大助は、美代子と別れて帰宅した夜、彼女の身辺に起きた複雑な事情を思案して、彼女の行く末を心配するあまり、精神的な疲労と寂寞感から、家族に詳しい内容も説明せずに自室に引きこもり床に入ったが、思考が整理出来ず寝付かれないままに真剣に考えた。
それは、経済的に未熟な自分では、今は、彼女を幸せな生活に導けないが、彼女が自分を信じて献身的に尽くしてくれる愛情と、老医師であるお爺さんの自分に寄せる期待に背かぬ様に努力することで、何時の日かは、彼女の夢を叶えてあげることが、自分に与えられた男の責任だと堅く心に誓った。
彼が寝静まったころ。 母親の孝子は娘の珠子を部屋に呼んで、お茶を飲みながら静かな声で、美代子の家庭事情から、二人が別離したことを教え、大学生になったとはいえ、我が子ながらよく厳しい環境に耐えて一切表情に表さずに頑張っている姿が、誰しもが通る道であるにせよ、その原因が相手の家庭崩壊であることに、母親として可哀想でならなく、心の中では何時も大助に詫びていると心境を話し、姉としても弟の心情を理解して優しく接っして欲しいと語った。
珠子は母親の話を聞いているうちに、何時の日かは弟も美代子と互いに大きな心の傷を残さずに自然に別れ、自分を姉の様に慕ってくれる奈緒と交際してくれば、互いに幼馴染であり我が家の事情を知りつくしているだけに、自分も心おきなく嫁ぐことができると、胸の中で秘かに思っていたが、まさか、こんなに早く美代子と別離するとは思いも及ばず、聞いているうちに弟が不憫になり、目を潤ませて「わかったゎ」と、俯いて声を落として一言返事していた。
孝子は、そのあと、最近、気にかけている珠子の結婚話について
「ところで、お前と永井さんとの交際は続いているの?。母親として、この様な話にしつこく立ち入るのは遠慮していたが・・。何時も気にしているのよ」
「あなたには、いちいち話をしてくれないが、遂、先ごろも、先方の親御さんからの依頼だといって、知り合いの区会議員の人が、わたしに、是非、お逢いして話を聞いて欲しいと打診があったが、仕事にかずけてそのままにしてあるゎ」
と、話たので、珠子は
「高校卒業後も、時々、休日に逢うこともあるが、本人からそれらしきことを言われたことはないゎ」
「それに、介護の仕事にもやっと慣れてきたので、お相手が永井さんに限らず、今、結婚なんて考えたこともないゎ」
と、答えると、孝子は、少し気落ちしたよに
「そうなの、わたしは、二人の間である程度話が進んでいるのかしらと思っていたゎ」
「あなたも、そろそろ適齢期だし、わたしや大助に拘らずに、自分が自信もてる人がいたら真剣にに考えてね」
「わたしは、てっきり、永井さんと一緒になるのかなぁ~。と、勝手に想像していたが」
「永井さんは、お前と同級生で成績もよかったし、ある程度、彼のことを知り尽くしている訳だし、第一、母親として娘が近いところにいるとゆうことは、何かと安心感があるゎ」
「彼も、家業の自動車販売の営業マンとして、話方も優しくて如才ないし、人当たりも柔らかく、好青年だと思うが・・」
と、母親としては、たまに見かける彼に好印象を持っていることを話していた。
珠子は、高校2年生の春、彼の家で親が不在中に、彼から、強く拒むのを無視されて半ば強引に貞操を奪われて屈序的な思いをさせられ、それ以後暫くの間、彼に凄く嫌悪感を覚え憎んだこともあったが、それが今では、自分でも不思議なくらい、彼の巧みな誘いに乗って、いけないことだと思いつつも、彼の強い求めに応じて何回か肌を重ねる毎に、彼に愛情を感じ始めたが、高校を卒業後は自然と別れて逢うこともなくなっていた。
勿論、高校時代の彼との深い交際は、母親に内緒にしていた。
珠子は、母親と話終えて自室に戻り、ベットに腰掛けて彼と旅行したときのスナッピ写真を見ながら、最近、彼の愛用の高級外車で奥多摩方面にドライブしたときに、優しく気を使ってくれる態度に、過去の苦い想い出を忘れて、時間のたつのを忘れるくらい楽しんだことがあった。
その際、彼は手を握って散歩し景色を説明する合間に、これまでに、同級生や取引先の若い女性と5・6人くらいsexプレイをしたが、誰とも1~2度sexして交際を絶つたが、誰からも文句を言われたこともなく、特別に印象に残った女性もいない等と、聞きもしないのに、自慢する風でもなく、あっけらんとした顔で平気で話をしていたこともあるが、珠子にしてみれば、その時、この人は女性をどの様に考えているんだろう、単なる性の捌け口位にしか考えていないのかしらと、内心驚いて無言で聞いていたが、不思議に嫌悪感を覚えなかったのも、彼の優しさに自分が溶け込んでしまっていたためかとも考えた。
そして、女性関係のだらしなさは大嫌いだが、もし、この人と結婚した場合、自分ならばこの人の女癖を深い愛情を注いでやることで直してあげられかもと、妙な母性愛みたいな自信が湧いてきたりして、彼に対する愛情と嫌悪感が交差し、これが女の業の悲しさかしらと心が迷い悩んだ。
この様なことを考えたのも、寝る前の母親の話の中で、美代子さんの父親も愛人を作っていることで、彼女の母親のキャサリンが離婚を決意してイギリスに美代子を連れて帰国する原因の一つであると聞かされ、男性は社会的地位や経済に関係なく、多かれ少なかれ、人生の中で女性関係で問題を抱えるものなのかしらと思うと、結婚に自信が持てなくなったりもした。
珠子は、母親から突如結婚の話をもちだされて数日後、永井君がドライブに誘いに来て遊んだ日の夕方、彼の母親の手造りの夕食を御馳走になった後、母親が愛想よく「二人でお話して行きなさい」「親の前では自由にお話出来ないでしょうから・・」と薦められたが、母親の在宅中に彼に抱かれるのも嫌だと警戒心が閃き、一度は帰る旨告げたが、母親も彼も色々言って帰そうとしないので、夕飯をご馳走になったあと仕方なく彼に導かれて二階の彼の部屋にお邪魔したことがあった。
彼は、窓際の回転椅子に腰掛て窓辺に足を乗せていたが、やがて綺麗に敷布が敷かれたベットに珠子を座らせて、仕事の話に交えて
「僕は君を幸せにする自信が全くないのに、お袋は、君と一緒になれって、ことあるごとに喧しく言い張って困っているんだよ」
と、相変わらず聞く人の心に忍び寄る様な優しい話方で愚痴っていた。