日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

蒼い影(46)

2024年09月03日 06時02分55秒 | Weblog

 3月も終わりころに近ずくと、雪国も日中気温が上がり、たまに雲ひとつない快晴の日も多くなり、各校でも卒業式がはじまる。  
 季節は本格的な春の訪れを告げ、人々の心もうっとうしい長い雪の日々から開放されて明るくなる時期でもある。 
 この様な心理は雪国に住む人達にしか味わえない気分である。 然し、学生達にとっては悲喜こもごもの別れの季節でもある。

 卒業式をまじかに控えた、晴れた日の昼下がり。 
 理恵子は、奈津子さんと江梨子さんの三人で、何時もの雑談場所である校庭の端にある石碑のところで、春の陽光を浴びて気持ちよさそうに雑談で和やかに過ごしていたが、理恵子が
  「ね~え 卒業式の前に、あなたは彼氏に何をプレゼントするの?」
と、奈津子さんに聞いたところ、奈津子さんは
  「私達、この先のことはどうなるかわからないし、バレンタイデーにチョコレートを交換しているので、気持ちだけになるかも知れないが、わたしの手造りの稲荷寿司と海苔巻き寿司を、明日のお昼に渡すわ」
と、如何にも強気な彼女らしく答えるので、理恵子も
  「わたしも、お小遣いも少ないし、それに織田君も派手なことは嫌いなので、そうするわ」
と賛成した。

 二人の会話を聞いていた江梨子は
 「貴女達、羨ましいわ。わたしには、彼氏なんていないし、つまらないわ」
と溜め息をついて言うと、すかさず奈津子が
 「江梨ちゃん、なに、言っているのよ」
 「貴女は私達より晩成の様だけど、小島君にお寿司を作って上げるのよ。 私の見るところ、貴女達は結講お似合いで、きっと素晴らしい恋が芽ばえると思うわ」
 「そして、もっと自分の気持ちをはっきりと小島君に伝えるのよ。私達も、応援するわ。ガンバッテ!」
と返事をすると、江梨子も小島君と一年間机を並べ、お互いに他愛もない会話や戯れを通じ、彼の茶目っ気や機転の素早さに心を惹かれていたいたことは事実なので、奈津子のアイデアに便上して、お寿司をご馳走することにした。  
 江梨子も、元来は話上手で性格的にも積極的なところがあり、この際、小島君の気持ちを確かめたいと考えていたところなので、奈津子の提言には素直に反応し頷いた。

 翌日3時限が終わると、理恵子は素早く織田君を廊下に呼び出し「これ食べてぇ」とお寿司の包みを差し出し、織田君が「お~ サンキュウ。 そのうち遊びに行くからな」と気持ちよく受けとってくれたが、心の中では思考が混乱していて、軽く手を握り早々と教室に戻ると、奈津子も冴えない顔をして席に戻っていた。
 一方、江梨子は弁当包みを開くと隣席の小島君が
 「江梨!お前の弁当すげえ~な。 海苔巻きお寿司なんて、今日は何か目出度いことでもあったのか?」
と首を伸ばして弁当を覗きながら言ったので、江梨子は、すかさず別に包んできた弁当包みをバックから取り出して彼の前に差し出し
 「ハイッ! 君の分も作ってきたわ。よかったら食べて・・」
と言って首をすくめて軽く笑うと、小島君は
 「オイ オイッ!珍しいことをするな。やっぱり春だからテンションが上がっているのかなぁ」
 「僕は、いつも、江梨は僕より勉強熱心で見所のある女性だと思っていたよ。お袋に似て優しいんだなぁ」
と言いながら、自分の弁当をしまい、軽く頭を下げて恭しくお寿司を手にとると、江梨子が「へんなお世辞ね。やめてよ」と返事をすると、小島君は片目をつぶって悪戯ぽくウインクしながら
 「こんなに親切にしてもらっても、君を恋焦がれたりする様なことはしないから心配しないでくれよ」
と言ったので、江梨子も負けずに「誰も心配なんかしていないわよ・・」と答えながらも、小島君の嬉しそうな笑顔をみて、彼女の心の中に存在する母性本能を満たしてくれた様に嬉しかった。

 江梨子は、下校時に思いきって小島君に
 「今日は、日本晴れで暖かく風もないので、これから河原の砂浜を散歩しない?」
と誘いかけると、小島君は
 「う~ん それも良いけれど、一体、今日はどうなっているんだい?。わかんねえなぁ」
と聞き返すので、江梨子は
 「な~んにも、特別に意味なんてないわ。ただ、しいて言えば、君に将来のことで、少しばかりお話したいことがあるの。聞いてくれる?」
と再度謎めいたことを言うと、小島君は怪訝な顔をして
 「あまり難しいことは聞くなよ。お前は小柄なくせに頭の回転が速いので、一寸、気になるけど・・。行くか」
と返事をしたので、彼女は
 「アラッ 随分の御挨拶ね。 でも、わたし、前から考えていたことがあるので、出来たら今日聞いてもらいたい気分なの」
 「それに、母さんも妹も早く君に話しなさい。と、五月蝿いくらい言っているし・・」
と答えると、小島君も江梨子の心意をいぶかりながらも、春の陽気に浮かれて河原でのデートも悪くはないと誘いに応じて、校舎の遥か下の方に眩しく光る河に二人で戯れながら歩んでいった。

 河辺にたどり着くと、二人は岩影にバックを置くと早速素足で河辺の砂浜を歩きだしたが、暫くすると、どちらともなく自然に手を繋ぎあっていた。
 江梨子の髪の毛が二人の気持ちを象徴するかの様に、心地よい微風に優しく揺れていた。
 温もりのある河辺の砂に足跡を残しながら、江梨子は小島君の勢いに離れない様に彼の手を強く握って引きずられるようにして、二人は戯れながら・・

 

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