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東京グリンツィング シェフブログ

フレンチレストランのシェフが紹介する季節の料理と食材

ハタのムニエル 茸を添えて

2007年11月23日 | メインディッシュ

今回は、メインディッシュの一皿をご紹介します。

ハタのムニエル 茸を添えてです。

脂がのり肉質もしっかりとしたハタには、香ばしくコクのあるバターが良く合いますので、時間をかけてじっくりとムニエルにしてみました。

白身魚にはオリーブオイルでカリッと焼く事が多いのですが、しかし今回仕入れたハタには、白身の肉に近い力強さと濃厚さを感じましたので、その個性に負けない調理法とソースにしています。

その他にも大きなハタには、他の白身魚と違い、熟成によって味わいや身質が変わる気がします。

そこでソースは、豚のジュ(肉汁)をベースにレモン汁やケッパー、イタリアンパセリ、エシャロットを加えて、仕上げに香ばしい焦がしバターで仕上げた、香り高くコクのある物になっています。

魚のソースに豚のだしとは少し変わっていますが、ハタの強い味わいとイメージから、インパクトのある旨みが欲しかった事と、バターを使った調理法には、ベーコン等の豚肉の香りとの相性が良い事から使っています。

バターと豚のジュと聞きますと、重くてくどいように思われるかもしれませんが、レモン汁やケッパーの酸味が強く効いていますので、むしろサッパリとした味わいです。

ソースに加えるバターも焦がす事で、乳化させたソースよりも味の切れがぐっと良くなりました。

付け合わせには、香ばしくソテーした茸をたっぷりと添えていますので、ボリューム感のある魚料理を楽しんでいただけると思います。

ワインとの相性もピッタリの一皿です。

 

そして、先日ついにミシュランの東京版がでました。

ミシュランはフランス修行時代によく読み、星付きのレストランやシェフに憧れていましたし、そこで修行する自分の励みにもなっていました。

今回の東京版の発売も、日本の飲食業界の活性化や、料理人の意識向上などの効果を期待しています。

星をもらい仕事を評価される事はとても素晴らしい事ですし、本人にとっても嬉しい事だと思います。

しかしミシュランに掲載されたお店以外にも、それ以上に努力をして経験をかさねて、本当に素晴らしい仕事をされている先輩の料理人が、東京には沢山おられる事を自分は知っています。

今回はミシュランというガイドブックの、ある一つの基準の評価として受け止めたいと考えています・・・。

 

人に評価される事も大切ですが、それ以前に人が見ていてもいなくても、自分の仕事を一生懸命にする。

そんな料理人に自分はなりたい。 


雉とフォワグラのパイ包み焼き サルミソース

2007年11月12日 | メインディッシュ

本日は、メインディッシュの一皿をご紹介します。

雉とフォワグラのパイ包み焼き サルミソースです。

今年もジビエの季節になり、フランスから野生の雌の雉が届きました。

毎年この時期には、フランスからは雉の他にも山鶉や山鳩、青首鴨等が届き、日本では北海道の蝦夷鹿や丹波の猪、新潟の真鴨が、グリンツィングのキッチンに集まります。

今回届きました雉は、鮮度や状態共に良く、とても素晴らしい食材でした。

野生ですので個体差があり、その上鉄砲で撃たれた場所が悪いと状態が良くない為に、そのつど調理法や味付けを変えなければいけません。

そこがジビエの難しさでありますが、しかし面白さでもあるところです。

野生の肉が持つ繊細で力強い味わいに、ぴったりの熟成と適切に調理された一皿は、飼育された肉には出せない凄みが有ります。

今までに食べたジビエでは、フランス修行中に食べた野ウサギの煮込み(リエーヴル・ア・ラ・ロワイヤル)は、これぞジビエという複雑で野生的、そしてこの上なく濃厚な美味しさに、とても感激した思い出があります。

東京でもその時の味を再現したいのですが、今はフランスから野ウサギが入りませんので残念です。

さて、今回の雉ですが、ボリュームとコクをプラスするために、フォワグラと一緒にパイで包んで香ばしく焼き上げる事にしました。

雉はとても淡白な味ですので、お店に届いたばかりの新鮮な状態では、癖のない鳥肉位の価値しか有りませんが、数日間じっくりと熟成させる事で、本来の雉の個性と独特の良い香りが出てきます。

そんな香り高い雉に、コニャックや赤ワイン、バター、生クリームを合わせて、フランス料理らしい一皿を食べていただきたいと思います。

パイ包みの作り方は、雉の胸肉と腿肉、砂肝や心臓、レバーと豚のノド肉を、コニャックと塩、スパイスと共に1週間漬け込み、ミンチにしてから炒めた玉葱と卵、クリームを加えて良く練った物と、軽く焼き色を付けた鴨のフォワグラを折り込みパイ生地で包み、溶いた卵黄を塗ってから、250度の高温のオーブンで15分程焼きます。

サルミソースは、雉のガラと香味野菜を炒めた所に、コニャックと赤ワインを加えてよく煮詰めてからフォンドヴォー(仔牛のダシ)を入れて、ブーケガルニとスパイスを加えて一時間位弱火で煮ます。

目の細かい漉し器で漉した後に、軽くソテーした雉のレバーと一緒にミキサーに入れてよく回します。

鍋に移し弱火で加熱して濃度を付けてから、もう一度漉して、最後に塩とコショウ、コニャック、バター、生クリームで味と濃度を調えて完成です。

付け合せには、別皿で胡桃風味のサラダを添えていますが、今回は熱々のパイ包み焼きと濃厚なサルミソースを、じっくりと味わっていただけたら嬉しいです。

 

美味しい料理には、必要な作業や要素と同じく、必要で無い作業や要素が有ると思います。

やらなければいけない事と、やらなくてもよい事とも言えます。

今まではその作業や要素の違いが解らずに、やらなければいけない作業を軽く考えたり、外してしまったり、逆にやらなくてもよい事に、時間や労力を使っている事も多かった気がします。

お店によって必要な事はそれぞれ違いますが、基本的な所や、基礎になるベースの部分こそ大切であり、時間と労力を注がなければいけないと思います。

いくら外側の綺麗さや奇抜さが目立っても、そこに本当の美味しさや感動はあるのでしょうか?

「当たり前の事をきちんとする」またそこから始めたいと思います。


キスとジャガイモのテリーヌ サフラン風味 ルイユソース

2007年10月24日 | 前菜

本日は、前菜の一皿をご紹介します。

キスとジャガイモのテリーヌ サフラン風味 ルイユソースです。

先日、スタッフのご両親から、とても新鮮で上質なキスを送っていただきました。

キスと言いますと天ぷらやフライを思い浮かべますが、お刺身や塩焼きにしても上品でとても美味しい魚です。

賄いで頂いた時にも、その繊細な美味しさにとても感動しました。

日頃あまり食べる機会の少ない魚ですし、ましてやフランス料理のレストランでは、食べた事も見た事も有りません。

自分自身、キスを調理するのは今回が初めてでしたが、何とかフランス料理としてお客様に喜んでいただけないかと考えてみました。

せっかくの上質な食材ですので、身の部分だけでなく頭や骨も使いたいと思いましたので、南仏のブイヤベースをイメージしたダシを作り、冷たいゼリー寄せにしてみました。

作り方は、キスを三枚に下ろし、頭と骨、香味野菜、白ワイン、水で煮込んでダシを取り、更に手長海老と香味野菜、トマト、卵白と共に煮て、コンソメスープの様に澄ませます。

別の鍋に静かに漉してから更に煮詰めて、サフランとゼラチンを加えて冷まします。

塩と胡椒をしたキスの身は、蒸したジャガイモとサフラン風味のダシと一緒にテリーヌ型に詰め、湯煎にして低温のオーブンで火を通します。

オーブンから出したら、軽く重石をして冷蔵庫で冷やし固めて完成です。

下に敷いたソースは、ブイヤベースの定番のルイユソース(ニンニク風味のマヨネーズ)を少しアレンジして、赤ピーマンや魚のスープを多めに加えています。

通常は、メインディッシュとして食べる温かいブイヤベースですが、サフラン風味のゼリーと、その味をたっぷりと吸い込んだキスとジャガイモと共に冷たいテリーヌに変形させた所が、この一皿の面白さです。

しかし、今回キスを送っていただけなかったら、この先も縁の無い食材だったと思いますし、この様なアイデアも出てこなかったのではないでしょうか。

同じ様なテリーヌを作る事があるかもしれませんが、きっとスズキや帆立貝等の無難な食材を使っていると思います。

今回はキスという食材を通して、最初から無理と決め付けずに、とにかく試してみる事の大切さを学んだ気がします。

偶然の出会いでしたが、自分の料理にオリジナリティを感じた経験でした。


マロンのクレームブリュレ ヴァローナチョコレートのアイスクリームを添えて

2007年10月08日 | デザート

本日は、デザートの一皿をご紹介します。

マロンのクレームブリュレ ヴァローナチョコレートのアイスクリームを添えてです。

秋と言えばマロン(栗)ですので、ビターなチョコレートと組み合わせて大人のデザートを考えてみました。

フランス産の良質なマロンペーストを使い、濃厚で滑らかなクレームブリュレにしています。

通常ですとグラタン皿やココット皿に仕込んだ物を、最後にカソナードと言う砂糖を振りかけて表面を焼くデザートですが、今回は少し変わっていて、型から取り出した後に焼いています。

その横に添えていますアイスクリームも、フランス ヴァローナ社のビターチョコレートをたっぷりと使っていますので、リッチで濃厚な味わいです。

そして、キャラメルソースを渦巻きに流した所に、食感と味のアクセントとして自家製の栗の渋皮煮を回りに散らしています。

色合い的には少し地味な気がしますが、秋らしい一皿になったと思っています。

しかし、この一皿は、最初からこの形ではありませんでした。

最初のイメージでは、グラタン皿に仕込んだクレームブリュレの上に、チョコレートのアイスクリームを乗せていましたが、それぞれの個性が強く濃厚な味なので、試食してみても何かしっくりといきませんでした。

そこで、やり方を変えて型から出して盛り付ける事にしたのです。

その結果、上に乗せる程近くなくて、器を変える程遠くない、それぞれが丁度良い距離で引き立てあってくれる一皿になりました。

当初は、マロンとチョコレートの王道的な組み合わせですので、どの様に仕立てても間違いは無いだろうと甘く考えていましたが、盛り付けの位置でここまで味に影響が出る事に、正直驚きました。

美味しい物と美味しい物を合わせれば、更に美味しくなるのかと言いますと、そこまで単純な事ではなくて、適切な量や意味が有ってこそ美味しさは成り立つ気がします。

一言でバランスといってしまえば簡単ですが、料理を作る上でとても重要な事だと思います。

 

それは、料理以外でもそうなのかも知れません。

世の中には、個性の強い人や静かな人、賑やかな人・・・本当にいろんな人がいます。

料理のバランスが取れる事で美味しくなる様に、人間関係のバランスが取れれば、仕事や生活ももっと楽しくなるのではないでしょうか? 

この一皿を作っていて、そんな事を考えていました。 


コンソメスープのパイ包み焼き 「秋の香り」

2007年10月01日 | 前菜

本日は、前菜の一皿をご紹介します。

コンソメスープのパイ包み焼き「秋の香り」です。

最近は、レストランのメニューにコンソメスープをあまり見かけませんが、丁寧に仕込んだその美味しさは、時代を超えて本当に素晴らしいと思います。

そんなコンソメスープを、クラシカルなパイ包みの一皿に仕立ています。

パイ包みのスープと言いますと、フランスの三ツ星シェフ ポールボキューズの黒トリュフのスープ V.G.E.が有名ですが、1975年にヴァレリー・ジスカール=デスタン大統領の為に作った事がその始まりです。

レストラン ポールボキューズでは、コンソメスープに黒トリュフやフォワグラ、牛頬肉、野菜を入れてパイで包み香ばしく焼き上げていますが、グリンツィングでは少し日本風にアレンジしまして、たっぷりと旬の松茸を入れてみました。

黒トリュフの陶酔する様な妖艶さとは違い、優しく包み込む松茸の香りは、日本の秋をシンプルに感じさせてくれます。

その他の具には、フォワグラやオックステールも入っていますので、スープと聞いて想像される以上に、ボリュームもコクも十分です。

そして、主役のコンソメスープは、最初にオックステールと香味野菜を煮込んでブイヨンを作り、更にたっぷりの牛スネ肉を加えて仕上げる、ダブルコンソメにしていますので、濃厚でリッチな味わいになっています。

注文を受けてからパイ包みをオーブンに入れますので、焼き上がりまで15分程時間がかかりますが、待っていただくだけの価値がある、自信の味になりました。

バターの香り漂う焼きたてのパイに、ざっくりとスプーンを入れると、松茸やフォワグラ、牛肉のコンソメの香りが、湯気と共に飛び出してくるその瞬間に、秋の豊かさを感じていただけると思います。

是非ともこの秋には、贅沢な香りと共に、美味しいワインを楽しんでいただきたいです。

 

さて、話が少し変わりますが、最近考えている事を書かせていただきます。

 

「料理の世界は厳しい」とよく言われます。

その仕事の厳しさとは、何なのでしょうか?

プライドを持った仕事を保つには、適度な緊張感や、その職場での責任やルールの理解等、自他共に厳しさが必要な部分も確かに有ります。

しかし、他のスタッフに対しての仕事の厳しさとは、それと同じ位の優しさや愛情が有ってこそ、成り立つ物ではないのでしょうか?

以前に料理の専門誌を読んでいて、とても感銘を受けた文章があります。

「スタッフを育てるのに大切な理念とは、母心である」

その言葉に、本当に感動しました。

世間には、父親の様な厳しくて怖い料理長は沢山おられます。

しかし、本当に必要なのは、いつもあれこれと気にかけてくれて、困った事が有れば相談でき、いつも同じ目線で接してくれる、間違ったりしてもその時は厳しく諭しても、最後には許してくれる、母親の様な料理長ではないのでしょうか?

自分自身今までの人生で、母親の一言にどれほど救われたか数えきれません。

 

フランス料理に限らず調理業界は、いつも人材に不足しています。

優しさや愛情の無い厳しさで、スタッフを辞めさせる事が、料理長や上司の仕事では有りません。

どうしたら、この仕事を長く続ける事が出来るのかを考える事が、本当に大切だと思います。

 

そうは言いましても、4年前にグリンツィングに来てから料理長になった当初は、そこまで深く考えていませんでした・・・ 

スタッフの気持ちの大切さを、一緒に働いた仲間から一つ一つ教えて貰いました。

 

料理人は、物や道具ではなく、花や草木の様に、大切に人を育てる職業であって欲しいと思います。

 

今日は、偉そうな事を言いまして申し訳ありません。