渚の恋
君は去っていく
さみしい僕を置き
守れぬはずの約束したままに
さようなら さようなら さようなら
あああ
（終）
笑うしかない友
～ちぇっ
思ったことをすぐ口に出しちゃいけないんだよ。
煙管の灰が袂に飛び込んでも？
えっ？
嘘を吐けってこと？
ほらほら、そうやって、すぐ。
ああ、そうか。じゃあ、嘘を吐いてもいいかな？
いけないよ。
「いいとも」じゃないんだ？
何、それ？
じゃあ、どうするの？
遠回しに言うんだよ。
そして？
相手が賛成してくれそうだったら、少しずつ本音を漏らすんだね。
分かった。あっ。「分かった」って言ってもいいかな？
いいよ。
じゃあ、やってみよう。
どうぞ。
おほん。ご両親はご健在であらせられますか。
母は生きているけど、父は死んだよ。
では、お父様はあなたに本当のことを言わずに亡くなられたんでしょうね。
えっ。何、「本当のこと」って？
失礼致しました。チャック。
いや、いいから、続けて。
では、お母様はもう本当のことをおっしゃられましたか。
だから、何よ、「本当のこと」って？
失礼致しました。チャック。
ああ。もやもやする。遠回しは止めて、さっさと言え。
では、お言葉に甘えまして。
うむ。
君は自分の本当の父親が誰か知ってる？
何だと？
やっぱり駄目か。チャック。
何が言いたいんだ。
言いたいことは、もう言ったよ。次は君が答える番だ。
この野郎。人のことを馬鹿にしやがって。
馬鹿になんかしてないよ。聞いてるだけだよ。
それが馬鹿にしてるってんだ。
へえ。どうして？ ああ。答えるんなら、遠回しは止めてね。
おれのおふくろが浮気をしたってのか？
言ってないよ、そんなこと。
遠回しに言ってるんじゃないか。
言ってないって。
言ってる！
君は自分の父親に「僕の本当の父親は誰ですか」って聞いたことある？
ない。
ないのに、どうして知ってるの？
ううむ。写真がある。
君とお父様は似てる？
ああ。
君のお父様とそのお父様も似てる？
ええっと。似てるに決まってるだろう。
じゃあ、君とおじい様も似てるわけね。
だから何？
『暗夜行路』は読んだ？
志賀直哉？
ええ。
読んでない。
お母様が読むなと？
いや。あれ？ どうだったかな。
君は自分の母親に「僕の…
止めろ。
僕は僕の本当の父親が誰なのか、知らない。
あっ。そうか。悪かったな。ごめん。謝るよ。
何で謝るの？
えっ？
遠回しに僕を馬鹿にしてるんだよね。
いやいや。とんでもない。
していいんだよ。
いいんだ？
君が僕を馬鹿にするのは、君が君自身を馬鹿にするのと同じなんだから。
それって遠回し？
君は誰かに、たとえば君自身に、本当のことを言ってる？
ちぇっ。
「ちぇっ」は本音？ それとも、遠回し？
いつか殺してやる。
君自身を？
チャックしろ。チャック！
（終）
