『 ガハハ・・・ 』
親分が
ヘラブナを釣り上げた際に発する
至福の笑い声である
目次
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序・そもそも
「 釣りをしたい 」
小学校4年生・10才の息子が云った
息子はカナヅチ
心配で心配で とても 一人で川に遣ることは出来ない
幼い頃より 釣りが好きだった私
それならと
息子と一緒に 私も行くことにしたのである
物語の始まり・親分との出遭い
そんな私の様子
遠目で観ていたのが 斯の 『変なオッサン』 であった
ゴールデンウィーク
「 (斜面) 直下に坐って しんどいやろ
本気で 釣り するんなら 道具一式やるデ
どないや? (本気で) するか?」
・・と 声をかけて呉れたのである
大人 ( おとな )
常連の心構え といい 名人技 といい
それはもう 感動であった
素晴らしいものを見せて貰った私
名人の 心意気を肝に銘じ
アイの日の釣り 止めることにしたのである
親分の真骨頂
「 後から来て 何スンネン 」
「 後から来たもんに イカレとるやないか 」
「 タマタマや 」
「 あんたも 頑張らんかいな 」
「 腕は エエんやけど (今日は) 魚がワルい
チェッ !!」
・・親分の口から
昭和30年代のギャクが飛出し
皆で もう大笑い
はくれんヤ はくれんヤ
「 はくれん ヤ 」
彼の大きな声が 14番中に轟く
竿は大きく しなっている
確かに 大物には間違いない
周りの皆が注目して観ている
昨日は何枚
「 昨日 (土曜日) は 良かったでェ 」
「 ほんまかいや で 何枚釣った ? 」
「 8枚ヤ 」
「 ホウ 8枚も あげたんかい 」
「 おう・・・ヘラが6枚 マブが2枚 後、鯉が3本に ニゴイ 一匹 ワタコ (わたか) が・・・」
「 フーン そりゃ良かったなァ」
「 38.5 (cm) の オオスケ が 2枚上ったでェ 」
「 あと 36 が 3枚・・テノヒラが・・枚・・」
傘がない
あくる日
「 そやろ、火傷したやろ 」
「 あかん 云うたったのに あんた聞かんのやから 」
「 自業自得や 」
・・と 親分
「 ハナチャン この傘ヤルワ 」
・・と
使い古しではあるが
釣り用傘ワンセットをプレゼントして呉れたのである
雨がふる・・のに
「 雨が降るのに ようやる 」
「 アホ ちゃうか 」
・・と 散歩のギャラリー
すると
親分 いつも 名調子で応える
「 この雨ん中 わざわざ 釣りを見に来る アホも居(オ) る 」
「 どっちが アホやねん 」
「 わしら アホ とちゃうで 」
「 キチガイじゃ ガハハ・・」
盆も正月もあるかい
せっかくの夏休み
誰がじっとして居られるものか
15日とあらば
一等場所を自由自在に選べるのである
「 そんな 絶好なるこの機会を逃してなるものか 」
・・と 考える輩(ヤカラ)も存る
暑さでひっくりかえった親分
「おはよう」
「なにしてんねん」
なにしてんねん とは なにゆうてんねん
あんたを 待っていたのであろうが
「 オッサン の 河か ! 」
・・と なまいき に
少年達
親分の ウキ に めがけ 石を投げ始めた
退屈の鬱憤をここで発散させているのである
どっちも ドッチ・ルール守らんかい
「 誰しも釣り したいやろ 」
「 他の釣り場みたいに 此処で釣りしたらあかんとは 云うとらへんのんや 」
「 (釣り場の台が) 空いとるんや 使こうたらええ 」
(但し)
「 此処には 此処のルールちゅうもんが あるんや 」
「 愉しゅう 釣り したいやろ 」
「 そやったら ルール守らんかい 」
「 それだけの事や 」
花よりダンゴ
「 倉さん マトモやったなあ 」
「 オウ 」
「 エエモン 拝ましてもろたな 」
「 オウ 」
「 あれ見たら ヘラの顔 もう見んでもエエナ」
「 ウン ヘラの顔 もう見んでもエエ 」
「 ガハハ・・ 」
二人の声が弾んでいる
サイナラ鯉さん
♪ さいなら こいさん
しばしのわかれ ああ・・ ♪
私が鯉を釣る度に口遊むこの歌
唄わば
赤川鉄橋を一人ゴチ 喋りもって
帰って行った親分の姿
・・・想い出す
ガハハ・・・
「 ガハハ・・ 」
親分の至福の声が聞えてくる
親分 上(カミ)・ドンヅキで一人 『 ポンポン 』 釣り上げている
親分に腕自慢したギャラリー
「 なんや お前
他人(ヒト) の 釣り見て 文句ばっかり云いやがって
ワシは 25年 この釣り しとるんじゃ 」
「 能書き たれとらんと 竿もって来い
竿持つて来て ワシの横で釣って見せてみい 」
風に乗って来ずとも 充分聞える親分の大きな声である
「 ワシに 喧嘩 売りに ここへ来たんか
喧嘩なら いつでも 買うたるぞー 」
・・と 烈火の如く 怒りだしたのである
何お― !!
「 何枚 あがった?」
その詞を待っていた親分
いかにも 自慢げに 鼻高高に 而も威勢よく
「 4枚や 」
「 そんで あんたワ?」
「 8枚や 」
親分の顔から笑顔が退(ノ) いた
「 ホウ ( それだけあげたら ) エエヤンケー 」
上と下・・必ずしも 喰い が一致しない
「 今日は 下(シモ) の方が 良かったんやなァ 」
「 フッ 嘘や 噓や 」
「 ほんまは 3枚や 」
「 なんや ホラ かいな 」
「 そうや ホラ や 」
「 あんたの真似 したんや 」
ここで 皆が ドッと大爆笑
往生際のわるいヤツ
まもなく5時になります
5時になりますと 公園のゲートは締まります
お車の方はお急ぎ下さい・・・
夕方4時半になると
こうして
公園のスピーカーから アナウンスが流れる
竿より 長いタマ
「 このタマに餌入れて 待っとったら ヘラ すくえるで 」
「 竿 いらんで 」・・と 皮肉った
すると 親分
「 そやな、竿いらんな 」
「 竿より長いタマ 持ってどないすんねん 」
「 ガハハ・・」
なんやオッサン 他人の釣った分 勘定するんかい
「 今日は何枚 あげた?」
・・と 私の問いかけに
「 マブ(まぶな) が 2枚 アイ(あいべら=まぶな×へらぶな) が 2枚 」
「 へら(へらぶな) が 4枚 」
「 クラさんに替わってやったのが 1枚 」
「 9枚や 」
これに
隣の釣り人・藤さん
驚いた
「何やオッサン! 」
「他人(ヒト)の釣った分も 勘定するんかい 」
コイさんには もう懲り懲り
帰宅して娘に 70㎝ の大きな鯉を 如何に釣りあげたかを 自慢すると
「 70 ㎝ の大きさって どのくらいナン?」
「 おとうさんの 足の長さ と おなじくらいャ 」
「 フーン ・・じゃぁ たいしたことないヤン」
・・だと
クリスマスプレゼント
クリスマスイブ
吾家族は シャンパンで乾杯した
翌朝
気の抜けた残りもんの シャンパンを見て
「 (エサを溶く) 水の代りに使用したら・・ 」
・・そう 閃いた
氷が張った日の物語
朝 目が覚めたら 氷 張っとんねん
釣りに来るもん 誰もおるかい
ガハハ・・
・
中入り
究極の暇つぶし
かっこう を つけて
言うと
人生そのものが
暇つぶし
なのかも知れない・・なあ
・
ナンヤ自慢しに来たんかいな
ウップルーッ
しばれるねえ
冬は寒いから 釣れないんだよね
ナニッ 釣れたァ?
大根かえせ
淀川・城北ワンドの百姓(?)さん
「 わし等が 一生懸命に作った野菜 泥棒して持って行きよる 」
・・と 彼等は そう嘆いているそうな
そして
「 悪い奴等が居る! わしの大根返せ!」
・・と 息巻いている
のだ そうな
お池にはまって さあたいへん
ドッボーン
・・と
大きな音がしたであろう・・が 私には聞えなかった
頭は水の中
落ちたのだ
親分と巡礼した二代目
「 また アホ が一人 増えよった 」
「 ワシ等 アホを通り越して キチガイ やけどな 」
「 ガハハ・・ 」
彼をサカナにして 親分 頗る機嫌が良い
「 あの場所 空けといたろなぁ・・」
・・と
親分 新しい仲間の誕生と 彼を喜んで迎えたのである
友遠方より来たる
「 ドナイ?」
「 オー 珍しい顔やないけ 生きとったんか?」
「 長いこと顔見んから 心配しとったんど」
「 おおきに おおきに 元気でおま 」
「 で あがっとるんか?」
「 あかん ヘラ ニッチョ(日曜日)や 居らん 」
「 ジャコ 動かん のんや 」
「 動かんジャコ 釣るンが プロや、ガハハ・・」
カモ釣って どないすんねん
「 かわいそうな事をした 」
・・と 悔やんでいた私に
隣で 一部始終を 見ていた親分
「 カモ釣って どないすんねん」
「 ガハハ・・」
・・だと
ヘラ一枚に命かけて どないすんねん
合わせて シマッタ
釣ったは 嬉しい・・・さりとて 雷も恐い
釣り上げるには竿を立てねばならぬ
どうすりゃいいのさ・・思案橋
竿を横に傾けて引っ張るも
やはり タマに納める瞬間は どうしても竿を立てねばならない
「 立てねばならぬ 妙心殿 」
勝利の女神は意地悪
「 ホソでの顔なじみが たまには並んで釣りをしたいネ 」
「 やろうよ ハナチャン 」
「 良いですね やりましょう 」
・・と 二つ返事
my スタイル
『 何枚釣った 』
・・かと 言うよりも
如何に半日を 機嫌よく過せたか
こちらを 大切にして 釣りを楽しんでいる
そういう人も存るのである
ミミズもカエルも みなごめん
「 チリ紙は いっつも持っとくんやで 」
「 イツ・ドコデ 使うか判からんからな 」
是
師匠である親分の訓えである
暑いのに ようやるわ
これから
釣りを終えた私は 家に帰ってシャワーを浴びる
昼食をとって 冷房の効いた涼しい部屋で暫らく昼寝をするのである
へらぶなを釣る夢を見ながら・・
方や 親分
私と入れ替わりに 釣りを始めるのである
選りにも選って 真夏の炎天下
・・・
「暑いのに ようやるワ」
へぇーっ
偶々 通りかかった散歩の人 私の後ろで立止った
気まぐれに 私の釣りを見ている
「 アタッタ!」
反射的に 手がうごく
「 ノッタ 」
型の良い 尺上があがった
「 今、アタリ 有った?」
「 有りましたよ 」
「 微妙なアタリ なんやなぁ ここからやと 判らんかったわ 」
「 ヘラ(のアタリ) は そんなんかいな 」
「 ヘェーッ 」
ひとはだ 脱いだのは親分
親分
鎌を口に咥え、さっそうと 泳いで行く
それは 鬼平犯科帳・鬼平こと 長谷川平蔵の捕物劇中に視る
颯爽と 十手を口に咥え刀を抜く 名シーンの如く
なんと恰好が良かったことであらうか
天狗の鼻 高々に
昼食を済ませると
眠気がきて ウトウト
決って 釣りの夢を見る
その シーンは ウキ に アタリ
!!
夢の中で アタリ に合わせている
その手の動きで目が覚めるのである
最終回 宴の後
親分
どこでどうしているのやら・・
今や
「 ガハハ・・ 」
聞くことは無い
♪ どこへいったのよー
戻ってきてよ ネエあんたー ♪
アンコール・なめとったら アカンド
ホラは吹く
大声で お喋りである
騒がしい 喧しい
挙句に大声で以て歌まで唄う
柄は悪いし 口は悪い だれかれと見境なく 喧嘩はする
もう 支離滅裂なオッサンである
『 吾は ヘラブナ釣り師 』 と プライドだけ人一倍 高いから 始末に悪い
周りの者からしたら それはもう 困ったものなのである
なれど 憎めない愛嬌があり
何と言っても 面倒見の良い親分肌である
是も彼も 親分の為人(ヒトトナリ)
悪い事も
良い事も
全部ひっくるめて これぞ親分
それでいい
私は
こういう 変なオッサン
大好きである
・
斯の物語は
倅と共に釣りを始めた1995年から 親分が退場する2006年までの11年間の想い出を
現在進行形の物語として描いたもの
フト 想い出した時に 想うが侭に 作文 したのである
従って 何年の 何月の 何日の 出来事 かは 順序だってはいない
それは さほど 大切でないのである
すべて 1996年~2006年 の 所謂・『 あの頃 』 の事・・それで良いと考えた
・
私の生涯に於て
斯の 『 親分 』・・との 出逢いは 全く稀有なケース
倅が 「 釣りをしたい 」・・と 言い出さなければ 無かったのであるから
一期一会の
人と人との出逢い
人生に於て これは 當に 『 宝 』
『 縁(エニシ) 』・・とは
異なもの味なもの
・・である