B組 熊井ユリナ
この学園に入るきっかけについて。
私がこの学園に入るきっかけ、つまり魔法に目覚めたのは、他の子に比べたら遅い時期だったと思います。
入学式のほんの数ヶ月前でした。
ある朝、私はいつものように愛犬ミントを連れて、近所の公園を散歩していました。
すると、いつの頃からか毎朝見かけるようになったおばあさんが、噴水の前で体操をしていました。
「おはようございます」
私が声をかけると、そのおばあさんはなにも言わず、少し笑いました。
これも、いつものことでした。
おばあさんの周りには、たいていカラスと黒猫がいました。
私は『おばあさん、この公園で動物に餌をあげてるんだな』と思ってました。
すると突然、ものすごい勢いでどこからかツバメがやってきました。
ツバメはおばあさんに激突しました。
その瞬間、おばあさんは煙のように消えていきました。
私が驚いていると、今度はそのツバメ、黒猫に向かっていきました。
黒猫も、あっという間に煙となって消えました。
休む間もなく、ツバメはカラスに向かっていきました。
しかしカラスは天高く飛び立つと、ツバメに向かって水しぶきをあびせました。
ツバメは地面の上へと落下していきました。
その水しぶきは、私にもかかってしまいました。
私も、意識を失いました。
目を覚ますと、そこは公園の芝の上でした。
「ユリナちゃん、だいじょぶ?」
誰かの声がしました。
起きあがり、あたりを見渡しました。
いつもの公園と、違って見えました。
「ユリナちゃん、だいじょぶ?」
再び声がしました。
声のするほうを見上げると、それは巨大化した愛犬ミントでした。
「姿が変わってしまったけど、僕にはわかるよ。あなたがユリナちゃんだってこと」
声の主は、ミントでした。
私は『これは夢だ』と思いました。
姿が変わった、ってどういうことだろう。
私は、少し濁って鏡状態になった噴水の水面に、自分の姿を映してみました。
そこには一匹の猫がいました。
三毛猫でした。
「これうち? 猫じゃん」
思わず私はつぶやきました。
私は悟りました。
『どうやら夢の中で、猫になってしまったらしい』
と。
すると、遠くから白い猫がこちらに近づいてきました。
「やばい、喧嘩になるかも」
私が不安そうに言うと
「安心して。ユリナちゃんは僕が守るから」
とミントが言いました。
「こんにちは。あなたひょっとして、さっき近くにいた子?」
白猫が言いました。
「猫とも会話できるんだ。まあ、夢だもんね」
私がそうモノログっていると、白猫は
「ううん。これは夢じゃないの」
と申し訳なさそうに言いました。
白猫は、私に説明を始めました。
『自分はRWB魔法学園の教師であること。
ウィドと呼ばれる学園の敵を追って、この街へ来たこと。
ウィドのうちの3姉妹がこの街に住み着き、結界を作って活動を始めようとしていたこと。
ついに今日、3姉妹の居場所を見つけ、そのうち2人をやっつけたものの、1人を逃がしてしまったこと。
その際、呪いをかけられ猫の姿にされ、魔法の力も弱くなってしまったこと。
どうやらその呪いが、私にもかかってしまったこと。
そのうち学園の人間が異変に気が付いて、私達を救ってくれるだろうということ』
今から考えれば、ウィドについては学園内の特秘事項でしたね。
どうしてこの時、私に全部話してしまったのでしょうか。
緊急事態だったから?
それとも、私が学園に入ることになるだろうと、予知していたから?
よくわかりませんね。
このレポートも、もしかしたら学園外の人が目にしてしまうことがあるかもしれません。
なので、ウィドについて書いてあるところは念のため、魔法でブロックしておきました。
話を元に戻します。
「でも、いつまで待てばいいんですか」
私はまだ半分は夢のことだと思いながら、質問しました。
「そうね、長くても半年以内には」
白猫はそう、答えました。
「そんなに待てません。家族にはどう説明すればいいんですか」
「そうよね。あなたは普通の家の子だもんね」
白猫は、なにかを考えています。
「ひとつだけ方法がある。けど当然、危険も伴うのよ」
「どんな方法ですか」
「これからこの姿のまま、逃げたウィドの1人を見つけ出してやっつけること。そうすれば呪いも解けるはずよ」
「そんなこと、できるんですか?」
「もちろん私一人では無理だから、あなたにも協力してもらうことになります。
もしかしたら今よりひどい状況になるかも。どうするか、あなたが決めていいわ。
私にも責任あるから、それに従います」
私はそれから、十分間くらい考えました。
そして、結論を出しました。
「わかりました。退治に協力します」
白猫はうなずくと、ミントを見ていいました。
「これから大変なことになるから、こんな姿になった私達を、あなたが守ってね」
ミントは
「なんのことだかよくわかりません。
でももちろん、ユリナちゃんのことは僕が守りますよ。
あなたも、余裕があれば守ってあげます」
と、遠慮もなく正直に言いました。
白猫はただ、笑っていました。
(つづく)