西野了ブログ テキトーでいいんじゃない?

日々浮かんでくる言葉をエッセイにして・・・・・・。小説は「小説を読もう 西野了」で掲載中です。

図書館での出来事

2012-12-23 11:45:30 | Weblog
 彼女は何か嫌なことがあったのだろうか? ほとんど表情のない顔で訊いてきた。
「この本をお借りするのですか?」
 図書館の受付職員が何を言っているのだろう? 僕は不思議な表情を浮かべると、氷のような声が彼女の形の良い口から吐き出された。
「貸出期限が過ぎている本があります」
 僕は驚いて、彼女が操作しているパソコンのモニターを覗きこんだ。確かに一冊が昨日返却日になっている。僕は読んだ本から返却と貸出をしているので、一冊一冊返却日が違うのだ。
「追加延長は一度だけです」彼女は機械的にそう言った。
 僕は恐る恐る中井久夫の本と太極拳の本と貸出カードをフロントに差し出した。
 彼女は小さく頷いてバーコードを読み取る作業をした。
 僕は急いでその場を離れ木製のベンチに腰を下ろした。
 彼女は相変わらず無表情で正確に貸出業務をこなしていた。
 僕はまとめて本の返却をしようかと、考えていた。それから毛糸の帽子をかぶり、毛糸の手袋をはめ、図書館をあとにした。
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12月の雨の風景

2012-12-22 08:13:38 | Weblog
12月になっても雨が降っていた。
 アーケードの下を歩く人たちは皆急ぎ足だ。
 喧噪のなか、耳障りな声が僕の耳の中に飛び込んできた。
 僕はその声の発生源に目を向けた。
 数人の女の子たちがプリクラの前でたむろしている。
 彼女らは皆、輝く茶髪で同じようなファッションに身を包み笑合っていた。
 彼女たちと僕の物理的な距離は10メートルもない。
 だが僕と彼女たちの本当の距離は果てしなく遠い。
 僕が彼女たちに歩み寄ったとしても、決して彼女たちの場所に辿り着けない気がした。
 それは彼女たちと僕との年齢の差だけが原因ではない。
 彼女たちの派手なファッションに僕が警戒しているということでもないだろう。
 僕がどんなに優しく声をかけても、
 決して彼女たちに僕の声は届かない。
 同じ国に生まれて、同じ場所に存在しても、
 交わることが不可能な人間はいるのだ。
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