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てんかん治療ガイドライン2010 

2011-07-06 | その他専門診療科
日本神経学会により監修 5250円
学会home pageよりPDF入手可

以下総論のみ要点

CQ1-1 てんかんとは何か
てんかんとは慢性の脳の病気で、大脳の神経細胞が過剰に興奮するために、脳の症状(発作)が反復性(2回以上)に起こるものである。発作は突然に起こり、普通とは異なる身体症状や意識、運動及び感覚の変化が生じる。明らかなけいれんがあればてんかんの可能性は高い。グレードなし

CQ1-2 てんかん診断の問診において必要な事項は何か。
十分な情報(病歴)を収集すること。及び発作の現場を目撃することがてんかんの診断に最も有用である。主訴は多くの場合、けいれん発作(非けいれん発作の場合もある)であるが、てんかんと診断するためには少なくとも2回以上の発作を要する。B

CQⅠ-3 てんかん発作型及びてんかん、てんかん症候群及び関連発作性疾患分類のグローバルスタンダードは何か。 
てんかん発作の分類は、その後の患者への対応、検査及び抗てんかん薬の選択に不可欠であり、国際抗てんかん連盟(ILAE)の分類を用いる。てんかんの診断は患者にとって、身体的、精神的、社会的、経済的に重要な意味をもつので、専門家がてんかんの確定的な臨牀診断を行うことが推奨される。 

CQ1-4 成人においててんかんと鑑別されるべき疾患は何か。
てんかんと紛らわしいものには、次のものがある。B
1. 失神(神経調節性、心原性など)
2. 心因性発作
3. 過換気症候群やパニック障害
4. 脳卒中(脳梗塞、脳出血)、一過性脳虚血発作
5. 急性中毒(薬物、アルコール)、薬物離脱、アルコール離脱 
6. 急性代謝障害(低血糖、テタニーなど)
7. 急性腎不全 
8. 頭部外傷直後 

CQ1-5 小児においててんかんと鑑別させるべき疾患は何か 
下記に示した病態を示唆すうる状況がないかどうかを確認する。特に発作前後の状況を十分に聴取する。小児の場合は、発熱、啼泣、下痢の有無、睡眠、覚せいリズム、空腹時かどうかなどをチェックする。C
1熱性けいれん
2憤怒けいれん
3.睡眠時ミオクローヌス
4.夜驚症/夢遊病
5.良性乳児けいれん
6.軽症胃腸炎関連けいれん
7.チック
8.失神(神経調節性、心原性など)
9.急性代謝障害(低血糖、テタニーなど)

CQ1-6 てんかん診断の具体的手順はどうすべきか
非誘発性の初回てんかん発作の場合は、脳波検査(光刺激、過呼吸、睡眠を含む)をすることが推奨される。(I)。睡眠賦活脳波はてんかん放電の出現頻度を上げる。必要に応じて神経画像検査やビデオ脳波同時季肋も行う。てんかんの確定診断は専門家が行うことを推奨する。B

CQ1-7 光感受性てんかんの診断はどうすればよいのか。 
脳波検査での光刺激で、光突発反応の出現が診断に必須である。てんかん発作があり、脳波でPPRを認める症例が光感受性てんかんである。てんかん発作とは無縁で、偶発脳波検査を受けるまで、光感受性体質に気づかない潜在的な光感受性者もいる。B

CQ1-8 若年ミオクロニーてんかんの診断はどうすればよいのか
若年ミオクロニーてんかんは、ミオクロニー発作と全般強直間代発作を主症状とする疾患である。診断には病歴、年齢依存性、発作の誘因、脳波所見が重要である。B

CQ1-9 てんかんとREM睡眠行動異常症の鑑別はどうすべきか
REM睡眠行動異常症はREM睡眠中におこる睡眠随伴症のひとつである。鮮明な夢見体験とともに荒々しい異常行動を示す。心Dなは睡眠障害国細分類ICSD-2に基づいて心Dなすることが推奨される。
30%はパーキンソン病やレビー小体認知症の発症に前駆する。 

CQ2-1 てんかんの診断における脳波検査の意義は何か。
てんかんの診断において脳波検査は最も有用な検査である。しかし、一回の通常脳波検査だけでは診断できない場合もあり、睡眠賦活を含めた複数回の脳波検査が必要となる。
脳波でてんかん放電が季肋されても、それが臨牀発作症状を説明し得るものでなければ、必ずしもてんかんとは診断できない。 

CQ2-2 てんかん治療過程における脳波検査の意義はなにか
通常脳波検査はてんかんの治療経過や予後の判定に役立つ C

CQ2-3 てんかん診断に必要な脳形態画像検査はなにか
てんかん発作を起こした患者は、原則としてMRIまたはCT検査が推奨され、特にMRI検査は局在関連てんかん患者には重要である。A

CQ2-4てんかん診断に役立つ脳機能画像は何か
MEGやFDG-PET, SPECT, Iomazenil SPECTや発作時脳血流SPECTは局在関連てんかんのてんかん原性焦点の診断に有用である。C 

CQ3-1 どの時点で薬物療法を開始するか
孤発発作では、原則として抗てんかん薬の治療は開始しない。しかしながら、孤発発作でも神経学的異常、脳波異常ないしはてんかんの家族歴が陽性の症例では、再発率が高いため治療開始を考慮する。2回目の発作が出現した場合は、1年以内の発作出現率が高く、抗てんかん薬の治療開始が推奨される。高齢者(65歳以上)での治療開始は、初回発作後の再発率が高いことを考慮する必要がある。B

CQ3-2薬物療法の開始時期の違いで予後が異なるか
治療開始までの発作回数が21回以上と20回以下では、その後の発作の抑制率に有意差がある。初回発作、再発1回目、再発5回目での加療開始の間では、その後2年間までは発作抑制率に軽度の差異はあるが、それ以降の長期的な差はない。B

CQ3-3新規発症の部分てんかんでの選択薬はなにか
1) 部分てんかんの諸部分発作に対して、カルバマゼピンが第一選択として推奨される。第二選択薬はフェニトイン、ゾニサミドであり、バルプロ酸も候補となりうるA
2) 新規抗てんかん薬(クロバザム、ガバペンチン、トピラマート、ラモトリギン、レベチラセタム)の中では、ラモトリギン、ついでカルバマゼピンと同等にレベチラセタム、ついでトピラマートが推奨される(B)
3) 後発医薬品の切り替えに関しては、発作が抑制されている患者では、服用中の薬剤の切り替えは推奨されない。先発医薬品と後発医薬品、あるいは後発医薬品同士の切り替えに際しては、医療者及び患者の同意が不可欠である。B

CQ3-4 新規発症の全般てんかんでの選択薬はなにか、避ける薬物はなにか
1) 諸全般発作に対して、バルプロ酸が第一選択薬として推奨される。第二選択薬として、欠神発作にエクスクシミド。ミオクロニー発作にクロナゼパム、強直間代発作にフェノバルビタールが推奨される。クロバザム、フェニトインも候補となりうる。B
2) 症候性全般てんかんでは、クロナゼパム、ゾニサミドなども考慮する。B
3) 新規抗てんかん薬(クロバザム、ガバペンチン、トピラマート、ラモトリギン、レベチラセタム)の中では強直間代発作にバルプロ酸についで、ラモトリギン、トピラマート、ついでレベチラセタムが推奨される。欠神発作には、既存薬についでラモトリギン、ミオクロニー発作にはバルプロ酸についてレベチラセタムが推奨される。B
4) カルバマゼピン、ガバペンチンでミオクロニー発作や欠神発作が増悪するため、特発性全般てんかんには使用されない。ベンゾジアゼピン系薬物はLennox-Gastaut症候群での強直発作を増悪するという報告がある。B

CQ3-5 薬物療法の効果判定と継続期間はどうするか?
1) 薬物療法により発作の軽減・抑制を図る
2) 発作の軽減・抑制以外に、患者本人の主観的健康観において重要だと考えるのは、副作用がない(36%)、うつ症状がない(25%)である。B
3) 小児期発症の難治の患者のQOLに関しては、発作の軽減・抑制、副作用が少ないことが重要である。B
4) 2-5年以上の発作消失後に、抗てんかん薬の減量を考慮できる。症候性てんかん、及び特発性全般てんかんのうち若年ミオクロニーてんかんでは、再発率が高い.B

CQ3-6 精神症状を有する患者の選択薬は何か
1) 発作に関連した一過性の精神及び行動の障害(発作周辺期精神症状)には、適切な抗てんかん薬投与による発作の抑制が治療の原則となる。ジアゼパムの静注後、情動安定化作用のあるバルプロ酸、カルバマゼピン、ラモトリギン等を考慮する。B
2) 発作と関連しない精神及び高度の障害、精神病性障害、気分障害、パーソナリティ障害、解離性障害などには、精神障害一般の治療に準じて対処する。B
3) エトスクシミド、ゾニサミド、プリミドン、高用量のフェニトイン、トピラマートなどは、急性精神病症状を惹起することがある。ベンゾジアゼピン系抗てんかん薬では、離脱時の急性精神病症状がある。B
4) 抗てんかん薬による気分障害として、フェノバルビタールによるうつ状態や精神機能低下、エトスクシミド、カルバマゼピン、クロナゼパム、ゾニサミド、バルプロ酸によるうつ状態、クロバザムによる軽躁状態も記載されている。B

CQ3-7 内科疾患の合併時の選択薬は何か
1) 腎機能障害及び肝機能障害を合併した患者では、抗てんかん薬の肝代謝(バルプロ酸、フェニトイン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、ベンゾジアゼピン系)、肝腎代謝(トピラマート、ラモトリギン)、腎代謝(ガバペンチン、レベチラセタム)に応じて選択する。B
2) フェニトイン、カルバマゼピンでの心伝導系異常の悪化、カルバマゼピン、バルプロ酸での低Na血症の悪化が懸念される。B
3) フェニトイン、カルバマゼピンでの免疫疾患への影響、フェノバルビタール、ゾニサミド、カルバマゼピンでの認知機能の低下、バルプロ酸によるパーキンソン症状の出現が報告されている。B
4) 低アルブミン血症患者でフェニトインを使用すると、アルブミン結合率が低いため遊離型が増加して作用が増強される。B

CQ3-8 高齢発症での選択薬はなにか
1) 高齢者では、年齢と発作型に応じた投薬量の調整が必要である。
2) 部分発作では合併症の有無により薬の選択が異なる。合併症のない高齢者の部分発作には、カルバマゼピン、ラモトリギン、レベチラセタム、ガバペンチンの順に推奨される。合併症のある場合の部分発作ではレベチラセタム、ラモトリギン、ガバペンチンの順で推奨される。B
3) 合併症のない高齢者の全般てんかんでは、ラモトリギン、バルプロ酸、レベチラセタム、トピラマートの順に推奨される。C

CQ3-9 てんかん患者で注意すべき併用薬は何か
1) 吸収阻害薬(フェニトインに制酸薬、ガバペンチンに酸化マグネシウム)、てんかん発作閾値を低下させる薬物などの併用時には、血中濃度の低下と発作抑制不良に関して注意を要する。B
2) ある薬物による肝代謝酵素の誘導・抑制作用で、他の薬物の血中濃度が変動することがあり、注意を要する。B


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