貧乏石好き

つれづれなるままに石をめぐりてよしなきことを

アデュラリア【追記あり】

2023-01-15 17:19:37 | ややレア

うーん、とですね……(にやにや)
かねてより憧れていた石が出ていたのでですね……
ポチってしまったのです。(わずか一週間しか持たなかったねw)
アデュラリア Adularia。

     *     *     *

よく「スイスのアデュラー地方で採れる透明な正長石(カリ長石、オーソクレース)で、和名は氷長石」と紹介される。そして「ムーンストーンのシラーをアデュラレッセンスと呼ぶ」とも。
けれど、「アデュラー地方」なんていうものはない。アデュラリアにはアデュラレッセンスは出ない。はてさて。

サイト『鉱物たちの庭』さんの記事には以下のようにある。
《この石が公に認められたのは 1780年で、ミラノの聖職者にして博物学者エルメネジルド・ピニ(1739-1825)がこの年、スイスのゴットハルト(サン・ゴタール)を旅行した時に入手した透明度の高い長石をアデュラリア・フェルドスパー(アデュラーの長石)と名づけて報告したのである。彼はこの石がアデュラ山地に産すると考えたのだが、実際にはアデュラ山地はゴットハルト地方ではなく、東隣のグリソンズ地方にあるという。》

けれど、アデュラ山地を検索しても出て来ないし、ゴットハルト地方もグリソンズ地方もスイスの州名にはない。で、あれこれ検索してようやく。

アデュラ山ないしアデュラ山塊は、現在は一般的に「ラインヴァルトホルン山(Rheinwaldhorn)」として知られる。アデュラはイタリア語呼称。Piz Valrhein という呼称もあるらしい。スイスというのは行政単位や言語が複雑に入り組んでいるので、一筋縄では行かない。
スイス南部、イタリアと接するアルプス地方にあって、ティチーノ州とグラウビュンデン州(グリゾン州、グリッシュン州とも。保養地のダボスやサンモリッツがある)の州境にある。標高3402m。英語版ウィキからPD写真。

ゴットハルトというのは、ザンクト・ゴットハルト(峠・山塊)で、スイスとイタリアを結ぶ交通路。こちらはウーリ州にある。ややこしい。
まあどれもアルプスの山ん中。赤石岳と聖岳みたいなもので、一般人には似たようなものだと言えば言える。(おい)

で、なんでアデュラ山の名前を取った「アデュラレッセンス」がムーンストーンの青いシラーの呼称となったのか。
これまたややこしい話で、詳しくは上記のサイトの記事追記にある。
要するに、「透明度の高い長石のことをアデュラリアと呼んだ」→「スリランカ等で出る透明長石もアデュラリアの一種と捉えた」→「ムーンストーンのシラーをアデュラレッセンスと呼んだ」ということらしい。「アデュラリアにはアデュラレッセンスは出ない」という奇妙な事態はこうして起こった。ただし、アデュラリアでも青白いシラーを見せるものが稀にあったともいう。
で、結局のところ、現在はアルプス地方で採れる透明度の高いオーソクレースをアデュラリアと呼ぶようになっている。らしい。
今回買った石も産地は Formazza Valley, Verbano-Cusio-Ossola, Piemonte, Italy とある。フォルマッツァはザンクト・ゴットハルト峠へ向かう交通路にある人口400人の村。このあたりは「アルプス水晶」の産地らしい。

ああ疲れた。(ごくろう)

     *     *     *

アデュラリアは、前にあった「ホシノカケラ」という美石コレクション・サイトで見て、透明な美しさもさることながら、その名前になぜかえらく惹かれまして、ずっと探していたのです。まあほとんど出ない。たまにあってもえらく高価。
で、今回、つぐこみねらるずさんでお手頃価格のが出た。ツイッターで知ってあわてて行ったら、3点あったうち、白のもの2つはすでに売り切れ。残っていたのはクローライトが含まれていてかなりブルーグレイのもの。ちょっと氷長石にしてはどうかなと迷ったのですけど、逆に特色があって面白いかなと思ってポチっ。「オーソクレースでもサニディンでもさ、あんまり無色透明過ぎると水晶と変わらんくなっちゃうでしょ?」などと言いながら。
石屋さんの説明では「フランス・サンマリーショーにて採集者から直接買い付けた品」とのこと。

長石独特の輝きがあって、なかなか味わい深い。写真ではうまく撮れないけど。

強い光だと透ける。これもひどい写真だけど。

ちょっと異端児だけど「念願のアデュラリア」を手にできて嬉しい。なんでこの名前にそんなに惹かれるのかはよくわからないけど。

さて、また石禁と沈黙に戻ります。(また一週間でしょ?)

【追記】
日本鉱物科学会編集『鉱物・宝石の科学事典』(朝倉書店)にはこうあります。
《アデュラリアとクリーブランダイトなどは、それぞれカリ長石(正長石から微斜長石)と曹長石であるが、特有の形状(菱形面と薄層状)に対して与えられた名前であり、鉱物の種名ではない。》
現代の鉱物学では透明うんぬんではなく結晶形の問題みたいです。


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