にはすでに「段」という資格が存在する。このシステムを指導者資格とどのように融合させていくかが難しい。しかしながら、一般的には黒帯を締めていればある程度の知識と指導者としての資質を備えていると見られるのも事実なので、今後は段の認定に指導者として必要な基礎的な知識や教養を試験の中に盛り込んでいくことも検討されてしかるべきかもしれない。その上で、黒帯=指導できるではなく、3段以上はその資格があるといったように、どのレベルから指導者として認めるかも議論されるべきだろう。

 学校の授業において難しいのは、体育の先生は教員免許を持っているために、柔道の段を取得していなくても柔道指導ができることになっている。先生によっては段を持たれている人もいるが、段も取得していないのに「見栄え」で黒帯を締めている先生もみかける。体育の教員は、指導法や救急法などは習得しているものの、柔道のように専門性の高い競技を教えるには難しい点も多い。しかしながら、柔道の授業をするために、さらに柔道の指導者資格が必要とすることが可能かどうか・・・。

 指導者資格が議論になるのも「安全」に対する意識が高まっているからではないだろうか。柔道は格闘技であり、危険な技、場面も存在する。しかし、子供達を危険から遠ざけることが子供を守ることにはならない。危険を回避するためにも逞しさを養う必要もある。大事なのは、どういった状況が危険で、事故が起きる可能性があるといった情報を皆が共有し、理解した上で安全に配慮し、指導を行うことが重要になる。全柔連も安全に対しての委員会を立ち上げた。

 安全には最大限の配慮が必要だが、指導者が萎縮してしまうことも心配だ。中学校の柔道部の数は激減している。理由は指導者数の減少である。中学校に限らず、クラブ等で指導されている先生は「やりがい」を感じて頑張っておられると思うが様々なプレッシャーやストレスにさらされているのも事実である。そういった先生方にとっても安心して指導に励める環境を確保することが必要だと思う。つまり、指導を受ける生徒達、指導する側の先生達、両方の立場から考えても事故を防ぐマニュアルや安全な指導を考えていくことは重要だといえる。

 体重別であるか無差別であるか、レベルの違い(経験年数や級など)での対戦をどうするか、危険な状況を回避するルールなどなど、試合や練習における方法をにおいても考える余地があるだろう。

 多くの柔道関係者がこれまで以上に、「指導者のあり方」「安全」といったことに対しての意識が高まっていることは間違いない。「自分は指導の経験もある。そんなことは言われなくてもわかっている。」と胸を張っていた指導者の多くも聞く耳を持ち始めているように感じる。講習会や勉強会を積極的に開催するなど、ベストではなくても良いと思った取り組みは迅速に実行し、目に見える形で進めていく必要がある。