日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

蒼い影(37)

2024年07月24日 03時13分01秒 | Weblog

 節子は、不意を突かれた咄嗟の出来事であり、丸山先生の力強い腕力に抱き抱えられて抵抗も虚しく強引に唇を奪われたあと、彼の膝の上に仰向けにされたことに、なんの抵抗も出来ず、唯、両手先で丸山先生の胸の辺りを押す様にして「先生 いけませんわ」「およしになって下さい」と言いながら、かろうじて首を左右に振り続けたが、彼の燃え盛った情熱は彼女の必死の抵抗を無視して、脂ぎった顔と肉の厚い唇に弄ばれた。  
 節子は、もがきながらチラッと見た彼の黒々と光る深い目がギラギラと光って見えて、一瞬、獣に襲われているかの様に不気味さを覚え猶更抵抗力を喪失した。

 節子は、何度も繰り返されるキスの度に、本能的に首を振って拒もうとしたが、だが、愛欲をたぎらせた彼の圧倒的な体力は、節子の微力な抵抗を苦もなく押しつぶしてしまった。
 彼は、何度か繰り返すキスをしながら、やがてセーターの上から彼女の乳房をもみほぐすように優しく時には強く愛撫し、彼女はその都度「あっ・・・あぁ・・」と悶えて身をよじりながら、か細い声をあげてもがいた。
 彼女は、硬く閉じた唇に彼の舌先を感じると、口ずけされるままに、心の中で「いけない・・いけない・・」と思いつつも、彼の手慣れた愛撫に理性が薄れてゆき、時間が経過するほどに、自然にそれを受け入れ失伸した様に目を閉じ両手から力が抜けていった。
 彼女は、年令に比して経験の浅い知識で、それまで病弱な健太郎との性の営みが普通と思っていたのとは違い、彼の力強く半ば一方的であるが強引な愛撫を受けたことで、女盛りである彼女の身体に潜んでいた性の本能が無意識のうちに覚醒し、意思とは反対に身体全体に反応して、これまでに願望は勿論経験したこともない、屈強な男らしい激しい愛に酔いしれて思考能力も薄れてしまった。

 ほどなくして、彼が離れると、節子は上半身を起こして彼の胸に顔を摺り寄せて、両手を彼の首に廻し、すすり泣く様な声で「先生 わたし、いけないことをしてしまったわ」と呟くと、彼は、彼女の顔を両手の掌で優しくなで涙を拭いながら
  「山上さん 本当にすみません」
  「僕は、先生が病院にこられたときから、非常に関心を持ち読けていましたが、自分の欲情を抑えきれずに、貴女の人格を犯してしまい、いま、良識を一番大切にすべき医師として、大変恥ずかしい思いで一杯です」
と、静かに言いつつも、その目は、欲望を遂げた征服の歓びに燃える目の色で、節子の目をいじらしそうに見つめていた。
 その言葉が言い終わらないうちに、再び、節子を抱きしめデープキスをしながら再度セーターの上から乳房を柔らかく愛撫し始めたが、彼女も、今度は抵抗することもなく彼のなすがままに任せていた。 
 その間にも、途切れ途切れに言葉をつないで
  
  「先生 奥様の御様子はいかがですの・・」
  「わたし、この様に力強く愛されたことは、生まれて初めてですわ」
  「わたしなら、きっと先生の愛情をしっかりと受け止められると思いますわ・・」
  「若し、許されるなら、このまま全てを捨てて、何処かに二人で逃げ出して、静かに過ごしたいと、先程、一瞬思ってしまいましたわ」
と、心と体がバラバラになった非現実的なことを、うわずった声で口ずさみ、このまま、時が止まってくれればと願いつつ、風の音も聞こえない静寂な幽玄の世界の中で、これまでに想像したこともなく、ましてや経験したこともない、その激しい愛に悶えて身を焦がしていた。 

 彼は、じっと節子の目を見つめながら
 「私も、貴女と一緒に暮らせたならなぁ。と、勝手なことを考えていましたが・・。だが、私達は人生に未経験な若者ではないのですから、それには順序を踏んでゆかなければなりませんね」
  「然し、その順序も現実的には受け入れられない至難のことでしょう」 
  「私は、社会的に許されないことを、自分勝手な欲望の赴くままに、貴女の平穏で幸せな家庭と人生を乱してしまい、後悔の思いで胸が一杯です」
と、彼女の大腿部に手を置いて、うなだれて自信なく小声で語り
  「それにしても、今日は、かねてからの願望が叶い良かったです」
  「貴女が何時の日か、このことが原因で責めを負うことになるとしたならば、私は逃げたり事実を否定したりせず、男らしく責任を一身に負います」
と、冷静に返答をするので、彼女も暫く間をおいて、心を落ち着かせて現実に戻り、ゆっくりとした口調で
 「その様なことがあれば、お互いに人生の破滅に繋がり、それに、わたくしにも責任の一端がありますので、家族に対し心苦しい日々が続くと思いますが、それに耐えて、ご迷惑かけないように努めますわ」
 「今後、人様が貴方のことをどの様に批判しようとも、先生が好きになりましたわ」
 「わたしも、一瞬とわいえ、女として最上の歓びを感じましたのですから・・」
と返事をして、またもや、軽く肩を両手で抱かれたとき、下の川べりの方から「誰か来て・・。助けてぇ~」と悲鳴が聞こえてきた。

 それは、江梨子からの悲鳴にも似た叫び声で
 「理恵ちゃんが、川の淵の雪が崩れて川に落ちゃったの・・!。 大至急助けに来て!」
との連絡で、丸山先生は今までの雰囲気が一変したかの様に、キリッとした顔で急に立ち上がりスキーを履くと、節子さんに「君はゆっくりと、木にぶつからない様に降りて来てください」と告げるや、大柄な体格に似合わず軽い身ごなしで、木々の間を巧みに回転技で滑り抜け、素早く目的の場所を目指して滑り降りていった。 
 節子は、興奮が冷め遣らない口に、純白の冷たい雪を一口飲み込むと、その歯に染み渡る冷たさで幾分心の平静さを取り戻し、真昼の夢から覚めたように現実の世界に戻って、何度か転倒しながらも、川の淵に滑り降りていった。

 丸山先生は川の淵にたどり着くと、すぐにスキーをはずして川に飛び降り、理恵子の股に首を入れて自分の肩に乗せて肩車すると、川淵の雪に身を寄せて、上にいる人に引きずりあげるように大声で叫んで指示をし、理恵子が上がるのを見届けると、自分は川下の岩を利用して小枝につかまり上がって来た。

 理恵子を、皆でバスの中に入れると、先生は「お~い! 車のヒーターを最高にして、毛布でバスの真ん中を仕切れ」と号令して、にわか作りの脱衣場を作ると、節子さんに対し「理恵子の濡れたスラックスを脱がせ、毛布で腰から下をぐるぐる巻いてください」と指示して「一寸、見たところ骨折や捻挫はない様です」「これからすぐに、御自宅に送りますので・・」と、早口で告げると、カーテンをはずさせ、運転手に道順を地図で指示していた。

 節子は、理恵子になにも言わずに、携帯で手短に健太郎に事情を説明して、お風呂を沸かしておく様に頼んでいた。
 彼女は、理恵子の青ざめた顔で震えながら「お母さん 心配かけてすみません」と言うのを聞きながら、心の中では突発的な出来事であるにせよ、自分の犯した不倫に対する神仏の咎めかしらと。か、自身の情けなさ、或いは女の業の深さ等を次ぎ次と思いめぐらせて考えながら、帰宅後のことが心配で心が落ち着かず、自分を信じてくれている純真な理恵子に答えることが出来なかった。
    


  

 

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蒼い影(36)

2024年07月17日 03時10分54秒 | Weblog

 短い秋も終わりのころ。 スキー場に勤める人達の間で、今冬はエルニューヨの関係で雪が少なく困ったのもだと、冬季の貴重な収入源を心配する声が聞こえてくるが、季節の巡りは確実で、12月中旬になると全国的に寒波が襲来し、4日間連続で降雪をみて、周辺の山々は見事に白銀の世界と化した。

 節子の勤める大学病院でも忘年会の際に、天候次第では正月休みの期間中に、体力増進と親睦を兼ねて、例年通り同好会で飯豊山麓のスキー場に行くことにした。
 その際、今回はバスを借り切るので、可能な限り家族や友人を誘って幅広い交流を図ることを計画しているので、大勢で賑やかに行いたいと案内されてた。

 節子も、雪国の秋田育ちで、学生時代は毎冬同級生達とスキーに興じて出かけていたほどである。
 理恵子も、この地方の子供達同様に小学校入学前からスキーで遊んでおり、技術はともかく滑り慣れたもので、早速、普段から親しい同級生の奈津子と江梨子に連絡して、揃って行くことにした。
 織田君にも連絡したが、入試前の貴重な時間でもあり、それに店の手伝いもあり遠慮すると断られ、健太郎もマーゲン・クレイブスの予後安静中でもあり、体力を考え参加を遠慮したが、二人には機嫌よく参加する様にすすめた。

 当日の朝。 何時になく冷えたが幸い細い雪が舞いスキーには絶好の日和となり、理恵子は母親の真似をして、首や顔に雪焼け防止のクリームを入念に塗り、節子の手編みの白色のセーターに黒色のスラックスを履いて、帽子だけは節子と青と緑とに分けたので、かろうじて区別が付くほどであった。
 理恵子は近頃、なにかと母親である節子の真似をしたがるので、健太郎も娘心とはこんなものかと、今更ながら感心すると共に、血筋の違う親子がこれほどまでに親しく自然に接していることが嬉しく、かつ、養女となってから短い期間にも拘わらず二人の絆の強さが微笑ましく思えた。

 まもなくして、奈津子と江梨子も訪ねてきが、奈津子は赤色のセーターに赤色の、江梨子は紺色のセーターに黄色の、それぞれに毛糸の帽子をかぶっていたので、それを見た健太郎が思わず「まるで交通信号の様だ!」と笑いながら声を出したら、理恵子が「なに 言っているのよ~、偶然かもしれないが安全祈願だし、第一、皆なが個性的で素敵だわ」と口答えしながらも、夫々が帽子を見て笑いあっていた。

 スーキー場に到着すると、青年医師である丸山先生が如何にも上級者らしく
 「此処は本格的に設備されたスキー場ではなく、山間には杉や欅の大木があり雑木も多いし、それに新雪なので表面が柔らかいので、滑降に気をとられて樹木に衝突しない様に注意して下さい。 若し、事故発生のときは、近くにいるリーダーが大声で位置を知らせ、なるべき多くの人達が現場に急行し救護して下さい」
と、一通りの注意をした後、顔見知りのグループ毎に別かれて山の上に向かった。

 理恵子達は、中腹まで上るとキャーキャーと歓声を発しながら、途中で転倒しながらも雪煙を舞い上がらせて競うように下に向かって楽しそうに滑って行った。

 節子は、短い時間滑ったあと、山の中腹あたりの大きな杉の木の傍で一人でたたずみ、子供達の楽しそうに滑降する様子を見ていたが、何時の間にか丸山先生が近ずいて来て
 「もう少し上の杉木立の方に遊びに行きましょう」「ウサギの足跡を訪ねて登るのも面白いですよ」
 「運がよければ、白い野ウサギが見られるかもしれませんよ」
と、親切に誘ってくれたので、一瞬、本能的に誘いの言葉に躊躇いを覚えたが、無理に断る返事も浮かばず、促されるままに、丸山先生の後について登っていった。

 丸山先生は、巧みに木々をよけながら先に進んでは、途中後ろを振り返り節子が追いつくのを待ち、暫く走り廻ったあと
  「疲れたでしょう、少し休みましょう」
と言って、雪を踏みしめたあとスキーをはずし腰をおろしたので、節子も丸山先生から少し間隔をとって腰をおろし
 「先生は、お若く鍛えぬいた逞しい体格をしていらっしゃるだけに、登坂するスキーもお上手ですね」
 「本当に、ウサギが沢山いるようですね。足跡を沢山見ましたわ」
 「こんな素晴らしく静かな自然の中に身を置くのは、学生時代以来で本当に久し振りですわ」
と、丸山先生の優しい心遣いで案内してくれたことにお礼を言った。

 丸山先生は「僕は、学生時代に一人で気晴らしに、よく来たものですよ」と言いながら、節子の傍らに摺り寄ってきて、並んで腰を降ろすと、周囲を気にすることもなく、いきなり太い腕を節子の肩に廻して、優しくなだめる様に
  「山上さん、そう警戒なさってはいけません」
  「私が、どんな人物か色々な機会に嫌なほどお聞きになられていると思いますし、また、貴女が健全な家庭の主婦でおられることも承知致しております」
と言いながら、不意に両腕で力強く節子の上半身を抱え込み、頬をすり寄せてキスをしようとしたので、節子は「先生 いけませんわ」と小声で言って、顔をそむけて彼の両腕から逃れようともがいたが、抱擁する腕力の強さに抵抗も虚しくそれも叶わなかった。
  

 

 

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蒼い影(35)

2024年07月14日 03時17分34秒 | Weblog

 健太郎も、理恵子にそう言われてみれば、節子がなんとなく冴えない顔つきで元気がない様に見え、PTAの会合で何か予期しないことでもあったのかなと思い、車を途中から引き返して街場の中程にある行きつけの蕎麦屋に向かった。

 座敷に通されて、お茶を一服飲んだ後、理恵子が「わたし へぎ蕎麦と天麩羅がたべたいわ」と言うので、健太郎夫婦も彼女の希望にあわせて注文し、運ばれて来るまでの間、健太郎は茶碗をいじりながら節子に
 「なんだか大分気落ちしているみたいだが、無理に出てもらい悪かったなぁ。一体なにがあったのかね」
 「まぁ~ 地方のPTAなんて都会と違い、名士と称される人達の自慢話しと懇親会が主で、未だに古い因習が残っていて、生徒のことなどは二の次だからなぁ~」
と、慰めにも似たことを言ったら、節子は
  
 「お父さん その様な雰囲気は私なりに承知致しておりましたが、大学病院の丸山先生に偶然お会いして、驚いてしまいましたわ。あとでお話致しますが・・」
と、宮下女史のことは理恵子の手前言葉を伏せておいた。 節子は、沈んだ雰囲気を変えようと
 「理恵ちゃん たまに外食もいいけれど、お父さんが運転だし、晩酌が出来なくて可哀想だわ」
と言うや、すかさず理恵子は「あっ そう~だわね」と箸をいじくり廻しながら少し考えこんだあと
 「そ~だ いい考えがあるわ」「美容院のお姉さん達もお呼びして御馳走してあげましょうよ」
 「お父さん 大勢のほうが美味しいし、そうしましょうよ」
と言い出し、早速店に電話をして事情を手みじかに話して、車二台で来るように頼んでいた。

 理恵子の亡母が経営していた美容院で、現在は実質的に健太郎が経営などで面倒をみている店の美容師達が来るや、丁度、”へぎ蕎麦”がお膳に用意され、店の状況やお客さん達の世間話しなどをしながら、皆が美味しそうに食べている最中に、節子さんが誰に言うともなく、理恵子の顔を覗きながら
  「この子もなんだか急に大人びいてきて、嬉しいやら心配やらで大変だわ」
  「今日も、学校で開催したPTAの帰り際に、会に出席していて偶然お逢いした病院の若い先生の、服装が派手だとか、お世辞が大袈裟だとかで、むくれてしまい、この年頃の娘は現代風と言うのかしら、私も面食らってしまったわ」
と話すと、お姉さん達も
  「わかるわ~、それにしても理恵ちゃん 少し見ない間にどんどん成長しているのね」
  「ねぇ~ 理恵ちゃん、誰か好きな人でもいるの?」
と、笑いながら冗談ぽくきくと、理恵子は「う~ん さあ~ どうでしゃう」とニヤット含み笑いをして答え無かった。

  
 節子は、帰宅後入浴中にも、思い当る原因もないのに、いきなり面識のない宮下女史に言われたことに少なからずショックを受け色々と思い巡らしていたが、その中で唯一心あたりを思いだした。それは
 大学病院に就職間近のころ、何故自分を話し相手に選んだのかわからなが、昼の散歩中に、先輩である年配の婦長さんから
 「丸山先生は、新婚まもないが奥様は病身でひ弱なところから、先生のあの立派な体格では夫婦生活が満足に行われないと察しられるわ。 なんといっても夫婦の生活では、その問題が大切でしょうからね」
と話されたことを思いだし、そのとき返事代わりに意味もなく思いついたままに「あのぅ~ 奥様は、綺麗な人なのでしょうね」と声をひそめて尋ねたところ、婦長さんは
 「それは もぅ~ あの先生のことですので器量好みで、細面の美しい方ですわ」
 「だけれども、若くてあの素晴らしい体格の先生の旺盛な性力には、病弱な奥様では勤まらないと思いますわ。貴女なら容易に想像出来ると思いますが・・」
と、流石に羞恥心からか薄笑いしながらも真面目くさって彼の家庭事情を話し、更に
 「まぁ~ 私としても先生に御同情出来る点もありますが、貴女は先生好みの美しい容姿で、年齢的にも女性として一番輝いていらっしゃるので、御用心なされたほうが宜しいございますわ」
 「火がついてからでは手遅れですので・・。余計なことを話して気を悪くしないでくださいね」
と、若い娘達ならエゲツないこの様な話題は、毛虫を嫌う様に避けるのだが、性生活を知り尽くした、ましてや、職務上、時には男性性器に触れることのある看護師長なら、当たり前の様に男女の性について具体的に肯定する様に話した。
 節子は彼女の話振りに、内心では、この人は丸山先生の奥様の容姿や健康などについて何故そこまで詳しいことを知っているのかしら。と、懐疑的に思いつつ、この場から早く去りたい気持ちにかられ
 「まぁ~その様なこと・・」「それに、わたしは人妻ですわ」
と答えるのが精一杯で、ただ、うつむいて聞いいていたことがあった。

 
 その夜、節子は心の動揺を抑えながら、自分にはなんの落ち度もないことだが、偶然にも宮下女史の話と看護師長の話が符合することに気持ちが沈み、健太郎に話をすれば倫理観に厳しい彼だけに、具体的な人間関係が理解出来ないために不機嫌になるだけで、それが原因で平穏で幸せな家庭生活が乱れてしまいかねない。と、散々思案した結果、自分の胸に秘めておいたほうが良いと思い、また、健太郎も丸山先生のことで理恵子が機嫌を損ねたことに、自分が落ち込んでいると思っているらしいので、語ることもなく、何時ものように健太郎の側に静かに入って眠りについた。

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蒼い影(34)

2024年07月11日 05時55分33秒 | Weblog

 宮下女史との話が終わると、節子は理恵ちゃんの担任先生である自分と同年齢位の高橋女教師のところに挨拶に行き、日頃の指導に丁寧にお礼を言って席に戻ると、入り口の戸が少し開き、理恵子が手招きで合図してくれたので、正面の会長さんや宮下女史に頭を下げ周囲にも軽く会釈して、静かに戸を開けて廊下に出て一息ついた。 
 二人で正面玄関に出ると、丸山医師が別の入り口から出て来て二人を追いかけてきた。
 
 丸山医師は理恵子を見ると
 「あの~ 娘さんですか?。まるで、歳の開いた御姉妹のようで、山上さんにお似合いで美人ですね」
と、笑いながら語りかけ
 「お帰りならば、玄関のところに車を止めてありますので、宜しければお送りいたしましょう」
と案内しようとしたが、理恵子は
 「あのぅ~ 切角の御親切ありがたいですが、私、これからお母さんと買い物に行く約束がありますので・・」
と、そんな約束などしていないのに勝手に断りの返事をして、尚も、節子さんを睨みつける様な顔つきをするので、節子も宮下女史の言葉が何故か心に影を落とし気乗りしないので、理恵子の咄嗟の返事に便上して丁寧に断った。

 駐車場に向かう途上、理恵子は不機嫌そうな顔をして
 「なによ~ お母さんの御機嫌をとるために、わたしをダシに使って、いきなり御姉妹だとか美人だとか、歯が浮く様なお世辞を言って、失礼しちゃうわ~」
 「大体 今まで美人なんて人に言われたこともないし・・。そんなことくらい、自分でもわかっているわ」
 「小説の世界でも、おおよそ美人なんて将来災いのもとになるってゆうことになつており、それに見る人の好みによって全然違うと思うわ」「ねぇ~ そうでしょう!」
と、丸山先生の派手な服装と大げさな褒め言葉に反発し
 「あの人 お母さんと、どの様な関係なの?」
と聞くので、節子は
 
 「あの人は、丸山先生といってお母さんと同じ病院の手術室勤務で、主任教授からも、その技術は高く評価されているのよ」
 「それに、患者さんや付き添いの人に対しても、親切に病状を説明しているし、見かけとは違い、自分の仕事については責任感の有る人と、母さんは見ているんだけれどもねぇ~」
と、簡単に説明すると、理恵子は
 「わたし、あのような派手で口の上手な人は、ダァ~嫌い!」
 「若し、わたしが重病になっても、あの先生のところには絶対に連れてゆかないでね」
と、完全に拒否反応を示したが、節子さんは、そんな話を聞いていて、やはり、若い看護師達が噂話をしているように、処女の本能が直感的にあの様な派手な服装と馴れ馴れしい男性の態度に拒絶反応を示すのかなぁ~。と、思いながら黙って聞いていた。

 理恵子は、余程腹の虫が治まらないとみえて、更に続けて「ねぇ~ 母さん聞いてよ」と節子さんの腕にすがりつき甘えるような声で
  「この間、織田君のところにお使いに行った帰り道に、彼に途中まで送ってもらったの」
  「そのとき、お前は決してクレオパトラみたいな美人ではないが、男が惚れる優しさを持ち合わせていて、何処となく可愛い女だよ」
  「少し我侭で、理・数に関する限り、呑み込みが少し遅いことを除けば・・、足は近代女性を象徴して長くてチョッピリだがセクシーでもあり、それに、なんと言っても尻が大きく安産型で、人の面倒見が良く、俺には理想的な彼女だよ」
  「な~んて 自然な言葉でさりげなく言って、彼らしく素直にわたしを観察してくれているのよ」
  「わたし、それを聞いていて、今まで以上に一層彼が真面目であることがわかり、わたし達の恋が本物だわと確信して、安心感とゆうのか、とても嬉しかったわ」
と、感激たっぷりに表現して、このときとばかりに、自分の話に置き換え得々と話していた。
  「最も、頭とお尻のことは、彼特有のジョークなのよ・・」
と、付け加えることも忘れなかった。

 一通り話を終えると、迎えに来ていた健太郎の車に乗り、運転中の健太郎に対し理恵子は
 「お父さん お母さんに何があったか知らないが、なんだかお疲れの様ですので、今晩は外食にしましょうよ」
と、話しかけ「わたし おそばが食べたいゎ」と言い出して、街場の食堂に行くことにした。
 健太郎にしてみれば、二人の会話から察して、なにか何時もとは雰囲気が違うなと敏感に察して、節子を代理出席させたことがまずかったなと、心に引っかかるものがあった。

 

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蒼い影(33)

2024年07月06日 03時36分40秒 | Weblog

 日曜日の午後。 その日も晴れていたためか、節子は珍しく和服姿で白い革バックを下げて、理恵子と一緒に健太郎の運手する車でPTA会場の高校に出かけた。
 節子は運転中の健太郎から
 「どうせ会議といつても、先生方を取り囲んだ懇親会が主な目的で、名士の酒盛りが始まるころ適当な時間を見計らって、理恵子に呼び出しをかけて貰い、それを機に席をはずして帰ればいいさ。 余計な心配はいらないよ」
と要領を指図され、理恵子からも
 「担任の先生に御挨拶して戴ければ、わたしは、それで満足だゎ」
と励まされながら会場に着くや人目を避けるようにして会場に入った。
 節子は、この地方に嫁いできて一年位になり、職場と近隣の人達と顔を合わせ言葉を交す以外に、この様な機会もめったになく、また、性格的にも大勢の人達の集まる場所を好まないところが若い時からあった。

 会場となった教室には、白い布をかけた机が四方角に並べられており、節子は会長とおぼしき中央に座る髭を蓄えた老人の席から距離を置いた入り口付近の片隅に、一礼をしたあと静かに椅子に腰をおろして、桃色のハンカチーフを手にうつむき加減に役員の話を聞いていた。 
 会議は年間の会計報告や新しい役員の選任それに来年度の行事計画等、予め決められていたのか、事務局長らしき人の方言交じりだがユーモアのこもつた滑らかな議事進行で形式的な議事が淡々と進み終了にさしかかるや、これも予め準備されていたのか仕出し屋の折詰の料理と酒やジュースの小瓶とコップが、当番と思しき世話好きな人達によって手際よく並べられ終わるや、会長さんの簡単な挨拶で懇親会がはじまった。

 皆が、それぞれに勝手な話題で賑やかに時が過ぎていったが、節子は興味のない各種書類を見ていたところ、何時の間にか忍びよる様に机の前に、袖口がブドウ色の毛糸で編まれた草色のジャムバーに薄青い色の格子柄のズボンの派手な中年の男性が彼女の前に立ちはだかり 
 「山上(節子)さん、今日は、御主人の代わりですか。ご苦労様です」
と普段職場で聞きなれた透き通る様な野太い声をかけてきたので、驚いて顔を上げて見ると、なんと大学病院で同じOPチームの丸山先生であり、まさか、この様な席で御一緒するなんてと助けられた様な気分にもなったが、反面、その派手な服装と、普段、若い看護師達の間で、とかく女性問題で噂話が絶えない、研修を終えたばかりの手術助手を務める丸山先生だけに、本能的に警戒心が心のなかをかけめぐった。
 話を聞けば、若いだけに高校に通う子供さんは当然おらず、会長さんの縁戚にあたり請われてこの高校の同窓生と言うことで、会の顧問として出席しているとのことであった。 
 彼はお酒が入っているのか、職場の看護師達の噂とおり
  「まるで娘さんのよに華やかですね。 この泥臭く薄暗い校内で、貴女の周囲だけに光がさしている様ですよ」
と、例によってヌケヌケと大げさな挨拶をして「また、あとでお邪魔します」と言って立ち去っていつた。

 酒肴が進んで、節子は隙を見て退室する機会をうかがって、早く理恵子が適当な理由をつけて迎えに来てくれればと思っていると、会長席の隣に座って先程から周囲を見渡していた、黒縁眼鏡をかけドレス姿の一見古参の役員風の老年の婦人が、ゆっくりと歩いて丸山先生と入れ替わりに彼女の隣に腰を降ろし、少し声をひそめて
  「山上さんとおっしゃいますか 私は、宮下と申しますが・・」
と、簡単に初対面の挨拶をすませると、いかにも昔の女学校の教師らしい語り口で
  「山上さん 貴女 同性の目から見ても とても美しい方ですね。でも、私は年配の女性としても、また、古風ですが女の老婆心から、それがとても気掛かりですの。 女の人でどうかすると、無事ですまないと思わせる様な美しさを漂わせることがある人って、私の拙い経験からしても、その人の上には、きっと何か事件が起きるものなのよ」
 「貴女を見ていて、そおいうハラハラさせられる美しさが滲み出ている様なの。 くれぐれも気をつけてくださいね・・」
と、思いもかけない忠告めいたことを言われて、彼女も予期しない話に慌ててしまい
 「まぁ~ その様に言われましても・・私、困りますわ。 でも、ご親切な忠告に従い過ちのない様に気をつけますけど・・」
と、節子は赤面して口元にハンカチーフを当てて、やり場のない視線を窓の外にむけた。
 もともと、彼女は占いや手相を全く信じないが、面識もない宮下女史の言葉とわいえ、女史の立派な品位と服装、諭すような落ち着いた話方に、何かしらピシリとこたえるものがあり心が動揺し暗い気持ちになった。
 

 

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蒼い影(32)

2024年07月03日 03時13分50秒 | Weblog

 11月も末とゆうのに、例年になく温暖な日が続くが、朝晩は流石に冷え込みがきつくなる。  
 そんな土曜日の午後。 学校から珍しく早く帰って来た理恵子が歌を口ずさみながら、愛犬のポチと機嫌よく家の周囲で遊んでいると、節子さんから
 「理恵ちゃん~ お父さんが、縞ホッケの乾物を食べたいと言っていたので、あなた織田商店にお使いにいってきてくれない」
と言われ、そういえば最近織田君も自分の勉強が忙しいのか暫く見えないので、若しかしたら逢えるかもと突磋に思い「わかったわ~」とオウム返しに返事をして買い物籠を受け取り、アノラックを着て首に毛糸のショールを巻いて暗くなりかけた道を、ポチのリードを持ちポケットに右手を入れて、冷たい風にさらされて、あちこちに野焼きの白い煙がモクモクと空に舞いあがる野道を歩んだ。  
 時折、家路を急ぐ車のライトがやけに眩しく映り、その度にポチが立ち止まって足元に寄り付くのが、何時にもなく愛おしく感じられた。

 店の近くに来ると店頭の灯が見えてホッとした気分になり、飛び込む様に店に入ると、織田君のお母さんが
 「あら~ 理恵ちゃんじゃないの、珍しいわね 今日はお手伝いなの?」
と愛想よく声を掛けてくれ頭巾を取って
 「いつも うちの子がお邪魔してご馳走になりすいませんね」
 「わたしが一人で店をきりもりしていて、あの子の食事も満足に用意してあげられないためか、理恵ちゃんの家に行くたびに、今日は何々をご馳走になったよ。と、喜んで話しをてくれ、その度に、私もあの子同様に感謝しておりますわ」
と言いながら、手を休めて話込み、理恵子が「あのぅ~ 縞ホッケありますか?」と言うや、理恵子の声を聞きつけたのか織田君が「おぉ~ 珍しい客だ」と言って、暖簾を押し開け大声を出して顔を出したが、すぐに奥に姿を消すと再び頭に手拭を巻きつけ前掛けをした姿で現れると、理恵子はそんな姿を初めて見ただけに思わず「いや~ 織田君素敵だわ~」と返事を返すと、慣れた手つきで今度は新聞紙にくるんだ魚を理恵子の籠に素早く入れると
 「親愛なるお前に敬意を表して、一匹余計に入れておいたからな」
 「魚は皮の方をから先に焼くんだよ」
と言ってニヤッと笑うと、おばさんも「お代は要りませんよ 何時ものお礼で・・」と言いながら、樽の中から赤鯛の糠漬けを取り出して袋に包み籠に入れると、ポチにも「はい あんたにもおやつだよ」と呟きながらポチの大好物の煮干を一つまみ籠に入れてくれた。

 理恵子は、織田君親子の明るいコンビネーションの良い対応に圧倒され、言われるままに従い「おばさん 有難う~」と礼を言い店を出ると、おばさんに促されたのか織田君が理恵子を追い掛けて来て
 「こんな暗い道、怖くて寂しいだろう。途中まで送って行きなさい。と、お袋に言われてしまったよ」
と、自転車を押しながらついて来て並んで歩きながら 
 「理恵! 人に色々言われたからと言って、その度に落ち込んで、俺に当たるなよ」
 「二人の付き合いが何処まで続くか、俺にもわからないが、今は、お互いに精一杯理解し合って、思い出に残る良い交際を続けられたらいいな。と、何時も考えているんだ」
  「それが、現在の俺達に出来る、最高の青春だよ。俺の考えを判ってくれるだろう」
  「この間、葉子さんからも、貴方も自分を大切にする自覚があるのなら、理恵ちゃんをしっかり守ってあげてね。 女の子って、その様な優しい心遣いがとても嬉しいのよ。私も出来る限り応援するわ。と言われてしまったよ」
と話しかけられ、彼女は葉子さんも優しく思いやりのある人だなぁ。と嬉しく思っていると、織田君は自転車を置いて、どちらからともなく近より抱きあって、軽く口ずけをして別かれた。
 彼女は一人になると、そのときの織田君の暖かい唇の感触が、いつにもまして理恵子の脳裏に強く余韻として残り、そして、この幸せが何時までも続く様にと、時折、雲間に見える月に手を合わせて祈った。
 それは、亡き実母の秋子さんに対し、今の幸せを暖かく見守って下さい。と、元気で過ごしている感謝と報告を、自然にこみ上げる気持ちで・・
 
自宅の近くになり、理恵子は今日のお使いは、母親のさりげない心遣いかなぁ。とも思った。

 和やかな夕食後、健太郎が節子さんに対し
 「明日の午後から、文化祭終了の慰労の意味で懇談会を兼ねてPTAがあるんだが、私は生涯学習センターの原稿作りを急がれているので、君、切角の休日で申し訳ないが、僕の代理に出てくれないか」
 「前にも出てもらったが、たまには職場とは違った別の世界の空気を吸うのも参考になると思うが・・」
と話かけると、節子さんは
 「うぅ~ん 正直余り気が進みませんが、理恵ちゃんの担任の先生にも御挨拶をしておかなければね~」
と返事をして
 「理恵ちゃん 大丈夫?。お母さんが恥かしい思いをすることはないわね」
と冗談ぽく話しかけると、理恵子は
 「ゼン ゼ~ン。 御心配 御無用だわ! 安心して先生に挨拶してくれると、理恵も嬉しいわ」 
 「お父さんは 少し理屈ぽいと聞くこともあるが、お母さんは 同級生やそれに先生方から、この地方ではまれに見る秋田美人だと評判で、わたしも内心得意になり嬉しく思っているのよ」
と、笑いながら賛同し母親に片目をつぶってウインクした。
 節子さんは「親を冷やかしてはだめよ」と笑いながらも彼女をたしなめていた。
   

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蒼い影(31)

2024年07月01日 03時11分18秒 | Weblog

 朝。 理恵子は前日に約束した通り、登校時、校門前の杉の木の下で奈津子と江梨子の二人と待ち合わせして、他愛ないお喋りをしながら校舎に向かって歩いてゆくと、後方から自転車を押しながら同級生と歩いて近ずいて来た織田君が、誰にともなく明るい声で「やぁ~ おはよう~」と声をかけて、理恵子の顔を見ると
 「なんだ くたびれている様で元気がないみたいだな~」
と言いながら、肩を軽くポンとたたき
 「毎月のお客さんがおいでかい・・?」
と冗談を言ってからかうや、すかさず、お茶目な江梨子が
 「お客さんてなによ」「知りもしないのに失礼よ!」
と、突っ張るような声で返事をすると、続けて奈津子が言葉を引き取り、織田君の自転車の荷台に手をかけて引き止める様にして薄笑いしながら
「あらっ! 葉子さんと御一緒でないの?」「親愛なる彼女に寂しい思いをさせてはだめよ」
と、皮肉ぽっく言うと、織田君は
 「僕と葉子さんが、どうしたと言うのだ。僕にはなんの関係もない、ただの同級生でしかないよ」
 「下級生のくせに可愛げないな~」「そんな人を疑う目で見て・・。 それが癖になり嫁さんに貰い手がなくなるぞ!」
と、さらりと言って先に行き去ろうとしたので、江梨子が
 「フン! 余計な心配だわ。 先輩! 仰っていること本当かしら? なんだか怪しいわ~」
と言いながらニヤッと笑うと、彼は「一体 朝からどうしたんだ・・」と不機嫌そうに答えたので、江梨子は
 「し~らない わたし、二股かける男はダ~イ嫌い!」
と、しらじらしい顔をして冷たい言葉を残して、理恵子と奈津子を促し校舎に向かった。


 午前中の授業を終えると、理恵子達は何時ものように自由気儘に校庭に出て、何時ものとおりポプラの樹の下で互いに弁当のおかずを交換しながら昼食を終えると、校庭の隅にある石碑の近くにある木陰になっている、彼女等三人のお気に入りの場所に行くと、理恵子に対し、奈津子が二人の顔を近ずけて、声をころして
 「理恵ちゃん、この前の話だけど、いい考えが浮かんだのよ」
と言いながら
 
 今度の土曜日に織田君達3年の野球部員達や仲の良い女性徒を交え、校庭の裏山の欅の木のところで持ち寄りの野菜や肉で鍋汁をつくって昼食するらしいのよ。  昨日の夕方、織田君や葉子さんと同級生の江梨子の兄が「お前 サトイモの皮をむいておいてくれ」と言ったので判ったのだけど、このチャンスを利用して、わたし達で織田君と葉子さんの親密度を調べてみるわ。
 わたし達、その時間帯に遊ぶ振りをして、そばに近寄ってよく見てみるが、理恵ちゃんは近くの炊事場にいて、わたし達の連絡を待っていてね。 よく聞いていてよ

  ”わたしが黄色いハンカチーフを頭の上で振りまわしたら、わたし達の判断で二人の関係は、理恵ちゃんが心配するほどでない”
 
とゆう合図であり、理恵ちゃんは自然な態度で、二人に近ずき、いつも通りに織田君に話しかけるのよ、葉子さんに遠慮しないでね。 いい 判ったわね。
 わたし達の観察で、もし、二人がやっぱり怪しいと見えたら
 
 ”江梨子が、白いいハンカチーフを振るから、そのときは、理恵ちゃんは寂しいけれども教室に戻っていてね、泣いてはだめよ!”

 私達、最後まで見届けて、あとで詳しく話してあげるわ。
と、計画を話した

 土曜日の午後は、幸い晴天で風もなく穏やかな日となった。
予測通りに、3年生の男女10名位が鍋汁を作って昼食を始めたが、奈津子と江梨子は彼等から10メートル位離れた樅の木の下の芝生に並んで腰を降ろし、織田君達を見ていたが、奈津子が急に
 「江梨子! 大変だ」「葉子さんが、わたし達の方に向かってきたわ! どぅ~する」
と言っているうちに彼女が近ずいて来た。 二人を見た葉子さんが
 「あらぁ~ また、二人で遊んでいるの。いつも仲が良いのねぇ」
と声をかけたので、江梨子がいかにも彼女らしく落ち着いて

 「私、嗅覚がいいの」「何か美味しいそうな匂いがするので、彼等の近くに行けば、きっと、なにかいいことある様な気がするわ」
と甘えるように返事をして
 「お誘いがあるまで、わたし達 天気が良いので刺繍をしていたところなの・・」
と答えると、葉子さんは
 「それなら あなた達も来なさいよ。遠慮することないわ」
と、不審感もいだかず機嫌よく誘ってくれたが、奈津子が心にもなく
 「上級生の中に入って、何かお小言を言われるのはいやだわ」
と、江梨子と反対に誘いを上手に断り反応を探ると、葉子さんは流石に勘が鋭く二人の意図を察して、話題をそらし
 「あらっ 今日は理恵子さんが見えないわね」
と言ったので、奈津子が思いきって
 「理恵ちゃんは、あなたと織田君に遠慮しているのよ。 尊敬する先輩ですので・・」
と、俯いて呟くように遠慮気味に小声で答えると、彼女はフフッと笑いながら
 「あな達も、私と織田君のことを誤解しているの。 困ったはね」
と言いながら 
 「私達、単なる同級生でしかなく、それ以外のなにものでもないわ」
 「わたしが、仮によ。 将来、恋愛するとしたら、おそらく5歳位うえの人とすると思うわ」
 「だって 現実には、生活とゆうものがあるでしょう」「それなりの収入がなければ・・」
 「織田君は健康で、いまどき珍しく優しい思いやりのある人で、どうやら 私の見るところ、理恵ちゃんがお似合いよ。 いや、 ことによると淡い恋の最中なのかなぁ~。と、わたしも、時々、羨ましく思うことがあるわ」
と、明快に説明をして
 「それにしても、織田君、今日はあまり機嫌がよくないみたいだわ」
と話してくれたので、奈津子はすっかり葉子さんの話に安心感を覚えて立ち上がるや、すかさず黄色いハンカチーフをぐるぐる頭上で回し、江梨子も勇気を得て自信たっぷりに手招きして恵理子に連絡した。

 理恵子は、駆け足で皆のそばに近寄り織田君の輪の中に入ると、例の屈託のない調子で皆に汁のお代わりをしてやっていたが、織田君が差し出したお椀には見向きもせず、隣の男子のお椀にお代わりを盛り付けていたので、葉子さんが「そんなことをするもんじゃないわ」と、理恵子にそっと耳うちしたが、彼女は笑いながら「いいのよ。彼には罰を与えたのよ」と言って、朝方の事情を知らない葉子さんを慌てさせた。
 彼女等は機嫌よく食事後の食器類や鍋の後方付けなどをしていたのは言うまでもない。
 奈津子と江梨子も、樅の小枝に黄色いハンカチを結びつけると、満足そうに彼等の輪から消え去るように静かにその場を離れた。   
 奈津子と江梨子の心は親友に対して責任を果たした気分で晴れ晴れとし、透き通る様な青空の様に明るかった。

 

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