貧乏石好き

つれづれなるままに石をめぐりてよしなきことを

雲母

2021-12-09 21:39:51 | 単品

昔々、雲母に何かを乗せて、ガスバーナーで炙って、という実験をさせられたような記憶がおぼろげにあるけれど、何の実験だったかさっぱり覚えていない。夢かうつつか、人生はかくも朦朧たるもの。(おおげさな)

まあ、ぺらぺらはがれるやつ。石のくせに石じゃないみたい。不思議ですねえ。
英語では Mica。「輝く」を意味するラテン語 micare から。
古日本語では「きら」「きらら」で、あの吉良上野介の吉良は所領地(愛知県西尾市)の特産品である雲母から来ているという話がある。本当かどうかあちきは知らない。
きらきらしているから細かく砕いて化粧品や塗料の「パールカラー」に使われるほか、絶縁性、耐熱性からいろいろと工業用用途は広い。昔の石油ストーブの覗き窓は雲母だった。古くなるとヒビが入って剥がれたなあ。(古っ)

与党平面派(フィロケイ酸塩)の巨大グループ。しかし雲母とは何ぞやとなると難しい。
ウィキペディアにある雲母の定義を見ると、なんか笑いがこみあげてくる。

《雲母の化学式は一般的に I M2-3 □1-0 T4 O10 A2 で表される。
  I には主として K、Na、Ca が入るが、Ba、Rb、Cs、NH4 が入ることもある
  M には主として Al、Mg、Fe、Li、Ti が入るが、Mn、Cr、Zn、V が入ることもある
  □は空孔。
  T には主として Si、Al、Fe3+ が入るが、Be、B が入ることもある
  A には主として OH、F が入るが、Cl、O、S が入ることもある。》

わけわかめ。「こともある」ばっかりですね。「空孔(原子欠損)」なんてどうしてできるのか。しかし、これだとケイ素を含まないものもありということにならないか? T のところに Si じゃなくて Be が入ったらケイ酸塩鉱物じゃなくなってしまいませんかね。はて。

    *   *   *

巨大グループの割に、観賞石はあんまり多くない。

まずはオーソドックスな白雲母(Muscovite、KAl2□AlSi3O10(OH)2)。
マスコバイトの名は中世ロシアの「マスコビー(モスクワ大公国)」に由来する。都市モスクワ由来ではない。(まあ似たようなもんだけど)
あちこちで産出され、直径3m以上の大きな結晶も見つかったことがあるという。結晶? どんな形をしているんだろう。
観賞石としては「スターマイカ」が有名。主にブラジルのミナスジェライス州で採れる星形の結晶をしたもの。
白雲母の微細なものが絹雲母(Sericite、セリサイト)で、これは粘土鉱物の一種。カオリナイトなどとともに焼き物の素材になるわけね。

一方、黒雲母という系列がある。
金雲母(Phlogopite) KMg3AlSi3O10(OH,F)2
鉄雲母(Annite) KFe3AlSi3O10(OH,F)2
その中間体として黒雲母(Biotite) K(Mg,Fe)3AlSi3O10(OH,F)2。まじゃっちゃってるわけね。天玉蕎麦(もういい)
けどあんまり観賞石はないようで。
でもこれ、一番よく見る花崗岩の黒いぽちぽちじゃね? だとしたら身近な石ですね。

そのほかにもいろいろあって、日本人あるいは日本地名のついているものもたくさんある。バリエーションが多彩だから、特殊種もたくさんあるのでしょう。

   *   *   *

まずはいかにも雲母らしい雲母。
これはロスコーライト(Roscoelite、ロスコー雲母、バナジン雲母、KV2□AlSi3O10(OH)22)。バナジウムを含んだもの。あんまりポピュラーではないみたい。

五反田産のお安い標本。薄くて透明で、すぐ壊してしまいそう。これぞ雲母。
「鑑賞石」と言うにはかなり異色だけど、バナジウムのせいでほのかに緑に発色しているのがきれい。

白雲母のうち、クロムを含んだものがフックサイト(クロム雲母)。独立種ではない。
うちのフックサイト。薄いのが重なって固まった感じはある。緑がきらきらしてきれい。

フックサイトはしばしばルビーと一緒に出てくる。それを磨くとこんな可愛いものになる。「フクベエ」と呼んでおります。
磨いてしまうと、これ雲母ですか?みたいになる。



リチア雲母(リシア雲母、レピドライト、Lepidolite)は、リチウムを含む雲母。KLi2AlSi4O10F2。M の部分がリチウムなのね。
この名前、レピドクロサイト(鱗鉄鉱)とまぎらわしい。「鱗」を意味するギリシャ語「lepidos」から来ているのだから仕方ないにしても、やっぱりまぎらわしい。しょっちゅう間違える。
これはレピドライトの「太巻」みたいな結晶。東京サイエンスさんのミニ標本。

薄い雲母が重なって柱になっていて、その周りをさらに超ミニサイズの結晶円柱が取り巻いているらしい。変な形。太巻きというよりは「ういろう」かな。(どうでもよろしい)
二つあるのは、実は台座から外そうとして折ってしまったから。鉱物標本系のお店ではミネラルタッグではなくて接着剤で止めてある場合があるので要注意ですな。シール剥がしを使わなければいけなかった。

これはごくオーソドックスなレピドライト。固まりつつもぺらぺらがきらきらで(君は幼児か?)、淡い紫がとても美しい。ちょっと和菓子にありそう。


与党平面派(フィロケイ酸塩鉱物、SiO4四面体が面状結合)には、クリソコラやアポフィライト、滑石なんかもいる。
その中で、平面派の平面たる形状を正々堂々と主張している雲母というのは、偉い。(なんか変な理屈)
大きな塊を買って、一枚一枚薄く剥がしてみたら面白いかもしれない。(面白いか?)

おっと一つ忘れていた。
日本の誇る天然記念物の石、桜石(Cerasite、セラサイト)。
うちのは超お手頃価格品なのでやや貧相。もっときれいなのは世にいっぱいある。

アイオライトが風化して雲母と緑泥石(クリノクロア)の混合物となったものだそうで。いわゆる「仮晶」ですな。
しかしこの仮晶というやつ、わかりませんねえ。結晶の形だけそのままで中身が入れ替わる? 何だそりゃ。説明を読んでも、結果としてこうなっているというのはわかるけれど、どうしてそんなことが起こるのか、さっぱりイメージできない。
けど、アイオライトが断面桜型の結晶になっているのなんて、見たことない。つか、そもそも幾何学的な結晶すら見たことない。はて。
天然記念物なので指定区域内では採取禁止。だけど出回っているのは、区域外ということなのかな。買っていいものか戸惑ったけど、まあこのくらいの貧相なものならいいでしょう、と。
レピドライトの太巻きと同じ感じで、薄い膜が積み重なっているみたい。雲母らしくきらきらしている。色もほんのり桜色。ああ、桜の花の塩漬けが食べたい。(あれ食うのか?)
けど、何でアイオライト(元)が京都で採れるのか。いろいろと不思議。
桜は日本らしくていい。花弁がちょっと多いけど。

雲母の世界も踏み入ったら奥が深そう。


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