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腐った林檎の匂いのする異星人と一緒 34 ゲーム(STAGE14 忘れられた炎の物語)

2022-11-19 00:00:49 | 小説

   腐った林檎の匂いのする異星人と一緒

      34 ゲーム(STAGE14 忘れられた炎の物語)

水曜日の午下がり、あるいは木曜日の遅い朝、あなたは手紙を受け取った。「彼が旅に出た」と、あの子は書いていた。

あなたは彼を知っていた。彼もあなたを知っていた。あの子と三人で、一度だけ、食事をした。何年前か、一度だけ。

テーブルの上から皿が消え、コーヒーが出てくる前、あの子は化粧直しのために消えた。あなたは向かいの席の彼の目を見ずに、「さようなら」と言った。

彼は、あの子の背中が遠ざかるのを確かめてから、テーブル・クロスに向って頷いた。

「うん」

周囲のざわめきが消えた。

「さようなら」

指を組み換えながら、彼は顔を上げた。

ざわめきが戻ってきた。

あの子が戻っていた。コーヒーが三つ出ていた。その縁に紅の跡が残るのを想像し、あの子は笑いを堪えた。

あなたの席に、あなたはいなかった。

あなたは、あの街路樹の下にいた。マッチ棒が折れた。次の棒の先では、小さな火花が弾けて消えた。

道路の反対側に戦車が一台停まっていた。雲間から月光が漏れた。戦車は生き物のように眠っていた。

三本目の炎は、あなたの息が消した。

肌の透けて見える手袋の指の間から、細い紙巻がするりと落ちた。

あなたは笑いましたか。

泣きましたか。

……踊りましたか。

(続)

 

 


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