西野了ブログ テキトーでいいんじゃない?

日々浮かんでくる言葉をエッセイにして・・・・・・。小説は「小説を読もう 西野了」で掲載中です。

飼い猫シロの目線

2024-01-30 13:25:15 | Weblog

本文編集
 天井が低い。いや床が浮き上がったのか?
 仏壇のある空間がやけに狭く感じる。空気も薄く息苦しい。
 この家自体も細かく仕切られていて、いたるところにドアや襖、ガラス障子がある。いちいちそれらを開け閉めするのは面倒くさい。
 以前は屋根裏にねずみがいて、私が来る前まで夜中には奴らの走る音が聞こえていたそうだ。
 下の部屋に続くドアは開け閉めすると、いつも「ギャー」というささくれ立った音を発する。
 2階は激しく歪んでいて、廊下を歩くとき少々やっかいだ。2階も私がちゃんと見回りをしているが、ときどき変な奴がやってくる。そいつらは白い服を着て体がぼやけている。
 家族の奴らはどうして彼らに気づかないのだろう。2番目の孫娘は何となく気づいているようだが。彼女はぼんくらばかりの家族の中で一番まともだからな・・・・・・。
 2階の廊下といえば私が若い頃、走り回って階段に転げ落ちたこともあった。大体この家の造りがおかしいから、あんなひどい目にあったのだ。まあ若気の至りとでもいえるが。あの時はみんな心配してくれて、下の孫娘なんかは真っ青になって今にも泣き出さんばかりだったな。私の関節と筋肉の柔軟性、それから身体能力を考えれば大したことはなかったのだが。言葉が通じないということは、こんなとき不便なものだ。
 しかし父親はダイエット中と言っているくせに毎晩ビールや焼酎を飲んで、柿の種やナッツをボリボリと食ってやがる。それから五十肩だとかヘルニアとか坐骨神経痛で運動ができないとかほざいている。それでダイエットでもないだろう。だからあんなに体が重く動きが鈍いのだ。
 まあコイツが早く死のうがそれはどうでもいいことだ。私としては婆さんが私の寿命まで生きてくれればそれでいい。
 ところで人間って奴はほんとうに頭が悪い。いつも私は眠っているだけでいいなあとか、勝手気ままに生きているとか、ニャーニャーうるさいだけだとか話しているが、私はそんな暇ではない。眠っている間でもこうして家族の奴らの頭を巡回しているのだ。そして家族がうまくいくようにあれこれ操作してやっている。人の頭を覗くのは骨の折れる作業だ。澄ました顔をしている奴ほどとんでもないことを考えていてややこしい。まあそれは言わないでおこう。
 そろそろ息子の頭から離脱しよう。こんな不健康な心身の輩にいつまでも留まっているとこちらまでダークな性格になっちまう。疲れた・・・・・・。今から、ちゃんと眠ることにしよう。
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ワルキューレ猫族が風船にぶら下がって、やって来た!

2024-01-28 09:17:51 | Weblog

 赤色の風船にぶら下がり、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」の旋律にのって猫族がやってきた。ワルキューレ猫族と人類の命運を賭けた最終決戦の始まりだ。
 猫たちは青い鈴をつけて首とお腹に風船の紐を巻き付けて空を飛んで僕の部屋にやって来た。彼らは物凄いスピードでガラス窓をぶち破って部屋の中に入ってきた。そして壁や天井を猫パンチ、猫キックでボコボコに破壊した。彼らの最も恐ろしい攻撃は、口の中で鉄球を作りそれをミサイルのように発射するものなのだ!これでは人類は太刀打ちできない!
 そう言えば以前、猫は壁の中から出てきたと聞いたことがある。猫の体はとても硬いのだ。猫族のメンバーは白いちゃんちゃんこを着ている「白太郎」、首から黒いネクタイ模様のある「リーマン」、巨躯で怪力の茶猫「ドラ」。そして手足は短いが不屈の闘魂を持つキジ猫「マル」。それから韋駄天の「クロ」もいる。いずれも一騎当千の猫たちだ。
 司令官はうちの白猫タマちゃんらしい。彼女は人間の情報を完全把握して、猫族が決起する時を探っていたようだ。このままだと人間が地球をダメにしてしまうと思い、闘い嫌いの猫族がついに立ち上がったのだ。
 僕は雪が降るとガラス窓が壊れているので、部屋が寒くなって困ったなあと思っている。僕はとてもで寒がりで冷え性だから冬の寒さは体にこたえる。だから司令官のタマちゃんに「人類は反省してこれまでの悪行を正し善行を致しますから、皆さんどうかお引き取り願いませんか?」と哀願した。
「うにゃ」タマちゃんは蒼い瞳でクールにそう言った。
「にゃんにゃん」白太郎は僕の言葉を信じていない。
「にゃあにゃあ?」リーマンは考えてもいいのではと言ってくれた。
「・・・・・・」ドラは話すのが面倒くさいみたいだ。
「シャー!」クロは待つことができない。
「アーッ?」マルは武闘派だが意外と思慮深い。
「アウーッ、ニャニャニャニャ?」タマちゃんはそれなりの見返りを出せば考慮すると言ってくれた。
 僕は急いで電子レンジにトウモロコシを入れて加熱した。「ブーン」という音がしてポップコーンを作った。それを団扇であおいで冷ませた。それから中華そばををつくり、それも団扇であおいで適当な温度にした。最後にキャベツサイダーを出した。
「にゃーあ、あーっ」タマちゃんは納得してくれて、他のメンバーは一斉に食事をし始めた。彼らはどうやら空腹だったようだ。
 食事が終わると白太郎とクロは口の周りをペロペロなめてお掃除している。マルとドラは大人しく丸まって食べ物の消化は促進している。クロの奴は壁クロスで爪とぎしている。クロはじっとしてない。
 タマちゃんはしばらく瞑想していたが、カッと目を見開いた。
「にゃー!」みんなに号令をかけると白太郎たち5匹の戦士は紅い風船を装着した。司令官がステレオのリモコンのボタンをピンクの肉球で押した。またもワーグナーの「ワルキューレの騎行」が鳴り響き猫戦士は颯爽と帰って行った。
「フーッ」とタマちゃんは一息つき僕をじっと見た。
「今度は電気自動車に買え代えます」僕は慌てて言った。
「・・・・・・」タマちゃんは冷たく蒼い眼で僕を睨んだ。
「あっ、もう自動車は乗らないで自転車にします」僕はとっさに言ってしまった。
「うにゃ」タマちゃんはそう言うと何処かへ行ってしまった。






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環境整備課・有村孝一の秘密

2024-01-27 10:01:32 | Weblog
「おい有村君、例の書類はできたかい?」 
「アッ、す、す、すいません。もう少しかかります」有村考一は、か細い声で答えた。
「あーっ、いいよ、いいよ。まだ会議には時間があるし」課長は投げやりにそう言った。
「有村さん、私、何か手伝うことないですか?」先週からパート職員としてこの職場に入ってきた越智菜々子が明るく言った。有村は彼女の元気さに気圧されるように「いや、別にないです」と黒縁メガネの中の小さな眼を見開きながら答えた。

「有村君。見神町二丁目三番地のゴミ収集でまたクレームがきてますわよ。あなた、ちゃんと対応したの?」係長は赤い眼鏡のフレームを動かしながら早く現場に行きなさい! と無言の圧力を有村にかけてきた。
「じゃあ、あたしも同行していいですか? 仕事を覚えるために、ねえ課長さん?」
「あっ、あああっ」課長は菜々子の若い美しさに圧倒されて首を縦に振ってしまい、既にそれを失ってしまった係長は憎々し気に課長を睨んだ。

「それじゃあ、よろしくお願いしまーす!」ミニバンの助手席に乗った奈々子は有村に顔を近づけ元気よく挨拶したので、中年運転手は思わずアクセルを踏み込みそうになった。
「アッ、ここですね」神社を登る階段の横にゴミステーションがあった。鉄製金網の中に可燃ごみの半透明ビニール袋が一つだけあった。今日はプラスチックゴミ回収日なのだ。
「有村さん、これ、どうするんです?」
「役所のゴミ焼却炉で燃やします」有村は申し訳なさそうに答えた。
「エーッ! このゴミ出した決まりを守らない人を見つけないのですか?」
「そういう人はたくさんいるのです」有村は元気なく言った。
「それで有村さんはよく外に行っているのですね」
「他にやる人がいないのです」
「エーッ、課長とか、女係長とか暇そうですよ」菜々子はピンクの頬を膨らませた。
「管理職は課内に居ないとダメだそうです」有村はゴミ袋をミニバンの荷台に入れた。
「うぇー、有村さん、超臭いです。窓開けていいですか?」
「はい、どうぞ」有村の返事を聞く前に菜々子はミニバンの窓を開けて外気を吸い込んだ。
「あれぇ?」暫くして運転している有村が不思議そうな顔をした。
「どうしたのですか、有村さん?」
「ひょっとして道間違えたのかもしれません。おかしいなあ。前もここに来たのに」
「いいじゃないですか、たまには気分転換も必要ですよ、少し臭いけど」菜々子は嬉しそうに答えた。
「ありゃー! 変な一本道に入ったみたいです。すみません、越智さん」
「フフフッ、面白そう」菜々子は楽しそうに窓の外を見たり、有村の生真面目な表情を見たりしている。ミニバンは薄暗い一本道を登って行っているようだった。その一本道の行き止まりには古ぼけた神社があった。野草が生い茂り背の高い楠や欅が周囲を覆っている。
「あれ? この辺りにこんな古い神社があったかな」有村はミニバンから降りて古ぼけた神社を眺めた。
「有村さん、この神社は人の手が入っていないようです。神秘的で面白そう」
「エッ? そうですか」小心者の有村は嫌な予感がした。
「ねえ有村さん、この神社の中に入ってみません? 凄いお宝がありかもしれませんよ」菜々子はそう言うと有村の返事を待たずに彼の右手を握って神社の階段を上がり始めた。若い女性に初めて手を握られた有村は激しく動揺しながら彼女について行った。
「土足のままで上がっていいのでしょうか?」有村は埃が積み重なっている床板を見た。
「あたしたちだったら許されると思います。それよりも孝一さん、開かずの間の扉が開いていますよ。フフフッ」菜々子は悪戯っぽく笑った。
「エッ、越智さん、あそこは神官さんしか入ってはいけないはずです」
「いいから、いいから」菜々子は有村にギュッとくっついて開かずの間に入って行った。有村は菜々子の柔らかい体の感触に呆然として、彼女のなすがままに歩いている。
「あれ、何か変ですよ。開かずの間なのに洞窟の中みたい?」有村は周囲を見渡したが殆ど何も見えなかった。彼は菜々子に優しく誘わられるようにフワフワと歩いていた。
「孝一さん、そろそろ出口ですよ」
 二人の前方が少しずつ明るくなってきた。爽やかな風が吹いてきて有村は大きく深呼吸した。真っ暗な洞穴から出ると、そこは草原が広がっていた。彼の眼下には白い砂浜に規則正しく波が打ち寄せていた。
「ここは・・・・・・?」
「相変わらず孝一さんは忘れっぽいですね。まあ座りましょう」菜々子は草原の上に腰を下ろした。それにつられて有村も彼女の隣に腰を下ろした。すると菜々子は頭を有村の左肩にのせて体を預けてきた。有村は自然に左腕で彼女の体を引き寄せた。
 陽は傾かず風は吹き止まず市役所勤務の中年男は空腹も尿意も感じなかった。

 ひとつの同じ時間が引き延ばされている。
(ずっと前もこの感覚があった・・・)有村はそう思った。
「孝一さん、あなたの住んでいる場所はもう壊れています」新任のパート職員は低い声で告げた。
「えっ!」
「今の様子を見ますか?」菜々子は前髪をかき上げて額を有村の額にくっつけた。
 その街は何もかも崩れ落ちていた。所どころ火の手が上がりどす黒い煙が漂っている。彼の勤めている五階建ての市役所も瓦礫の山になっている。
「何があったのですか?」
「あの場所に住んでいる人間は余りに汚れ過ぎていたのです。そして大地の怒りをかった。超巨大地震が発生しました。人々は自分の快楽と欲望のために他者を貶めて欺いてばかりいました。彼らは他の生き物も様々な恵みも貪欲に貪ってばかりいました。その罪のために罰がくだったのです」
「でも、どうして僕はここにいるのです?」
「孝一さん・・・」菜々子はにっこりと笑った。
「孝一さんはあの場所で唯一の優しい人です。お部屋の小さな蜘蛛を踏まないようにするしお話もする。お腹を減らした野良猫に鰯の干物を与える。毎日のご飯は感謝して一粒も残さない。野草を意味もなく駆除しない。足の不自由なお年寄りの荷物を持ってあげる。職場でも嫌な仕事を引き受けている等など。あの場所でこの世界を美しくしている人間はあなただけなのです」菜々子はそう言うと瞳を閉じた。
「そんな。僕なんかよりも優しくて思いやりのある人はたくさんいるでしょう?」
「孝一さん、時代の流れというものがあります。今は個人や会社の欲望が全てを飲み込んでしまって、正と負のパワーバランスが崩れてしまいました。分水嶺を超えてしまったのです。そうなるとまともな人たちも快楽の欲望に飲み込まれてしまいました」
「・・・・・・」有村は何も言わず目の前の変わらない風景を眺めた。隣に座っている菜々子の温もりが伝わって懐かしい喜びが沸き上がってくる。
「やっと巡り会えたのだから、しばらくここにいよう、孝一さん」菜々子は眩しそうに有村孝一を見つめた。
 有村は菜々子の言う通りかもしれないと感じた。一週間前に初めて越智菜々子に出会ったとき、強張った彼の体と心がゆるゆると解けていく感覚があった。
「僕も越智さんと一緒にいたいけど・・・」有村は突然立ち上がり、先ほどまで歩いて来た洞穴の出口に向かって走り出した。
「越智さん! やっぱり僕はあの街で何かしないといけないのです。ごめんなさい」有村は全速力で走り続け、彼の姿は洞窟の暗闇に消えていった。
「あーあっ、やっぱり。コウイチさんはいつもこのパターンだもの」菜々子は微笑みながら洞窟の出口に向かって歩き出した。

 きな臭いが黒い煙の中、有村はミニバンをゆっくりと走らせていた。彼の積み込んだ臭い可燃ごみ袋は無くなっていた。道路にはいたる所に建物の破片が散乱しており、大きな道路は軽自動車しか通行できない状況だった。主要道路のアスファルトは隆起して裂け、電柱が倒れていて通行できない場所がいたるところにあった。有村の運転するミニバンが市役所に到着できたのは奇跡的であった。
 鉄筋コンクリート造りの市役所庁舎は見る影もなく崩れ落ちていた。あれほどいた職員たちはどこにもいない。所どころから灰色の煙があがり無機質的な匂いがたちこめている。
「・・・・・・てぇ」有村が立っている右前方から聞き覚えのある女性の声が聞こえた。
「助けてぇ」今度は弱々しいがハッキリと係長の声が聞こえた。有村はハンカチで口を塞ぎながら声のする方向に走り出した。ロッカーや机、パソコンが積み重なっている中から係長の声が聞こえてくる。よく見ると係長の声がする場所は地下に空洞が出来ており蟻地獄のように様々な物が地下に吸い込まれている。
「係長!」有村は今にも地価の空洞に落ちそうになっている係長の左腕を掴んだ。
「こらぁ! 有村―ぁ。早く私を助けろーっ!」係長は鬼の形相で有村に命令した。部下は自分の体重の一・五倍はある係長を渾身の力で引き上げた。そして彼はその反動で巨大な空洞に落ちて行った。落ちていく途中、有村の顔の前に部屋にいる小さな蜘蛛がぶら下がっていた。その小さな蜘蛛は言った。
「ねぇ、コウイチさん。今度は早くあたしを見つけてね・・・」

 藤村公一はアルバイト先のファミリーレストランから出てきて駐輪場に向かって歩いていた。
「公一、そんな怖い顔していると、お客さんが逃げちゃうよ」彼の自転車の傍に立っている制服姿の落合奈々子が笑いながら声をかけた。
「奈々子、後ろに乗る? 歩いて帰る?」
「今日は後ろに乗る、フフフッ」
 サドルに腰を下ろした公一を奈々子はギュッと抱きしめた。人見知りで警戒心の強い公一はなぜ奈々子に心も体も許しているのか不思議に思っている。でも彼女といると安心と喜びと優しさが沸き上がって来る。そして奈々子は公一のそんな胸の内をお見通しだという顔をしている。
 奈々子のことを考えても分からないのは若さのせいだと思い、公一は力強くペダルを踏んだ。
 二人を乗せた自転車は生暖かい夜の街を切り裂くように走って行く。 

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超高速でキーボードを叩くトラ猫

2024-01-26 15:53:32 | Weblog

 久しぶりの休日なので、ネットカフェに行く。

 アイスカフェラテをつくり、オープン席につく。「龍狼伝」と「修羅の門」の単行本と、「キングダム」の最新話が載っておるヤング・ジャンプを持ってくる。

 パソコンのインターネットからキース・ジャレットの音源を引っ張ってくる。ヘッドフォンをしてキース・ジャレット・トリオの演奏を聴く。「俺は真のジャズ・ファンだぁ!」とうんちくを垂れる奴はどうしてキースが嫌いなのだろう? マイルス・デイビスだってキースを認めているのに。

 「修羅の門」の最新刊を読んでいると、派手な格好をした婆さんが身体を傾げながら、ゼイゼイ言いながら歩いてきた。

 僕が優雅に漫画本を読んでいると、婆さんが偉そうに手招きしている。携帯電話を充電するのにプラグの差込口がわからんと言うのだ。それだけしか話していないのに、ヒューヒューと不吉な音が真っ赤な口から洩れている。

 それから婆さんは懐からトラ猫を引っ張り出した。太った大きな目つきの悪いトラ猫だ。婆さんはゲホゲホと咳をしながら、そのトラ猫用に椅子を確保した、トラ猫はパソコンの前に座るとマウスをクリックし、現れた画面を見ながら猛烈なスピードでキーボードを叩き始めた。隣の婆さんもその画面を見ながら手帳に何か書き記している。そして時折トラ猫に耳打ちし、それに対してトラ猫も「ウニャ」とか「フン」とか答えている。

 僕はヘッドフォンをしているが、何故か奴らの声や動作の音が頭に入り込んでいる。僕の至福の時が婆さんとトラ猫に破壊されている。僕はだんだんと怒りがこみ上げてきた。我慢できずにジーンズのポケットから柴犬の五郎を取り出して、彼らの騒がしい動作をやめさせようと試みた。

 五郎はちょっと遠慮しながら「ウー、ワン!」と威嚇した。すると婆さんが「虎八、やっておしまい!」としわがれ声で叫んだ。「シャー!」とトラ猫・虎八は電光石火の右猫パンチをくり出した。「ワオーン」と情けない声を上げた五郎は吹っ飛ばされてしまった。そして我が愛犬は文字通りしっぽを巻いて僕のポケットに逃げ帰ってしまったのだ。その後、婆さんと虎八は何事もなかったかのように、同じ作業を続けていた。

 あーっ、だから僕は婆さんと猫が嫌いなのだ。
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壁に掛かっている時計と白い猫

2024-01-26 08:32:06 | Weblog
 男は灰色の医師から余命数ヶ月と告げられた。彼はそのことに対して心が揺れ動くことはなかった。
男の体に痛みはなかった。ただ体内のエネルギーが不足している感覚はあった。
「これからは、好きなことをして過ごして下さい」灰色の医師は申し訳なさそうに言った。
「・・・はい」男はそう答えたが、自分がやりたいことが思い浮かばなかった。
壁に掛かっている丸い時計の秒針がいつもより早く進んでいた。


 病室の窓から外の景色を見たり、屋上で爽やかな風に吹かれたりして男の時間は過ぎていく。
 屋上のベンチに座っていると白い少女が話しかけてきた。
「おじさん、楽しそうだね」
「僕はもうすぐ死ぬんだ」
「フーン」白い少女の反応は何の感興もなかった。
「おじさん、あたしはずっと病院で暮らしているんだよ」
「学校は行ってないの?」
「病院で授業を受けてる。ほら今はインターネットで勉強できるでしょ」
「うん」男は少女の顔を見た。
「おじさん、外の世界では戦争ばっかりしているでしょ?」
「えっ、そうかな?」
「学校だって会社だって家の中でも戦争ばっかりだってママが言ってたよ」
「確かに何処でも戦争しているなぁ」男はポケットから煙草を取り出して火をつけた。
「おじさん、戦争から逃げるために病院に来たんでしょ」少女の灰色の瞳がクリクリと動いた。
「ああ、そうかもしれないなぁ」男が吐き出した白い煙は二人の周りをグルグル回った。
「じゃあ、もう大丈夫だよ。戦争から逃げることができたから」
「そうかぁ・・・」
「そうだよ」白い少女はそう言うと手を振って何処かへ行ってしまった。


「・・・さん、調子はどうですか?」昼食後、ピンクの看護師が男のベッドにやってきた。
「まあまあです」男は面白くなさそうに言った。
「昼ご飯はちゃんと食べられましたか?」看護師はオーバーテーブルの上にある昼食のトレーを見た。トレーにはプリンだけ残っていた。
「あら、デザートはいただかないのですか?」看護師は舌なめずりをしながら訊いた。
「プリンは苦手です」
「朝食のヨーグルトも残していたわね」看護師は「ゴックン」と唾液を飲み込んだ。
「外は戦争ばっかりで食べ物が手に入らないのですか?」
「戦争ばっかり・・・? そうそう、そうねぇ。みんなが争ってばかりだから食料不足ね」看護師は頭を激しく上下に振った。
「食べ物を粗末にしてはいけないけど、僕、プリンは駄目なのです」
「そうなの、プリンを食べられないのね。だけど食べ物は粗末にしてはいけないわ。仕方ない。私が食べてあげようかな?」
「ええ、お願いします」看護師は男の返答を待たずにパクパクとプリンを食べた。一瞬でプリンを食べ終えた看護師は嬉しそうに男を見て言った。
「夕食のデザートは葡萄のゼリーなの」
「ああ、僕はゼリーが苦手なのです」
「そうなのね、外は食料不足なのよ。でも体が受け付けないものは無理しては駄目よ」
「はい・・・」
「また夕食後に来るわね」看護師はピンクの舌でピンクの唇を舐めながら部屋を出て行った。


「うーん、ここのオレンジジュースは絶品ですな! あなたもそう思いませんか?」休憩室で三つ揃えを着た黒い紳士はそう言うと、男の顔を覗き込んだ。
「そうですね」男は曖昧に返事をして紙コップのホットコーヒーを一口飲んだ。
「ところで、最近の円高には困りますなぁ。いったい政府は何をしておるのでしょうか」
「はあ・・・」
「やはり戦争ばかりしているから我が国は疲弊しておるのです。そう思いませんか、あなた?」
「戦争ばかりしているのでしょうか?」
「そうですよ、あなた。ほら猫族だって戦っているしょう」黒い紳士は勝ち誇ったように、自分の胸のポケットから三毛猫を取り出した。
「この三毛猫の長十郎君は我が国の次期大統領候補です」
「この猫が次期大統領・・・候補?」
「そうです。長十郎君がこの国の救世主です」
「この猫が救世主ですか?」男は首を捻った。
「あなた、まだお気づきになりませんか? 長十郎君は三毛猫なのにオス、つまり男性なのですよ。神に選ばれし猫なのです!」
「はあ・・・」男はまた首を捻った。
「そして長十郎君は『猫族のんびり・まったり世界選手権』の三年連続チャンピオン、絶対王者なのです」
「絶対王者ですか・・・」男は長十郎を見ると三毛猫は「アオウ」挨拶した。
「この長十郎君が我が国の大統領に就任すれば戦争は終わります。我々の待ち望んだ平和がついに実現するのです」
「なぜ長十郎君が大統領になれば、平和が実現するのですか?」
「だって、あなた、猫族は喧嘩嫌いでしょ」
「・・・・・・」
「おお、もうこんな時間だ!」黒い紳士は懐中時計を見ながら叫んだ。長十郎は黒い紳士の肩に飛び乗った。
「それでは失礼いたします。あなたのお家のマサナカちゃんには首相として長十郎君を補佐していただきますので。その節はよろしくお願いいたします。では、また」黒い紳士は一礼すると長十郎も「ニャニャニャニャニャ―ニャ」と別れの挨拶をした。


「フーム・・・」灰色の医師はカルテを見ながら思案していた。
「先生、ちゃんと言ったほうが良いですよ」ピンクの看護師が囁いた。
「わかった。大変言いにくいことなのだが、・・・さん、あなたの余命はあと五〇年だ」
「はあ・・・」
「大変ショックだろうが、気を強く持つように」灰色の医師は男の視線を避けるようにカルテを凝視した。
「明日の朝食のデザートはチョコレートケーキですって」ピンクの看護師が舌なめずりしている。
「僕は甘いものは苦手です」
「そうなの。確かに甘いモノばかり食べていると体に良くないわ。私が朝食の終わり頃に行くので待っていてね」ピンクの看護師の喉は「ゴックン」と大きな音をたてた。
 男は部屋の壁に掛かっている丸い時計を見た。時計の秒針は逆回りに時を刻んでいた。その秒針は時折止まり、それから慌てて四秒か五秒飛び越えて時を刻んでいた。


 病院の屋上は風が舞っていた。
「おじさん、今日は煙草を吸わないの?」白い少女は小さくなっていた。
「ああ、煙草は止めたんだ」
「体に悪いしね」
「そうだね」
「よいしょ」小さくなった白い少女はそう言うと男の座っているベンチに這い上った。そして男にピッタリと寄り添った。
「おじさん、この病院を出て行くの?」
「うん」
「外はまだ戦争やってるよ」
「うん、外は戦争ばかりだけど、僕はそこに戻らなきゃいけない・・・・・・」
 音もなく風が吹き抜けた。白い少女の柔らかい髪が揺れた。
「アッ、猫!」白い少女が指差すほうに白猫がゆっくりと歩いていた。
「ニャー!」白猫は男を見て鳴いた。


 男は眩しくて眼を開けることができなかった。彼の体は鉛を含んでいるかのように重かった。
「ママ! ママ!」耳元で聞きなれた声が響いた。
「あなた」いつも聞いている声だ。男の耳に引っかかる・・・。
 男は眩しさに耐えながらゆっくりと眼を開けた。目の前には驚いている娘の顔と不思議そうな妻の顔と不愛想な白猫の顔が並んでいた。
「もう大丈夫です」灰色のセーターに白衣を引っかけた医師が言った。
「良かったです。娘さんが言ったように白猫ちゃんが呼びかけたら、お父さん眼を覚ましましたね!」ピンクの制服を着た看護師が笑った。
「ここは?」男は訳が分からなかった。
「あなた、女の子を助けたのはまあ偉いけど、自分の歳も考えてくださいよ、もう」黒い服を着た妻は呆れていた。
「ママ、そんな言い方はないでしょ! パパはマンションから落ちた女の子を救ったヒーローよ。女の子を受け止めたときに頭を強く打って意識不明だったの。覚えていない? パパ」
「うーん・・・」男のぼんやりとした返事に妻と娘は笑った。
「ねえ、ママ。差し入れのチョコレートケーキ食べない? パパが目を覚ましたお祝いに」
「そうねぇ。いただきましょうか。ずっとマトモなものを食べていないし」
「正中ちゃんもケーキほしいかなぁ?」
白いワンピース姿の娘はケーキの入った箱を白猫に目の前にかざした。椅子に座っている白猫のマサナカはつまらなそうに横を向いた。そして男の顔を見て「ニャー!」と挨拶をした。それから上を向いた。
白猫の碧い瞳には病室の壁に掛かっている丸い時計が映っていた。時計の長針と短針は⒓のところで重なっていた。銀色の秒針は一秒ごとに丁寧に時を刻んでいた。白猫のマサナカはそれを確認すると、「フッ」と一息つき、ゆっくりと碧い瞳を閉じた。
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敷布団に別れを言ったのだ

2024-01-21 17:50:06 | Weblog

 今日、敷布団をバラしました。といっても怖いことではないのです。敷布団が古くなったので解体したのだ。解体・・・はいまいち正確な表現ではないが、ともかくバラバラにしてゴミ袋に入れたのだ。なんだか書けば書くほどヤバイことをしているようなだが違うのでありんす。
 なぜ解体したかというと敷布団と布のところが破れて見た目が悪いからです。読者諸兄もご存知の通り晴れの日に敷布団を干すのは気持ちいい。しかしわたくしの愛用していた敷布団はいつから使ったか分からないくらい使ってきました。さすがによる年波には勝てず布が擦り切れて破れてしましました。しかも両面!人間の寝返りの継続は恐ろしいものです?
 わたくしの愛用している敷布団は綿布団であります。さて破れた個所からはさみでジョキジョキと切りました。すると三か所糸で縫い込んでいるところがありました。布団全体では九ヶ所あるかなぁ? うーん、なるほどこうやって布と綿を固定しているのかと布団職人さんの技に感心したわけです。しかも皆さん! 綿は幾層にも重なって打たれているのであります。「おおおーっ、凄い」わたくしは思わず感嘆したのでありんす。
綿の部分は重いのでバラすのは大変かと思いきや意外と簡単にバラバラに千切ることが出来ました。何層にも重ねてあるのでバラすのも楽チンです。そして綿の色が違うコトも発見しましたぁ。白と黄土色・・・・・・、黄土色は汚れなのです!しかしなぜこのような汚れた綿になったのか原因不明です。何十年?もこの敷布団に眠って来たといろんなことがあったのでしょうか?しかしこの敷布団で夜尿した記憶はございません?
わたくしの何気ない日常にも謎は潜んでいるのであります。
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バラエティー番組の存在意義

2024-01-14 11:47:39 | Weblog
わたくしはテレビのバラエティー番組というものをほとんど見ない。なぜかというと偉そうだが「くだらない」と感じているからである。くだらない人間のわたくしが「くだらない」と感じているのは同類相憐れむからかもしれぬが・・・。
 そしてバラエティー番組というのは100%騒がしい。うるさいのである。耳の聞こえが悪くなっているわたくしがそう感じるのであるので、耳の聞こえの良い方々はいかばかりであろうか? そして不思議に思うのは「ギャハハハー」という笑い声がやたら回数が多くて不自然なのだ。こんなところで何故笑うというところが多い。以前コラムニストの小田嶋隆さんが無音でバラエティー番組を見たら、笑い声は編集したものであることに気づいたと仰っていた。なるほど、バラエティー番組の笑い声はつくられていたものなのであるのか。
 そう言うことなので、わたくしはバラエティー番組を1時間も見ることができない。大体30分観たら疲れて止めてしまう。
 しかし先日はバナナマンとサンドイッチマンがMCをするバラエティー番組を1時間20分も見てしまった。内容は歌っている人にハモリで邪魔して音程を狂わすという企画とか様々な行為を無音でやるサイレントゲームなどである。企画自体が人を貶めることがないので精神衛生上よろしい。
 何故バラエティー番組を長く観ることが出来ないわたくしが、1時間20分も視聴することができたのであるか? それは正月から暗いニュースが続き気分転換したかったからであろう。能登半島地震、日航機事故、八代亜紀さんの訃報と嫌なコトばかりである。ニュースを見るたびに暗くなる。地震で被害にあわれた方に何かできないかと、呑気なわたくしですら思ってしまう。(現時点では募金くらいしかできないし、ボランティアに行くほどの体力もない・・・・・・)
 いい加減なわたくしでも毎日悲惨な状況を見ると、やはり気分転換したくなるのである。被害にあわれた方には申し訳ないが、バラエティー番組を観てヘラヘラ笑ってしまうのである。そういう意味ではバラエティー番組の存在意義もあるのかな。
コメント (1)
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