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「1億総活躍」には正社員解雇ルールの明確化も必要

2016年05月29日 05時06分00秒 | 行政
「シニアセカンドキャリア」や「女性のキャリア開発」などが取り沙汰され、多くの人々のより長い活躍が望まれている。「世界で最も深刻」だとされる、日本の高齢社会化がさまざまな、課題を突き付けている一方で、政府は、将来に予測される生産年齢人口の減少を踏まえ、政策を打ち出している。

安倍政権は、具体的には、「1億総活躍」を掲げ女性や非正規雇用労働者の環境改善に取り組んでおり、同様に「同一労働同一賃金」も目標の一つだとしている。実際、正規と非正規雇用の賃金や待遇の格差の解消を目指す方針が、安倍総理自身の口からも出てきている。

ただ、正規と非正規雇用の間の、待遇格差の是正は、オモテ面の解決策。その奥には、「働き方改革」「労働市場改革」の課題が隠れている。具体的には、労働市場の流動化だ。現在の硬直的な環境を改善し、より効率化し、生産性を上げる必要が意識されている様子だ。

■女性・非正規雇用労働者の待遇改善に着手

2015年10月安倍政権は、「希望を生み出す強い経済」、「夢をつむぐ子育て支援」、「安心につながる社会保障」の「新・三本の矢」を打ち出した。政府は併せて、実現を目的とする「一億総活躍社会」の実現に向けて取り組んでいくことを宣言した。

具体的には、幼児教育の無償化(予算額126億円)、児童扶養手当の機能の充実(同1746億円)、キャリアアップ助成金の拡充(同410億円)、保育人材の確保・育成(同414億円)、ひとり親家庭・多子世帯への支援(同3436億円)など女性や非正規雇用労働者の支援に関する事業を掲げており、比較的に立場の弱い労働者の支援にも取り組み姿勢が滲んでいる。

また先立つ9月には同一労働同一賃金推進法が施行された。2016年3月には厚生労働省が具体的な施策を立案するための「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」を設置。非正規雇用労働者の待遇改善に向け動き出しているのが現状だ。

■正規・非正規の「格差是正」が当面の課題

非正規雇用の待遇改善は確かに、これまでも重要視されてきた。その中心はというと、正規雇用が望ましいことを前提に、非正規雇用労働者の待遇を如何にして、正規雇用にも劣らない水準にまでキャッチアップさせるかという観点の議論が多かった。

厚生労働省が2016年3月に開催した「第1回同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」資料によれば、フルタイム労働者に対するパートタイム労働者の賃金水準はヨーロッパ諸国が7〜8割程度であるのに対し日本は6割弱となっている。

またフルタイム労働者の中でも正社員と契約社員等の非正規雇用労働者の間には大きな格差がある。正社員は年齢とともに賃金が上昇し、企業規模が大きいほどその傾向が強くなる。一方、契約社員など非正規社員については、企業規模にかかわらず、年齢が上昇しても賃金は、ほぼ横ばいで推移している。従業員1000人以上の企業で50〜54歳の平均時給を比較すると正社員が3189円なのに対し契約社員等は1301円にとどまっている。

現在、非正規雇用で働いている人が安心して結婚・子育てができるようにしたり、子育てと仕事を両立しやすくしたりするために正規・非正規雇用間の待遇格差の是正が求められるという論調だ。その中で、厚生労働省は少子化対策、貧困・格差対策の観点から同一労働同一賃金に対する社会的ニーズの高まりを説いており、政府も製作課題として取り組む姿勢を示してきている。

■正社員とはいえ、いつまでも安泰ではない?

他方で、現実はそれ程、単純ではない。非正規社員の待遇改善が期待される一方で、正社員と非正規社員の利害は必ずしも一致しない。さらに、経営者はもっと異なる思惑を持っているかもしれない。例えば、「一社懸命」の会社に従順なフルタイム労働者を求める傾向が強いと言われることもあり、非正規雇用を「使い易い」と受け止めている可能性もある。

また、すでに正規雇用のポジションを手にしていれば異なる立場だろう。正規雇用者は実質的に、定年まで勤務する権利を得ており、安定した地位を死守しようとする。その結果、非正規雇用労働者が増加するとともに正規・非正規雇用の待遇格差が構造的に定着することとなった。

もちろん今、政府が取り組む通り、非正規社員の待遇改善は重要だが、問題の片面でしかない。隠れた論点があり、それこそが正社員ポジションのあり方についてだ。

具体的には、正社員の解雇ルールの明確化の必要性だ。つまり、会社の業績や社員の勤務評価に応じ賃金カットや、解雇を柔軟に実施できるようにすることも重要になってきており、待遇に格差がつきやすく、固定化し易い非正規社員を単に用いるのではなく、柔軟な人事を実現しようとする取り組みだ。

企業が継続的に成長していれば、正社員を中心に雇用することで、労働者の双方にメリットをもたらすが、安定期にはデメリットも出てきかねない。例えば、業績が低迷し固定費を削減したいものの、転職先が見つからない多くの正規雇用労働者が組織にしがみついてしまうかもしれない。現実に、サイクルに入っている企業もあるかもしれない。

企業統治や内部統制の観点からも、一社専業のフルタイム集団よりもパートタイムの役員、上級社員、スペシャリストを採用することが望ましいという考え方もある。上司の顔色を窺うことよりも職業倫理を優先できる(その結果クビになっても無職に陥る心配のない)社員が一定数在籍していれば、会社の暴走を抑止する上でも効果的だ。労働市場の流動性向上と併せれば、一定の良い影響もあるといえそうだ。

同一賃金同一労働原則の徹底による正規・非正規雇用間の格差是正を図るとともに、正社員の解雇ルールの明確化も実現し、雇用全体の流動性を高めるという処方箋を書く余地もあるのではないだろうか。そんな議論も出てくるかもしれない。(ZUUonline編集部)

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