津波に消えた町の思い出が、いくつかある。
町はまた、人々によって作られる、その道を進む中で、思い出も大事にしたい。
かつて、そこにあって輝いていたことの証だから。こうして書き残しておきたい。
① 2009年12月20日公表、編集・再掲載記事
日暮れて着いた、六つ時の気仙沼を少し巡ると、風情ある建物が点在する少し狭い通りに入った。
気仙沼市の南町だ。
木造の、古き美しい料理屋や
お茶屋があったり、
昭和初期に創業した洒落た洋食屋があったり、
懐かしさや心地よさが漂うような通りだと思った。
そこで、灯りのついている菓子店を見つけた。
「菓心 あめや」という、お菓子屋さんだ。
店先に貼られている、品書きにびっくりしながら店内に入った。
その品書きに、「ふかひれ」の文字があったのだ。
「ふかひれ最中」である。
お店も最中も、品の良い落ち着いた風情だ。一体どんな最中だろうと、未知への興味と少しの不安を抱きつつ買った。
「これは、美味しいぞ」
最中がとても芳ばしく、餡は程よい甘さなのだ。大豆と白ゴマと寒天を練った餡の、柔らかく粘りのある食感に混じって、滑らかにとろける、ふかひれの食感がまた、とても良い。
この最中が気に入った。
ふかひれの良さと、土地の人々の努力が、まあるい形に込められているなぁと思うのだ。
まあるい最中が輝いている。割ってみると、その中にも白餡に混じって、
ふかひれの金糸が輝いているのであった。
② 震災後の南町通り (2011年12月29日記録)
所々、空き地になっている。残っている建物も、1階が空洞になってしまい、2階まで浸水した様子である。3階建ての、その3階の部屋にいた人ならば、助かっただろうか。
あの美しかった木造の店は、通りの東側の建物が緩衝となったか、道を挟んで西側にあったことで、建物が根こそぎ流されるのは免れたようである。しかし、中身がなくなっていた。
洋食屋さんも、いつか寄ってみたいと思っていたのに、あの魅力的だった店頭の飾りも見られない。
あめやさんも、建物は残っていた。しかし、あの落ち着いた風情の店があった1階は、空洞になっている。
店の方々、みなどうしているだろう。無事であって欲しい。また再び、その味を取り戻して欲しい。
通りを歩き、そう願うばかりであった。
それでも、町は一歩を踏み出している。
南町に、仮設の商店街ができたのだ。
再開できる店が、ここで一歩を踏み出した。
ふるさとを取り戻すと、覚悟を決めて生きる人々の輝きを見た。