腐った林檎の匂いのする異星人と一緒
24 祖母の椅子
水曜日の午後、ジャンヌは古道具屋で椅子を買った。たまたま客として来ていた元司書に運ぶのを手伝ってもらう。背後で誰かが笑った。うふふ。
椅子は祖母に似ていた。祖母がいつも掛けていたあの椅子ではなく、祖母その人に。
祖母の椅子は窓辺に置かれていた。外光を受けて輪郭の溶けかけたシルエットの横顔を伺う。眠っている。でも、肘掛けから垂れた手は誰かを誘っているみたいだ。
ジャンヌが祖母の膝を撫でると、目を瞑ったまま、孫娘の腕を掴む。睫毛が微動。助けを借りて少女は這い上がり、祖母の体を椅子にして、うつらうつらするのだった。
少女ではないジャンヌは、椅子を寝室の窓辺に置いた。そして、腰を下ろし、少女になった。祖母になった。椅子になった。そして、ぐずる少女の自分を甘やかした。
眠ったのか、眠らなかったのか、よくわからない。立ち上がろうとすると、椅子は祖母になり、祖母は少女になり、少女の脚が少しずつ伸びて床に届く頃、彼女は今のジャンヌになった。
窓を開け、伸びをする。眠たげだ。一方の瞼は未開。もう一方も半眼で、瞳だけ下がる。地上には、遠ざかる元司書の小さな姿があった。
彼には時間がないらしい。
(終)