以前、料亭の「大森」で食事をした時のこと。
数年ぶりだったが、女将さんは、私のことを覚えていて
くれ、特別な部屋に案内してくれた。その部屋には、なんと
『独立自尊』と書かれた「福沢諭吉先生」の額が飾られて
いた。私が慶応卒と知っての 女将さんのはからいに感動。
私が「福沢諭吉」の「三十一谷人」の落款を確認していると、
女将さんが言うには、「これは『老子』の言葉から
とったそうですね」と。「??」それは知らなかった。
『福澤全集緒言』には「 三十一を一字にすれば『世』の
字にして、谷人の人を人偏にして左右に並ぶれば『俗』の
字と為るが故に、則ち『世俗』の意を寓したるもの」と
あるのは知っていた。
「老子」を紐解いてみれば、「三十輻(ふく)一轂(こく)を
共にす」というのがあった。車輪は、中心の「轂(こく、
こしき)」と、輪との間をつなぐ三十本の「輻(や)」から
成る。「輻(や)」はすべて、中心の「轂(こく)」に集まって、
車輪を支える。どれも「用ある物」で「無用のものは何も
無い」という比喩だそうだ。
ふーむ、言われてみれば、「福沢諭吉」は語らなかった
けれど、「無用の用」と いうような含みをもって
「世俗」と掛けたのかとも思えてきた。
女将さんの才知、博学には脱帽。しばらく女将さんと
談笑しながらの料理の味もまた格別でした。
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