正組合員は6割も減少 2005年5月31日付
合併参加を議決した豊北町漁協で、その後すさまじい組合員の脱退があいついでいる。県1漁協合併計画が漁村の実情とかけ離れすぎていること、現計画はすでに破産しており、むり強いすればするほど、残された組合員にさらなる悲劇が連鎖すると危惧されている。
正組合員は昨年3月末に811人いたのが、今年3月末時点では6割がやめて351人にまで激減。准組合員も663人から521人まで減少した。おもに漁協を陰ながら盛りたててきた年配漁業者が、やむなく陸へ上がっている。基幹産業として役割をはたしてきた漁業とその経営基盤が、地域もろとも深刻な崩壊をはじめている。漁業者や町内関係者は「なぜこれほどの悲劇を生み出しておきながら突っ走るのか」と胸の内をぶつける。
議案を採決するにあたって昨年11月に同漁協が調査した脱退予測では、正組合員342人、准組合員576人になると予測されていた。05年3月時点の各地区組合員数はまだ未発表だが、ほぼそれに準じた減少率を見せている。もっとも激しい減少を見せているのが特牛で、56人いた正組合員はわずか10人になり、島戸でも121人いたのが28人に、粟野も126人いたのが46人と、予測された減少推移はどれも「漁村崩壊」を示している。
特牛には町内唯一の卸売市場もあり、全国のイカ釣り船(20㌧クラス)が基地にするほど位置的に恵まれながら、地元に漁業者はほとんどいない状態。かつては角島と激しく漁場争奪戦をくり広げた島戸も寂しいかぎりとなった。歴史的に衰退の一途をたどっていたことはいうまでもないが、今回の合併計画が「ギロチンになった」と話されている。
矢玉の若手漁業者の一人は「1年でも長く年寄りが浜にいてくれることで、ぼくたちは漁業技術も学べるし、知恵を教えてもらうことができる。やることがむごい。机上の計算で物事を動かすからこんなことになる。漁業者の数がへったら水揚げも当然へる。それが水産県山口の“漁業政策”なのだろうか」と憤っていた。まわりのベテラン漁師たちも「組合員にはなに一つ状況を伝えてこないし、やり方がいけん」といっていた。
跳ね上がる増資・協力金
脱退者続出で狂ってくるのが、合併にともなう負担金・協力金で、残された若手や現業者に法外な割り当てが押しつけられることが明らかになっている。豊北町漁協に科せられた増資割当額は2億6627万円で、協力金割当額は7328万円。
内部の計画では、減少した時点の正・准組合員が合併規定どおりに一律60万円、20万円まで増資しても割当額にたいして4439万円不足することから、①正組合員にもう8万円、②准組合員には3万円上乗せ出資させ、③正組合員から准組合員になった人には6万円上乗せ出資させる案を練っている。
豊北町漁協は2億円余りの欠損金をかかえていることから、補てんのために平均約30万円の出資金を半額(約15万円)に減資することを決めている。したがって、正組合員でありつづけるためには45万円プラス8万円の総額約53万円を増資しなければならない。准組合員は約15万円負担しなければならなくなる。
しかし、それでなんとか「割当額」は確保できた格好になるものの、県一漁協へ持ちこむ出資金総額としては当初計画がガタ崩れする。昨年末の予測では組合員の脱退・資格変動にともなって3億5850万円あった出資金が1億8900万円にまで減少することがわかっていた。約6億円近く新漁協に持ちこむはずの出資金は、総額にすると五億円に満たない額になることは疑いないと指摘されている。不足分はだれがどう負担するのか具体案は示されていない。かりに砂とり会社にすがって工面するなら、“砂とり地獄”にはまって、漁場破壊を招くのではないかと心配されている。
「約束破り」になるのは増資負担額だけではなく、協力金についても正組合員脱退者から6万円、准組合員脱退者から3万円徴収する計画がある。「やめた人からは負担は求めないので合併に賛成してくれ」といっていたが、これも方針転換を余儀なくされている。ヒジキとりのためだけに組合員になっていた老婦人は「年金をむしりとられるようです」と語っていた。
現在、豊北町漁協では7月8日に開催する漁協総会にむけて準備作業に追われている。それまでに8地区ごとにブロック会議が開催され、これらの案が提案される予定。浜では計画を漏れ聞いた漁業者が「話が違うぞ」と大話題にしており、総会のやりなおしを求める声も高まっている。年寄りも「人がいいばっかりに、みんなダマされた」と訴えている。頭をかかえた理事の多くは辞表を提出しており、7月総会で新役員を選出する予定になっている。
計画がニッチもサッチもいかないくらい大破たんして、お手上げになっているのである。そして、強権的に突っ走ったあげくに「漁村・漁業崩壊だけをもたらした」事実だけが、厳然と横たわっている。豊北町にかぎらず、全県の参加漁協・不参加漁協では共通した状況に直面しており、みんなが歯がゆい思いをしている。
山口県漁業つぶす気か!
28日に開催された県一漁協設立委員会では、信漁連欠損金の解消のために、「増資分30億円については参加漁協で負担する」と実現不可能な方針をうち出した。借り入れ増資するといっても、要するに漁業者の借金になるわけで、ボロボロになってなお“わが身を捧げる”格好にもなっている。浜では「どうして自民党林派が笑っていて、漁師が苦しまないといけないのか!」の思いはますます強まっている。
水産庁、二井県政、農林中金が力ずくで押しつける県一漁協合併計画であるが、騒動だけをどこまでもつづけさせる責任はきわめて重い。計画の抜本見直しにしても、信用事業継続にしても、デタラメな信漁連欠損金の解消策にしても、水産庁、山口県当局、農林中金が頭をひねれば、解決方法はいくらでもある。対応もせずに漁業崩壊だけを野放しにする無責任きわまりない対応が問題視されている。山口県漁業をつぶすということは県民全体にかかわる重大問題である。
長周新聞 山口県漁協合併問題特集記事より
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