ウェザーコック風見鶏(VOICE FROM KOBE)

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WAN HAI 307 vs ALPHA ACTIONの衝突事故 (共同海損事件 VOL.9)

2007-09-15 07:31:13 | 共同海損事件

 前回VOL.8で、今回のような大きな事件が発生した場合の、輸出入貿易における売り手出荷主、買い手受荷主の要求事項は何か、ということを整理した。
 そこで、今回は事件に係わる情報がどこに集中し、必要に応じてその情報が開示されていくかという、「情報流通」、つまり、情報の流れについて言及していくこととする。

●救助等の契約当事者及び契約内容

 今回の衝突事件の、直接の当事者は、事件の内容から、"WAN HAI 307"号の所有者、オペレーター、及び、"ALPHA ACTION"号の所有者、オペレーターということになる。
 (株)日本サルベージサービスが救助作業に従事したことはこれまでのところで触れた。
 その日本サルベージサービスに救助の以来を行なったのは誰か?
 それは、両船の所有者、及び、オペレーターが事件処理のあり方について協議して、日本サルベージサービスと救助契約を締結している。
 他方で、"WAN HAI 307"号のコンテナの所有者や管理者、コンテナに積み込まれた貨物の所有者及び関係者、つまり、売り手出荷主、買い手受荷主は、両船の所有者オペレーターが関与して決定された「救助契約の締結」には係わっていない。

 特に、貨物の所有者の数が多いこと、既に日本を出航してから後の衝突事故であるため、貿易契約条件の内容により、輸出相手国の数多くの受荷主が係わってくることがほとんどである。
 このような状況下、全ての関係当事者の意思を統一して「救助契約」を締結するのは不可能ということになる。
 このような状況であることを根拠に、当面は、両船の船主及びオペレーターが主導して、救助契約が締結されることについては合理性があるということになる。

 ちなみに、救助契約は一般的に「No Cure No Pay」の原則で契約されることが多い。つまり、「不成功無報酬」を基礎とする契約形態で、救助が不成功に終わる場合、救助業者である日本サルベージサービスは発生した実費も含め、収益がゼロとなる契約である。
 従って、成功した場合には、支出した実費を大きく上回る「成功報酬」を獲得することになる。

●事件に係わる情報はどこに集中するか?

 救助契約の直接の当事者が両船の船主及びオペレーターであることは、記述のところで明確になったと考える。
 他方、救助契約を締結した、もう一方の当事者(株)日本サルベージサービスは、契約内容の履行状況を契約相手方の報告する義務を負うことになる。しかも、救助の過程は、日々刻々変化していくことになり、場合によっては、1日のうちに何回となく、その報告作業が繰り返されることになる。

 記述の点から明らかなように、「情報は両船の船主及びオペレータに集中する」ということである。
 このことは、救助契約の債権者である船主、オペレーターの側に債務履行状況の報告を求める権利があることを斟酌する場合に、より、明確になる。
 このような債権債務の係わりもあり、救助業者としては、日々の状況の展開につき、債権者である船主、オペレーターに報告活動を行なうことになり、「情報は両船の船主及びオペレータに集中する」ことが、より明確に理解できるであろう。

 従って、立場を変えて、"WAN HAI 307"号の売り手出荷主、買い手受荷主の側から見ると、情報発信源は、基本的には"WAN HAI 307"号の船主及びオペレーターであることが理解できる。

●情報流通のあり方

 売り手出荷主、または、買い手受荷主は輸送サービスを提供してもらうべく、輸送業者との間で輸送契約を締結する。
 この際の、輸送サービス提供に係わる債権者は出荷主であったり、受荷主である。また、輸送サービス提供債務を負うのは、輸送サービスを提供する業者である。つまり、船主やオペレーター、NVOCCは輸送サービス提供契約を締結している顧客荷主に対して、輸送サービス提供債務を負っていることになる。

 輸送サービス提供債権者、債務者との関係から、債権者は債務者に対して、債務の履行状況に関する報告を求める権利を有し、債務者は、債権者の要求がある場合に、履行状況に関する報告義務を有することになるのは、救助契約の場合と同様である。

●輸送サービス提供契約と情報流通の関係

 輸送契約についていくつかの種類があることは既に記述した。
 つまり、具体的には、
1.船会社と出荷主もしくは受荷主との直接契約(コンテナ単位)
2.出荷主もしくは受荷主とNVOCCの契約を基礎にNVOCCの船会社との契約(コンテナ単位)
3.出荷主もしくは受荷主とNVOCCの契約を基礎にNVOCCの船会社との契約(コンテナ単位に満たない小口貨物の輸送契約)
といった種類の契約がある。
 もちろん、細かく観察すると、これ以外の契約形態も可能であると考えられるが、典型的な事例のみ列挙した。

 以上で述べた輸送契約と情報流通のあり方に言及する。

〇上記契約例1.の場合

 債権債務の関係から明らかなように、船会社は、契約荷主の求めに応じ、債務履行状況の報告義務がある。
 従って、情報流通のあり方は、「船会社→契約荷主」となる。

〇上記契約例2.の場合

 債権債務が、契約荷主/NVOCC/船会社の関係になるため、契約荷主は直接の契約先であるNVOCCに対して「契約の履行状況報告」を求め、NVOCCは直接の契約先である船会社に対して「契約の履行状況報告」を求めることになる。
 従って、情報流通のあり方は、「船会社→NVOCC→契約荷主」ということになる。

〇上記契約例3.の場合

 債権債務の関係は、契約例2.と同様で、従って、情報流通のあり方も同様に「船会社→NVOCC→契約荷主」となる。

〇上記契約例に類似した契約の場合

 NVOCCの輸送契約の受託の内容に係わることになるが、NVOCCは常に、売り手出荷主もしくは買い手受荷主から輸送契約を受託するとは限らない。
 NVOCC事業者の中には、自社で、コンテナ単位の輸送サービスを提供できず、他の同業者であるNVOCCに輸送を委託するケースがある。
 つまり、契約荷主/NVOCC(A)/NVOCC(B)/船会社という契約の流れがありうる。また、同様に、契約荷主/NVOCC(A)/NVOCC(B)/…/船会社という形態の輸送契約もあり得ないではない。

 このような複合した契約関係にある場合も、基本的な考え方は一緒で、情報流通のあり方は、「船会社→NVOCC(B)→NVOCC(A)→契約荷主」、あるいは、「船会社→ … →NVOCC(B)→NVOCC(A)→契約荷主」ということで括ることが可能である。

 以上のところで、情報流通のあり方については、理解ができたのではないかと考える。
 これで、VOL.9を終わることとし、次のVOL.10で、事件の具体的な展開と、開示されるべき情報について言及していくこととする。
 Written by Tatsuro Satoh on 15th Sept., 2007


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1 コメント

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訂正 (RZR250)
2007-12-12 14:45:08
日本サルヴェージ株式会社と思います。
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