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単施設でのノカルジア脳膿瘍24症例の後方的解析

2021-06-11 | 臓器別感染症:中枢神経系・頭頚部
論文名: Clinical Presentation, Management, and Outcomes of Patients With Brain Abscess due to Nocardia Species
雑誌: Open Forum Infectious Diseases 2021
著者名: Cristina Corsini Campioli et al.

Background
- ノカルジア脳膿瘍は極めて稀( 全脳膿瘍中2%)
- ノカルジアは脳への親和性が高い
- 感染は主に菌体の吸入で起こる
- CNSへの感染は血行性播種か直接の進展
- 30年以上にわたる抗菌薬・画像検査技術の進展にもかかわらずノカルジア脳膿瘍の死亡率は30%近くと高い(他の細菌性脳膿瘍10%)
- これまでの報告は診断や治療の詳細の記述が不足した小規模なcase reportが多い
- 今回、大規模なrefferal centerでのノカルジア脳膿瘍コホートで臨床像・治療・転機について記述した

METHODS
- retrospective
- 対象: 成人 (≥18 years ) のICD-10で脳膿瘍と病名がついた患者
- 期間: January 1, 2009 - June 30, 2020
- 脳膿瘍の定義: 局在化した脳内壊死物質の貯留で周囲を結構に富む皮膜で覆われたものでかつ以下の3つのうち1つを満たすもの(a) 血液培養で Nocardia spp.を検出, (b) 脳膿瘍穿刺液からNocardia sppを検出, (c) 脳からの切除標本から組織学的に Nocardiaを検出
- 血液または膿瘍穿刺液はBD Bactec MGITとMiddlebrook 7H11/7H11S agar biplatesで培養→検出した菌はMiddlebrook 7H11 agar plateで培養後16S rRNA領域のシークエンスで同定: 配列100%合致を条件
- August 2014からMALDI-TOF MSを併用
- 医療関連 (HAIs): 入院後48時間以上経過し発症
- 免疫不全患者: 固形臓器移植・骨髄移植・血液・固形癌・化学療法中・免疫修飾薬・免疫抑制薬を使用(corticosteroid ≥5 mg/d for >14 days).
- Final antibiotic therapy: 合計治療期間の50%以上投与した薬剤
- 検出した株の80%以上感性を示した種は感性
- 再燃: 軽快後、臨床的・画像的にノカルジア症を発症し、同じノカルジアを分離

RESULTS
Demographic Characteristics
- 247脳膿瘍患者中24人 (9.7%) が基準に合致
- 年齢の中央値: 64歳 (58.5–71.2)
- 男性75%
- 多い並存症は慢性腎疾患 (45.8%), 高血圧 (33.3%), 糖尿病 (29.1%).
- 15人 (62.5%) が免疫不全: 頭頸部悪性腫瘍: 3 人 (20%)、他の悪性腫瘍では前立腺癌 (20%), 肺腺がん (13.3%), リンパ腫 (13.3%).
- 2人 (8.3%) が頭頸部手術後
- 9人(37.5%) がステロイド使用中 中央値 10 (8.7–23) mg for >2 weeks
- 7人 (29.2%) が免疫修飾薬使用
- 固形臓器移植からの期間の中央値は 876 (261–1698) days.
- 合計4人が TMP-SMXをPCP予防に使用
- Charlson Comorbidity Index (CCI) の中央値は 7 (4.25–10).

Clinical and Radiologic Presentation
- 肺 37.5%・皮膚感染 12.5% が多い
- 免疫不全患者では免疫健常者より肺感染が多い (71% vs 29%).
- 免疫健常者では外傷後の二次的波及が免疫不全より多い (62% vs 38%).
- 3人 (12.5%) がHAIs,
- 24人全員がMRIを行い19人 (79.1%)がCTを受けていた
- 13人 (68.4%)でMRIとCTが同様の所見 6人がCTの方がMRIより病変が少なかった
- 8人 (33.3%)で複数の膿瘍腔
- 最多は前頭葉 (41.6%), 次に側頭葉 (37.5%), 頭頂葉 (33.3%), 後頭葉 (12.5%).
- 2人は小脳に病変があった
- 膿瘍腔の直径中央値は14 (10–21) mm, midline shiftが8.4%で認めた

Microbiology
- 24人全員膿瘍検体培養が陽性
- Nocardia farcinica (n = 9; 37.5%), N. wallacei (n = 3; 12.5%), N. cyriacigeorgica (n = 3; 12.5%), N. abscessus (n = 1; 4.1%), N. otitidiscaviarum (n = 1; 4.1%), N. transvalensis (n = 1; 4.1%), and N. argoensis (n = 1; 4.1%).
- 24人中血液培養陽性は3人

Management and Outcomes
- 13人 (54.2%) が抗菌薬のみ, 11人 (45.8%) が外科的治療も受けた
- 診断から外科的治療の中央値は 3 (0.2–6) days.
- 10人でステロイドを使用←midline shiftのため、Dexamethasone: 8人、投与量中央値 6 (4–12) mg per day 投与期間中央値 14 (5–71.5) days.
- もっとも多い初期抗菌薬はTMP-SMX( 41.6% of cases)、ついでvancomycin (37.5%), linezolid (33.3%), metronidazole (33.3%), and meropenem (21.1%).
- 20人 (83.3%) が初期から有効な抗菌薬投与を受けていた
- 全分離株はTMP-SMXに感性
- N. farcinica はlinezolid, moxifloxacin, imipenemに感性
- N. wallacei は minocycline, linezolidに感性
- N. cyriacigeorgicaはceftriaxone, linezolidに感性
- 患者全員少なくとも最初の6wは抗菌薬を併用
- 8人 (33.3%)は併用療法終了後に単剤治療を受けた: 7人がTMP- SMX
- 経静脈投与期間の中央値は 21 days
- 22人 (91.7%) は最終治療として経口抗菌薬を投与された多くは TMP-SMX と linezolid
- 最終的な抗菌薬の組み合わせでの治療期間中央値は322日 (180.5–365) days
- 免疫抑制療法を受けた患者の36%は免疫抑制を弱めた
- 14人は (58.3%) 臨床的・画像的に完全な寛解を得た
- 2人 (8.3%) は永続的な神経障害が残った (左片麻痺・痙攣)
- 3人 (12.5%) は再燃
- 1人 (4.1%) は外科的治療にもかかわらず症状が進行し再度手術を要した
- 7 (29.1%)人が死亡 診断から死亡まで中央値169 days: 4人は (16.6%) 元々の慢性疾患によるもの
- 平均フォロー期間は19ヶ月
- 60%は最低5年は生存

DISCUSSION
- 今回の研究は、ノカルジア脳膿瘍の現代で最大のコホートの一つ
- ノカルジア脳膿瘍は5~60歳で発症
- 危険因子
- 年齢、性別、免疫不全状態
- 今回は白人男性の高齢者が多かった: 過去の報告と一致←免疫の老化が原因←マクロファージや線維芽細胞が炎症性サイトカインを過剰に産生し自然免疫系や獲得免疫系に影響を及ぼす
- 全身感染は、ほとんどの場合、免疫抑制状態の患者に起こり、免疫力のある人にはほとんど起こらない
- 今回は免疫不全者の割合が、他の研究より高かった。細胞性免疫不全は,Nocardia感染症の主要な原因であり、ステロイドや、カルシニューリン阻害剤、antiproliferative agents、mTOR阻害剤などの免疫抑制剤はNocardia感染症の高い有病率の一因となっている可能性が高い。人口全体が高齢化し、適応症の拡大に伴い、より多くの患者が様々な免疫抑制療法を受けるようになるとノカルジア脳膿瘍が増加するかもしれない
- 毎日のTMP-SMXでの予防は、ノカルジア症の予防の予防が可能→AIDS患者やSOT患者におけるノカルジア症の有病率低下
- 低用量または断続的なTMP-SMXの予防法では予防できない可能性←今回4人の患者が予防のためにTMP-SMXの2倍量の錠剤を1日1錠服用していたにもかかわらず、ノカルジア脳膿瘍を発症した。したがって、Nocardia感染症の疑いが高い場合、TMP-SMXを使用していても鑑別診断から外すべきではない
- 今回吸入による肺の一次感染が最も頻繁に起こっており、これは以前の観察結果と同様←皮膚や皮下組織、CNSへの播種も報告
- 今回血液培養でNocardia spp.が検出されたのは3例のみ
- 41.7%の症例で一次感染源を特定することができなかった←一次感染部位での感染が不顕性であったため、一次感染源が特定できなかったのではないか
- ノカルジア脳膿瘍は、肥厚した多結節性リング病変として現れることがある。感染は通常、吸入および副鼻腔からの直接拡散によって起こるため前頭葉がよく侵される。しかし、場所、大きさ、および見た目だけでは、他の細菌性膿瘍と区別できない
- CTやMRIでは、転移性悪性腫瘍との鑑別が困難な場合がある→ノカルジア膿瘍が疑われる場合、MRIに加えdiagnostic aspirationが必要である。
- 耐性の懸念から原因菌の分離・同定は重要←増殖が遅く、培養が困難なため、同定には16S rRNA遺伝子のシーケンス法が信頼できる選択肢となる; Kiskaらは、ヒトの感染症に関連するすべてのNocardia spp.を正確に同定できる単一の方法はないと結論づけている
- 抗菌薬感受性パターン、コロニー色素、生化学的検査、および分子技術を組み合わせることで、すべての分離株を種レベルで同定できる可能性がある。現在までのところ、特定の種に対する特異的な脳への親和性は確認されていない。
- 今回N. farcinicaとN. abscessusが最も多く、過去の報告と一致している.
- 一般に,Nocardia属に対して最も有効な薬剤は,TMP-SMX,amikacin,minocycline,imipenem
- しかし、無作為化試験は行われていない。
- Brown-Elliottらによる522株の臨床分離株を対象とした研究では、TMP-SMXに対するin vitro耐性を示した分離株はわずか2%
- スルホンアミドとトリメトプリムは、親油性が低いが、高用量であれば,髄液の炎症がない場合でも中枢神経系感染症の治療に十分な髄液への浸透性があると考えられる
- ノカルジア脳膿瘍の導入療法にはTMP-SMXに加えて,中枢神経系への浸透性が高く,生物学的有用性の高い抗微生物薬を併用する必要がある。今回の研究や過去の報告では患者数が少なかったため、決定的な推奨はできない→最適な治療法を決定するにはより大規模な多施設研究が必要
- ほとんどの症例で外科的切除が必要であると考えられている。Leeらの研究では、90.9%の患者で吸引のみが行われ、死亡例は報告されていない。Hallらの研究では、外科的吸引のみが初期管理として適切であると考えられた。
- 開頭手術と膿瘍および膿瘍壁全体の切除が、吸引およびドレナージよりも効果的であるという報告もある。
- 今回54.2%の症例が外科的処置を受けなかった←脳膿瘍の直径の中央値が小さかったため(14mm)。←一般的に、直径2.5cm以上の病変では外科的吸引が推奨される。
- 今回のコホートでは,出血や痙攣はごく少数の症例にしか認められず大多数(62.5%)の患者は良好な転帰を示した。
- 死亡を含む転帰の悪さは、主に患者の基礎的な併存疾患に起因するものであった←CCIスコアの中央値が高かった
- ことからも裏付けられる
- 規模が小さいため、内科的管理と内科的・外科的管理の併用が患者の転帰に影響するかどうかを結論づけることはできなかった。

Limitations
- retrospecitive study
- 治療は標準化されていない
- 規模が小さいため、統計的有意性を評価することができない
- ミネソタ州のメイヨー・クリニックには免疫不全患者や中西部から来院した患者の割合が高く一般化することには限界がある。

Conclusion
高齢者、免疫不全者、罹患率の高い患者は、ノカルジア脳膿瘍のリスクが高い。早期の診断と吸引治療は、医療従事者が診断を確定し、適切な抗菌薬レジメンを選択するのに役立ち、早期かつ適切な原因究明により罹患率と死亡率を減少させることができる。
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