ちなみに、この時既にわたくしのお尻は大変なことになっておりました。
とにかく痛い。
どう座っても痛い。
誰も走ってない国道では、立ち乗りも辞さない状態です。
しかし、尻が痛くても日勝峠は越えなくてはいけません。
気を引き締めて走ります。
世界でも有名な危険な峠、それが日勝峠です。
アクセル全開で登って行きます。
かろうじて登ります。
ダイエットが足りないことを後悔もしました。
しかも日勝峠の頂上から、下がるほどどんどん暑くなります。
オイオイ、熱風じゃねーか。
一日中気温が高く、しかも日差しも強かったのですが、清水側は更に暑くなっていきます。
疲れ、暑さ、尻の痛さ。
そして、まだ全行程の半分という現実。
正直、この時は朦朧と陽炎を追いつつ、もう走るのが辛くてやめてしまいたかった。
清水の駅にリトルカブを乗り捨てて、JRに乗ろうか…そんなことも考えました。
峠を下り、五合目のパーキングに近づくと、何やら上半身裸の男が、バイクの傍らに佇んでいます。
わたくし、この裸の男に見覚えがありました。
「おーい!」
思わず大きく手を降る。
「おーい!」
心は喜びで満ち溢れていました。
1人じゃない。
以前、裸で豊頃のドーナッツを買って来て日焼けと言うか火傷した男が、日勝峠の五合目で待っていました。
ここからは一緒に下ります。
しかし、この時点で6時に釧路はギリギリのところ。
2人は記念撮影だけして、ひたすらに国道を走ります。
とにかく暑い。
ドライヤーの熱風を当て続けられているようです。
少しフラフラします。
でも帯広が近づくにつれて車も多くなります。
更に暑さは増します。
帯広に入った頃、交差点で止まると横から話しかけてきました。
「明日休みだしノープランで来たから知り合いの店で飲んで帰る」
きっと、暑さに耐えきれなかったのでしょう。
そして、原付に合わせて走るのにも疲れたのでしょう。
裸の男が、帯広を出る前に何処かへ消えていきました。
別れを惜しむ暇はありません。
男には、そんな言葉はいらないのです。
帯広を抜けてすぐ、給油することにしました。
北広島から走った結果、燃費は90km/lでした。
恐るべし、スーパーカブ!
隣のコンビニで給水。
ヤバイ…。
このぺーすだとゆらりに6時はギリギリだ。
気合を入れて走り出します。
ここからはまた1人。
疲れもかなり溜まってます。
さらに脱水の症状も。
コンビニで1Lほどスポドリを飲みましたが、果たして足りてるかどうか。
とにかくここからはノンストップじゃないとまずい。
しかし、池田を過ぎた辺りで、睡魔なのか、それとも脱水なのか、完全にフラフラになりました。
もう走ることもままなりません。
路肩を注意深くゆっくり走り、なんとかコンビニにたどり着きました。
これは暑さと脱水だと判断し、塩ライチシャーベットを囓り倒し、スポドリを更に1Lほど一気飲みしました。
強ミントタブレットを口いっぱいに頬張り、なんとか釧路に向かって出発します。
もう本当に止まることは出来ません。
時間的にはかなり厳しくなっていました。
しかも、iPhoneの充電がありません。
もう連絡を取ることも出来ないのです。
6時に着くと信じて、お客様を入れてしまうかも、予約も入っているかも
!。
とにかくもうちょっと止まる時間もありません。
ひたすらに走り続けます。
そして、トンネルを抜けて音別が近づくと、あれほどうだるほど暑かった気温が、本当に嘘のように下がり、
半袖に短パンでは寒くなって来たのです。
カブで走ると更に体感は下がります。
白糠に入る頃には、もう震えが止まりません。
しかき、もう止まっている時間はありません。
ガタガタと震えながら、それでも必死に走り続けます。
もう尻の感覚はありません。
わたくしの尻は何処かへ消えてしまったようです。
だが痛みだけはあります。
疲れ。
痛み。
寒さ。
市内に入り、新釧路川を越えた辺りで、6時を回りました。
頼む! もうすぐ着くから、予約があったら断らないでくれ!
いや、既にお客様が入っていたら、なんとか繋いでてくれ!
駅裏を過ぎ、陸橋を渡り、末広が見えてきます。
頑張れ俺!頑張れ俺!
ゆらりの前には、皆が待ち構えていました。
やり遂げたのです。
15分遅れ。予約は6時30分でした。
急いでボディーシートで身体中を拭き、手や顔を洗って、無事に店に立つことが出来ました。
総走行距離370km
ただ、カブを運んだだけ。