クチコミで学ぶ
いつものところで
相変らず 釣りをしていると
周りの釣り人の会話が 風に乗って 耳に入ってくる
「 14番 一杯で入られへん 皆 朝の5時半から入っとるらしいな 」
「 あそこは 泊り込みの見張りがおるらしいで 」
「 台に荷物置いて よそ者 を入れん様にしとる 」
「 ここの台 わし等がこしらえたもんや 挨拶もせんで勝手に入るな・・云いよる 」
「 勝手に作っとるだけやないか
ここはお前等の土地とちがうやろ・・云うた 初めての人と 殴り合いの喧嘩に成ったそうやで 」
「 ほんまかいや 」
「 俺は気をつこうてまで遊びとないから 14番には行かへん 」
「 気を使わんで良い ここがエエワ 」
「 俺もそう想う 」
「 サンカク はどないや 」
「 サンカク は 最近 あかんみたいやで 」
「 6番が、よう上がっとるらしい、ええ型ばっかりやて 」
「 あそこは深い、3本 あるからなぁ 」
皆は こうして クチコミで 情報交換をするのである
私は
皆の声に耳を傾けながら
それらの場所すら知らない私は
「そんな、釣り場があるのか」
・・と
未知の世界に何かしらん ロマンを感じたのである
城北ワンド群
私の師匠である親分
なんだかんだ 言っても
面倒見が良かった
釣り人達の会話に出て来る 城北ワンド群の主な釣り場を彼が連れて行って呉れたのである
新参者の私
一人では 他の釣り場へはなかなか入り難い 勇気が要るものなのである
然し ベテランの親分同伴だと そんな気を使うことも無い
噂の14番にしても
「14番の常連とは顔馴染みや
あの小屋 わしも造るの手伝うたんや 心配いらん 」
・・と ばかり
私には頼もしい師匠だったのである
( 後で判ったことであるが これは彼一流の ホラ であった )
親分の 尻に付いて いろいろな 釣り場を周り
そこでの 釣り人達の会話を聞くことによって
その釣り場の ローカルなルール 釣り方等 諸々を学んでいったのである
私の顔も すこしずつではあるが 馴染んで貰える様に成ったのであるから
まさに 親分さまさま である
14番でのこと
親分 と、二人並んで 釣をしていた
いつものように 和気合い合いと
この日の私は 運がよく 調子が良かった
だから 会話も弾む
・
片や 親分 ( 自称 「 へらぶな釣り師 」 ) この日は調子が悪い
焦っている
新参者の私に負けたとあっては 彼のプライドが許さないのであらう
次第に会話も少なくなった
・
暫くして
「 ノッタ で 」
隣から声が上った
「 ヤレヤレゃ 」
いかにも、嬉しそうである
彼は釣上げた時は 素直に悦ぶ
「 ガハハ・・ 」
・・と 満面笑み
でもって至福の顔で笑う
それはいつも変らない
私は
その光景が たまらなく 心地好い のである
・
「 鯉ヤ 」
「ナンヤ、鯉かぁ」
「 ? 」
「 ん (これは) 大きいデ 」
鯉の引きではない
鯉なら いっきに横走りする
「 のっそり 」
・・と いう感じの引きである
「 はくれんヤ はくれんヤ 」
私も
体長が1mもある大魚・はくれんが掛かった経験がある
アタリを合せた瞬間に横走りをする鯉とは違って
最初は 「 のっそり 」 とした動きをする
しばらくして
「 気付いたかの様に 」
横走りするのが特徴である
ズッシリ とした重さは 当に、大物を実感させるのである
「 はくれん ヤ 」
彼の大きな声が 14番中に轟く
竿は大きく しなっている
確かに 大物には間違いない
周りの皆が注目して観ている
ゆっくり近づいてくるが 姿が見えない
大物が掛かった時は
高切れ (道糸が切れる事) をふせぐ為 いっきに引き寄せない
ハリスが切れるのを待ちながら
竿先を抜き取られない様 竿を立てて ゆっくり引き寄せるのである
・
「・・・?」
どうやら 「はくれん」 では無さそうだ
傍で観ている私は その正体が何であるか 判った
観ている私より
竿を持って苦闘(?)している 本人が一番感じているはずである
いよいよ
水面に正体を現す
果たして・・
「何ヤッ 亀 カァ !」
尺タマ が破れそうな 超ド級のミドリ亀 であった
「 ガハハ・・ 」
親分・・もう、笑うしかない
二人で大笑い
・
次回 昨日は何枚 に 続く
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