旅館8

2023-09-10 08:40:52 | 日記
「事件があったって本当?」

「事件…?」

父親が突拍子もない声をあげる。

徹弥が言った"事件"が気になっていた。

おそらくこの件を知っていだろう…と思われる祖父を見ると、祖父は目線を反らし、普段は食べない大きめなメンチカツを口に頬張り、『げほけほ…』と軽く咳き込んだ。その態度は話題に入りたくないようにも見えた。

「事件は…無かったと思うなぁ…。じいさんの時代だから、俺はわからない…。」

父親は祖父を見るが、祖父は話題に混じろうとしない。

「お父さんは生まれてなかったの?」

「生まれてたけど、子供時代だったからなぁ」

「おじいちゃんは?知らない?」

敢えて、聞いた。

「うん…まぁ…。ちょっと聞いたことはあるが…」

「うん。」

「…さてと…。」

祖父は急に用事を思い出したかのように、席を立った。

旅館7

2023-09-06 07:19:08 | 日記
「『いさみや』の場所は、昔は、民宿だったんだよね。その前は、なんだったの?」

夕食時、夕美は父親に聞いてみた。

「民宿の前は…、確か…、民家だったと思うなぁ…」

「民家?それじゃ、人が住んでたんだね。」

「うん…。だけど、そのあとは、長いことほったらかしだったなぁ…」

「何でほったらかしだったの?」

「民宿も『いさみや』って名前じゃなかった?」

母親が会話に加わった。

「いや、前の民宿は『かねみつ』だった」

さらに、祖父も話しに加わってきた。

「ね、おじいちゃん。民宿の前の民家に住んでた人、わかる?」

「あぁ…。ちょっと挨拶する程度だったけど、気さくなご夫婦とその奥さんの妹さんが住んでたと思う。」

「事件があったって本当?」

旅館6

2023-09-01 09:21:01 | 日記
「事件?どんな?」

「…それがさ…」

「あのさ~、宿の前にも雑草があるから、そっちもお願いできる?」

「は~い」

話し途中のオーナーの注文で、徹弥は宿の前に向かって行った。

「事件って、なんだろうね…。」

その日の草刈りは、やぶ蚊にさされながらの奮闘でも、半分も至らず解散した。

徹弥の話しも途中のまま、「また、明日!」
と、帰路についた。

『事件…って、なんだろう…』

夕美も気になって仕方がなかった。