ウロシだった。
~ダサいおっさん
中2の頃、「芥川に幻滅した」と言うと、だったらと『人間失格』を勧められた。
読んで驚いた。嘘八百。作中人物のことではない。語り手が嘘つきなのだ。そんなことぐらい、誰だってわかろう。
「そうして自分は、この道化の一線でわずかに人間につながる事が出来たのでした」
見え見えの嘘とわかっていながら褒めるとしたら、なぜだろう。おっさんファンに「どこが面白いのか、わからない」と告白すると、返事はもらえず、蔑むような目をされた。
笑え、小人物どもよ。君らが私を笑うとき、私は君らへの憎悪を正当化できるのだ。やがて百倍返しだぞ。首を洗って待て。
と、こんなふうに解釈してみせることができなかった。だから、ウロシだった。
おっさんファンには何人か、遭遇した。『走れメロス』がいいね。おっさん愛を語る相手には、そう応じることにしていた。引き分け。しつこい奴には『ヴィヨンの妻』を挙げる。すると、なぜか大人しくなる。なぜだろう。考えたくない。
黒岩重吾だったと思うが、彼がまだ新進作家だったとき、何かの会合でおっさんに会ったそうだ。おっさんは後輩を家来にしたいからか、一方的にべらべらと利いた風なことをまくしたてた。黒岩は不愉快だったが、わざと反論せず、無表情でいた。すると、いくらKYでも空気を読んだらしく、息が切れた。待ってましたとばかり、青年はアキレス腱を突く。
で、太宰さん、あなた、いつ、死ぬんですか?
その数か月後、おっさんは死んだ。
という話を、黒岩は仏頂面で語った。どうも勝った気がしないらしい。むしろ負けたような気がするのだろう。私だったら単純に喜ぶけどね。寸鉄人を刺す。
ただし、私は太宰が自殺したとは思っていない。あれは失敗した狂言心中だ。女だけを死なせ、そのネタで稼ごうという魂胆だった。ところが、しくじった。だから、事故死だ。あるいは、真意を悟られて女に殺されたか。
おっさんファンに遭遇したら、こう言おう。
で、君、いつ死ぬの?
この挨拶が日本の習慣になるといいな。
(終)
GOTO 『夏目漱石を読むという虚栄』〔1243 「解釈は頭のある貴方に任せる」〕
夏目漱石を読むという虚栄 1240 - ヒルネボウ (goo.ne.jp)
GOTO 『夏目漱石を読むという虚栄』〔1420 作家ファーストで何四天王〕
夏目漱石を読むという虚栄 1420 - ヒルネボウ (goo.ne.jp)
GOTO 『夏目漱石を読むという虚栄』〔3251 パシリ・メロス〕
夏目漱石を読むという虚栄 3240 3250 - ヒルネボウ (goo.ne.jp)
GOTO 『夏目漱石を読むという虚栄』〔4133 「家族的生活」と父権〕
夏目漱石を読むという虚栄 4130 - ヒルネボウ (goo.ne.jp)
GOTO 『夏目漱石を読むという虚栄』〔7340 『トカトントン』〕予定。
GOTO 『夏目漱石を読むという虚栄』〔7350 「瘤取り」〕予定。