さかいほういちのオオサンショウウオ生活

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小説 宇の卵

2017年11月21日 17時30分16秒 | 小説

宇の卵

その卵は、10個98円の安売りのパックの中に納まっていた。
いつものように、男は目玉焼きを作るために冷蔵庫から卵を1個取り出した。
安アパートのプロパンガスは出が悪く、コンロに火をつけるのも手間がかかる。
やっとの思いで火をつけ、フライパンをコンロの上に置いた。
男は卵を割ろうとした。
しかし、その卵の殻の上に奇妙な印が付いているのを発見した。
それは「宇宙」の「宇」の文字のようだった。
「宇」の文字は「空間」を意味する文字である。
男は少し気味悪く思ったが、貧乏人であるが故こんなものでも捨てることはできない。
「まぁ、中身が食えればいいか・・」
そう考えながら、男は机の淵で卵をポンと軽くたたいた。
パカリッと割れた卵には、中身がなかった。
男は殻だけの卵を顔に近づけ、まじまじと殻の中身を覗いてみた。
しかし、黄身も白身も無いただの卵の殻だけが、男の手の中にあるのみである。
「ちっ!」と男は舌打ちをしながら、いまいましそうに殻をゴミ箱の中に捨てたのだった。
仕方なく、もう一つの卵を冷蔵庫からだし、もう一度目玉焼きを作ることにした。
幸い2個目の卵は普通の卵であり、出来上がった目玉焼きもいたって普通の目玉焼きだった。
食事を済ませ、男はアルバイトにでかけた。
何事も起こらない、いつもの日常であった。

だが、何事も無いいつもの日常は数日間で終わりを告げるのだった。
ある日男の頭の中で突然に爆発音がし、目の前が光で真っ白になった。
男は路上で気絶し、救急車で病院に運ばれた。

病院のベッドで、男は目を覚ます。
倒れたときに出来た傷に包帯や絆創膏が貼ってあった。
「ここは、どこ???」
男は、ベッドの横にいた医師に聞いた。
「あなたは、きのう道端で倒れ、救急車でこの病院に運ばれたのですよ」
と医者が説明した。
「ああ・・そうでしたか・・」
そう言いながらも、男の気分は晴れない。
その理由は、男の目にはなにやら惑星のような星星が点々と無数に光り輝いて目に写っているのである。

「星のようなものが無数に目に見えるのですが、何か病気でしょうか?」
男は医師に聞いてみる。
「うむ・・それはたぶん初期段階の銀河系が生成されているのでしょう」
医師が気難しく言った。
「銀河系?」
男は繰り返して聞いた。
「そうです、あなたは宇の卵を飲み込んでしまったようですね」

「宇の卵とは空間の卵です、あなたはその宇の元を飲み込んでしまったのでしょうね」
医者は気の毒そうに続けて話した。
「宇の卵を飲み込んだら、もうどうしようもありません。新しく出来た宇宙に体全体が飲み込まれて、最後には体全体が・・・」
そう医者が言っている間にも、男の身体がドンドンと宇宙の空間に変身していく。
そして、あっという間に人型の宇宙空間がベッドの上に広がっていた。


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