はじめに
*この記事で見る済州島産の生体時の体色はすべて次画像のような明るい褐色で
標本画像は生体時の体色を反映していません。
*台湾産は野外個体、済州島産は飼育個体です。
↓ 済州島産:明るい褐色61㎜
↓ 済州島産:26㎜・29㎜・37㎜・49㎜・54㎜・58㎜・61㎜
↓ 済州島産:サクエチを吸って変色したが、生体時は右端のような体色
済州島のアスタコイデスはどこから来たのか?
2013. Stag Beetles of China Ⅱ中華鍬甲. 及び 2021.BE・KUWA No.79.によると
アスタコイデスノコギリクワガタ Prosopocoilus astacoides blanchardiは
モンゴル,中国東部,韓国(済州島),台湾に分布していますが
韓国での分布は、大陸と繋がっている本土では確認されず
最南端に位置する島(済州島)にのみポツンと分布します。
済州島は、180万年前に始まった火山活動により現在の島に形成されました。
その島に分布するアスタコイデスノコギリクワガタは
「在来種ではない」という私的な考えのもと
移入のルーツを推察してみました(以下アスタコイデス)。
まず、飛翔による移入ですが
他の分布地から済州島に飛んで行くにはあまりにも遠く、それは考えにくいです。
人由来については、木材輸入(歴史や実際はわかりませんでした)や
実個体の持ちこみなども含め、可能性は否定できませんが
それより強いと思えたのは、やはり「海流」です。
↓ 済州島の位置(オレンジ〇)と、近海の大まかな海流図
済州島あたりは黒潮由来の対馬暖流が流れており
黒潮により「マメクワガタやルイスツノヒョウタンクワガタ」が分布を広げるように
済州島のアスタコイデスも海流によって移入したと思えます。
では「どこからやってきたのか?」
直感的な想像では、南方に位置する台湾からでしたが
調べていくと、中国から流れ着いたゴミが散らばる済州の海岸-Chosun online 朝鮮日報
のように、済州島の海岸には中国からの漂着物が多いことがわかりました。
また、手持ちのクワガタ関連書籍に図示された範囲で見る限りでは
済州島産アスタコイデス(オス)の大アゴの一番大きな内歯の出現位置は
中国東部に分布するアスタコイデスと似ており
台湾の大型個体で見られるような出現位置は今のところ確認できません。
よって済州島に分布するアスタコイデスは
「中国東部から海流により移入したのではないか」と思われます。
例えば、洪水によりホスト木が海に運ばれ、漂着するといった感じです。
ただし、中国の実個体は見たことがなく、これは個人の勝手な考察とご理解ください。
↓ 済州島産:61㎜・61㎜・58㎜ 一番大きな内歯の位置は基部寄り
↓ 台湾産60・59㎜、一番大きな内歯は大アゴ基部にない
↓ 左2個体済州島産:右2個体台湾産
↓ 済州島産
↓ 済州島産:30㎜・23㎜
アスタコイデスノコギリの仲間は
「世界のクワガタムシ大図鑑」(1994)や「世界のクワガタムシ大図鑑」(2010)で
独立種とされていた種が亜種降格したり、亜種名の復活や新亜種が追加されるなど
グループが再編されましたが、暫定的で、終結したわけではなさそうです。
↓ 台湾産(右)のほうが頭・胸部の光沢が弱く見える
↓ 台湾産・済州島産
↓ 済州島産・台湾産
ブリード
繁殖は、メスが餌を食べることから始まります、蔵卵です。
たくさん餌を食べ、容器内を徘徊するようになってから産卵セットに投入します。
セットから9日目には底部で卵が確認できました。
逆算すると、母虫は羽化から4ヶ月が過ぎたくらいで産卵をはじめたようです。
↓ セットから40日以上経過(7.21)
↓ 底部マットから卵(左は腐敗した)
↓ マットより、材からのほうが多く出てきた
割り出し結果は、マット=卵2ケ・初齢幼虫4頭
材=卵2ケ・初2齢幼虫16頭で、合計24頭出てきました。
↓ 450㎜ほどのpカップでマット飼育(MDマット)
最後に
「済州島のアスタコイデスはどこから来たのか?」一応の考察結果は出ましたが
もう少し踏み込んでみたい部分があり、今年も幼虫を採りました。
それでも私の手元ではいずれ絶えるので
昨年(2023)は幼虫を、今年(2024)は新成虫のいくつかを手放しました。
本種を取り巻く現在の現地事情からすると「血の入れ替え」などということは到底困難で
事実上、どれと組み合わせてもインラインの域を超えることはありません。
参考URL:
済州島 - Wikipedia
中国から流れ着いたゴミが散らばる済州の海岸-Chosun online 朝鮮日報
参考文献:
水沼哲郎・永井信二,1994.世界のクワガタムシ大図鑑・6.むし社.
2004.BE・KUWA No.10.むし社.
李恵永著,2004.湾鍬形蟲(自然観察図鑑4).新親文化事業有限公司,.
藤田宏,2010.世界のクワガタムシ大図鑑・6.むし社.
2013.BE・KUWA No.46.むし社.
Huang Hao & Chen Chang Chin, 2013. Stag Beetles of China Ⅱ中華鍬甲.
Formosa Ecological Company.
2021.BE KUWA No.79.むし社.