昼下がりの金曜日の、ゴッサム・シティの中心部、 金融街の端の北ジュリアス通り。 雑音と混乱のなかで。
日光が何千もの窓ガラスの上で輝いているところで、ホーンが鳴らされ、エンジンの音がしていた。排気ガスの細くて青いもやが宙に浮いていた。
それらすべてより上の方では、クラウン(道化)マスクを着けた二人の男が武器とツールを装備して、10フィートの高い窓に面している屋根裏に立っていた。最初の男は上に狙いをつけて消音のオートマチック拳銃をガラスに向けて発射し、その破片が床に落ちるのを見た。その男のコードネームはDOPEY(ぼんやりした奴)だった。HAPPY(幸せな奴)というコードネームを付けられた2番目の男は、空になった窓枠を踏んで、肩に担いだスピアガンの狙いを定め、引き金を絞ると、鉤のついた長いケーブルが通りの向こう側にしゅっと音をたてて向かっていき、別の建物の壁に埋まった。DOPEYは彼のケーブルの端をむきだしのI型鋼に固定して、彼のパートナーにうなずいた。HAPPYはバッグをケーブルに引っかけて、空のままそれを向こう側に送った。一瞬後、HAPPYとDOPEYはバッグに続いて、線の上に合う運ばれた装置の先からぶら下がった。もし誰かが上を見上げて、彼らのことを見たならば…
やあ、こちらはゴッサムシティ、暴力的仕事の中心地です。 普通の狂人たちが何か狂った事件を起こして、それが面白いならば、多分それは11時のニュースで放送されるでしょう…
その下の3ブロック離れたところでは、暗い着色ガラスのウィンドウと違法なナンバープレートを付けた黒いSUVが2台のスクールバスの間を疾走して、交差点で止まるためにぐいと動いた。助手席側のドアが開くと、作業着を着た背の高い男が戸口から駆け、車に乗り込んだ。その中では、彼がクラウンマスクをポケットから出して被り、もう一人のクラウンと向き合うために彼の席を回した。BOZO(アホ)というコードネームの男が運転席に着いた。「3人揃った。仕事を始めようぜ」と男が言った。その男のコードネームはGRUMPY(不機嫌)だった。
後部座席に座っているCHUCKLES(含み笑い)というコードネームの男が、コンパクトサブマシンガンに装填しながら見上げて言った。「これだけか?3人だな?」
GRUMPYが言った。「屋根の上に2人いる。全員、分け前は特別だ。分け前は全部で5人分だ」
「6人」とCHUCKLESは言った。「この仕事を計画した奴を忘れるなよ」
「そうかい?」とGRUMPYは言った。「自分はただ待っていて、金を掠め取る。奴がジョーカーと呼ばれる理由はそれだな」
屋上、DOPEYとHAPPYはアクセスパネルをこじ開けました。 HAPPYは作業を中断しDOPEYの方を見つめた。「どうして奴は皆にジョーカーと呼ばれてるんだ?」
「俺は奴のしている化粧が原因と聞いたぜ」とCHUCKLESは言い、青の厚いCAT5ケーブルの束を引き抜いた。
「人々をこわがらせるためだ。出陣化粧みたいなもんだろう」
通りの後ろでは、BOZOが銀行の前のメーターで測られた駐車場所にSUVを動かした。彼はエンジンを切り、メーターを気にすることなく銀行に入った。GRUMPYとBOZO、そしてCHUCKLESはアサルトライフルと数個の空のダッフルバッグを運んだ。内部では、GRUMPYがいったん天井へ発砲し、CHUCKLESは彼の武器の床尾で警備員の頭を打ちつけた。そしてBOZOはドアを閉め、ブラインドを降ろした。
GRUMPYはさらに発砲して、「今すぐ全員床にふせろ!」と大声で叫んだ。 そして顧客と従業員は同様に、手とひざを腹に落とした。その時上級金銭出納係のうちのひとりが何とか通報ベルのボタンを押した。彼女のいる場所の15階上の屋根の上では、DOPEYがプラムサイズの電子装置を見つめてかすかな音を聞いた。
「それは何だ?」HAPPYは尋ねた。
「俺たちの計算どおりだと通報ベルはここに来るようになっている」とDOPEYは言った。「そしてここに行く」
「変だな…、警察に通報してないぞ。プライベート・ナンバーのようだ」
彼の後ろでは、HAPPYが彼の銃を上げ、DOPEYの頭の後に消音のオートマチック拳銃を発射した。DOPEYが死んで屋根に落ちたとき、HAPPYは彼のバッグを拾った。 それから彼は古風なバールを取って、屋根のアクセスドアをあける仕事にとりかかり始めた。1分もしないうちに、彼はそれをこじあけて、赤い球だけが点灯している急勾配の階段を駆け下りていた。 最下部に達したとき、彼はEXITと記されているドアを開け、光っている鋼の金庫室の前に立っていた。
銀行では、BOZOとGRUMPYが顧客と金銭出納係のいる列のところを下っていた。かれらは1枚の壁に沿って立っていた。 BOZOはそれぞれに手榴弾を手渡すとGRUMPYがあとに続き、そしてピンを引いた。人質は手榴弾が爆発するのを防ぐために先端を維持し、両手で手榴弾をつかんだ。
「我々は君たちが貴い生命のために両手をそのままの状態にしておく以外のことは望まない」とGRUMPYは人質に話した。
それから大きい爆発音がして、3人目の強盗(CHUCKLES)は後ろに倒れた。そして、彼のマスクとジャケットの前部がずたずたになり、死んでいた。
申し分のない洋服屋仕立ての茶色のスーツを着た銀行の支店長がショットガンを持ってオフィスから踏み出してくると、再び発砲した。
人質は手榴弾をしっかりつかんで、掩護を求めて床に沿って急いだ。GRUMPYとBOZOは共に机の後ろに潜り、ショットガンで支店長のいる方向にやみくもに撃ちまくった。
「奴の銃の弾は何発だ、5発か?」GRUMPYは尋ねた。
BOZOはうなずいた。
「残っているのは3発だな?」BOZOは指を2つ上げた。
彼は机の隅で銃を押し進めて、一発撃った。銀行の支店長は、二回発砲した。GRUMPYがBOZOを見ると、彼はうなずいた。
GRUMPYは立ち上がり、デスクトップの上で銃の狙いを定めた。
銀行の支店長が再び発砲し、鹿弾の雨がGRUMPYの肩を打った。彼は机に倒れ、そして支店長は彼のポケットから新しいシェルを出しながら前進した。BOZOは机の後ろから立って、支店長の胸を撃った。
GRUMPYは鹿弾が当たった場所の上のシャツとジャケットのたれ下がった箇所をわきに引いて、自分の傷を凝視した。 彼はしっかりと彼の手のひらで血液をこすり落としてさらに傷を見た。 傷は浅かった。
机に寄り掛かって立つと、彼はBOZOの方を向いた。
「一体どこでお前は、数え方を学んだんだ?」
BOZOは彼を無視して、新しいシェルをショットガンにセットし始めた。
「お前らは誰の金を盗んでいるのかわかっているのか?」銀行の支店長はささやいた。「お前と仲間たちは、死んだも同然だ」
HAPPYはドリルを金庫室に固定して、ボタンを押した。機会が高い音を立て、ドリル刃が金属に食いこんだ。そして―
気がつくと彼は床にいた。ぼうっとさせられ、震えていた。彼は電流、それも多量の電流によって打たれていたと理解するまでに少しの間を要した。奴らは金庫室に配線したのだろうか?
彼はスニーカーを脱ぐと手にそれをつけ、壁の前で気を引き締めて、もう一度金庫室に入るための作業に取りかかった。 何回もいじくり回したり位置を変えたりして、彼は何とかドリルを操作することができた。スニーカーが高電圧から彼を保護してくれた。
GRUMPYは横の入り口から部屋に入った。HAPPYは彼をちらっと見て言った。「奴らはここに電気を流したらしい。おそらく五千ボルトだ。一体どんな銀行がそんなことするんだ?」
「マフィアの銀行だ」とGRUMPYは言った。「全く、奴らの言う通りジョーカーの野郎は狂ってるな」HAPPYは肩をすくめた。ドリルのノイズがきしるような音に変わった。「もうほとんど終わりだ」とHAPPYは言った。
彼は大きいホイールをつかんで回転させた。
「ところで、アラーム・ガイはどこだ?」GRUMPYは尋ねた。
ホイールの回転が止まった。HAPPYがそれを引っ張ると、金庫室が開いた。「ボスが仕事が終わった奴は殺せって俺に言ったんだ。分け前が1つ減る」
「面白い」GRUMPYは言った。「俺も奴に同じことを言われたぜ」
HAPPYは腰のベルトにあるピストルをつかみGRUMPYに立ち向かうために急いで振り向いたが、彼は遅過ぎた。GRUMPYは彼のアサルトライフルを発砲させた。しばらくするとHAPPYの体の上を通って、金庫室に踏み出した。
彼は立ち止まり、少なくとも8フィートの高さの現金の山を見つめた。
10分後、彼はいくつかのふくらんだダッフルバッグを背負って銀行に現れた。彼はBOZOの足元にそれらを落とし、笑った。
「来いよ」彼は言った。 「荷物は沢山だぞ」
強盗が金庫室の方に姿を消すのを、人質は手榴弾をしっかりつかんで見ていた。何人かは緊張しながら隣の人をちらっと見た。また特に何もしない者や、目がぎゅっと閉めた状態で唇を音もなく動かしている者もいた。
GRUMPYとBOZOが再び現れ、各々いくつかの金が詰められたダッフルバッグを背負い込んでいた。GRUMPYは最初のひと束の横に次のバッグを床に落として、「奴が賢かったなら、俺たちにもっと大きい車を持って来させただろうな」と言った。
それから彼はピストルをBOZOの背中に押しつけて、武器をとり上げた。
「現金を積み込んだらすぐに俺を殺すようにジョーカーが言ったと賭けてもいいぜ」
BOZOは頭を横に振った。「いや、俺が殺すのはバスの運転手さ」
「バスの運転手?どのバス―」
BOZOは最も近い窓をちらっと見て、後ろへ跳んだ。
黄色いスクールバスの後部が窓を突破し、ガラスのシャワーを部屋に降らせ、出納係の檻にGRUMPYをぶつけた。BOZOは落ちた武器を取り上げ、バスに向かうためにターンした。もう一人のクラウンがバスの後部ドアを開いたが、BOZOは彼を射殺した。
サイレンが遠くで悲しげな音をたて始めた。
BOZOは、ダッフルバッグをバスに積み込み始めた。
銀行の支店長は彼が倒された場所にまだ横たわっていて、彼の右手が彼の傷のところで広げられた。そして彼はBOZOを見つめるために頭を上げた。
「それで自分が賢いつもりか、えっ?」彼は息を切らしながら言った。
「きっとお前を雇った奴に同じようにされるぞ。ああ、奴らはそうするさ。以前はこの町の犯罪者も信じてた」
BOZOは男が横たわって、かがんでいるところまで踏み出した。
男はBOZOを見つめた。 「名誉。敬意。お前は何を信―」
BOZOはピンに紫色の糸が結びつけてある手榴弾で男の口をふさいだ。
「俺の信念はこうだ」とBOZOが言った。「死ぬような目に遭った奴は―
BOZOは自分のマスクを取り外した。マネージャーの目が大きく見開かれた。彼はもう一つの道化の顔(どんなマスクよりもはるかに人の心を乱す顔)を見ていた― 真っ白な皮膚、緑色の髪、口には赤い化粧のほどこされた恐ろしい傷跡があった。
―イカれる」とジョーカーは締めくくった。
傷跡を残した道化は起きあがるとバスの方へ歩きだした。そして彼のジャケットからほどけている紫の糸を手榴弾に付けた。彼はバスに乗り込み、後ろのドアを閉めた。そして紫の糸で罠を仕掛けた。
一瞬後、バスのエンジンが不平を言いだし、そしてバスは歩道を越えて通りへと動きだした。
紫色の糸が銀行の支店長の口の手榴弾からピンを引っ張った。
人質は叫び声をあげた。
手榴弾はしゅっと音をたて、赤い煙を噴出させたが、爆発しなかった。
1ブロック離れたところでは、一連のスクールバスがファーガソン中学校の正面の縁石を発って、交通の流れの中に斜めに進みだした。最後のバスが銀行の方角から来た。やってきた5台のパトカーのサイレンが甲高い音をたて、通りの反対側で彼らを過ぎて速度を上げていった…