2011/3/6upわかる目次 |
中学校入学式代案勝負 |
1 某年2月、職員会議で突然
「今年から入学式に2・3年生を参加させよう」と言い出した教員がいた。
何の脈絡もなかったが
教務はスイスイと「2・3年生参加の入学式実施案」を作り2月24日に提案した。
その中学校は開校以来四十数年間、入学式は「新入生と保護者」だけが参加していた。
2 言い出したのは特に思想も意図もない教員だったから、
誰かの裏の指示があったのかもしれない。
僕はすぐに「全面的な代案」を作った。
3 僕は2学年所属の担任だった。
その2年生は毎年荒れ果てた新入生を送り込んでくるので有名な小学校が、
「今年の6年生は史上最強の荒れ果てたクラスだ」
と申し送りをしたほどの新入生だった。
その新入生をグイグイと育てたのが、ブログ冒頭の『中学校1年学級経営案』だ。
確かに新入生は「史上最強」だった。
だが抜群に可愛らしかった。そして、どんどん育った。
僕は1年生のクラスが終わるとき学級通信を読みながら悲しくて泣いたほどだ。
僕はその子たちを「最強」にした小学校担任の顔と名前を覚えている。
管理職始め権威にペコペコする男性教員だった。今でも告発したいほどだ。
4 しかし、3学年に上がる中学生は甘くない。
「史上最強」に育てられた生徒たちは
やはり3学年になる前には心配なことがたくさんあった。
5 中学3学年にもなれば、4月5日にはクラス替えの意図を見抜く。
僕には二十数年前、初めて持った3年生が4月5日のクラス編成を見て、
そのまま十数人が集団で帰ってしまった経験がある。
何の脈絡もなく
「今年から入学式に2・3年生を参加させよう」
などと言い出す教員の馬鹿さ加減には怒りを覚えた。
6 ナーバスな4月5日は最も重要な指導の一日目だ。
それを大人にさえ理由が存在しないのに突然、
「今年から始業式の午後も残って、入学式に参加しなさい」
と言ったらどうなるのか。
言い出したのは長く担任を持たない教員だった。
何もわからないのだ。
言われるまま実施案を作った教務も教務だった。
7 以下に、3月17日職員会議提案の「hyoko作成入学式実施代案」を示す。
8 この代案を僕は2月24日以後すぐに作った。
そして、主だった教員に一人ひとり根回しをした。
9 理解力と立場のある教員に一人ひとり別々にこっそりお願いして小会議室に来て頂いた。
そして、印刷して綴じた「hyoko作成入学式実施代案」を手渡して、僕の考えを説明した。
職員会議で過半数に届くはずの人数を説得した。
10 ニ十一日後の、3月17日職員会議、僕は手を挙げ、
「プログラムにはありませんが、入学式について、修正案を提出します」
と言いその場で「hyoko作成入学式実施代案」を配った。
そして、早口にポイントだけを説明した。
……続きは、「代案文書」のあとに記す。
※20**年3月17日職員会議提案文書。
※黒字部分は一度提案された「入学式実施案・2月24日版」のとおり。
※茶文字部分はhyokoによる変更追加の文章。
中学校入学式実施代案
平成**(20**)年3月17日(水)・文責:hyoko
1 代案提出の理由(1)第一には、何より、新入生にとって安心感があり、
式後の学級開きがより良い状況で行なわれる環境を
作ってあげたいということである。
(2)第二に、新入生を良い環境で迎えることと同時に、
在校生の学級開きを成功させるかどうかは、
一年間の**中全体の方向を決めることになる。
(2)第三に、卒業式と入学式では、その意味も、状況もまったく異なる。
1 卒業式は中学校における、
最大・最高の密度を持った儀式的行事であり、
義務教育最後の授業である。
2 卒業式に対しては、
卒業生・在校生共に期間にして約二週間、
時間にして8時間から20時間近くを費やして準備をする。
それだけの準備を経て、やっと生徒の気持ちがまとまり、
態度・言葉・歌などが成立するわけである。
しかも、ギリギリやっとの事で成功までこぎつけていることは、
この三年間だけを見ても、職員の共通理解を得られると思われる。
3 対して入学式が、その重要性において卒業式より軽いということではない。
しかし、
「在校生・新入生共に式参加の為の準備期間はまったくないこと」
「在校生は新クラス発表の直後であり、
精神的には一年間で最も不安定な時間を迎える」
4 「入学式実施案・2月24日版」の目標の中に、
「職員、保護者、来賓、在校生は、新入生を見守る形で座り、不安を和らげ」
とあるが、上記①、②、③の事情から、
必ずしも在校生全員参加が、新入生の不安を和らげる事にはつながらない。
(4)第四に、**中には過去、在校生全員出席の実績はない。
1 実績があれば、生徒・職員もそのようなものだと納得する。
2 納得の中には、精神的な安定感・安心感がある。
3 今回の、在校生参加案は、
新入生人数の状況が明らかになったのが遅かったのはやむを得ないとしても、
生徒・職員にとっては突然の出来事である。
どうしても、在校生参加に意味があるとすれば、
20**年度に向けて早い時期から検討し、
生徒・職員が理解納得する十分な期間を置くべきである。
4 また、20**年度の二年生の状況・卒業式のためにかけた労力を考えると、
初めて入学式に在校生を参加させることで、
かえって入学式の厳粛な雰囲気に影響を与えかねないと考えられる。
(5)第五に、人数の問題である。
1 式の参加人数の多い少ないは、新入生の
「不安を和らげ、温かく祝う」こととは無関係である。
2 「入学式実施案・2月24日版」の提案の中には、在校生参加について
「単純に参加人数が多い方が、入学式の雰囲気が盛り上がり、
新入生もさびしい思いをしない」
以上の意味を見出すことができない。
3 全国的に考えれば、**中以下の人数の学校はいくらも存在する。
参加人数が少ないことで、それらの学校が
卒・入学式に支障をきたしたり、
新入生がさびしい思いをしたりするとは考えられない。
4 むしろ、少ない人数だからこそできる、
**中独自の方法を考えるべきだと考える。
人数はこれからどんどん減るのである。
(たとえば、現一年生(39人)が卒業したあとの
入学式に在校生が参加したとする。
その時の在校生は最低17人から、プラス10人前後、計27人程度となる。
その次の年は又さらに減る)
人数さえ一人でも多ければ、新入生を温かく迎えられるという考え方は、
数年先を見通しても、適切とは言えない。
(6)最後に、学級開きの一日目の重要性に対する認識に、職員間の差を感じる。
「机をつけさせ」「全員がそろって」「昼食を食べさせる」、
ただそれだけの事をきっちりさせられるかどうかが、
一年間の学級の雰囲気を左右する。
今回の「入学式実施案・2月24日版」提案からは、
在校生の学級開きに対する緊迫感が感じられない。
2 期日 20**年4月5日(月)
3 式場 本校(体育館)
4 目標
1 新入生にとっては中学生生活の最初の日であり、
希望と緊張感を抱いてスタートがきれるように、
厳粛かつ温かい雰囲気をもった式とする。
2 小規模校の良さを生かし、少人数でも温かく、
職員・保護者・在校生・来賓が迎える雰囲気を作り上げる。
3 中央委員・学級委員を代表として、
在校生が新入生を迎える気持ちを伝えることができるようにする。
5 式次第
1 開式の言葉
所作については、司会進行の合図の言葉で行なう。
2 国家斉唱
3 学校長の言葉
4 教職員紹介
(教頭・1年・2年・3年・養護・事務・用務員・カウンセラー)
5 PTA会長の言葉
6 生徒会長の言葉(**さん)
7 新入生の言葉(**小―**さん)**校長は壇上へ
言葉終了後、記念品を受け取る
8 記念品贈呈(校歌を書いた模造紙:中央委員)
9 在校生からお祝いの言葉
<詳細、別項>…第一の元2年2名も参加(hyoko注:第一=第一学級=特学)
(中央委員2年6人・1年3人)
(元学級委員2年6人・1年2人)=計17人
10 閉式の言葉
6 当日の流れ
<在校生の流れ>
★部活動入学式終了時刻に合わせて再登校。
8:40
げた箱側面に新学級を掲示し、そのクラスに従ったげた箱に靴を入れて、
新教室で待機する。
9:00
旧学年職員が生徒を廊下に並ばせる。(背の順)
9:10
新学級で体育館に並ぶ。整列指導は旧担任で。
9:20
着任式・始業式(45分間)
1校長先生の話
2着任の先生の紹介
3学年、担任の発表。全職員はステージ下に並ぶ。
10:05
退場。教室へ。
10:10
HR(40分間)
(1)出欠確認
(2)担任の抱負
(3)明日の持ち物確認
(4)ロッカーげた箱確認
10:50
入学式準備(80分間)
ジャージに着がえて2年は校内外の清掃。3年は式場設営。
12:10
2・3年帰りSHR(5分間)
在校生は、準備が終わり次第教室に集合。
明日の再確認のみですぐ下校。
12:15
2・3年中央、学級委員は3階多目的室に集合。着がえと昼食。
その後、入学式流れのリハーサルと待機。
(新3年職員が対応)(55分間)
13:10
2・3年中央、学級委員廊下整列。
13:20
2・3年中央、学級委員体育館着席完了。
(但し、1年先導者は別行動)
13:25
来賓入場
13:30
新入生入場
・新入生は、1F保健室前廊下から中央委員のプラカード先導で入場。
・体育館、職員・来賓・在校生は拍手で迎える。
・以下、入学式のプログラムによる。
14:10
新入生退場
・新入生は担任の先導で退場し、教室へ移動する。
14:15
中央・学級委員退場
・退場後、3階多目的室に集合し、新3年職員の指示で下校。
14:25
中央・学級完全下校
14:30
部活動の生徒再登校
<新入生の流れ>
12:30
新入生の言葉の生徒登校・・・所作等の確認
13:00
入学式受付開始
受付後は、中央委員の誘導で被服室に待機。
13:20
待機場所に整列完了
13:25
体育館へ移動開始
13:30
入場
入学式開始
14:10頃
退場 新入生学級開き 保護者会 片付け
15:00
HR終了 下校
―確認事項―
*新入生は受付後、中央委員の誘導で下駄箱に靴を入れ、
荷物を持って被服室で待機。
(13:20になったら、被服室前に男女各1列に整列し入場の準備をする。
整列終了後、中央委員のプラカードの誘導で体育館入り口まで進み、
合図にしたがって入場する。)
*来賓の入場後、中央委員の先導で新入生は体育館に入場する。
*入学式で閉式のことばのあと、
担任と新入生は中央委員のプラカードにしたがって
4階の教室に行き、学級開きをする。
第一の生徒もいっしょに交流クラスに入る。
中央委員は誘導後、自分の教室へ戻る。
*保護者は体育館に残り、PTAからの挨拶のあと、
常置委員(広報・校外・成人学級・厚生・推薦)5名を決める。
PTA運営委員も入る。
*常置委員が決まったら教室に行って、担任の話、学級開きの様子を見る。
*体育館の片付けは体育館部活が活動時に行う。
シート・椅子・パネルは片付けて、紅白幕・盆栽はそのままとする。
*学級開きが終わったところで新入生は解散。保護者とともに下校する。
第一の生徒は、その後、1Fの第一教室に移動し第一の学級開きをする。
7 係分担*敬称略
・総務―教頭・司会進行―教務・会計―教頭事務・来賓受付―事務
・保護者受付―・新入生受付―+中央委員・案内―・救護―養教
・駐車場―用務員・警護―・表示看板―・記録写真―
・入学式のしおり―教頭新1年職員・来賓接待 PTA運営委員
・入学式ステージパネル―美術科・放送―・清掃分担―
・教室整備清掃―新2年生・会場設営―新3年生
8 式場図(略)
9 付記)在校生のお祝いの言葉・内容
(20秒×17人分=7分間)
★予算設定 花束¥1000×17人分=¥17,000
★新入生は、男女混合名簿順に一列に並んでいる。(第一教室混合)
① 中央、学級15人はしかるべき席に着席している。
② 式次第に従いプログラムの順番を待つ。
順番になり、静かに立ち、
自分の座席の後ろにある長机から花束を取る。
④ 静々と打ち合わせどおりの新入生の前に横一列に、
担当新入生の前に立つ。
⑤ せりふを言う在校生は、一歩前に出る。
⑥ 新入生一人ずつに用意したせりふごとに
花束を渡していく。
⑦ せりふ、花束の手渡しのあと一歩下がり
そのまま静かに起立している。
<せりふと花束を贈る流れ>
☆(**会長)
「ではこれから、二年生と三年生を代表して、
私たち中央委員と元学級委員が心をこめて、
新入生にお祝いの気持ちを伝えます。
新入生の皆さんは、名前を呼ばれたら、立ち上がってください。」
(注:個人・校名が特定されるおそれがあるため以下の台本は略)
2011年3月6日記の続き
「代案」提案のあとすぐに採決になった。
ずいぶん前から、某市中学校の職員会議では「修正案」というものが提案されることはなくなっていた。
市内でそろって管理職が、
「職員会議は議決の場ではない」
「どう決まっても最終決定権は校長にあるのだ」
と言い始めたからだ。
ほとんどの人が決定能力もないのに。
記憶にないほど久々に、挙手による「修正案採決」が行われた。
記憶にないほど久しぶりに、職員会議が緊張に包まれた。
こういうことが実現したのは、当時の管理職が優れていた証拠だ。
そこで、質問が出た。
「議長と書記は採決に参加するのか」
しないことになった。
「管理職は採決に参加するのか」
することになった。
生徒総会と組合にしか現存しない、決まり通りの手順で採決は行われた。
議長は言った。
「参加者は、いち、に、……*人です」
「過半数は*人となります」
「では、修正案に、賛成のかた。挙手をお願いします」
職員会議の議長・書記は学年が月ごとに交代で受け持つことになっていた。
僕はその日の議長担当が1学年職員なのを計算に入れていた。
事前にその学年のAさんとBさんに、議長と書記になってくれるように頼んでおいた。
当然二人は説得しなくても、2・3年生の参加が無理なのを理解した人だった。
だから、突然僕が「実施代案」を提出しても、議事はスムーズに進んだ。
「では、修正案に、賛成のかた。挙手をお願いします」
議長が言った。
「修正案」つまり、僕の「代案」に「賛成」の職員が手を挙げた。
2・3年生の参加は無理がある、という人たちだ。
管理職は、当然手を挙げなかった。
言いだしっぺの年配も当然手を挙げなかった。
説得した人たちはすべて手を挙げてくれた。
それ以外の人で誰が手を挙げないか、僕は会議室内を見回した。
その間に、議長が人数を数える声が静かに室内に響いた。
「いち、に、さん、し、……*人ですね。間違いないですね」
議長の言葉にためらいがあるのを多くの人が感じたはずだ。
「修正案に賛成は*人ですので、過半数の*人には一人足りません。
修正案は否決されました」
そのあと、何かを言う人は誰もいなかった。
当然、僕もひと言も何も言わなかった。
血が下がっていくような感覚があったが押し殺した。
会議が終わると僕はいつも最初に会議室を出る。
なぜなら、会議が始まり十分後には全ての文書を読み終わり、
不要なプリントと必要なプリントを分けていつでも退出できるようにしているからだ。
さっと立ち上がり会議室のドアを開けた瞬間から、
「何を間違えたのか」
考え始めた。
採決はたったの一票差だった。
説得は成功していた。
ただ一つの見落としに数時間かかり気づいた。
議長と書記を、採決に参加させなければならなかったのだ。
僕の計算では修正案は可決だった。
しかし、「理解者」に議長と書記を頼んだことが裏目に出た。
だが、こう言うこともできたはずだった。
「滅多にない採決で重要な案件ですから、職員全員の意見を反映すべきです。
議長団も採決に参加してください」
そう言えば、誰もが納得して全員の採決になるはずだった。
議長団の二人が、「代案」に「賛成」で挙手すれば逆に一票差で「代案」は通ったことになる。
愕然とした。
僕は生徒の行事等に関する企画案は多く提案してきた。
しかし、政治的な動きは苦手だし嫌いだった。
教員になり、見聞きし、習い、四十を過ぎて初めて一人で根回しし採決まで運んだ修正案提出だった。
完璧なはずだった。
たった一つでも議案をひっくり返すのは難しいのだなぁ。
三週間後の、3学年学級開きを覚悟しながらあまり眠れなかった。
翌朝の職員打ち合わせの最後に、突然校長が席を立った。
「昨日の職員会議について、校長として発言します」
急なことで、全員が(たぶん全員が)何を言い出すのかと耳をそばだてた。
「昨日、採決で在校生も入学式に参加することになりました。
しかし、考えた結果急な在校生の参加には無理があると考えました。
校長判断で、修正案にあったように、今までと同様、
入学式の参加は、新入生と、一部の在校生のみとさせて頂きます。
ご了解ください。以上です」
僕は聞きながら次第にうつむき力を込めて涙をこらえた。
そして、朝のショートホームルームに行く直前、校長の席の前に立った。
「ありがとうございました」
ひと言だけ言い、深く頭を下げた。
校長もうなずくだけだったような気がする。
動揺していたし、年月が経ちすぎたのでよく覚えていない。
校長が一人で考えたのか、なぜ前代未聞の発言をしたのかは尋ねなかった。
未だに校長の決断の経緯と理由はわからない。
とにかく、二十数年教員を勤めて、校長がこのような「決定に関する断言」をしたのは初めて聞いた。
おそらく、市内でも空前絶後に近いだろう。
いずれにせよ、そのお陰で学級開きが混乱しなかったのは間違いない。
これが「入学式実施代案勝負」の一部始終である。
会議提案手順の参考になれば幸いだ。