日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

雪に戯れて (29)

2023年07月29日 17時36分12秒 | Weblog

『 親愛なる大助君に 

 先日は、地震のお見舞い電話を下さいまして、本当にありがとうございました。
 電話を頂けるなんて夢にも思っておりませんでしたので、地震の恐怖も忘れ、嬉しさが心の底から込み上げてきて、思わず泣いて取り乱してしまい済みませんでした。
 この飯豊山麓の町も、TVでは震度3と放送しておりましたが、その後、余震が数え切れないほどあり、最近では、私も地震慣れした様で騒ぎたてしませんが、これがいけないことは充分に判っております。 然し、最初の揺れは、心がちじみあがるほど怖かったです。

 大きな揺れを感じた直後、お爺さんは棚に飾っておいた愛玩のガラスの花瓶が落ちて壊れたのが癪にさわったのか、わたし達に当たり散らすように、大きな声で怒鳴る様に指示したので、ママと二人して咄嗟にテーブルの下に身を隠しましたが、そのとき、お爺さんが「頭隠さず・・」と怒鳴って、私のお尻を思いっきり叩いたので、揺れが治まったあと、お爺さんに「大助君にも触らせていないのに・・」と、文句を言ったら、お爺さんは「まだ、そんなモタモタした交際なのか」「意気地のないヤツダ」と、ブツブツ言って苦笑しておりまし。
 近頃では、お爺様まで君の顔が見えるときは人が変わったように優しくなりますが、おられないときは時々癇癪を起こし、私やママを困まられせていますが、たまにはユーモアもあり、わたしは、お爺さんの何気ない悪戯とその言葉に、私達に対する信頼感を読みとり、お爺さんの期待に添える様に、君との愛を一層深めたいと心に誓いました。

 時を経過するに従い、大震災であることがわかり、ましてや、毎日見ている飯豊山脈の裏側の福島、宮城が中心地で、こともあろうに原発事故も発生して、この先、どうなるのでしょうかね。 私には、不安だけが募り心細くなります。
 私の町では、水も農作物も汚染されていませんが、東京は放射物での汚染が大変ひどい様子で、赤ちゃんのミルクを作る水も不足していると新聞・TVで盛んに報道されておりますが、君のところは大丈夫ですか。 
 一時的でも、御家族揃って、わたしの家に避難してくれれば、大歓迎で精一杯つくしますが、こんな自分勝手な思いは許されませんよね。
 でも、被害に合われた方には不謹慎ですが、いまの私は本気でそう思っております。

 後日談ですが、お爺さんは、珍しく家に顔を見せたパパと晩酌しながら
  自然の力は、この飯豊山をも動かし、人間なんてプレートの上で蟻よりも小さく生きているに過ぎない。 どうも、長く生きていて思うことは、天変地異は概ね300年単位で起こり、歴史は60か70年位で、地球上の何処かで戦争が起こって変化するようだな。 世の中の価値観も30年単位で変遷してゆくようだ。 このように考えてゆくと、人間はミクロ的には3年が一つの節目で、経済の循環なんかその典型的な例だな。
 美代子も、3年以内に人生で大きな変化が訪れるかも知れないなぁ・・。
と、歴史と哲学が混じった様な、古臭い占い師の話みたいな事を真面目くさって披瀝したので、聞いていて可笑しくなってしまいましたが、パパは「お爺さん、悪性腫瘍の患者さんも、OP後、3年位が要観察期間で、そこを切り抜けた患者さんは健康を取り戻していますよ」と、ご機嫌とりかどうか判りませんが、話を合わせて答えておりました。
 私は、世の中には理論や経験則では理解も説明も出来ないアノマリーが沢山あるんだなぁ~。と、知らずしらず話に聞きいってしまいました。
 中でも、私の人生で劇的な変化が3年以内に起こると聞いたとき、直感で、これは君によって齎されると思いました。 
 私は、中学2年の夏、盆踊りの会場で偶然君と巡り合い、その後、何度か河のほとりでのデートを重ねるうちに波間に浮かぶ魚火の様なチラチラとした君への思いが、いつしか、マリア様の神棚で明々と灯る火の様に燃えあがってゆき、お陰様で今では誰よりも幸せな中学時代を過ごせたことを、毎朝、マリア様にお祈りし感謝しております。

 話は戻りますが、君と久ケ原駅で親しくお話することもなく別れて、池上線に揺られてホテルに帰るとき、幾つ駅を過ぎたかも気付かず、まだ顔を見たこともない奈緒さんのことが無性に気になり、帰宅後も、その影が心の闇となって、どうしても頭から離れず悩み続けました。  
 別れ際に見せた君の戸惑った様な表情を見て、私は、まだお逢いしたこともない奈緒さんに、君が思いを抱いていると瞬間的に思いましたが、彼女の気持ちを察すると、私も胸が痛みます。
 私は、彼女と親しい友達になりたいと勝手に考えており、君が彼女とお付き合いすることには反対致しませんが、唇だけは絶対に触れないで下さいネ。 私の必死のお願いです。       
 この前、私のことを、まだ、子供だなぁ~。と、お電話でおっしゃいましたが、私達、恋人同士なら、当然、私を精神的に成長させる責任が君にもあると思うんだけど。どうかしら?。 フフッ

 お彼岸を過ぎ、北国に春を告げる、梅の古木の蕾もほころびはじめたとゆうのに、お正月休みに君とスキーで滑った思い出多い裏山には、時折、名残り雪が風にチラチラと舞って、野原に落ちることもなく消え行く淡い雪を眺めては、色々な想いを巡らし、とりとめもなくペンを走らせています。
  こうして、お手紙を書いているときが、今の私にとっては心が落ち着き、一番幸せなときなのです。                     
                                            
                          大好きな大助君へ   美代子 』

 

 

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雪に戯れて (28)

2023年07月25日 08時36分55秒 | Weblog

 キャサリンは、ホテルで早く起床すると身支度を整え、朝食時、美代子に対し
 「あなた、昨晩から、何故、そんなに不機嫌なの?。母さんも切なくなるゎ」
と、節子さんの手助けを得て、気にかけていた城家への挨拶も滞りなく終えてホット息抜きしているのに、彼女の動作が遅く気になったので声をかけると、彼女は
 「ベツニ ナンデモナイヮ」
と素っ気無く答えたので、やっぱり大助君とのことで悩んでいるのかと思いながらも、病院や家事が気になり
 「学校を見学したあと早く帰りましょう」「母さんもお爺さんやお仕事が心配になので・・」
と促して、せきたてるように彼女を連れてミッションスクールを見学して簡単な説明を受けたあと、急ぎ足で帰郷の新幹線に乗った。 
 新潟に向かう途中、美代子はキャサリンの問いかけにも満足に答えず、ボンヤリと窓外の景色を見ていた。 
 キャサリンは、彼女の気持ちが大きく揺れ動いていることは容易に察しられたが、何時もの我侭と思い、日の暮れないうちに帰宅した。

 帰宅後、キャサリンは座敷でお爺さんに対し、早速、上京時の模様を丁寧に話していたが、美代子はお爺さんの
 「どうだ、東京でやってゆけるか?」
との問いかけに「大丈夫だヮ」と返事をしたまま詳しいことはキャサリンに任せていた。 
 お爺さんは美代子の様子から
 「美代ッ!何だ、元気がないな」「なにか、気に食わぬことでもあったのか?」
と、美代子の気落ちした様な態度に疑問を抱いて、再度尋ねたら、彼女は
 「お爺さん心配なさらないで、学校生活にも自信があるヮ」
と言ったあと、俯いて呟くように
 「大助君の周囲には、わたし以外にも女友達がいるみたいで、少し心配なの」
と、タマコちゃんや、耳に入れた奈緒さんのことを話したら、お爺さんは美代子の小さい根性に癇癪を起こして、改めて諭すように

 『そんなこと、当たり前だ!。お前の周囲にもそれなりの友達がいるだろう。
  いいか良く聞け。ワシがお前と大助君のために何時も気を遣っているのが判るか。
  お前みたいなアングロサクソンの血を引く女は、競争心の旺盛さや勝気は良いとしても、内弁慶でレデーフアーストをはきちがえて我儘な子は、いずれ世帯をもったとき亭主は手を焼くもんだ。
  日本では、いまだレデーイフアーストは外国ほど定着していないんだよ。
  洋の東西を問わず男と女は、何時の世も渚の潮の満ち引きの様に、互いを観察しながら時間をかけて愛を育み相手を観察したうえでゴールするんだ。
  お前の性格を考えれば、大助君の様に我慢強く、堅い信念にもとずいて自分の目的に向かい忍耐強く一途に努力する青年は、ワシの目で見て滅多にいないもんだ。
  ワシは、永い人生経験から、お前とは好相性と思って、二人の交際について自由にさせておくんだ。 
  その中には敵もおるのは当たり前で、”知仁勇”がなければ人生において成功しないんだよ。
  美代もそれに負けないように、一人よがりや我儘を謹んで、大助君と仲良くなれる様に努力すればよいのだ。
  人生は、男も女も皆が日常生活の中で幸せを求めて努力してるんだ。全てが競争なんだっ!
  診療所の跡継ぎがどうのこうのと言ったことは、お前が今から考えることではないんだ。わかるか』
と言葉を選びながら静かに話した。 

 美代子は、お爺さんの話しに益々感情が乱れて、反論する様に
 「知仁勇って、そんな古い昔の軍人の言葉なんて、わたしには判んないゎ」
と口答えすると、お爺さんは、孫娘が情けなくなり
 「要するに愛情だよ。相手を真剣に思いやる心だよ」
と渋い顔をして話すと、興奮している美代子は、なをも執拗に
 「それなら、お父さんとお母さんはどうなのよ?」「何故、別れたのよ」
 「愛情なんて言葉は信じられなくなったゎ」
と言うと声を上げて泣き出してしまった。

 キャサリンは、彼女の話に思わず我が身を省みて、自分の愛が至らなかったために尽くし足りず、夫の正雄が他の女性のもとに去って行ったのかと思うと、悲しさと寂しさがこみ上げてきてタオルで顔を覆ってしまった。
 部屋の雰囲気が凍ったように静かになると、キャサリンは気を取り直して冷静になり、美代子が自分と同じ人生を歩むことのないように、もっと彼女の教育に励むことが今の自分に与えられた天与の使命であると再認識した。
 その一方、普段、見ている美代子が、精神的には未だ成長半ばだなと心配しながらも、母親の勘で、彼女の話振りから察して、二人が身体の関係まで深く結ばれてはいないと内心では安堵の溜め息をした。

 
 キャサリンが用意した紅茶とケーキで、城家の人間模様の話から思わぬ方向に話が発展しているとき、突然、三陸沖を震源とする大きな地震が襲い、お爺さんが大きな声で
 「テーブルの下にもぐり込めッ!」
と怒鳴ったので、二人は訳もわからぬまま、リビングの大きいテーブルーの下に潜り込んだが、美代子は思わずお爺さんの足に縋りついてしまった。 
 お爺さんは両足を踏ん張り両手をテーブルについて、泰然としてTVや茶掛けの揺れを見ていたが、美代子の尻がテーブルからはみ出しているいるのを見るや、美代子の大人げない返事に腹を据えかねていた鬱憤を込めて、彼女の尻を手で思いっきり叩いたので、彼女が
 「ナニスルノ オジイサンノ バカッ!」
とヒステリックに叫んだので、お爺さんは
 「頭隠して、尻隠さずダッ」
と怒鳴り返し
 「美代ッ!、お前、ワシの足に掴まっているが、力任せなので、足が痛いゎ」
と言うと、彼女は
 「アッ! テーブルの脚立とマチガエタヮ」
と言ったあと
 「ママのお尻は、はみ出てなかったの?」「タタイテ アゲレバヨカッタノニ」
と言い返していたが、お爺さんが
 「もう、大丈夫だ、出て来い」
と言うと、キャサリンは急いでキッチンに様子を見に行ってしまった。 

 美代子は興奮がさめやらないのか、お爺さんに向かい
 「アノネッ!、わたしのお尻は、大助君でも触ったことがナイノヨ。わたしを子供扱いにしないで」
と、以前、病院で触られたことを隠して文句を言うと、お爺さんは
 「ナニ~ッ、まだ、そんな不甲斐ないことなのか」
 「キャサリン並みに立派な尻をしているが、意気地のないやつだ」
 「そんなことでは、大助君に振られてしまうわ」
と、自分の思い込みに反した彼女の行動を忌々しく思い、苦りきった顔で答えていた。 
 それでも、彼女は、内心では自分達に寄せるお爺さんの期待の大きさが判り嬉かった。

 少し落ち着きを取り戻して話をしているとき、看護師の朋子さんが慌てて居間に現れて
 「美代子さん、東京から電話よ」
と教えてくれたので、彼女はスリッパも履かずにリビングを飛び出して受付の電話にでると、大助が受話器の奥で辺りにも聞こえる様な響いた声で
 「今の地震、大丈夫だったか。東京も大きく揺れたが?」
と聞いたので、美代子は、突然の思わぬ電話に嬉しさと地震の恐怖心が入り混じり、涙声で
 「アリガトウ ダイジョウブダヮ」
と、やっと答えたが、こみ上げる涙でそのあとのことが言葉にならずにいたら、傍らの朋子さんが
 「美代ちゃん ダメョ、大助君が心配してお電話をかけてくれているのに・・」
と言って励ましてくれた。
 彼女は、自分の気持ちを抑えきれずに泣きじゃくり、複雑な思いで続けて言葉が出なかった。 
 朋子さんが、思いあまって受話器を取って彼女に代わり、当時の様子を要領よく説明したところ、彼も納得して安心し
 「ワカッタ ミヨチャンモ ヤッパリ マダ コドモダナ」
と受話器の奥で言っているのが聞こえたので、彼女はその言葉が気にかかり、朋子さんから受話器を取り返して
   「ワタシガ オトナニナレナイノハ collective responsibility to you!」(キミニモ セキニンガアルヮ)
と、心の中を朋子さんに悟られたくなく、ムキになって咄嗟に思い出した英語で叫んでしまった。
 
 それまで、彼女の心の中で、漁火の様にちらついて心の闇となっていた、奈緒やタマコの影が、彼の声で瞬間的に甦り、地震の恐怖を忘れさせるほど強く心を刺激し、我慢の限界を超えて、思いのたけを一気に吐き出す様に言い返すと、大助は思わぬ反論にビックリしたのか暫く無言でいたが、キャサリンが聞きつけて駆け寄ってきて、大助君に上京時のお礼を言って受話器を置いたあと、美代子に対し
 「そんな出鱈目な英語は通じナイヮ」「失礼なことを言って・・」
 「東京へ行ってから、大助君のお荷物にならない様にしてネ」
と、何時も見られない強い調子で言い聞かせていた。
 美代子は、タオルで泣き顔を隠して「ワカッタヮ」と言って、駆け足で自室に篭ってしまった。

 

 

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雪に戯れて (27)

2023年07月19日 11時46分19秒 | Weblog

 美代子やタマコとの話に夢中になっている大助に、廊下から珠子が
 「大ちゃ~ん。そろそろ、美代子さんのお母さんと節子小母さんがお帰りになるわよ~」
と、手招きして呼んだので、大助達三人がワイワイお喋りしながら家に入り、彼がキャサリンと節子さんに笑顔で挨拶すると、キャサリンは大助に高校入学の祝意を述べたあと
 「春の連休には是非遊びに来て下さいね」「お爺さんも、貴方が来られる日を楽しみにして待っているわ」
 「もしも来られないと、お邪魔したのに君をお誘いしなかったのか。と、私がお爺さんに怒られてしまうゎ」
と、笑いながら話すと、タマコちゃんがすかさず、ピョコンと頭を下げてお辞儀をして、はにかんだ顔で
 「小母さんの金色の髪と宝石のような青い目が、映画やグラビヤの写真で見る様に素敵ダヮ」
と、ウットリとした目で見つめながら、見た感じをそのまま素直に言ったので、キャサリンが微笑みながら
 「オヤオヤ 可愛い貴女にも褒めていただいて・・、ありがとうネ」
と、節子さんや孝子さんと顔を見合わせて笑いながら言うと、タマコちゃんはニコッと笑ったあと
 「わたし達、今日から美代子姉さんとお友達になったの」
 「これからは、大ちゃんは英語が余り得意でないので、お姉ちゃんに教えて貰うことにしたの」
と、嬉しそうに話をした。
 傍らで緊張して座っている大助が、タマコちゃんが余計なお喋りをしなければよいがと気を揉んでいるのを気にかけず、今度は美代子に向かって親しげな目で、とっておきの秘密話を友情になった印として教えてあげるつもりで
 「アノゥ~ お姉ちゃん。 大ちゃんとお話するときは、お兄ちゃんの目をよく見ていてネ」
 「お兄ちゃんが、目をパチパチしたり、片目でしきりにウインクをしているときは、話が本気で無いことがあるのョ」
 「わたし、何度も、オダレラレテ いい気持ちになり、お菓子を騙し取られたので、気をつけてネ」と、経験談を得意げに話すと  
美代子は、タマコちゃんの話に可笑しくなって愉快そうに笑ったが、大助だけはやっぱり余計なことを。と、渋柿を食べたような顔で苦笑していた。

 それでも、珠子は少し緊張気味の美代子に対して
 「この子は近所のミツワ靴店の娘さんで、お爺さんはこの町でも有名な腕は確かな職人さんだが、女物は絶対に手にしないことで評判の頑固なお爺さんなのョ」
 「それなのに、何故か、大助は可愛いがられているのよ」
 「今年の春ころには、大助がタマコちゃんに調子よく話して頼み、理恵子さんの靴を修理して貰ったのよ。しかも無料で・・」
と話すと、タマコちゃんは、その時の話を想いだしたのか
 「あのとき、お爺さんは、翌日、熱を出して寝込んでしまったヮ」
 「お婆さんが、氷嚢をしてやりながら、お爺さんに、やりつけないことをした罰が当たったのよ、イイキミダワ。と、言って口喧嘩していたヮ」
と付け足して話したので、またもや、一同が笑い出したが、美代子だけは如才のないこの子は、やがて自分にとって恋敵になるのかしらと、チラッと不安な思いが心をよぎった。

 美代子は、キャサリンに強く促されて名残惜しそうに城家の玄関をでたとき、珠子さんが彼女の気持ちを察して
 「大ちゃん、駅まで送ってあげなさいょ」
と声をかけると、大助もウズウズしていたのでサンダルをひっかて玄関を飛び出し、珠子が母親の孝子と揃って玄関に出ると、皆の様子を見ていたタマコちゃんも
 「わたしも駅まで送って行くヮ」
と言って二人について来て、大助が中になり美代子とタマコの三人が手を繋いで駅に向かった。
 歩きながらキャサリンが、珠子に
 「美代子が、貴女と理恵子さんに何時でもお逢いできるところにおられるので、わたし、今までの心配が嘘の様に晴れて、すっかり安心しましたヮ」
 「美代子には遠慮なく都会の暮らしについて色々と教えて下さいネ」
と話して、美代子が上京後、彼女の相談相手になってくれるようにと、母親の心遣いから懸命に頼んでいた。

 美代子は歩きながらも、大助に顔を近ずけて呟くように声を潜めて
 「君と二人だけで色々お話したかったけれども、それも叶わず、なんか、心残りだヮ」
 「珠子お姉さんに、君からも私達のことをもっと積極的に話しておいてよ」
と、少し不満そうに言うと、大助は
 「僕達のことは、例え姉や周りの人たちがどの様に思うと関係なく、今迄通り付き合っていれば、自然と理解してもらえると思うょ」
 「まぁ~、これからも、こんなことが、しばしばあるかも知れないけれども、来月東京に来たら、成るべく二人だけの時間を作るようにしようよ」
と、囁くように答え、握り合う手に力を入れて慰めてくれたので、彼女も救われた気持ちになった。

 駅の近くに差し掛かると、健ちゃんが、昭二と六助を連れだって歩いてきたのに出会い、健ちゃんはキャサリンに「お正月には大変お世話になりました」と丁寧に挨拶したあと、昭ちゃんに
 「オイッ! 珠子さんも一緒だし、お前も駅まで行ってやれよ」
と彼の背中を押すと、珠子さんが昭ちゃんに
 「居酒屋さんに行くの?、楽しそうで羨ましいゎ」「たまには私もカラオケで愉快になりたいゎ」
と、健ちゃんの冷やかしの声を遮って先に語りかけたので、健ちゃんは「いやァ~、ヤラレタァ~」と苦笑いし、今度は、大助に「両手に花でモテルナァ~」と矛先を向けたら、美代子が
 「アラッ 健お兄さん、お久しぶりネ」「来月から、東京に来ますので、わたしと大ちゃんの交際を援助してネ」
と、笑いながら話かけたたら、タマコちゃんも「わたしも、オトモダチニなったので・・」と得意そうに話したので、健ちゃんは
 「そうか、良かったなぁ。俺はタマちゃんの友達になることはゴメンだよ」
 「クワバラ クワバラだ。お前のお爺さんに怒られると困るしなァ~」
とからかいつつも、内心では大助に好意を抱いていることを薄々知っていて、時たま自分の店を手伝ってくれる、居酒屋の奈緒ちゃんのことが気になり、大助に
 「奈緒ちゃんに逢わないうちに早よう行け」
 「イイカッ! 美代子さんとは友達以上恋人以下を守れょ。奈緒ちゃんの気持ちも考えてなぁ」
と思わず口走ってしまった。

 美代子は、健ちゃんの一言に反応して、またもや、初めて耳にした奈緒とゆう名の女の子のことが気になり、大助の横顔を覗き込んだら、彼は
 「気にしなくてもいいだんよ。単なる同級生だよ」
 「彼女にも君とのこともある程度話してあるし、彼女も僕達のことを知っているし・・」
と、そっと小声で言ってくれたので、彼女は気を取り直して、東京に来れば田舎の街とは違い、彼の周囲に女友達がいないほうが不自然であり、色々な人が自分の前に現れるだろうけれども、自分は今まで通り大助君一筋に、彼を信じて何処までもついてゆこうと改めて心に誓った。
 美代子は、改札口に入っても、何度も大助の方を振り返りながら名残惜しそうに手を振り、ホームの人影に消えていった。 
 珠子とタマコも、手を振って答えていたが、大助は訳も判らぬ寂しい気持ちがこみ上げてきて、唯、腕を組んで彼女の姿が見えなくなるまで見送った。
 

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雪に戯れて (26)

2023年07月15日 13時23分51秒 | Weblog

 大助は、隣に寝そべって漫画本に笑い転げているタマコちゃんの愛用の布袋からお菓子を取ろうとして、漫画本に夢中になって布袋に手を伸ばしたところ、彼女の胸をまさぐる様に偶然手が当たり、不意をつかれた彼女がビックリして
 「ナニヨッ エッチ!」
と声を上げて彼の頭を叩いたので、彼は
 「イテテッ マチガッチャッタ ゴメンヨ」
と彼女の手を払い、彼女が
 「今度は、何が欲しいの、もう、お煎餅しかナイヮ」
と言ってお煎餅を出して渡すと、彼は相変わらず本を見ながら美味そうにパリパリと音をたてて食べていた

 珠子は、二人の仕草を見ていて呆れてしまい、美代子の顔を覗き気まずそうに苦笑して
 「ホレッ!ごらんの通りで、高校に進学するとゆうのに、あの有様ょ」
 「なんだか、頼りないようで悲しくなっちゃうゎ」
と呟くと、美代子は
 「そんなことないゎ」
 「わたしには、歳下の女の子を相手に上手に遊んであげている様に思え、彼の優しさがよく判るゎ」
と、珠子の弟思いの優しい心を察知すると、それまでの珠子の対する恐怖心を忘れるかの様に、彼を庇って笑い、珠子さんのサンダルを借りて、忍び足で彼に近寄っていった。

 大助は、本に夢中になっていて、美代子が近ずいて来たことに気ずかずにいたが、タマコちゃんが突然スットンキョウナ金切り声で
 「ダイチャン!大変だア!!」
 「外国の女優さんがコッチに近寄って来たヮ」
と叫んで、周囲をキョロキョロ見回して
 「ネ~ェ 大ちゃん、わたし達、映画かテレビにでも写されているの?」
と、ビックリして落ち着かない目をして彼に聞いていたところ、美代子が笑いながら静かに彼の傍らにしゃがみ込んで
 「大ちゃん、今日わ。面白そうな本を読んでいるのネ」
と聞き、タマコちゃんにも愛想よく微笑んで
 「わたしも、お仲間にいれてネ」
と言ったので、彼も驚いたような顔つきで
 「アレッ! いつ来たの?。今日来るとは聞いていたが、時間までは・・」
と返事をしながら、読んでいた本を慌てて閉じると恥ずかしそうに苦笑いした。

 美代子は、足を横崩しにしてスカートのはしで膝を隠して彼の傍らに腰を降ろすと
 「明日、ミッションスクールの入学説明会や寮の見学に行くの」
 「その前に、お爺さんの言いつけで、君のお母さんと珠子姉さんに御挨拶に寄せてもらったのょ」
 「母と節子小母さんは、お部屋でお話しているゎ」
と、上京目的を説明したあと続けて、青い瞳を輝かせて
 「これで、君の親も認めてくれた、お友達になれるのょ」「わたし本当に嬉しいわ」
と、彼に一層身体をすり寄せて微笑んで言うと、その話しぶりに安心したのか、傍で聞いていたタマコちゃんも人なつこく恥ずかしげに
 「ワタシ タマコ トユウノ ワタシモ オトモダチニ シテネ」
と、愛嬌のある可愛い顔で自分を紹介していた。

 美代子が、「イイワヨ ナカヨクシマショウネ」と、タマコちゃんの手をとって親しみの篭った優しい声で返事をして
 「いま、なんの本を読んでいたの?。面白そうに笑っていたじゃない」
と、タマコちゃんを誘い込む様に問いかけたところ、人なつこいタマコちゃんは
 「お姉ちゃん、スゴーク綺麗だけれども、何処の国のひとなの」
と聞いたので、彼女は
 「イギリスョ、だけど、私は日本人ョ」
と答えたら、タマコちゃんは判った様な判らぬ様な顔をしていたが、大助が
 「ソンナ目で俺を見るなよ。ホントウダヨ」
と言うと、お茶目な彼女らしく 
 「お姉ちゃん、”恋ばな”って知っている?」
と、彼等の意表を突くように思いもよらない質問を浴びせ、続けて
 「わたし達、同級生の女の子が集まると、必ずこんな話でワ~ァ ワ~ァ騒ぎだして、賑やかになるんだけれども」
 「大ちゃんは、全然、判らないので、いま、わたしが、本で教えているのョ」
と、漫画本を見せながら話したので、美代子は
 「アラッ ソウナノ。 鼻下に少し髭も生えているのに困ったお兄ちゃんね。今度は、わたしも、教えるようにするゎ」
と、やっとの思いで答えると、好奇心旺盛なタマコちゃんは、なおも探求の手を緩めず、あどけない顔をしながらも
 「アノゥ~ お姉ちゃん、大ちゃんとキスをしたことある?」
と聞いたので、美代子は彼女の鋭い質問に躊躇したが
 「ウ~ン チョコットネ」
と言いかけて、彼の頬を突っいて、小さい声で囁く様に
 「話してもイイカシラ」
と聞いたので、彼は首を横に何度も振ってダメッと合図して
 「タマちゃん、僕達はそんなこをしていないよ」
と、慌て気味に言ったところ、美代子は彼の横腹を強くつねったので、彼は
 「イテ~ェッ! たとえ相手が小学生でも正直に話すことないじゃないか」
と言うと、美代子は
 「アラッ 私達の間では、恥ずかしいことではないと思うけれども・・。嘘を言うことは良くないゎ」
と、ムットした顔で反論したが、タマコちゃんの二人を見ている観察眼は鋭く
 「いま、大ちゃんの顔が茹蛸の様に赤くなったヮ」「ワタシ キイ~チャッタ キイチャッタ」
と叫んで手を叩き、獲物を獲った様に喜んだので、彼は
 「タマちゃん、外国の映画にあるように、お姉ちゃんの生まれたイギリスでは、挨拶代わりに当たり前のことなんだよ」
 「だけど、日本では違うんだよ」
 「このお姉ちゃんの言ったことを勘違いして、珠子姉ちゃんやほかの人には絶対に言うなよ」
 「タマちゃんを信じているからナッ!」
とヤットの思いで抗弁すると
 「タマちゃは可愛いお姫様だョ」「今度、多摩川遊園地に連れて行ってあげるからサ」
と、精一杯御機嫌をとってタマコちゃんの思考を撹乱しようと、心にもない思いつきのお世辞を連発して、美代子の話を否定するのにやっきになって答えていた。

 美代子は、彼の汗だくの弁解を聞いていて、彼の周囲の人達の前では、性については、そうゆうものかと、案外、開放されていると思っていたが、実際は自分の考えていたこととは随分乖離があると思い知らされ、それ以上彼とタマコちゃんの話に口を挟むことはしなかった。
 タマコちゃんは、大助の説明に納得がいかず疑わしい目をしていたが、彼の巧みな話に吸い込まれ、二人の顔をジーット見つめていた。
 美代子も、陽気で純真なタマコちゃん相手なら、今後も二人の仲を心配することはないと気が安らいだ。
 

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雪に戯れて (25)

2023年07月13日 04時58分22秒 | Weblog

 2月の末にしては珍しく続いた晴天も、3月に入ると寒気が舞い戻り、雪深い飯豊山麓にある美代子の住む街は、連日、重苦しい鉛色の雲が空を覆い、朝晩の冷え込みも例年並に厳しい。 
 診療所の朝は、春夏秋冬変わることなく毎朝5時、お爺さんが二階の仏間でリズミカルに打ち鳴らす団扇太鼓と鐘の響きにあわせて読経する”南妙法蓮華経”の朗々とした声を、まるで合図にした様に皆が動き出す。
 卒業式を間じかに控えた日曜日の朝。 読経を終えたお爺さんは、キャサリンと美代子を仏間に呼びよせ、何時もの厳しい顔つきで、緊張して正座しているキャサリンと美代子の前に、二通の白い封書を大事そうにだした。

 その一通には、
 自分の晩年において、キャサリンと美代子の二人の人生に夢と希望を叶えさせるべく尽力することが、自分の余生に残された責任と願望であり、日夜、彼女等の幸せを考えて心を砕き過ごしていること。
 更に、何故か孫娘の美代子と親しくなった大助君が自分の孫の様に思えて可愛いくてたまらない。
と、正直な思いを、旧漢字をまじえて丁寧に毛筆の行書でしたためた、大助の母親孝子宛てのものである。

 老医師は、孝子宛ての白い封書に添えて置いた別の封書には、上京の経費を入れておいた。
 彼は、腕組みして二人の顔を見ることもなく視線を落として、ゆっくりとした静かな声で、キャサリンに
 「ワシが言うまでもなく、節子さんにお世話になるのだから、貴女が全ての経費を負担しなさい」
 「ホテルは上京の都度使用している品川のホテルを予約して宿泊すること」 
 「美代子は、入校案内書により学校の説明をよく聞き、大助君の家では礼儀正しく姿勢を正して挨拶し、例え大助君がいても絶対に我侭を言わないこと。判ったね!」
と、古風なお爺さんらしく二人に細々と注意を言い聞かせた。
 キャサリンは緊張した面持でいたが、美代子は普段と変わらぬ表情で黙ってきいていたが、頭の中では早くも大助君の姉珠子さんに対して、どの様に自分の気持ちを話せば、彼との交際を理解して認めてもらえるか。と、そのことばかりが頭をよぎり、その際の言葉を思いめぐらせ、学校施設の見学や入学案内にはあまり関心をもたず思案していた。
 老医師は、二人が緊張していることを察知するや、出発にあたり、これはいかんと思い直し表情を崩して
 
 一通り上京の目的を果たしたら、美代子の生まれた病院やキャサリンが正雄と結婚式をあげた教会、それに当時家族で住んでいた街を歩いて回り、更に浅草寺の観音様をお参りし受験の祈願をしたあと好きな所を適当に遊んできなさい。
 東京の雰囲気を少しでも知ることは美代子のためにもなり、キャサリンも往時を懐かしんで散策することは、日頃の鬱積した心が癒さるよ。学会で飛んで歩く正雄とは違い、この様な機会を利用して外の空気をすうことは家庭の主婦としては精神的に大事なことなんだよ。
 大助君の時間が取れれば、孝子さんの許しをえて一緒に遊んできなさい。
 節子さんは君たちより一足早く帰るらしいわ。
 まぁ 滅多ににない機会なので家のことは気にせず、四・五日気儘に東京を楽しむんだなぁ。 君が留守にすることで、正雄も妻の有難味が身に染みて判り、皆がハッピーだわ。
と、彼女等が予期しないことを言って緊張気味の心をほぐし喜ばせ、更に
 ワシのことは心配せんでいい、賄いの人に面倒見てもらうし、それに、健太郎さんとも時折行き来して、五月蠅い美代子から離れて呑気にさせてもらうわ (アハハッ)
と愉快そうに笑って言葉を添えた。

 上京の朝。 美代子は、着てゆく洋服のことでキャサリンと少しもめたが、結局はキャサリンの言うことを聞き入れて、上下がグレーの中学校の制服にすることにした。
 その頃、節子さんが玄関に現れて、車中で履き替えると言って手提げの紙袋に入れたハイヒールをキャサリンに見せたので、キャサリンも真似てハイヒールを用意したので、美代子も
 「わたしも、ハイヒールにするヮ」
と下駄箱から出して手にすると、キャサリンは冷たく感じる声で
 「貴女は、中学生なのでパンプスにしなさい」
と言って、彼女から靴を取り上げて下駄箱に戻しパンプスを渡すと、美代子は不満そうに
 「中学生だとどうしていけないの。そんな理屈は大人のエゴだゎ」
 「これでも、カッコ イイと褒めてくれる人がいるので、余計な御心配をなさらないで・・」
と言い返していたが、節子さんに言われて渋々ながらパンプスを用意した。
 お爺さんは、玄関先での二人のやり取りを苦々しい顔で一部始終を見ていて、出発前からこの有様では。と、心配でならなかった。

 職員の運転する車で駅に送ってもらい、母やキャサリンが用意してきた靴に履き変えて車中の人になったが、美代子は新潟駅で新幹線に乗り換えると窓外の雪景色を眺めながら、姉の珠子さんや大助君にどの様に話そうかと緊張と楽しさの入り混じった複雑な思いで移りゆく景色を眺めて思い巡らせていた。
 そんな美代子に、キャサリンが小さい声で
 「美代ちゃん、貴女、子宮頸癌の予防接種を何時するの?」
と尋ねたら、彼女は
 「わたし、そんなの必要ないヮ」「副作用もあるらしいし、嫌だゎ」
と澄ました顔で答え
 「ヘンナコト キカナイデョ」
と言って不機嫌に答えたあと顔を背けてしまった。
 親子の会話を聞いていた節子さんが、キャサリンの耳元で囁く様に
 「理恵子も、していないようだゎ。よく言い聞かせておいたのに・・」
と、キャサリンに小声で言うと、キャサリンは
 「この子は、まだ精神的に幼く衛生観念がないのかしら・・」
と困ったような顔をしてうなずいていた。
 二人は美代子の手前それっきりこの話はやめてしまった。

 途中経過した越後湯沢は、報道通り豪雪であったが、関越トンネルを過ぎると、窓外が、雲ひとつ無い青空で、心も景色同様にパァ~ツと明るくなり、赤城山や噴煙がかすかに立ち登る浅間山が見えて、三人の表情も自然と明るくなった。
 キャサリンは節子さんと、城家の人間模様とか街の雰囲気等、理恵子さんの生活振りを交えて会話し、自分を落ち着かせるために熱心に聞いているうちに東京駅に到着した。

 東京駅には、理恵子さんが迎えに来てくれていたが、美代子を見つけると走りよって来て
 「少しの間、お逢いしないうちに、もう、すっかり高校生らしくなったわネ」
と笑顔で迎えてくれたので、美代子も
 「理恵姉さんも、見るたびにず~と綺麗になり羨ましいゎ」
と挨拶代わりに話し、美代子は理恵子の言葉で、それまでの緊張感が少しほぐれて、二人は腕を組んで駅構内を歩んだ。
 理恵子の案内で池上線の久が原駅につき、城家にお邪魔すると、節子さんが予め話しておいたのか、孝子さんと娘さんの珠子さんも愛想よく迎えてくれ、型通りに丁寧に挨拶した後、キャサリンが、美代子が大助君に大変お世話になって以来、生活が前向きで明るくなった旨をありのままに簡潔に話してお礼を丁寧に述べて、お爺さんからの手紙を差し出し、お爺さんも大助君をまるで自分の孫の様に可愛がっていることを話した。
 理恵子は、予め節子さんから上京の理由を知らされていたので、その場を和ませるべく珠子と二人して気配りして、会話の合間に都会での若者の生活振りを説明していた。

 孝子さんは色白な丸いふくよかな顔に笑みをたたえて、キャサリンの話に対し
 「アノ 大助がネ~ェ」「親の欲目かも知れませんが、高校生になるとゆうのに、なんか、子供ぽさが抜けないで・・」
 「果たしてこの先、お宅のお嬢様とお付き合いしてゆけるかしら・・」
と答えながらも、推薦で都立高校に入学することになったと話していた。
 キャサリンは、孝子さんの話しぶりに、自然と人を包み込むような、穏やかで優しい不思議な魅力を感じ、これが、長年都会で看護師長として勤め上げてきた人の、洗練された人間性のなせる業かと感心し、それまで緊張していた神経が一辺にほぐれて、自分もこのようにありたいと、その人柄が羨ましく思え、それからの会話にスムースに入ることが出来た。
 珠子は両親や節子さんの会話を黙って聞きながら丁寧な手付きで茶菓を用意していた。
 彼女は美代子に対し親しげに「アナタにはコーヒーを入れましょうか」と笑みをまじえて話してくれ、美代子はその一言で心配していた危惧が一変に払拭され普段の自分を取り戻した。

 孝子さん達が、雰囲気に和み、それぞれの生活や子供等のことを、時には冗談を交えながら笑って話し合っている隙に、美代子は思いきって珠子さんに
 「大助君は?」
と、彼の姿が見えないことが気になり、遠慮気味に小声で尋ねたら、珠子さんが心よく廊下に招いてガラス戸越に庭を指差すと、彼が芝生に茣蓙を敷いて寝そべって、キャッ キャッと笑い声を上げている女の子と並んで、時々、二人が示し合わせた様に脛を上げ下げしながら足で芝生を叩き本を見て笑っている姿が目に入った。
 
 大助は、美代子さんが訪ねてくる時間を知らされていないとみえて、早春の陽ざしを浴びた芝生にうつ伏せになって、何時も遊びに来ている近所の小学5年生でお茶目なタマコちゃんと、二人して愉快そうにお菓子を食べながら本を読んでいた。

 

 

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雪に戯れて (24)

2023年07月09日 04時49分45秒 | Weblog

 健太郎夫婦は、老医師の外見からは伺い知れぬ、人生や家族問題等の秘めたる苦悩を聞かされて強い衝撃を受け、適切な返事を返せぬまま、健太郎は「ハイハイ」とか、ときには「ウ~ン」と深い溜め息を漏らし、只管、一方的に聞くのみで、節子さんは、目を合わせることもなく、俯いて静かに聞き入っていた。
 健太郎は、節子さんが座をはずした隙に、沈んだ雰囲気の間を埋めるように、これ迄人に対して口にしたことのない、自分達夫婦の若き日の出会いと、結婚にいたるまでの不運な出来事を、年配の老医師に告白する様にポツポツと回顧する様に話していた。 

 節子さんは、重苦しい雰囲気を少しでも和らげ様と思い、老医師の好物であるお酒とブリの刺身に野沢菜漬けを用意してきて、二人にお酌をしてあげながら
 「先生、あまり思いつめない方がよろしいですヮ」
と静かに言いながら
 「理恵子も、高校生のとき母親を癌で亡くし、私の高校時代の先輩でもあった亡母の秋子さんの遺言で、私達の養女として、曲がりなりにも、なんとか今日まで育てて来ましたが、彼女がそれなりに現実を正しく認識していたことで、相当助けられましたゎ」
と老医師に同情するかの様に家族関係を話したあと、言葉をついで
 「それに、理恵子も小学生のときから、母親に連れられて、この家に遊びに来ていて家の中を知り尽くし、夫にもなついていたこともあり・・」
と、簡潔に説明したあと
 
 「先生もご承知の通り、いまの世の中は、私達の時代と違い、価値観が大きく異なり、それだけに、先生に御満足いただけるお手伝いは自信が有りませんが、夫ともよく相談をして、私達で出来る最良の方策は何かを考えて精一杯努力致しますヮ」
 「唯、わたしの直感で申し上げれば、美代子さんは歳頃の女の子になり自然の成り行きですが、現在、東京の大助君に熱い思いを抱いているようだし、将来はともかく、いまは、その思いを充分に満たしてやることが、彼女にとって、何にもまして大切な精神的な支柱であり、そのことが彼女の生活や勉強の励みにもなると思いますが・・」
と話すと、老医師も同感したようで、初めて笑みを浮かべ、節子さんに対し
 「貴女は、何時見ても歳相応に美しく、若い時の精神的な苦労を微塵も表情に出さず感心しとるわ。老いたりといえども、健さんが実に羨ましいよ」
と言いながら、健さんの顔を見て、いたずらっぽくニヤット笑った。
 節子さんは、老医師の言葉に戸惑って
 「先生、また、お酒の勢いで御冗談をおっしゃって・・。恥ずかしいですヮ」
と答えて少し顔を赤らめた。 

 彼女は、遠慮する老医師を車で診療所に送り届け、玄関に出迎えに出たキャサリンに、何事も無かったかのように、いつもの自然な態度で
 「美代ちゃんは、今日も、変わりなく学校に通っていますか?」
と聞いたところ、キャサリンは
 「はい、表面的には元気にしておりますが、時々、早く東京の学校に行きたいヮ。と、漏らしているところをみると、心此処にあらずといったところでしょうかねえ」 
 「私も、彼女につられて、気持ちだけが先走って落ち着かない毎日ですゎ」
と、苦笑いしながら話していた。
 節子さんは、キャサリンの若き日の悲しい出来事が脳裏をよぎり、彫りの深い美しい顔に秘められた、女の哀愁をしみじみと感じた。

 数日後。 節子さんは、診療所の休憩時間を利用して、老医師に対し
 「あのぅ~、先日のお話の御返事にもなりませんが、美代子さんと大助君が双方の親の承諾の上で友達付き合いをしていることを、周囲の人達に、きちんと説明できる様にしてあげた方が、本人達の自覚を促すためにも宜しいんでないでしょうか」
 「幸い、大助君の母親の孝子さんは、私と同郷で高校や看護師学校の後輩でもあり、理恵子を下宿させるときにも、交際していた織田君との関係もあり色々とお願いしておきましたが、孝子さんも現役の看護師で経験が豊富で人を見る目が肥えており、安心してお任せできると思いますが」
 「先生の御承諾をいただけるなら、入学前に、私が美代子さんを連れて上京して、孝子さんに紹介方々、これまでの事情を詳しく説明して来ても結構ですが」
 「娘の理恵子も、美代子さんのことについては、帰郷するたびに顔をあわせており、二人の関係を知っているので、美代子さんが休日に大助君の家に遊びに行ったときにも、心おきなく話し合えると思いますので」
 「それに、なんと言っても、私達の年代と彼女とでは、生活感覚とか体の発育に伴う貞操観念等の価値観が異なりますが、理恵子は美代ちゃんと年齢も近く話しやすいと思いますので・・」
と話をしたところ、老医師は
 「実は、ワシもキャサリンに一度先方の親御さんに挨拶しておこうと話あっていたところなのですが・・」
と答えて
 「貴女には、御面倒かけますが、是非、その様にお願いしたい」
と言ったあと
 「流石に健太郎御夫妻だ。確かに言われる通りです」
と快く納得して丁寧に頭を下げた。
 節子さんも
 「お見合いではないし、大袈裟に構えることなく、当面、双方が気楽に話し合える環境を作り上げることが、二人のために良いと思いますので・・」
と言って口に手を当てて笑い返したら、老医師も満足そうに声を出して笑った。

 その夜、節子さんは、久し振りに健太郎に愛されて身も心も高揚し、甘えの気分もあり
 「貴方、美代子さんのことも大事ですが、理恵子をどうしますか?」
と聞いたら、健太郎は
 「どうって、どうゆうことだ」
と答えるので、彼女は少し不服そうに
 「貴方は、相変わらず女性の心理に疎いのネ」「あの子は、とっくに大人になっているのョ」
 「わたしの目で見て、あの子はすでに織田君と結ばれていると思うヮ」
 「理恵子の体つきや落ち着いた仕草を見ていても判るでしょう」
 「よく耳にする、出来ちゃった婚なんて、わたし絶対に嫌だゎ。結婚式のことを考えておいて下さいネ」
と言うと、彼は少し心が動揺したのか
 「まさか?。自分にはその様に見えないし、大体、二十歳になるまでは、例え愛し合っていても口ずけ以外は駄目だよ。と、言ってあるし・・」
と言い張るので、彼女は
 「いまは、時代も体の発育や価値観も違うのョ」
 「貴方の娘ですョ。そんな呑気なことを言わないでョ」
 「私の青春を涙で曇らせたくせに・・。あの子には悲しく惨めな思いはさせたくないゎ」
と、彼の身体に縋りつきながらも、続けざまに思いを話した。
 健太郎は
 「そんな古傷に今更触れるなよ」「アヤマッテ イルダロゥ~」
と、段々と細くなる声で言いながら、老医師との昼酒の軽い酔いのためか、やがて、くるっと背を向けて小さな寝息をかいたので、彼女は背中に頬を寄せ「ワタシ シワセダヮ」と呟いて眠りについた。
 

 

 

 

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雪に戯れて (22)

2023年07月08日 03時57分40秒 | Weblog

 大助達が帰京する日の朝。
 外は厳しい冷気に満ちていたが風もなく、雲一つない透き通る様な快晴で、美代子は母親のキャサリンと節子さんと共に、彼を見送るために温泉宿に向かった。 
 途中で、美代子はキャサリンの肩に手を当てて促すように笑顔で 
 「お母さん、ほら、珍しくダイアモンドダストがキラキラと瞬間的に輝いて綺麗だヮ」
 「大ちゃんにもう一晩泊まってもらい、この美しいダイアモンドダストを見せてあげたかったゎ」
と、昨夕彼を宿に帰したことを残念がり、感嘆しているうちに宿に到着すると、寅太達の三人組が上着を脱いで鉢巻姿で顔を紅潮させて、入り口の除雪や健ちゃん達の車を洗車していていた。 
 彼等は、車から降りた彼女を見るや明るい笑顔で元気よく朝の挨拶をしてくれたが、美代子はチョコット頭を下げて笑顔をも見せず無言でキャサリンと節子さんの後について帳場に入った。

 キャサリンが、宿の帳場で管理人のお婆さんに朝の挨拶をしたあと、大助が予約の宿泊が出来ず迷惑をかけたことについて、丁寧にお詫びを述べていたが、そのあと、節子さんも話に加わり、お喋り好きなお婆さんと、お巡りさんが訪ねて来たときの健ちゃん達の慌てた様子等を面白可笑しく話題に、お茶を飲みながら宿の近況をまじえて、世間話に花を咲かせていたところ、健ちゃん達が笑い声を廊下に響かせて玄関に現れた。
 健ちゃんは、帳場の受付口で宿泊代等の精算をしたあと、節子さんとは、以前、東京で娘さんの理恵子さんの紹介で逢って顔見知りのことから、キャサリンも交えて自分達町内の世間話と理恵子さんの様子等を話していた。

 美代子は、母親達が話している隙を見て、大助を宿の入り口脇にある応接室の隅のソファーに誘うと、紙袋に入れた赤茶色の毛糸のネクタイを少しのぞかして見せたあと直ぐに袋に入れて、彼に小声で
 「これ、わたしが手編みしたものょ。まだ、練習中で目が揃っていないが、遊びのときに使ってネ」
 「わたしが、男の子に初めてプレゼントするものョ」「手編みしているときの気持ち、少しでも判ってネェ~」
と言って、紙袋を渡すと襟巻きを膝にかぶせ、その下でソット彼の手を握り締めた。 
 大助は周囲に気配りしながら
 「アリガトウ 気持ちは今でもよく判っているよ」
 「3月には東京のミッションスクールに来るんだろう、そのときには逢えるので楽しみにしているよ。それまで元気でお互いに頑張ろうよ」
と言って、健ちゃん達の目に触れないように気を使い、握り締めた手に力をこめて握り返し、笑顔で答えていた。

 健ちゃん達は、キャサリンから、お土産のお米や北限の地場産であるお茶に山菜の漬物等を、遠慮しながらも恭しく受け取り入り口に出たところ、例の三人組が除雪や洗車の手を休めて並んで元気よく挨拶したので、健ちゃんは
 「オイオイ あんまり飛ばすと、後で息切れするぞ」「中学卒業後は高校に進学かい?」
と聞くと、彼等は真面目くさった顔でそろって口々に 
 「俺らは、勉強は自慢じゃないが同級生から3周遅れだよ。大体、勉強なんて余り好きではないや」
と答えると、駐在所の三男坊の背丈の低い小太りの三太が
 「先生の勧めで、街の介護施設の補助員にきまり、仕事の手伝いをしながらヘルパーの勉強をすることにしたよ」 
 「力仕事や部屋の掃除それに汚れ物のかたずけなら、人に負けないよ」
と、はにかんで喋ると、寅太は
 「これ、俺達が授業をサボッテ山や川で採った山菜の漬物と山葡萄の原酒と鮎の粕漬けだけど、もらってくれないかな」 
 「いまの俺達には、これ位のことしか出来ないが・・・」
 「俺は、授業中散々迷惑をかけた担任の山崎先生が今春退職して、地元で開店する雑貨屋の店員をすることに決めたわ」
 「俺を雇ってくれるなんて、先生の有り難さが、やっと判ったわ。頑張って先生に恩返しするよ」
と、中学卒業後の進路について、こもごも屈託無く説明して笑い、袋に入れたお土産を差し出したので、健ちゃんは、彼等の余りにも変わり様に内心ビックリして、心からこみあげる感動を無理矢理抑えて言葉を捜しながら言語明瞭に自信に満ちた力強い声で
 
 「珍しいものをアリガトウ。 お前達は根性があり、きっと立派な介護士や店員になれるよ、初心を忘れずに頑張れよ。
 勉強の出来る奴だけが世の中で立派になるとは限らず、ビリで卒業して大きな会社の社長になった人も大勢いるよ。
 体力の弱ったお年寄りを助ける仕事は一番大切な仕事だよ。思いやりをもってなぁ・・。
 世の中は人々が様々な仕事を通じて成り立っているんだ。
 俺達の様に八百屋に肉屋と魚屋でも、一生懸命に自分の仕事に励めば、何時かは報われる日が必ず来るものだよ。」

と言って激励して一人一人と握手していた。
 健ちゃんは、そんな話をしながら横目で、大助と美代子の二人をチラット見るや
 「あのなぁ~、お前達もやがてはオンナノコに恋をすることだろうが、少し位気に食わぬことがあっても、オンナノコだけは絶対に泣かせてはだめだよ」
と付け加えてニヤッと笑みを浮かべたら、三太が、寅太を指差して
 「あのなぁ コイツ この前、ラーメン屋でパートのお姉ちゃんの尻をなでたら、ラーメンを配り終えたお姉ちゃんが、いきなりコップの冷や水をコイツの後ろ襟から背中に流し込んでイジメられていたことがあったが、それでもコイツ怒らなかったよ」
と、茶目っけたっぷりに喋ると、寅太が
 「バカヤロ~ お前は何時も余計なことを喋って嫌になっちゃうわ」
といって三太の頬をつねったら三太は大袈裟におどけていた。

 健ちゃんは、寅太と三太の愉快な話をきいて、彼等にも隠れたユーモアがあると改めて彼等を見直し「ウ~ン」と唸って空を見上げて何も答えなかったが、美代子は「イイキミダワ」と小声で漏らした後、ハンカチを口に当ててククッと愉快そうに笑っていた。
 三太のとっぴな場外れの話しに一同が大笑いしたところで お婆さんは彼等の話が終わったと見るや、除雪のお礼代わりのつもりかお世辞気味に、寅太達に
 「おいらが、介護施設でお前達の最初のお客さんになるかもしれんわな」
 「そうなる前に、時々、風呂場の掃除にもきておくれよ」
 「おやつ位用意しておくし、温泉にも入って行きなよ」
と言て、皆がお別れの朝とも思えない和やかな雰囲気に包まれた。
 昭ちゃんと六助が先に車に乗ると、健ちゃんは大助に大声で
 「大助!、彼女との別れは名残惜しいだろうが、はよう乗れや」
と声をかけると、大助は美代子達の方に軽く会釈して乗り込んだ。

 美代子は、何時もの癖でキャサリンの後ろに回り、母親の背に泣き顔を隠して手の掌だけを振って、車が見えなくなるまで見送っていたが、目に溢れた涙をハンカチでしきりに拭いていた。
 節子さんは、その姿を見て
 「美代ちゃん、気持ちはよく判るが、貴女も、これから上京して勉強する身なのに、そんなメソメソしたことではダメョ」
と、肩を軽く叩いて勇気ずけると、キャサリンが節子さんに
 「ホントウニネェ~ この子は家にいるときは、お爺さんやわたしに対して威張っているのに、この様なときになると、何時も涙ぐんでしまうので、この先が心配になるヮ」
と言うと、節子さんは
 「この歳頃の女の子は、思いつめると皆そうなのョ」「理恵子のときもそうだったヮ」
と言って
 「美代ちゃん、大助君の家には理恵子も下宿していることだし、大丈夫よネ」
と肩を叩くと、美代子は無言でうなずいていた。

  美代子達が家に帰ると、お爺さんはションボリとして炬燵で新聞を読んでいたが、キャサリンから見送りの状況を聞くと
 「美代子は泣かなかったか?。ワシも大助がいなくなったら、何だか寂しくなったよ」
 「あの子には、妙に人をひきつける何かがあるな」
と言っていたが、キャサリンがお茶を入れてやると一口美味しそうに飲んだあと、改った顔になって
 「正雄にも相談するが、美代子が春から東京の学校に行くとなると、このまま、大助君の親御さんに挨拶をしない訳にもゆかず、近じか美代子を連れて上京し、母親として挨拶して来なさい」
 「大助君の母親とも、親しい節子さんに同道してもらい色々と助言してもらう方がよいとおもうよ」
と言うので、キャサリンも
 「わたしも、是非、ご挨拶に伺いたいと思います。城さんのご都合もありますでしょうし、節子さんに聞いていただきますヮ」
と返事をした。

 キャサリンは、家事を済ませたあと、美代子をリビングに呼んで、お爺さんの思いを教えたところ、それまで自室に閉じこもり沈んだ気持ちでいたのか、青白い顔をした彼女は、母親の話を聞いて急に精気が甦った様に瞳を輝かせて
 「ネェ~ 母さん、私もそうしたいゎ。お願いョ」「何時行くの?ウレシイワ~。お爺さんにお礼を言っておいてネ」
と、キャサリンの肩に手をかけて小刻みに跳ねてはしゃぎ素直に喜びを現して答えていた。
 彼女としては、この際、大助君から時々聞いている姉の珠子さんに、自分の心のうちを正直に話して、大助君との関係を理解してもらいたいと思った。



 

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雪に戯れて (21)

2023年07月03日 05時10分10秒 | Weblog

 美代子は、お爺さんの話を渡りに船と、戸惑う大助を連れて二階に行くと、自室の隣の座敷に用意されていた布団を丸めて運び出して、自分の部屋のベットの脇に敷き、彼に
 「ハイッ 朋子さんが、洗濯しておいてくれた君の下着ョ。 着替えテェ~」
と差し出したので、大助は
 「少しの間、隣の部屋に行っていてくれないか」「女性の前で着替えるのは嫌だなぁ~」
と、きまり悪そうに呟くと、彼女は顔をくもらっせて
 「そんなことを言はないでぇ~」「わたし、外の方を見ているから、早くしなさいョ」
と言って窓の方を向いたので、彼は素早く着替え終わると、チラット盗み見していた彼女はニコッと笑いながら
 「大ちゃん、運動しているためか、腿と腰の筋肉が発達していて頼もしいヮ」
と言ったので、彼は
 「コラッ! 約束違反だぞ」「淑女らしく約束をまもれよ」
と照れ隠しを言うと、彼女は小さい声で悪戯っぽく
 「アラッ イイジャナイノ ナマデミルト トッテモ ミリョクテキダワ」
と口答えし、続いて間髪を入れずに
 「わたしの、ベットで休むのョ」
と言って、躊躇している彼を無理矢理、自分のベットに押しやり
 「わたしは、下に敷いたお布団で休むワ」
と呟いて,サッサと布団の上に座り込んでしまったので、彼は仕方なく美代子が普段使用しているベットに横たわり毛布をかぶるや、顔にかかる襟布に鼻を当てると臭いをかぎわけるように
 「美代ちゃんの臭いがプンプンするわ」
 「でも、なんと言うのか、これが直接嗅ぐ女性の臭いかぁ、いい臭いだナァ~」
と独り言を呟いて、思いだしたように
 「また、夕べみたいに潜り込んでこないでくれよ」「特別に話すこともないし、寝不足だわ」
と言いながらも横になると、彼女は
 「わたしの、臭いを脳に焼き付けておいてネ」
と言ったので、彼は
 「チエッ 僕、美代ちゃんの、犬みたいだな。愛玩用のペットでないぜ」
と文句を言いつつ、毛布をかぶってしまった。    

 美代子は、大助が夕べのお喋りで睡眠不足から、間もなく軽い鼾をかいてスヤスヤト眠ると、自分も引き込まれるように眠くなったが、我慢して布団の上に足を横崩しにして座り、彼にプレゼントしようと、暇をみては編みかけていた毛糸のネクタイを編み始めたが、ドアーをノックする音で部屋から顔を出すと、母親のキャサリンが話しかけようとしたので、人指し指を口に当てでシーッと合図して廊下に出ると、キャサリンが
 「いま、宿に行って、大助君が今日も家で休んで貰うことを、皆さんにお願いしてきたが・・」
 「お爺さんが、夕方、大助君のお友達を招待すると急に言い出し、食材の用意もしてなくどうするかテンテコマイだヮ」
と愚痴るので、彼女は
 「お母さん、心配することないわ」
と言うや、階下に降りて行った。
 
 キャサリンは、その後姿を見て、きちんと洋服を着ていたので安心したが、彼女はリビングで、お爺さんに
 「お母さんが、お爺さんの言いつけで、朝から飛んで歩き帰宅すると、今度はお友達を御招待するとの指図で、神経が大分お疲れのようだヮ」
と、少し文句がましく言うと、お爺さんは
 「春に、お前が東京に行ったとき、彼等にお世話になるから、そのためだっ!」
と厳しい顔をして半ば怒ったように
 「ワシが 準備をするからと言っておけ」
と言うなり、受話器を取って、馴染みの居酒屋のマスターに料理を注文していた。   

 キャサリンは、自分の至らないことで申し訳ない気持ちで切なくなり、思いあまって慣れ親しんでいる看護師の節子さんに相談したら、節子さんは
 「その様なことで心配していたら身が持たないゎ」
 「男女に拘わらず、人はお歳を召すと自然に我が強くなるものよ」
 「先生は、先生なりに考えてやっておられることなので、お好きなようにさせておけば良いのよ」
と、孫を愛する老人の心理を感単に説明し、優しく肩を叩いて慰めた。    
 お爺さんは、顔を出したキャサリンに
 「あのなぁ~、若い連中は、温かい御飯と味噌汁に味噌漬で腹一杯になれば満足するもんだ。なにをオタオタ心配しているんだ」
と、自分の若い時に重ねて、こともなげに話しをした。
 美代子は、そんなお爺さんの話を聞いて、いくらなんでもと思ったが、お爺さんのお陰で、今日も一日、大助君と一緒にいられると思うと憎めなかった。  

 夕方、丘陵を思うぞんぶん滑り捲くった健ちゃん達が、スキー場から戻って宿で休憩したあと診療所に顔を出すと、お爺さんは愛想よく彼等を招きいれて、賄いの小母さんに広い風呂場に案内する様に指示した。
 彼等は広くて窓外の竹林の眺めがいい浴場に入ると、六助が健ちゃんと昭二に
 「温泉も素晴らしいが、田舎の金持ちも贅沢な風呂場で凄いもんだなぁ」
と感心して身体を暖めていたら、大助が顔を覗かせて
 「お爺さんがまっているので・・」
と呼びにきたので、六助が
 「お前、とんでもない家の彼女と付き合っているんだなぁ」「何時頃、どんな理由で知り合ったのだ」
と、聞きながら風呂から上がったが、大助は問いかけに答えることもなく彼等を座敷に案内すると、健ちゃんが先になり恐るおそる座敷にはいった。

 皆が料理が並べられた大きなテーブルを囲んで座り、健ちゃんが一通り挨拶すると、お爺さんは早速お酒を薦めながら、美代子から聞いて全てを承知していたが、そこは老練なお爺さんは彼等の手前知らない振りをして 
 「町でも乱暴者で名高いあの三人の連中、今朝、早くから汗を流して、診療所前の雪掻きをしておったが、あなた方がどの様な教育をしたかは知らんが効果的面だわ」
と感心して話をしたあと、お酒を呑みながら、健ちゃんから自衛隊の訓練の話を聞いたり、自分の軍歴や俘虜になってイギリスに行ったことなどエピソードをまじえて愉快そうに話していた。
 老医師は、健ちゃん達の話に引き込まれていた、美代子とキャサリンに
 「ホレッ ボヤットしてないでお酌をしてあげなさい」
と指図し、キャサリンと美代子が、一人一人に丁寧に挨拶をしながらお酌をしたが、そのうちに、お爺さんは
 「この春、孫娘が上京する予定ですが、なにしろ世間知らずな田舎者ですので、遠慮なく指導して下さい」
と、両手をテーブルについて軽く頭を下げて丁寧にお願いすると、健ちゃんが
 「先生。そんなに御心配なさらないで下さい」 「大丈夫ですよ。大助が付いていれば・・」
 「勿論、僕等で役に立つことがあったならば、喜んでお手伝いさせて頂きますが」
と、わざと大助の名前を出して答え、それが、お爺さんの意図する的を射たのか顔をほころばせて喜んでいた。 

 美代子は、皆の手前、最初は畏まって遠慮気味にしていたが、雰囲気に慣れるに従い、彼女が何をしでかすかと、キャサリンがハラハラと心配して見守るのをよそに、大助の隣に何時の間にか座ったのか、慣れ親しんだ態度で笑顔を絶やさずに楽しそうに上京後のこと等を話かけていた。 
 そんな二人を見て、健ちゃんも、大助の膝を叩いて
 「俺には少しばかり気になることもあるが・・」「お前は幸せな奴だ、羨ましくなるよ」
と、遠慮気味の彼を元気ずけていた。
 昭二と六助は、予期もしない歓待に戸惑っていたが、適度に酔いが廻ると饒舌になり、六助が
 「学校が休みの日は、俺達町内の青年会に是非参加してくださいよ」
 「なにしろ、町内大会の野球では連戦連敗で、運動神経抜群の貴女に入ってもらえれば心強いですわ」
 「大助君の姉の珠子さんや、僕の家に下宿しているフイリッピン人の看護師に、小中学生の女性も参加して賑やかですよ」
と 、お世辞ながらも率直に町内の若者達の様子を話して、お爺さんと美代子の不安を巧みに払拭して安心させていた。

 美代子は、珠子さんと聞いて少し緊張感が心をよぎったが、外国の人も仲間に入っていると聞き楽しそうだし、上京後の生活を頭に描いて、是非参加したい気持ちにかられた。
 美代子が、珠子と聞いて緊張したのは、彼女とは昨年の夏、大助と初めて河で遊んだとき、顔だけは見合せたが言葉を交すこともなかったが、大助と親しくなるにつけて、彼女が彼の家庭を母親に代わって家事を任されていることを知り、姉弟でも彼にとっては厳しい姉であると、彼と逢うたびに聞かされていたので、自分達の交際を認めてくれるかしらと思ったからである。
 或る時、美代子は看護師の節子さんに珠子さんのことを聞いたことがあったが、節子さんは
 「普通にお友達として交際していれば、自然と仲良くしてもらえるわょ」「娘の理恵子も下宿当初は緊張していたゎ」
と笑って答えてくれたので、彼女はその言葉を聞いて上京したあとの生活の未来が開けた気持ちになった。 

 暫く御馳走になり、健ちゃん達は大助を連れて、家族に見送られて帰るべく玄関に出ると、美代子は何時もの様に、大助と別れるとなると、それまでの陽気さが途端に消えうせて、キャサリンが前に出るように促しても拒んで母親の背中に顔を隠し手首だけ出して振っていた。 
 お爺さんは、そんな彼女の様子を見て苦々しく
 「普段、威張りよっているくせに、また、そんなメソメソした顔をして・・」
と言って、見送りに出た看護師の朋子さんに顎をしゃくって見せ苦笑していたが、朋子さんは自分にも恋人がおり彼女の寂しさが痛いほど判り切なくなった。
 大助も、そんな美代子の姿に胸を締め付けられるようになったが、皆が、大助達二人の間柄を勝手に 想像して囃し立てていたので、健ちゃん達の会話に気分を紛らわせていた。
 日の暮れた山里は冷気が漂い風も強く、彼等も彼女の感傷的な様子を気にすることもなく宿への帰路を急いだ。

 

  

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雪に戯れて (20)

2023年07月01日 04時09分33秒 | Weblog

 大助は、美代子が朝食を知らせてくれたが、これまでに彼女の家で食事をしたことは無く、堅苦しい雰囲気の中での食事も嫌で、ベットで寝転がり思案していたら、再度、彼女が迎えに来たので
 「僕、宿に帰ってからにするよ」「だいいち、僕は入院患者で、お客ではないし・・」
と告げたら、彼女は 
 「ナニ イッテイルノヨ 朝から、難しい理屈を言って困らせないでョ」
 「君は、この家と、わたしにとっては、将来がかかった、大切なお客様なのョ」 
 「お爺さんも、君とお食事をするのを楽しみにして、待っていてくれているのに・・」
と誘ったが、彼は動こうとせず頑なに嫌がって、彼女をてこずらせていたいたら、看護師の朋子さんが顔を出して、爽やかな笑顔で
 「お爺様が早く呼んで来なさい言っているゎ」
 「貴方のカルテは作っていなし、患者さんではないので、病室にお食事を用意する訳には行かないのょ」
 「美代ちゃんが、無理矢理、入院患者さんに仕立てたので、美代ちゃんの恋しいお客さんなのょ。遠慮することないゎ」
と優しく諭す様に話し、意味ありげにフフッと笑ったら、彼は
 「エッ!入院患者で゛ナイッテ!」
と、ビックリしてベットから起き上がり、朋子さんに
 「僕が、美代ちゃんの恋人だなんて勝手に決められても困ちゃうな、普通の友達と思っているんだけどなァ~」
 「看護師さん!。僕達、どの辺から恋人と言うの?。友達との違いがわかんないや?」
と言いながら、渋々納得して美代子の顔を見て腰を上げたが、朋子さんは
 「私にもよく判らないゎ。微妙な問題だわネ」
と、ニコッと笑って答えていた。
 
 美代子は、朋子さんの的をついた説得力に感心し、彼女の手助けが余程嬉しかったので「朋子さん、ありがとう」と言って頭を下げて笑みを返し、大助の先になりリビングに向かった。
 朋子さんは、廊下を歩きながら、彼に対して割烹着姿の彼女の後ろ姿にチョコット人さし指をさして彼にウインクしてみせ、いたずらぽく微笑んだあと
 「お爺さんは、貴方を、まるで御自分の可愛いお孫さんが里帰りした様に喜んでおり、今朝も、着物からお惣菜まで細かく気を使い、彼女は彼女で久し振りに恋人に逢えたと、すこぶる御機嫌で、端で見ていると、朝から家中で大騒ぎしていて滑稽ですゎ」
 「あの頑固なお爺さんにしては珍しいことで、貴方もお二人の間に挟まれて大変だわネ」
と、同情を交えてユーモラスに朝の模様を話してくれた。

 リビングに入り、大助が恥ずかしげに挨拶をすると、お爺さんは笑顔で大助を迎い入れて
 「ヤァ~ おはよう~、傷は痛むかね」「君は、運動しているためか筋肉が発達しているので、その程度の裂傷は直ぐなおるよ」
と言いながら朝茶を出してくれ
 「このお茶は、日本の北限で出来たお茶で、甘味が少しあるんだよ」
 「お母さんへのお土産にと、別に用意しておいたよ」
と言ったあと、続けて、食卓に並べられたお惣菜について、箸で一つ一つ指しながら
 「この魚は、ヤマメと言って、川の一番上流に棲息する魚で、甘露煮してあるから、骨まで食べられるよ」
 「味噌漬は、山牛蒡で、秋に裏山で採って2年位漬けたもので、鉄分が豊富で、猛勉強中の君には是非食べてもらいたいな」
 「ご飯は、農薬や農機具を使わない、昔ながらの天日干しの、棚田での手造りの米だよ」
 「田舎では、春から秋にかけて、色々な山菜が沢山採れるし、渓流ではヤマメやイワナが釣れ、街場では味わえない自然の楽しみが沢山残っており、春の連休には必ず来なさいよ」
 「教科書やTV等で学んだ ”知識” も大事だが、昔の人々が自然の中で生活して、子孫に残した生活の ”知恵” を学ぶことも大切なんだよ」
 「長い人生の中では、この様な知恵は、何時かは、きっと生活に役立つときがあるんだよ」
と、細々と説明していたら、美代子が大助を一人占めしている、お爺さんに業を煮やして、お爺さんの袖を引張って
 「お爺さん、もういい加減にやめてよ。大ちゃんが、お食事できないしょう」「わたしも、箸がとれないヮ」
と、たまりかねて話を遮ると、お爺さんは
 「アッ 御免ゴメン」「さぁ~ 沢山食べて下さいよ」
と解説を止めて食事を始めたが、美代子は、お爺さんのお茶碗が空になっているのに知らぬ顔をして、大助が「ヤッパリ コノゴハンハ オイイシイョ」と言うと、彼女は「ソオォ ワタシガタイタノ」と言ってニコット笑い、彼が差し出すお茶碗を、白い指をした手で受けて、慣れぬ手付きでお代わりのご飯をよそうと、この仕草を見ていたお爺さんが
 「フン 一人前に割烹着をつけてるが、その手付きは危なっかしくて見ておれんわ」
 「そんな、お茶碗に押しつける様な御飯のよそい方では、御飯の美味しさが・・」
とブツブツ言っていたが、彼女は平気な顔をして御飯をよそい大助に渡すと、お爺さんは 
 「ホレッ 練習ダッ もっとフックラとなる様によそいなさい」
と言いつつお茶碗を差し出すと、彼女は渋々ながらマイペースで山盛りにしてお爺さんに渡したあと、彼が美味しそうに食べていたヤマメの甘露煮と野菜サラダの空のお皿を、お爺さんの目を盗むように、自分のお皿とソット移し変えてていた。 
 お爺さんは、御飯をほおばりながら、二人の様子を薄目でチラット見ていたが満足そうな表情をしているように、彼女には見えた。

 食事を終えた後お茶を飲みながら、大助が遠慮気味に
 「僕、何時ころ、友達が迎えに来てもらえるんだろう」
と、ボソット呟いたら、お爺さんは
 「きょうわ、一日安静にしていたほが傷のためにも良いので、今、キャサリンが宿に行き、お友達にお願いしているので、二階の座敷に布団を用意しておいたので、夕方まで休んで行きなさい」
 「昨夜は、傷の痛みと、美代子のつまらぬ雑音で、満足に眠れなかったでしょう」
 「夕方には、皆さんを、食事に招待しようと思っているが・・」「君を助けてくれた、お礼もかねてな」
と、当然のような顔をして答えたので、美代子は
 「お爺さん、私達の守護神みたいだわ・・。ヤッパリ名医だゎ」
 「わたしの、ptsdもこれで完全になおるわ」「ウレシイ~」
と、途端に気色満面な笑顔で、老医師にお世辞を垂れて
 「大ちゃん、さぁ~早くお部屋に行きましょう」
と言って立ちあがったら、お爺さんは、いまいましげに
 「美代子ッ!後片ずけをしなさい」「それに、安静なのだから、お前は自分の部屋に行くんだゾ!」
と言うと、彼女は
 「あとでするヮ」「大ちゃん一人では、退屈でしょうし、青春の貴重な時間が勿体無いので、傍で面倒を見てあげるの」
 「お爺さん、心臓と血圧に悪いので、ご心配なさらないで」
と言い残して、さっさと、戸惑う大助を連れて二階の座敷に彼を連れて行ってしまった。

 

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