「 先週は、良かったでぇ 」
・
相変らずの口調で一人ゴチが始まった
先週 いつものように姿を見せなかった親分
偶には いつもと違う釣り場に行くのである
・
「 常連さんに 「 ここ 入らせてもろてよろしいやろか 」・・云うたら 」
「 「 どうぞ、どうぞ 」・・云うて呉れてなぁ 」
「 エエ、おっさんやで 」
いつもの口調で、自慢話が続く
「 25枚 上げたでェ 」
「 サイズはテノヒラばっかりやったけどなあ 」
「 「兄(アニ) さん 後から来て 何してくれまんの 」・・おっさん 云いよる 」
満面笑み した丸い顔で 愉しそうに喋っている
いかにも 本当の様に 上手に話を創るのである
「釣れるもん 仕方おまへん」
「ここが 違うんや (腕に手を当てて) そう、言うたってん」
「ガハハ・・・」
一人で喋り 一人で笑っている
いつもの とおりである
・
「 釣り場 教えてやるから 明日 一緒に行こう 」
私と もう一人の釣り人・風呂迫さんが一緒に行くことになった
親分のいつものホラ話し とは思いつつ
ついつい信用してしまったのである
「 ここで 待っといてヤ 朝、早よう行くからな 」 待合せ場所
約束どおり
翌朝 9時頃 いつものところへ
暫らく待ったものの 親分なかなか来ない
「 遅いナァ まだ こんのか?」
もう一人の釣り人・風呂迫さん 彼は8時頃から待っているそうな
見らば 首が伸びている
真夏の八月 午前8時はもう日が高い 炎天下 猛暑の時間帯なのである
風呂迫さんは いつもは早朝に釣りをする
彼にとって 9時頃は そろそろ納竿を意識し始める時刻なのである
「 良く釣れる場所を教えてやる 」 と 言う親分の言葉を信用したのである
これも 釣りたいという一念から
親分を信じ 暑い中 待っていたのである
「 何が 朝早う行くから・・・や 」
・・と
そんな想いの中
「おはよう」
「なにしてんねん」
なにしてんねん とは なにゆうてんねん
あんたを 待っていたのであろうが
時刻は もう 10時を過ぎている
人の気も知らず 親分 遅かったことを謝りもせずに
何食わぬ顔で 「 行こで!」
自転車に乗ったまま
そのまま 釣り場へと向かったのである
吾々は その後を追いかけた
「 ここや! よう釣れるでぇ!」
着いた場所が、6番池
私には初めての場所である
もう 日が高い
常連さんは帰った後 だから 釣り場は空いていた
・
仕度を始めた頃
「 どない!」・・と 親分の相棒・橋元さんが顔を出した
ここへ来たことを聞き付けて 親分を追って来たのである
ところが
親分の様子がおかしい
「 どないしたん?」
親分、気分が悪い・・と 言い出したのである
「 吐き気がする 」
「 昨日食べたお好み焼きが悪かった 」
「 来る時 日に当たったんや・・日射病や 」
一人で なんやかんやとブツブツ云っている
然し 相当気分が悪い様子である 菅原城北大橋
「 橋の下で涼もう 」
橋の下は影があり
風が通り抜けて涼しいので いつも多くの人が涼んでいる
私は親分の荷物を片付けて橋の下まで運ぶハメになったのである
もう 釣りどころではない
なんてこったい・・である
・
親分は橋の下で フーフー 云っている
このことで 気の毒なのは もう一人の釣り人・風呂迫さん
結局 彼は 釣りが出来ずじまいであった
暑い中を 散々 待たされた挙句
やっと 着いて 仕度を始めたところ
そしたら
こともあらうに親分
暑さでひっくり返ったのである
もう・・釣りなどできる 気分ではない
自分の荷物だけ サッサと片付け トットと 帰ってしまった
無理もない
親分とは 別段親しくもない間柄なのだから
・
いろいろなプロセスの涯て
釣り場には 私一人となってしまったのである
なにせ、初めて入る釣り場
広さ、深さ、風向き、さざ波・・・いつものところとは随分勝手が違う
当てにしていた親分は頼みにならず 一人では如何釣りをしてよいか分らない
これでは 釣れるはずもなからうに
もう 竿を納めよう・・と そう想った直後
ウキ が沈んだ
合せてみると チャンベラ
釣ったものの もはや 戦意はない
これを キリ にしよう・・と
釣り上げたところで 納竿することにしたのである
チャンベラ
15~20cm の
手のひら サイズ を 言う
・
風通しの良い橋の下で ノビ ていた親分
2時間程で 元気を取戻した
「 この場所、アカン 」
「 ゲンクソ 悪い 今日は帰る!」
親分のいつもの口調に戻ったのである
もう 心配はない 大丈夫
・・と
親分の相棒・橋元さんと 3人で6番池を後にした
いつものところまで着くと
親分
相棒・橋元さんに声をかけた
「 オイ、ちょっとだけ やろや 」
「 今日は もう止めといた方がエエデ 」
・・と 言う 私の忠告も聞かず
相棒と二人 自転車を止めたのである
私は
そのまま 振り向きもせずに家に帰った
「 ええかげんにせいよ 」
・・と 呟きながら
・
カップ二杯の
CCレモン
この日は暑かった
私は水分補給にと 魔法瓶にCC レモンと氷を入れ 特に冷たくしたものを持って来ていた
そして それを
もう一人の釣り人・風呂迫さんに上げた
よっぽど喉が渇いていたのであろう 暑かったのであろう
彼はいっきに飲みほした
その様子だと 足らないだろうと感じた私は
「 もう一杯、どうぞ 」
・・と 差し出した
彼は 今度もいっきに飲みほした
冷たいCC レモン・・よっぽど おいしかったようである
この CC レモン カップ2杯でもって
もう一人の釣り人・風呂迫さんが、私に対して心を開いたのである
そして これ以来 彼とは釣り仲間として そして 更に 釣りの連れ として 親しくなったのだから
人の縁(エニシ)・・・不思議なものである
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次回 どっちもドッチ・理窟はつけても に 続く
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