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小児急性脳症診療ガイドライン 2016

2017-03-31 | その他専門診療科
日本小児神経学会 

定義
JCS 20(GCS10-11以下)の意識障害が急性に発症し、24時間以上持続する。 

疫学
近年の日本における急性脳症全体の罹病率は1年あたり400-700人と推定される。
・病原分類ではインフルエンザ、HHV-6、ロタウイルス、RSウイルスの順である。
・平均年齢4歳 

急性脳症の予後
急性脳症全体の致死率は6%、神経学的後遺症の率は36%である。予後は症候群別で大きく異なる。
・脳リョウ膨大部脳症(MERS)では大部分の症例が後遺症なく治癒する。

急性脳症の診断に必要な診察と検査、タイミング
急性脳症を疑う場合、意識障害・神経学的異常を主とした臨床症状の評価、頭部画像、脳波検査、血液検査/尿検査を行う。Grade B
判断に迷う場合、ある程度時間をあけて再度評価・検査を行う Grade C1
・病初期において各種検査で異常が認められず、数日の経過で症状や検査異常が顕在化する急性脳症も存在する。
・他の疾患との鑑別に備えて、急性期の残検体を保存する。 

急性脳症の鑑別診断
急性脳症の鑑別診断の対象として、感染症の経過中に急性脳症の意識障害を生じる多彩な疾患が含まれる:頭蓋内感染症(ウイルス性脳炎、細菌性髄膜炎など)、自己免疫性脳炎、脳血管障害、外傷、代謝異常、中毒、臓器不全、その他

急性脳症の画像診断
急性脳症の診断に画像検査(CT/MRI)が勧められる。Grade B
急性壊死性脳症(ANE)GradeB, 痙攣重積型(二相性)急性脳症(AESD)GradeB, 可逆性脳リョウ膨大部病変を有する軽症脳炎・脳症GradeBではMRIが特徴的な所見を示し、診断の根拠となる。


急性脳症の脳波検査
急性脳症では、診断や治療に関する有用な情報が得られる可能性があるため、脳波検査を行うことが推奨される。GradeB
通常脳波あるいはa EEGを用いて長時間持続モニタリングも有用であり、可能な施設では施行することが推奨される。Grade B
急性脳症では脳波異常が効率であり、主な異常所見としては全般性/片側性/局在性の徐波化があげられる。Grade B

けいれん重積・遷延状態への対応
治療の留意点:けいれん重積・遷延状態の治療では、全身管理を行いながら、けいれん持続時間に応じた適切な薬物治療の選択をおこなう。Grade A
急性脳症の早期診断にはけいれん後の意識状態の評価が重要であるので、必要以上の抗けいれん薬の投与は行わないことを考慮する。C1
非経静脈的治療法:けいれん遷延状態に対する非経静脈的治療法にとしてミダゾラムの頬粘膜投与、鼻クウ投与、筋肉内注射投与を行うB
医療機関来院時におけるジアゼパム座薬の直腸内投与は推奨されないC2
経静脈的治法:けいれん遷延状態、けいれん重積状態に対する経静脈的治療法の第一選択薬としてミダゾラムないしジアゼパムを投与しB、第二選択薬としてホスフェニトイン、フェニトイン、フェノバルビタール、レベチラセタムを急速静脈投与する。B。難治性けいれん重積状態に対してミダゾラムの持続静注、チオペンタールないしチアミラールの急速静注・持続静注を行うB

急性脳症の全身管理
中等症~重症の急性脳症に対しては、全身管理を行うための適切なモニター装置を使用し、全身状態をできうる限り改善・維持するための支持療法を行う。 

脳低温・平温療法の適応と方法
小児の急性脳症における脳低温・平温療法の有効性に関する明確なエビデンズはない
小児急性脳症に対する脳低温・平温療法の方法は確立していない。

先天性代謝異常による急性脳症の特徴
急性脳症は様々な要因によって起こるが、先天性代謝異常症においてもしばしばみられ、これらは代謝性脳症ともいわれる。いくつかの疾患が含まれるが、共通して下記の特徴があげられる。
・新生児期や小児期に健康と考えれていた児の場合、前兆がないことが多い。
・脳症早期のサインは軽度の行動変化のみで、気づかれないことも多い。
・しばしば急速に進行し、変動することが多い。
・限局した神経症状は呈さないことが多い。
また、急性脳症にくわえ、下記の症状があるようであれば、背景に先天性代謝異常症を疑って検索を進めていく必要がある。B
・感染症や絶食後の急激な全身状態の悪化
・特異的顔ボウ、皮膚所見、体臭、尿臭
・代謝性アシドーシスに伴う多呼吸、呼吸障害
・成長障害や知的障害
・心筋症
・肝脾腫
・関連性の乏しい多臓器にまたがる症状の存在
・特異的な画像所見
・先天性代謝異常症の家族歴

先天性代謝異常症の診断と検査
急性脳症をきたし、先天代謝異常所が疑われる際は、最初にfirst line検査を実施するB
その結果を踏まえて、second line検査を進めていく。また、来院時にsecond line検査に必要な検体を採取しておくことを考慮するとよい
First line検査:血糖、血液ガス、アンモニア、乳酸/ピルビン酸、血中ケトン体/尿中ケトン体/遊離脂肪酸
Second line検査:血清または血漿:アミノ酸分析、カルニチン2分画、アシルカルニチン分析,尿中有機酸分析, 尿中アミノ酸分析 3) 濾紙血:濾紙血タンデムマス分析

副腎皮質ステロイドの意義、適応、方法
サイトカインストーム型では副腎皮質ステロイドの投与を考慮するとよい
1) 急性壊死性脳症では予後を改善させることが期待される
2) ステロイドパルス療法が一般的である。

先天性副腎皮質過形成に伴う脳症は先天性副腎皮質過形成において発熱や胃腸炎症状を契機に急性副腎不全に伴い発症する急性脳症である。脳症症状は非可逆で神経学的に後遺症を認めることが多い。 
発症時にはブドウ糖含有生理食塩水の急速点滴投与、ステロイドパルス療法の施行を考慮してよい。C1

可逆性脳リョウ膨大部病変を有する軽症脳炎・脳症(MERS)は日本の小児急性脳症で2番目に高頻度(16%)である。
診断は比較的軽症で予後良好な神経症状と、特徴的な画像所見(脳リョウ膨大部の可逆性核酸脳定価)によるB
治療は支持療法を基盤とする。B
現時点でエビデンスのある特異的治療・特殊治療は存在しない。
典型軽症例には、ステロイドパルス療法、ガンマグロブリン大量療法は必ずしも施行する必要はない。C2

腸管出血性大腸菌感染症に併発する脳症の診断と治療
腸管出血性大腸菌感染症は、HUS発症と相前後して急性脳症を合併することがある。高頻度にみらえる症状は、けいれんと意識障害である。
診断は臨床症状と画像診断に基づく、脳症を疑った段階で頭部画像評価Bと脳波検査Bを行う。B
治療は支持療法を基盤とするB
特異的治療として、ステロイドパルス療法の施行を検討してもよいC1
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