ニュースで誤報は、ままあることだ。もちろん、あっていいわけはなく、訂正したり、おわびをしなければならない。
しかし、取材をしていないのに取材したかのように報道するのは言語道断である。そんな虚偽報道が先月、朝日新聞紙上であった。
長野総局の記者が、新党づくりをめぐって田中康夫長野県知事に関する取材メモを本社から求められたのが発端だ。記者は知事に取材しないまま、虚偽のメモを作り、それが朝刊に掲載された。
衆院選の公示を前に、郵政民営化法案に反対した自民党の前議員らの動向が注目されていた時期で、記事は読者の興味を強く引いた。それだけに、虚偽とは、あきれるほかない。
朝日新聞社は一連の記事や見出しを削除した上で、記者を懲戒解雇し、編集幹部らを処分した。さらに、箱島信一相談役は日本新聞協会会長を引責辞任すると表明した。
事件の悪質さからみて当然だろう。ただ、箱島氏は辞任の時期を十月の新聞大会後とした。協会の使命の重さを考えれば、直ちに辞任すべきではなかったか。後味の悪さを残した。
問題はそれだけではない。関係者の処分を発表した際、同社は報道各社にファクスを送っただけで、記者会見の要請を拒否した。これも重大だ。
メディアは日ごろ、不祥事を起こした企業に会見を求め幹部らを厳しく追及している。それが国民の知る権利に基づく報道の使命だからだ。自社の場合は拒否するのでは、これから会見を求める資格はない。
朝日新聞は有数の発行部数を誇り、本年度の新聞協会賞にも選ばれるなど紙面の質の高さでも定評がある。それだけに、社全体に思い上がりの気持ちがあるのではないか。不祥事の続発をみていると、そんな気がしてならない。
同社の不祥事を振り返ると、何といってもサンゴ事件がある。カメラマンが沖縄のアザミサンゴにわざと傷をつけ、告発記事に仕立てた事件だ。
さらに最近でも、週刊朝日の連載記事で消費者金融大手の武富士から取材協力費名目で五千万円を受け取りながら、武富士のクレジットを入れていなかった問題が発覚した。
また、NHKの特集番組改編問題では、朝日記者と国会議員らの詳細なやり取りが月刊誌に掲載され、同社は「取材資料が流出したと考えざるを得ない」との中間報告を発表した。
どれも「自由と責任」「正確と公正」という報道の基本をおろそかにしたミスばかりだ。これではとても、部数や質を誇るわけにはいくまい。
箱島相談役は「組織に体質的、構造的な問題があるのではないか」と述べている。社内に再発防止のための委員会を設置したが、この際、新聞の原点に返って徹底的な見直しを行い、再出発すべきだ。
同じ業界のわれわれとしても、事件を他山の石にして一層気を引き締めていきたい。
愛媛新聞 2005年9月10日
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しかし、取材をしていないのに取材したかのように報道するのは言語道断である。そんな虚偽報道が先月、朝日新聞紙上であった。
長野総局の記者が、新党づくりをめぐって田中康夫長野県知事に関する取材メモを本社から求められたのが発端だ。記者は知事に取材しないまま、虚偽のメモを作り、それが朝刊に掲載された。
衆院選の公示を前に、郵政民営化法案に反対した自民党の前議員らの動向が注目されていた時期で、記事は読者の興味を強く引いた。それだけに、虚偽とは、あきれるほかない。
朝日新聞社は一連の記事や見出しを削除した上で、記者を懲戒解雇し、編集幹部らを処分した。さらに、箱島信一相談役は日本新聞協会会長を引責辞任すると表明した。
事件の悪質さからみて当然だろう。ただ、箱島氏は辞任の時期を十月の新聞大会後とした。協会の使命の重さを考えれば、直ちに辞任すべきではなかったか。後味の悪さを残した。
問題はそれだけではない。関係者の処分を発表した際、同社は報道各社にファクスを送っただけで、記者会見の要請を拒否した。これも重大だ。
メディアは日ごろ、不祥事を起こした企業に会見を求め幹部らを厳しく追及している。それが国民の知る権利に基づく報道の使命だからだ。自社の場合は拒否するのでは、これから会見を求める資格はない。
朝日新聞は有数の発行部数を誇り、本年度の新聞協会賞にも選ばれるなど紙面の質の高さでも定評がある。それだけに、社全体に思い上がりの気持ちがあるのではないか。不祥事の続発をみていると、そんな気がしてならない。
同社の不祥事を振り返ると、何といってもサンゴ事件がある。カメラマンが沖縄のアザミサンゴにわざと傷をつけ、告発記事に仕立てた事件だ。
さらに最近でも、週刊朝日の連載記事で消費者金融大手の武富士から取材協力費名目で五千万円を受け取りながら、武富士のクレジットを入れていなかった問題が発覚した。
また、NHKの特集番組改編問題では、朝日記者と国会議員らの詳細なやり取りが月刊誌に掲載され、同社は「取材資料が流出したと考えざるを得ない」との中間報告を発表した。
どれも「自由と責任」「正確と公正」という報道の基本をおろそかにしたミスばかりだ。これではとても、部数や質を誇るわけにはいくまい。
箱島相談役は「組織に体質的、構造的な問題があるのではないか」と述べている。社内に再発防止のための委員会を設置したが、この際、新聞の原点に返って徹底的な見直しを行い、再出発すべきだ。
同じ業界のわれわれとしても、事件を他山の石にして一層気を引き締めていきたい。
愛媛新聞 2005年9月10日
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