春庭パンセソバージュ

野生の思考パンセソバージュが春の庭で満開です。

ぽかぽか春庭「春宵一刻値千金」

2010-04-03 | インポート
2010/04/03
ぽかぽか春庭言海漂流ことばの海をただようて>鞦韆考(3)春宵一刻値千金

 ブランコ文芸その1 蘇軾(1036~1101)「春夜」
 北宋時代の詩人、蘇軾(そしょく 別名:蘇東坡そとうば)にブランコを詠んだ有名な漢詩「春夜」があります。その第一句「春宵一刻値千金」はよく知られていますが、第4句に「鞦韆」が出てきます。蘇東坡は、食い気第一の私にとっては、大好物のトンポーロー(東坡肉:豚三枚肉の煮込み)の名前の由来になった人です。

春宵一刻値千金 花有清香月有陰 歌管楼台声細細 鞦韆院落夜沈沈
シュンショウ イッコク アタイ センキン
ハナニ セイコウ アリ ツキニ カゲアリ
カカンロウダイ コエサイサイ
シュウセンインラク ヨル シンシン
(春庭拙訳)
 春の夜はほんのひとときでも千金のねうちがある
 花には清らかなかおりがあり、月には光がある
 楼台(高殿)から歌声と笛の音が微かに聞こえてくる
 ぶらんこのある中庭に、夜は静かに更けていく

 昼の間、少女達が笑いさざめきながら遊んでいたブランコが、誰もいなくなった中庭にひっそりとある。中庭に満ちていた春昼の光が目に残り、笑い声が残響として耳にある中、春の夜の密かに甘い花の香りと月の光が満ちている。かすかに聞こえる笛の音。春の夜は静かに時を刻む。

 ブランコ文芸その2 李商隠(812~858)「無題」(読み下しは、加藤徹明治大学教授による)
八歳偸照鏡、長眉已能畫。八歳 偸みて鏡に照らし、長眉 已に能く画く。
十歳去踏靑、芙蓉作裙衩。十歳 去りて青を踏み、芙蓉 裙衩と作す。
十二學彈箏、銀甲不曾卸。十二 箏を弾くを学び、銀甲 曽て卸さず。
十四藏六親、懸知猶未嫁。十四 六親に蔵る、懸めて知る 猶ほ未だ嫁せざるを。
十五泣春風、背面鞦韆下。十五 春風に泣き、面を背く 鞦韆の下。
(春庭拙訳)
八歳のころ、こっそり鏡をのぞいて大人のような長い眉を描いてみた
十歳のころ、芙蓉の花のスカートをはいて春の野原に出かけ、青草を踏んだ
十二のころ、お箏のおけいこをして、銀の爪をいつもはめてた
十四のころ、まだ嫁入りできない身を羞じ、家族の目を避けて暮らした
十五のころ、ブランコの下で顔を隠し、春風の中でひとりで泣いた
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 玄宗皇帝もブランコを愛好した唐の時代の詩人李商隠の作品。「春宵一刻値千金」のようには有名ではありませんが、少女の成長を描いた詩です。
 15歳で「オールドミス」となってしまったことを泣くなんで、唐時代の少女の乙女心が偲ばれます。私なんて、24歳過ぎたら「いきおくれ」と言われた時代に30すぎまで独身でした。

 姉の家の二階に住んでいて、中学校の国語教師をやめたあとは、姪の子守にあけくれました。姪をブランコにのせ、背中を押してやる。勢いがなくなって高く上がらなくなると「おばちゃん、押して」と催促する。「おばちゃんじゃなく、おねえちゃんと呼んだら押すから」というと、「おねえちゃん、押して!」「美人のおねえちゃんって呼んだら押す」「美人のおねえちゃん、押して」
 春の一日、ブランコは高く上がり後ろにとんでいき、ひねもす行ったり来たりかな。

 美人のオネーサン、32歳でようよう結婚。
 ブランコ大好きだった姪も、いつしか結婚離婚。今はシングルマザーで4人の子を育てています。姪の長女はこの4月に公立高校入学、長男中三。次女は中学入学、三女は小学六年生。ひとりでよくがんばっているなあと思います。

<つづく>