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春庭パンセソバージュ

野生の思考パンセソバージュが春の庭で満開です。

ぽかぽか春庭「熟字訓のはなし(1)熟女も夜露死苦」

2006-12-15 | インポート
2006/12/15 金
ことばのYa!ちまた>熟字訓のはなし(1)熟女も夜露死苦

 『夜露死苦現代詩』という本、現代の世相に鋭く切り込んできた都築響一の著作です。
 「夜露死苦」とは、暴走族などが着る「特攻服」の背中に刺繍文字でつづられていたり、ガードしたのスプレー落書き文字で見かける、ヤンキー漢字表現のひとつ。

 都築は、「夜露死苦」を「なんてシャープな四文字言葉なんだろう。過去数十年の日本現代詩の中で、夜露死苦を超えるリアルなフレーズを、ひとりでも書けた詩人がいたんだろうか」と評している。同感。

 この「夜露死苦」という当て字の方法は、「万葉仮名」方式とでもいいましょうか。日本語の音節のひとつに漢字をひとつ当てていく方法です。 
 日本語に漢字をあてはめるとき、万葉集・古事記の時代からさまざまな工夫がなされてきました。

 『古事記』は、劫初の日本国土を「くらげなす漂へる」と表現しました。
 この「クラゲ」を表現するのに、当てられた漢字は、「く→久」「ら→羅」「げ→下」です。
 「久羅下」のように、日本語の音節ひとつに、同じ発音の漢字ひとつを当てています。

 平仮名がまだなかったころの表記ですから、中国渡来の漢字で書くしかなかったのです。

『万葉集』『古事記』の時代から百年を経て、漢字の草書くずし字からひらがなが、漢字の一部分省略したものからカタカナが成立していきます。

 クラゲは、現代仮名遣い表記法では「動植物のなまえは、カナで書く」という基本に従って、「クラゲ」「くらげ」と書けばいいのですが、漢字で書きたい場合、「久羅下」という古事記方式ではなく、「海月」「水母」と書きます。当て字です。

 このような当て字で、辞書にのっているものを「熟字訓」と言います。「音読み」でも「訓読み」でもない「当て字読み」のことです。

 当て字がすっかり世の中に定着し、読み方が普及して辞書にも搭載されるようになると、「当て字」から「熟字訓」に昇格します。
 「夜露死苦」も、みながこう書くようになれば、辞書に搭載され、「熟字訓」に昇格できる。たぶん昇格しないと思うけれど。

 文部科学省の常用漢字表(約2000字)に付表として、熟字訓の表がのっています。
 学校教育で教える熟字訓です。

 小豆(あずき)海女(あま)土産(みやげ)雪崩(なだれ)木綿(もめん)玄人(くろうと)大和(やまと)日和(ひより)などが、常用漢字表の付表に載っています。これらは、新聞や雑誌で「フリガナがなくても一般の読者に読める」とされています。

 この「義務教育終了時には読めるようにしておきたい熟字訓」のほか、熟字訓は多数あります。動植物名はことに多い。 
 ちょっと、おためし。読んでみましょう。
馬酔木、合歓木、雲雀、百舌鳥、木菟、、、

 日本で当て字が作られたもののほかに、中国語で同じ動植物をどのように書いているのかを漢詩文などから知り、中国の漢字をあてはめる場合があります。

 たとえば、日本で「ゆり」と呼ばれていた植物の漢字をどう書くのか。
 中国語では「百合baihe」と書くことを知って、「百合」という漢字を書いて「ゆり」と読ませる、これが中国語由来の熟字訓。
 「百」の字に「ゆ」、「合」の字に「り」という読み方は、音読みでも訓読みでもしないのに、ふたつ合わせたときは「ゆり」と読みます。

 銀杏・公孫樹も、中国語由来の熟字訓です。中国語でもイチョウは「銀杏」「公孫樹」と書きます。

<つづく>

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