NHK-FMを聞いていると、オーマンディの指揮した演奏が割とよくかかる。特に近現代の曲だとその比率が高いように思える。
その前にNHK-FMという公共放送なので、定評のある演奏しか流さない。特に時間幅をとる交響曲とかに成ると手堅い選曲になるのだろう。まあそれでもイロイロと冒険しているところはあるが、なぜ今更オーマンディなのかというのはあった。マニアからのクレーム対策もあるだろうし、権利関係の綺麗な故人の演奏というのもあるのだろう。
だがそうやってラジオから流れてくる音はしっくりくるのだが、なぜ他の人がいないのかというのが不思議になる。
オーマンディといえば「フィラデルフィア・サウンド」。華麗で美く、ダイナミックかつ流麗な音色の指揮ぶりで有名だった。このフィラデルフィア・サウンドという言い方に、オーマンディは「オーマンディ・サウンド」といって欲しい、といったようだ。そりゃそうだ。彼だけがあの音を作れたからだ。後続のリッカルド・ムーティーにはできなかった。いや、やりたくなかっただろう。
実のところ今の我が家にオーマンディーのディスクは一枚もなかった。理由は簡単で世の中ゴマンとオーマンディーの録音があったからだ。特に廉価版狙いだともうそれはそれは。それで安っぽい指揮者だと思ってしまう。特にCD初期の廉価版はすごかった。そして実際聞いてみると、とにかく明るい。華麗というのは確かだが、明るいのだ。この明るさに日本の評論家はケチをつけた。彼らにドイツ文学者が多かったというのはあるかもしれない。そういった刷り込みはある。
実家には多少あった。ただ近現代ものしかないというのが特長だ。だから、まだこの指揮者のディスクが売れる理由がわからないのだ。
真面目に「フィラデルフィア・サウンド」という言い方は、ポップスオーケストラに冠された言葉だ。あの音色では確かにそう言いたくなる評論家がいてもおかしくないし、そうなのだが、それではなぜ未だもってオーマンディーは聞かれるのかだ。もっと思索的で演奏も完璧なものがあるはずなのだ。そちらがラジオから流れてくるのが普通ではないのか。
その前に彼のことはアメリカ人だと思っていた。だがウイキ程度で簡単にわかった。ハンガリー人だったのだ。オルマーンディ・イーェネと本来は読むらしい。ブタペストでデビューしてこれからという1921年にアメリカ演奏旅行に行くが、どうもプロモーターにだまされたらしい。
今でこそアメリカはクラシックを持っていると大きな顔をしているが、第一世界大戦前までろくな演奏家がいなかった。レベルが低いのをなんとかしようと大学教授の資格と破格の給料でブラームスを呼んだところドボルザークが来てしまって、名曲がいっぱいできたというオマケもあります。なので一流の演奏家は金稼ぎにヨーロッパからアメリカに演奏旅行に行ったわけです。アメリカはとにかく飢えていました。だからいくらでも金を積んだのでしょう。ふさわしいホールもカーネギーが作ります。そういったパトロンにも恵まれています。
そういった状況ですから、新進気鋭のオーマンディはのっかたのでしょうか。結果スッカンピンになってしまいました。そこでアメリカで仕事を探すのですが、そこはオーマンディ。ニューヨーク・キャピトル劇場オーケストラのバイオリニストになって、すぐにコンサートマスターに。そして指揮者急病で代役になってからメキメキと頭角を現し、トスカニーニの代役をこなし、フィラデルフィアにいたストコフスキーと共同指揮者になり、38年に首席指揮者になる。
アメリカンドリームだね。1984年間までフィラデルフィアフィルと関わる。
こうして経歴を書くのは、オーマンディはアメリカとヨーロッパを橋渡した多分最初の指揮者なのだろう。しかも帰化した。ヨーロッパを引きずって苦労した音楽家はいっぱいいる。オーマンディーはその点では幸せだったかもしれない。
ものすごくわかりやすくかつ音が美しい。だから今でもラジオから流れるのだろう。ただ彼はものすごく苦労したと思う。当時のアメリカ人に受けながら自分を通すという困難があったと思う。そこに普遍性があるのだと思う。そして難解なショスタコービッチまでわかりやすく演奏してくれる。そういった保守的なアメリカ人をなんとかしたいような気がする。
ということでこの20世紀オーマンディーですが、オッソロシイほど曲がギチギチに詰まったセットでした。安いからいいかと思って「CDのみ」というのを紙ジャケットまで捨てているとは思わなかったわけで。そして一枚のCDにどこまで録音できるかを追求したフシがあって、ギチギチですからレーベル面にも細かい曲名を書けないわけです。
買い直すという屈辱ですが、まあいいや。
ここまで近現代曲の名曲を網羅したものもないです。さすがオーマンディーなのですが、ブリッジなのでイージーリスニングにも使えますし真面目にも聴けます。そして深さもある。オーマンディーについてくるソリストもいい。だから一番最初に聞いたほうがいいクラシックの指揮者になるのだろう。だから廉価版であんなに出ていたのだろう。
オーマンディーのスタンダード感はすごい。そして同じようなアンセルメもブーレーズもここまで幅広いレパートリーはない。ワルターもベームもない。ここがオーマンディの最大の美点だろう。
過小評価していた自分が恥ずかしいです。