日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

河のほとりで (3)

2024年09月25日 03時19分01秒 | Weblog

 理恵子は、江梨子達と手を握りあって再会を約束して別れたあと、用心深く周囲に気配りして駅の正面口を出ると、毎年夏休みに家族揃って飯豊山の麓にある自宅に遊びに来ていて、すっかり顔馴染みになり気心の通じ合った城珠子と大助が出迎えに来ていたので少し不安な気持ちが和らいだ。
 彼等は、母親の節子と同郷の城孝子の子供達で、都会生活に不安を覚える理恵子にとって、今後いろいろとお世話になる下宿先の姉と弟である。

 明るく闊達な中学生の大助が、姉の制止を気にすることもなく理恵子に近よってきて愛想よく笑いながら
 「天気も良いし、宮城付近を散歩して行きましょうよ」
 「きっと、昨夜の雨に洗われて松の緑が綺麗だと思うので・・」
と、普段は何かと小言を言う姉の顔を横目でチラッと見ながら素早く理恵子の大きなバックを持ってやると、理恵子と珠子を誘って歩き出したが、何時のまにか理恵子の左手を握って手を振り、楽しそうに二重橋方面に向かった。

 理恵子は、乾いた舗道にコツコツと心地良く響く靴の音に都会にきたんだなぁ。と、田舎より1ヶ月くらい早い春たけなわの心地よい風と行き交う人々の群れに、都会の雰囲気を肌身に実感しながら、中学生のときの修学旅行以来、久し振りに二重橋を見て
 「大ちゃんの言う通り、緑が本当に鮮やかだわ」
 「田舎の方は、今頃、やっと、遅れて来た春が終わりかけたばかりで、松や杉の葉はこんなに鮮やかな緑色に輝いていないわ」
と呟いたら、大助が
  「理恵姉さんも、眩しいくらいに輝いているよ。 それに背も高くスタイルが良いので、こうして手を繋いで宮城前を揃って散歩できるなんて、まるで夢みたいだよ」
  「ホラッ!すれ違う人達が、次々に僕達の方を羨ましそうに振り向いて行くよ」
  「キット、僕達が背も高くスマートなので、素晴らしい恋人どうしのアベックだと思っているんだろうなぁ・・」
と、理恵子の顔をチラッと覗きこみ、片目を神経質にパチパチさせてウインクして話しだしたら、珠子が
  「大ちゃん、誰も振り向いていないわ」
と呟くと、彼はシマッタと思ったのか
  「今日の珠子様も、松の緑のせいか何時もよりず~と美しく見えるよ」
と、またもや、片目でウインクしたので、珠子は
 「松の緑とか修飾語は余計よ」「黙っていれば可愛いんだけれど・・」
と言って、理恵子と二人して声を上げて笑いだした。

 乾いた歩道に響く革靴の音が、雪国から来た理恵子には心地よく聞こえ、大助のユーモアに満ちた話が緊張気味の気分をやわらげてくれ明るい気分になった。 
 三人は日比谷公園を通り過ぎて道角のモダンな造りの喫茶店の前に差し掛かると、大助が珠子に
  「姉ちゃん! 僕たちで、理恵子さんの第一次歓迎会とゆうことで、アン蜜を食べてゆこうよ」「僕 喉が渇いちゃったし、いいでしょう」
と言って、珠子が返事をしないうちに、こじんまりしたお洒落な喫茶店にさっさと入り、窓際の景色の良く見える席を見つけて二人を手招きして呼び、ニヤット笑いながらアン蜜を注文してしまった。
 珠子は、理恵子に対し
 「今日の大ちゃんは、あなたに逢えて嬉しいらしく、いつもにもなくテンションが上がっているわ」
と、笑いながら弟の屈宅のない行動の素早さを説明していた。

 夕方の5時ころ、池上線の久ケ原駅近くの自宅に着くと、母親の城孝子が玄関先に出てきて零れそうな笑みを浮かべて出迎えてくれた。
 理恵子が下宿する城家は、駅からそれほど離れていない、閑静な住宅街にあり、少し古風だが低い生垣に囲われ、狭いながらも庭には、芝生がありキンモクセイやサルスベリの木が植えられている。 
 城孝子は40歳代半ばで、理恵子の母親である節子と同郷で、同じ高校に通い2年後輩だが、高校卒業後、節子を頼り上京して看護学校に通い、資格取得後は節子と同じ都立病院に看護師として勤めているが、3年前に夫を胃癌で亡くし、一人で珠子や大助を育てている気丈な人である。

 珠子は、高校2年生で、母親の孝子に似たのか背丈はあまり高くないが、色白で丸顔に笑ったときの笑窪が可愛く、温和な性格であるが、毎日母親に代わり家事をしているせいか芯は強い。 大助はおそらく亡くなった父親に似たのであろう、同級生の中でも細身だが背丈は高い方で、時々、夕食後の家族団らんの際に、珠子が冗談交じりに
 「大ちゃんと背丈が逆ならばよかったのに・・」
と、背の高い同性に憧れる愚痴をこぼすことがあるが、母親に背丈ばかり高くても、頭が悪くては良いお嫁さんになれないのよ。と、はぐらかされているが、勉強は一生懸命で成績も良く、大学への進学をめざしている。  それに反し、弟の大助は中学1年生だが、どうも勉強にはあまり熱が入らない様だが、運動神経は抜群で学校や町内の球技大会には積極的に参加している、明るく陽気な人懐こい性格で、町内の若者達からも好かれている。

 理恵子は、挨拶したあと自分にあてがわれた2階の部屋に案内されたが、事前に節子母さんが来ていて荷物などを整理しておいてくれたため、部屋は整然と整えられていた。
 隣の部屋は、珠子が利用することにしたので、二人で何でも工夫して自由に使う様にと、孝子から親切に説明された。 
 孝子は説明の合間に冗談めかして
 「近頃、妙に色気ずいてきた大助は、下の部屋に寝かすので・・」
と言って意味ありげに笑っていた。

 孝子小母さんの心尽くしの手料理で夕飯を済ませ、皆がくつろいでお茶を飲みながら、思い思いの雑談を交わしている途中で、大助は珠子と理恵子が隣合った二階の部屋を使用すると聞いて羨ましく思い、つまらなそうに
 「あぁ~ 今夜から、姉ちゃんに就寝中に腹を蹴飛ばされなくて助かるなぁ~」
と皮肉まじりに悪戯ぽく話した。
 以前、隣に寝ていた珠子が夜中に突然彼の腹に足を勢いよく乗せたので、彼はビックリして姉の足をそ~っと彼女の布団に手で押し戻したら、いきなり珠子が 
 「コラッ! H ナコトヲスルナッ!」
と怒り、拳骨で殴られたエピソードを話して、皆を笑わせていた。
 珠子は照れ隠しに
 「理恵子さん、彼は漫画の読み過ぎで混同しているのょ。わたしこそ、汗臭い大助と別の部屋になるので嬉しいゎ」
と、懸命に弁解していた。

 理恵子は、そんな二人を見ていて、話の真偽はともかく、姉弟がいることが羨ましく思えてならなかった。

 

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