もう一つの 昭和・私の記憶

『 昭和・私の記憶 』 の、続編
吾生涯を物語る

サイナラ鯉さん

2021年05月31日 | ガハハ・・・1996~2006


意地と恋とを  包丁にかけて

両手あわせる  水掛不動
さいなら  こいさん  しばしのわかれ
ああ  夫婦善哉  想い出横丁法善寺
名残り つきない  灯がうるむ  ♪
 イメージ画像
物語は此処でおこった

鼻の下 伸ばした親分
いつものように 斜面に腰を降ろした親分
いつものように 一人ゴチ
頗る上機嫌である

「 おっちゃん 釣れる?」
背(せな)から 女性の声
振り向かば 若い女性
彼氏と二人して散歩の途中に 気まぐれに声をかけたのである
「 ボツボツ  や 」
「 何  釣ってはるん?」
「 ヘラ や  ヘラブナ や 」
「 フーン  面白そうやね 」
「 やらしたろか 」
「 エッ  ええの?」
「ええで  換わったるワ 」
・・と 親分
彼女の気まぐれに応えたのである
さすがに 女性には優しい
彼女 「 本当にええの・・」 と 言いもって サッサと斜面を降りて 台を跨いでいる
いかにも やるき満々である
とは雖も
竿を振るは なかなか容易ではない  エサ の着け方も分らない
ド素人の彼女  どうしてよいものやら
「 わしが ちゃんと したるさかいに 」
そう言って  竿を振った
ポイントに ウキ がチャンと立つのを見届けると 竿を彼女に手渡した
なんと親切な親分である
そして 斜面の上に昇り 腰を据えたのである
入れ替り  彼女の傍に彼氏が坐った
『 イザ 釣らん 』

それはもう  期待で胸一杯
ドキドキ しもって ウキ に 目を遣る彼女
!!
なんという タイミングであらうか
ウキ が消し込んだ
「 キャッ 釣れたッ 」
・・と 黄色い歓声
偶々の偶然  こんなことが起ろうとは
然し 喜んだは束の間
その 引きは尋常ではなかった
「 きゃっー 」
・・と 悲鳴に変わった
竿を持って行かん程の勢いである
「 鯉や !! 」
・・と 親分
 その勢いに驚く彼女に 傍の彼氏が助けに入った
ところが いかんせ 彼も亦 ズブの素人
なにができるものか
猛烈に引っ張る 鯉
鯉に引張られるまま 鯉の為すがまま 竿を伸ばしている
道糸と竿が一直線の状態になった
「 どうしたら  エエン?」
「 竿を 立てるんや 」
「 竿先 抜けてしまうぞ 」
親分が 怒鳴っている
このままだと 竿先 鯉に引っこ抜かれて 持って行かれてしまう
然し ド素人の二人
為す術もない
「 竿 立てんかー 」
親分が叫んだ

大物が掛かった時は、
高切れ(道糸が切れる事)をふせぐ為、いっきに引き寄せない、
ハリスが切れるのを待ちながら、竿先を抜き取られない様、
竿を立てて、ゆっくり引き寄せるのである
この 最初に竿を立てれるか否かが  勝敗の分れ目なのである


戦い済んで 日が暮れて
「 ( 若いネエチャンに ) 換わったって エライ目におうたで 」
「 鯉や  鯉がきてな 」
「 キャッー  やて 」
「 彼氏と二人 オロオロしてくさんねん 」
「 どないしょ・・やて 」
「 なに ぬかして けっかんねん 」
「お前  男やろ 」
「 男やったら  竿 立てんかい・・云うたってん 」
「 (あの男 ) 云うても わからんのんや 」
「 ワシに 早う  竿 渡さんかい 」
「 ワシ やったら 立派に 竿 立てたるわい 」
「 あのガキ  とうとう 「 引っ張られるサカイ 」・・云うて  手に持っとる竿 放しゃがんねん 」
「 なに すんねん 」
「 オッ  コラー 」
「 云う たってん 」
「 鯉に 竿 持って行かれて  もう サッパリワヤ や 」
「 持って行かれた竿 取るのに  もう 大騒動やったんど 」
・・と 親分
まあ 愚痴る愚痴る
「 ワシが 傍についとりゃよかった 」
彼氏に遠慮して 彼女の傍に添えなかった 腹いせ 鬱憤 を彼氏にぶっつけているのだ
「 今日は ケッタクソ悪い 」
「 もう やめじゃ  ・・帰る 」
・・と

一人ごち
とっとと  帰って仕舞った 

赤川鉄橋 と ホソ
♪ さいなら  こいさん 
 しばしのわかれ  ああ・・ ♪
私が鯉を釣る度に口遊むこの歌
唄わば
赤川鉄橋を一人ゴチ 喋りもって 
帰って行った親分の姿
・・・想い出す

次回 ガハハ・・・ に 続く
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