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春庭パンセソバージュ

野生の思考パンセソバージュが春の庭で満開です。

ぽかぽか春庭「お越し?お来し?日本語表記」

2006-07-13 | インポート
2006/07/13 木
ニッポニアニッポン語教師日誌>日本語ってどんな言語?まずは発音から(59)お越し?お来し?日本語表記

 昨日2006/07/12の春庭コラム「漢字ひらがな交ぜ書き表記」に、「文科省からの通知文」の例として春庭が作成した文章の中、「もよりの会場までお越しください。読み書きテストを受けていただきます」と、書きました。

 標準的なワープロソフトでは「おこしください」と入力して変換キーを押すと「お越し下さい」と、漢字がでます。
 一般的な卓上辞書にも
「お越し」=他人が行くこと、または来ることの敬語(用例)「お越しをおまちしています」
と、あり、「お越し下さい」という表記は一般的なものとして使用されています。 
 
 2006/07/09春庭bbsに「お越し」ではなく、「お来し」が正しいのではないか、という質問があったので、以下のように回答しました。

 
春庭bbsへのw**********さんからの投稿です。
 『 はじめまして。「おこし」は、「お越し」ではなく「お来し」ではないでしょうか?
2006-07-09 16:39:22  』

春庭の回答(春庭bbsより再録)
==============
 漢字表記にはゆれがあります。

 慣用的な使い方、当て字などがあり、この「漢字表記のゆれ」については、春庭が「誤読から慣用読みへ」というタイトルでテーマにしたことがありますので、そちらを参照いただければ幸いです。
http://www2.ocn.ne.jp/~haruniwa/nipponia0502.htm

 「お越し」ではなくて、「お来し」ではないか、というご指摘、漢字表記に関心を持っていらっしゃること、とてもすばらしいですね。

 結論から言ってしまうと、どちらの表記も可能です。

 「今までたどってきた年月とこれからの先の年月」という意味で使われる「こしかたゆくすえ」も、「来し方」という本来の表記のほかに、もともとは当て字であった「越し方」という表記も辞書にでており、社会使用上は、両方とも許容されています。

 「来し」は、カ段変格活用の「来」(こ、き、く、くる、くれ、こよ)の未然形「こ」に助動詞「し」がついたものです。

 しかるに、ことばは常に誤用があり、ゆれ動くもの。
 平安時代の女性文学、女流日記などには、すでに「こし」のかわりに、「きし」という誤用→慣用表現が現れています。

 「お越し下さい」という場合も、「越す」の連用形名詞「越し」を丁寧にした「お越し」に「ください」がついたものと考えることもできるし、カ変動詞「く」の未然形「こ」に助動詞「し」がついたものに、丁寧の「お」が加わって、「お来しください」になった、と考えることもできます。

 昨日2006/07/08の春庭コラムに、もともとは「嶮悪」という漢字表記だったのが、「剣幕」に変った、という例をあげました。

 漢字表記に、その時代その時代の「正書法」「ただしいとされる読み方」はあるのですが、ことばが、年ごとに変化し、移り変わっていくように、漢字表記も、誤字誤読を経たり、慣用的な読みかたを経て、かわっていくのです。

 「お越し」と「お来し」は、現在ではどちらの表記も可能となっている、という考え方でよろしいと思います。
2006-07-09 19:05:04
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 一般的な辞書では、「来る・行く」の待遇表現(敬語)として「おこし」の表記は「お越し」と表記されています。
 しかし、規範意識から「お来し」が正しいのではないか、と考える方もいると思います。
 「日本語における規範」とは、「現在、通用していて大多数の人に不快なく受け入れられている日本語」にすぎません。ことばは、時代とともに移り変わるのです。

 「おこし」に関しては、現在の表記では「お越しください」ですが、「お来し」とかきたければかいてよろしい。
 ただし、この「お越し」「お来し」表記のゆれの問題に限らず、「こちらの表記が絶対に正しい」という「私が正しいのだ」という思いこみは、避けた方がよいのではないかと思います。

 20~30年前まで「絶対に正しくない」と糾弾されていた「ら抜き可能形、見れる・でれる」が、現在では辞書にも搭載され、若い世代には100%普及しています。
 ことばは常にゆれ動き、変わってきたし、これからも変っていきます。
 漢字表記も、時代によって読み方も変わり、表記もかわるのです。

 最初の規範が「絶対に正しい」としてこだわるなら、田園は「でんえん」ではなく、「でんねん」という読み方になるはずだった、と、連声の説明のところで書きました。今は、時代が変ったので、連声の発音変化をしなくなったのです。

 「こし」の意味を、「来(く)」の未然形に、過去の助動詞「き(き、し、しか、と活用する)」の「し」がついた形として「来し」と書いても、現在のように「越し」とかいても、どちらも間違いとはいえないし、「こちらだけが絶対に正しい」とも言えないのです。

<「お越し」と「お来し」の項はおわり あしたは、日本語の発音と表記のつづき、ローマ字書きの日本語>

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