はなこのアンテナ@無知の知

たびたび映画、ときどき美術館、たまに旅行の私的記録

『ぼくらの家路』(原題:JACK、独、2013)

2015年09月21日 | 映画(今年公開の映画を中心に)


 母に見捨てられた子どもは、早く大人になる。

 原題"JACK"は主人公の名。端的に言えば、6歳の弟マヌエルと共に母に見捨てられた10歳の少年ジャックの、母を捜して~母と連絡が取れないことには、自宅アパートの部屋にさえ入れないのだ~ベルリンの街を昼夜彷徨い歩いた3日間をメインに物語が展開する。

 奔放なシングルマザーの子育て放棄~ネグレクト~による子ども達の困窮を描いた映画と言えば、是枝裕和監督、柳楽優弥主演の『誰も知らない』(2004)が私は真っ先に思い出されるのだが、本作もまた、大都市ベルリンで誰からも顧みられることのない、親に捨てられた幼子2人の姿が、ドキュメンタリータッチで描かれている(演出の巧みさなのか、子役<イヴォ・ピッツカー>の巧さなのか、子役の立ち居振る舞い、表情の変化があまりにも自然で、演技しているようには見えなかった)

 大勢の人が行き交う大都市で、彼らの存在の透明さが不思議でならなかった。大都市だからこそ、なのか?

しかし、ここ日本では大阪の寝屋川市のような地方都市でさえ、深夜徘徊の子どもは誰にも顧みられることなく、陰惨な事件に巻き込まれてしまった…今や行き過ぎた個人主義による他者への無関心は、保護されるべき子どもに対してでさえ例外ではない。



 親としての立場、ひとりの大人としての立場で見れば、幼子ジャックとマヌエルの母親の無責任さと周囲の大人の無関心に腹が立つのだが、それ以上に主人公ジャックの機知に富んだ聡明さと俊敏な身体能力と理不尽な攻撃に負けない心の強さが印象に残った。彼の優しさも、その心の強さに裏打ちされていると言える。

 親はなくとも子は育つ。否、あんな親だからこそ、幼い弟マヌエルの為にもジャックはしっかりしなければならないのだ(とは言え、まだ幼さも残る)。仮にジャックひとりなら、ここまで強くなれただろうか?

 わずか10歳にして大人の不実と、世間で行き抜くことの厳しさを知ったジャック。その後の人生にも厳しさが伺える映画の結末に、ジャックとマヌエルの行く末を案じずにはいられなかった。このまま信頼できる大人と出会えなければ、ジャックの人生は危うい方向へと導かれてしまうのではないだろうか?




 子を捨てた親は、いつか子に捨てられる。
 その時になって後悔しても遅すぎる。


監督:エドワード・ベルガー
脚本:エドワード・ベルガー、ネレ・ミュラー=シュテーフェン


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