気候が暖かくなると、いろんなものが日本にやってくる。

 特に4月から5月にかけて飛散量がピークを迎えるのがPM2.5だ。

 中国大陸から日本海を渡って飛んでくる微小粒子状物質は、気付かぬうちに肺や血管に入り込み、健康長寿を競い合う日本人の寿命にブレーキをかけようとする。

 しかし、実は我々の敵は国内にもいる。

 国内産のPM2.5は、日本政府が愛してやまない「喫煙室」から湧いて出てくるのだ。

個人レベルでのPM2.5排出は続いている

「PM2.5」という名前の物質があると思っている人もいるようだが、そんなものはない。直径が2.5マイクロミリメートル(ミリメートルの1000分の1)以下の粒子を総称して「PM2.5」とよぶ。

 PM2.5といえば中国産に限る――と、目黒のさんまのように考えている人もいるが、中国にそれ専門の工場があるわけでもない。安くて質の悪い石炭や練炭、ガソリンなどを使うことで生じる煤が大気中に大量に放出されて、はるばる日本まで飛んでくるのだ。

 これが体内に入ると、色々と面倒なことになる。口や鼻から入り込んだPM2.5は、気管支や肺の奥まで侵入し、甚大な被害を及ぼす。肺がんや喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)など呼吸系の病気を引き起こすばかりか、毛細血管から血流に紛れ込むと、循環器系にもダメージを与えることが分かっている。

 日本では大気汚染防止法などの厳しい環境規制もあって、産業としてPM2.5を撒き散らすケースは減ったが、個人レベルでの排出は続いている。「タバコ」だ。

禁煙席でも「外出を自粛するレベル」

 すでに触れた通り、PM2.5の正体はモノを燃やした時に出る煤。タバコの煙も煤であり、立派なPM2.5なのだ。

タバコの煙を構成する微粒子は、PM2.5どころか0.1〜1.5マイクロメートルと、さらに小さい。特に副流煙は、形ばかりの分煙では被害を防げないことが分かっています」

 と語るのは、池袋大谷クリニック院長で呼吸器内科が専門の大谷義夫医師。続けて解説する。

「欧米の研究報告によると、喫茶店の喫煙席の1立方メートルあたりのPM2.5の濃度は最高で約800マイクログラムで、これは北京で最も濃度の高い日と同じレベルです。一方、隣接する禁煙席でも70マイクログラムの数値が検出されました。喫煙席の10分の1程度とはいえ、これでも環境基準の2倍にあたる高濃度。日本の環境省が『外出を自粛するレベル』なのです」

「三次喫煙」の潜在的リスクも

 大谷医師によると、喫煙席と禁煙席が隣り合っていると、ドアの開け閉めや人の往来でPM2.5も一緒に漏れ出てくるという。しかも、単に空気に乗って流れてくるだけでなく、喫煙室にいた人の呼気や、衣服に付着して禁煙席に流出する「三次喫煙」の潜在的リスクを引き起こす。

 今年3月、奈良県生駒市役所では、喫煙者はタバコを吸った後45分間はエレベータ利用自粛の呼びかけを始めたが、これも科学的根拠があってのことなのだ。

「マンションのベランダでタバコを吸う人もいますが、サッシの隙間からPM2.5は室内に入り込んできます。当然、両隣や上の階で洗濯物や布団などが干してあったりしたら、健康被害の温床になっている可能性は捨てきれない」(大谷医師)

 タバコを売る会社があるから吸う人がいるのか、吸う人がいるから売る会社があるのかは知らないが、あいだに入って健康被害に遭うほど馬鹿馬鹿しい話もない。

 そもそも禁煙だ、分煙だ、と未だに騒いでいること自体、日本は世界に大きく遅れをとっている、と大谷医師はあきれる。

欧米では10年前に終わった議論。飲食店で堂々とタバコが吸える国なんて、先進国では日本くらいでしょう」

呼吸機能の維持に効果的なのは、りんごと魚

 そんな、欧米から10年遅れた日本に暮らす我々に、できる手立てはないものだろうか。藁にもすがる思いで大谷医師に訊ねると、こんな話を聞かせてくれた。

「東京医科歯科大学の研究報告で、新鮮な果物を食べることが、呼吸機能の維持に関与するという結果が出ています。特にりんごにおいて相関の度合いが高く、ジュースなどの加工品になると効果は薄れるというもので、ビタミンCやEなどの抗酸化物質の作用が影響しているものと見られます。同様に、魚の摂取量が多い人は、COPDの死亡率が低いというコホート研究もある。

 反対に、ベーコン、ソーセージ、ハムなどの加工肉の摂取量が多い人は、COPDの発症リスクが高いというアメリカでの研究報告があるので、なるべく控えめにしたほうがいいでしょう」

 副流煙やPM2.5の脅威にさらされている人は、喫煙者にはやさしい政府が、断固たる受動喫煙対策を講じるのを、りんごと魚を食べながら待つしかなさそうだ。

(長田 昭二)

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喫煙者とJTに忖度する自民党政府に身を任せていたら、いずれ深刻な病気で死んでしまいます。まずは、タバコの煙から遠ざかることです。

職場で受動喫煙に悩まされている人に職場を変われとはいいにくいのですが、その他の場所では知恵を使うと何とかなるはずです。

タバコによる健康被害を避けるために、できるだけタバコの煙と縁を切った生活を選びましょう。やってやれないことはないですから。